闇に散る華
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リドル・ローズハート。現ハーツラビュル寮長で、入学して僅か一週間で寮長の座まで上りつめた実力を持っている生徒である。
「この世に生を受けた瞬間から人生は決まっている。自由なんて…」
勉強、遊び、食事や習い事…。全てお母様に管理された人生だった。幼い頃にルールを破ってからそれは徹底された。
街で一番優秀なお母様はいつだって正しいはずだから、逆らうことは出来なかった。
卒業後は更なる高みを目指すため今より勉学に励み、両親と同じ魔法医術士の道に進むようになるだろう。
そしてゆくゆくは決められた人と結婚して家庭を築き、生涯を終える。
最初から定められた道を歩いていく。まるで、
『…監督生です。よろしくお願いします。』
小さな声で名乗り、不安げに揺れる瞳は儚い印象を与えた。
守ってあげたい庇護欲と、全てを知って思うままにしたい支配欲がドロドロに入り混じった。
初めてキミと喋ったあの時、ボクは一瞬で恋に落ちた。
それ以降監督生を見かけると、胸が甘く締め付けられて息苦しくなった。
初めての感情に戸惑いながらどうしたら振り向いてくれるだろうと考えている内に、監督生の傍には常にジャミルがいるようになった。
最初はただ単に仲が良いだけだと思っていた。けれど、次第に違う表情ーーまるで、恋人のような雰囲気を醸し出す二人を度々目撃するようになった。
その内ジャミルが所持していた髪飾り、制服等を監督生が身に付けるようになった。αがΩに自分の物を贈る行為は、番あるいは番となるΩを安心させる目的でもあるのだが、他のαを牽制する意味でもある。
あの日、廊下で出会った監督生からはジャミルの匂いがしていたけれど、彼の番になった印はまだどこにも現れていなかった。
何か理由があるにしろ、あれだけ一緒にいるのに番になっていない。
だったら、まだチャンスはあるだろう?Ωの近くにいたのにさっさと番にしないキミが悪いんだ。
誰のモノにもさせたくない。だから、監督生をあの部屋に閉じ込めた。一度は逃がしてしまったけれど、もう逃がさない。
彼女の気持ちがボクに向いてくれるまで、出口のない薔薇の迷路で迷えばいい。一生ボクの傍にいて、醒めない夢を一緒に見よう。…そう思っていた。
「おーい、リドル!待ってくれ!」
午後の最初の授業が終わり、講師からは次の授業は自習だと告げられた。リドルは一旦寮へ戻るため鏡舎に向かっている途中で呼び止められた。振り返ると走ってくるカリムの姿が見えた。
「君はいつも忙しないね、カリム。」
「ちょうどリドルを探してたんだ。いなくなっちまう前に見つかって良かった!」
そんなカリムを見てリドルは溜め息を吐いて呆れた表情を浮かべたが、カリムはお構いなしに太陽のように眩しい笑顔を向けた。
カリムの手には教科書が数冊。どうやらリドルに勉強を教えてもらうつもりでやってきたらしい。
「リドルに聞きたい事があってさ。」
「ジャミルはどうしたんだい?勉強はいつも彼にみてもらってるんじゃ…」
「ジャミルは今忙しいみたいなんだ。それに、ジャミルにばかり頼ってちゃダメだって思って…。」
ダメか?とまるで捨てられた子犬のような瞳で見つめてくるカリムは、本当に同じαなのだろうかと疑ってしまう程愛らしかった。
監督生の様子は気になるが、自身を頼ってくるカリムも見捨てられない。それに、今監督生の近くにいて匂いが移ってしまえば厄介な事態に巻き込まれるかもしれない。
「……分かった。」
「へへっ、ありがとう!図書室じゃ声が響くから、教室に行こう。」
来た道を引き返し、学園内へ戻る。カリムについて行くまま歩き続ければ徐々に人気のない場所まで連れてこられる。
最初は何も思わなかったリドルだが流石になにか裏があると思ったのか、ピタリと立ち止まった。それに気付いたカリムも足を止めて、リドルを振り返った。
「ん、どうしたんだ?」
「わざわざ誰もいない所まで来なくたって…。近い教室ならいくらでもあるだろう?」
人一人いない、しん…と静まり返った廊下に響くリドルの声。その顔はこの状況に不審の念を抱いたどこか疑わしげな表情だった。スレートグレーの強い眼差しに心中を読み取られそうで、カリムは思わず生唾を飲み込んだ。
「実は勉強する時、騒がしい所にいるとあまり集中出来なくてさ…昔から気が散っちまってジャミルによく怒られてたんだ。」
「……へえ。宴好きだからてっきり騒がしい所は平気だと思ったのだけれど、人は見かけによらないものだね。」
妙に納得したような面持ちになったリドルを見てカリムは内心ホッと胸を撫で下ろして再び歩みを進めた。
作戦を遂行するため、絶対に失態を犯すわけにはいかない。とりあえず、リドルとある教室に向かえば良い。
その“指定された教室”へ辿り着き、リドルを先に通してカリムも続けて中に入り扉を閉めた。
ーー…カチャリ
その音に反応したリドルは足を止めた後、険しい表情を浮かべてカリムを振り返る。
「……何故鍵を?説明次第では首をはねてしまうよ、カリム。」
強めの口調で問うリドルに対して、カリムは何も言わず扉の前で俯いていた。リドルからはその表情を伺う事は出来ず、一体カリムが何を考えているのか読み取る事が出来なかった。
数秒の沈黙の後、ゆっくり顔を上げたカリムは何か言いたげな、物悲しい顔をしていた。
「ごめんな、リドル。でも、これは二人のためなんだ。」
「二人って、何を言って…」
状況を理解出来ず狼狽えるリドルに追い討ちを掛けるように、カリムとは違う低音のくつくつと笑う声が教室に木霊した。
その含み笑いが聞こえた方を向けば、浅く腰掛けた椅子の背もたれに体を預け、綺麗な顔をした獅子が投げ出した足を組んで二人を見ていた。
「レオナ先輩っ!?」
驚愕した表情を隠せていないリドルを見たレオナは口元に弧を描き、それはそれは意地悪な笑みを浮かべていた。
「……まずは第一段階クリアってとこだな。」
レオナはサマーグリーンの瞳を縁取った目をスッと細めてそう呟いた後、おもむろに制服のポケットからスマホを取り出した。親指で画面をスワイプしてある生徒の連絡先が現れるとタップして通話画面に切り替えた。
ーー…プルルル、プルルル……ブツッ
二回コールを鳴らすと、接続を切られた。それが作戦決行の合図だった。
「…折角こんな所まで来たんだ。俺にも勉強を教えてくれよ、優等生様?」
不敵な笑みを浮かべたレオナは椅子に座っているにも関わらず、まるで目の前の獲物を見据える獰猛な肉食獣のごとく威圧的な雰囲気を醸し出していた。
一方、ハーツラビュル寮では激しい攻防で美しく咲き誇っていた薔薇の木々は倒れ、舞い散った花弁が芝生に散乱していた。
「くそ、なんだよアイツら…!折角育てた薔薇が台無しだ。」
「俺らが何したって言うんだ…!」
無惨に倒れた薔薇の木の影に潜む二人の生徒は警戒するように前方を見渡し、ヒソヒソと小さい声で会話をしていた。
だから後ろから迫る危機に気付かなかった。
「よし、アイツらがいない今逃げよ…、……え?」
ドサッ、と隣にいたはずの生徒が白目を向いて倒れたのを見た瞬間、思わず叫んでしまいそうになったのを何とか堪えて恐る恐る視線を上に向ければ。
今まで見たことのないような笑顔のフロイドに見下ろされた寮生は、逃げようとしたのに恐怖で立ち上がる事が出来なくなった。
「お前らはぁ、なぁ〜んもやってないよ。だけど邪魔だから、大人しく寝てろ。」
「ひっ…や、やめろ…!ぐあっ…!」
「恨むんなら金魚ちゃんを恨んでね。……はい、おしまい。はぁ、どいつもこいつも弱っちくて超つまんない。もっと抵抗してよ〜。」
二人を締めたフロイドは口を尖らせて辺りを見渡す。そして、瓜二つの顔を持つ彼を見つけると足早に向かった。
途中で向かってきた小魚を一匹仕留めて目的地まで辿り着くと、自分とは逆のオッドアイの瞳と目が合った。
「おや、フロイド。もう終わったのですか?」
「雑魚ばっかですぐ片付いちゃった。だからジェイドの分、もらっていい?」
「直ぐに倒してしまっては退屈なので。折角なら楽しまなくては!」
「あはっ、ジェイドってばいつになくやる気じゃん。」
そう言ったフロイドは手近に居た生徒へ音もなく近づき、背後から締め上げた数秒後、相手から力が抜けたのを確認して体を離した。
「フロイドの手にかかれば、あっという間ですね。流石僕の片割れです。」
レオナからの連絡を受けたジェイドはフロイドと共にハーツラビュル寮へ乗り込み、こちらへ注意を引き付けるため寮生を腕力で捻じ伏せていた。
私闘で魔法を使うのは校則違反になるため一切使っていないのだが、それでも力の差は圧倒的だった。
「うじゃうじゃ湧いてきても結果は分かってるのに……あ、そうだ。どっちが多く倒したか勝負しよ?」
「では、また僕が勝っても文句は言わない約束でお願いします。」
「なに言ってんの。次もオレが勝つに決まってんじゃん。」
背中合わせで喋った後、相手を片付けるため向かって行ったジェイドとフロイドの遥か頭上を魔法の絨毯が誰にも気付かれる事なく静かに通り過ぎて行った。
「うわ、えげつな…。あの二人とは絶対やり合いたくないッスね。」
ハーツラビュル寮生とジェイドとフロイドを眼下に見下ろしながら絨毯に乗っているラギーはそう呟きジャミルと建物へ近付く。
寮内に入ればきっと多数の負傷者が出てしまうし、入り組んだ内部を駆け回る方が余程時間がかかるだろう。そう判断したジャミルは外から監督生を探す事にした。
『ここ数日で外装が変わった部屋はあるか?』
『はい。リドル寮長の部屋の近くのーー…』
ここに来て直ぐ、ユニーク魔法『
寮全体が見渡せる場所に位置する部屋。その場所に近付くにつれて漂うのは、初めて出会った時と同じαの本能を刺激する程の甘い香りだった。
くらりとよろけそうになる体にグッと力を入れ直し、ジャミルは深く長い息を吐いた。
「(……っ、この匂い…
その香りにつられるように体が徐々に熱くなる。隣のラギーに聞こえそうなくらい心臓の鼓動が煩くて仕方ない。
正直、理性が崩壊してしまいそうだとジャミルは心の隅で思った。
「ジャミルくん、なんかヤバそうッスね。」
「……、なんとか耐えてみせるさ。」
辿り着いた目的の部屋の窓の前。そこからは僅かに魔力が感じ取られた。恐らく、外から突破されないように防御魔法でも掛けたのだろう。
ここで無理にこじ開けようと魔法を使えば下にいる寮生達に存在がバレて攻撃されてしまう。そうなれば、監督生を助け出す事は難しくなる。
さて、どうしたものかと考えるジャミルをよそにラギーはゴソゴソとポケットに手を突っ込み、細く小さな工具を取り出した。
「オレに任せて下さい!」
「はっ、ピッキングか。…そんなので開くわけ…」
ーー…カチャカチャ…、ガチャ
ジャミルが喋り出してものの数秒であっという間に開錠してみせたラギーはしたり顔で後ろにいたジャミルを振り返った。
「ほら、開いたッスよ。」
「(なるほど、だからレオナ先輩はラギーと一緒にって言ったのか。)」
手先が器用なラギーだからこそ出来る技に感心しつつ礼を言ったジャミルが窓を静かに開けた途端、室内からむせかえる程の薔薇の匂いと共に強烈なΩの発するフェロモンに迎えられた。
そっと部屋に足を踏み入れ、目に入ったベッド上の光景を見てドクン、と心臓が跳ね上がる。
探していた監督生が裸同然の格好で身を丸めて小さく震えていたからだ。
「監督生…!」
ジャミルは椅子の背もたれにかけてあった監督生の制服を引っ掴んで監督生の傍に駆け寄り、そして息を呑んだ。
何度も快楽の果てを迎えたためか涙の膜が張った目は虚ろになり、口に巻かれている布は遠目で見ても分かる程唾液で濡れていた。
その下、巻かれていたサラシは完全に解かれて柔らかな双丘が露わとなり、唯一隠れていた下半身を覆っていた薄い布も溢れ出た愛蜜によって濡れそぼり、内腿を厭らしく濡らしていた。
その体が身じろぐと小さく濡れる声がジャミルの鼓膜を刺激した。
その声に残った理性の全てを持っていかれそうになったが視覚、嗅覚、聴覚から与えられる情報で考えられる事を思い浮かべ、怒りが込み上げて冷静になったおかげで何とか踏みとどまった。
ジャミルが乗った事で二人分の体重が掛かったベッドがギシッと音を立てる。
リドル含めハーツラビュル寮生がいつこの部屋に来てもおかしくない。いつまでもこの部屋にいるわけにはいかなかった。
魔法で足枷を解除した後、口の布や括られた手を解放してそっと抱き起こした瞬間、監督生から悲鳴が上がった。
それは触る事を拒絶するような、耳を
今まで聞いたことのないその叫び声にジャミルの心に抉られるような痛みが走った。
「ひっ、いやぁっ…!」
「監督生落ち着け、俺だ。」
「ゃっ、や…!じゃみ、…さ、たすけっ…」
恐怖が膨れ上がり混乱しているのか、監督生にはジャミルの声も届いていない。
しゃくり上げながら大粒の涙をボロボロ溢し、顔を背けて大暴れする体は酷く震えていた。強制的に
Ωは強すぎる性欲を鎮めるため、誰彼構わず誘惑する事が殆どであるのにも関わらず、監督生は一番身近にいたリドルではなく助けに来るかも分からないジャミルを待ち続けていた。
惹かれ合うのは運命だと分かっていたが、Ωの性に支配された状態の監督生にこんなにも強く求められていたのだと知り、言いようのない愛おしさが込み上げる。もう、愛さずにはいられなかった。
やはり、最初の選択は間違っていた。いずれ元の世界に帰る監督生のためだと思い手を出さなかった結果、監督生を苦しめる事となった。
あの時混乱した監督生を言葉巧みに諭してでも無理に抱いていればこんなにも苦しい思いはさせずに済んだのだろうか。
きっと、これから先も監督生を狙って今回のような事態を引き起こすαが必ず出てくる。もう、監督生の悲しむ姿は見たくない。
そのリスクを最小限にするためには、やるべき事はただ一つだけ。一生恨まれてもいい。ジャミルの中でその覚悟は出来ていた。
いつか監督生が元の世界へ帰る選択をする時が来ればこの関係を終わらせれば良い。
「監督生、俺だ。……ジャミルだ。」
暴れる監督生を優しく、それでいてしっかり抱き締めたジャミルは落ち着かせるように耳元で静かな声で囁くように話しかける。
すると、ジャミルの声にピクリと反応した監督生の体から少しずつ力が抜けてくるのが分かった。
「じゃみる、さん…?」
「ああ、遅くなってすまない。随分怖い思いをさせたな。」
「ジャミルさ…、っジャミ…」
ジャミルが監督生の頬をそっと撫でながら言えば、辛うじて聞き取れる声で何度も名前を呼ばれて、虚ろだった瞳には光が戻り漸く視線が重なり合った。
視線が絡んだ事により、その瞳には開放しきれていない熱が含んでいることが見て取れた。
「やっぱり来てくれた。ジャミルさん、好き…大好き。」
脳を支配する快感によって頭がぼんやりする中、“好き”を伝える監督生をジャミルはしかと抱き締める。
少し低めの体温、匂い、耳を澄ませば聞こえる力強い鼓動。その全てが監督生を安心させた。
混乱した事で一旦閉じられた蕾はジャミルを認識した事により一気に花開き、ぶわりと甘い香りが舞い上がる。
どうしようもなく甘く疼く体は、ずっと求めていた愛しい人を前に熱く昂りもう我慢の限界だった。
「ジャミルさん、私…」
「わかってる。ほら、俺に掴まれ。」
「っぁ、体が熱いの。…っ、助けて、お願い…!」
監督生がジャミルに縋り付くように抱き着いた瞬間、勢いよく開け放たれた部屋のドア。
そこにはレオナとカリムによって教室に誘き出されたリドルが息を切らし、鬼のような形相で立っていた。
「監督生…!」
「ぁ…、ぃゃ…」
リドルを見た監督生は恐怖で体が震え、ジャミルに隠れるように隙間なくピッタリと体を寄せる。
リドルから距離を取るためジャミルは監督生を抱き上げてラギーの待つ窓へ向かった。
「このハーツラビュル寮に無断で立ち入るなんて…、っ!?」
それを追い掛けるように怒りのオーラを纏い近付くリドルが不自然に、ピタリと静止した。
「くっ…!」
足を動かしたくても動かない。まるで標本にされた昆虫のごとく頭から足の先まで針で固定されたようだった。
「
軽い身のこなしで絨毯から飛び降りたラギーがユニーク魔法でリドルを足止めしたのだった。ラギーの思わぬ魔法を受けて、ただただ見送ることしか出来ないリドルは苦い表情をした。
「ほら、お二人さん早く行って下さい!監督生くんをモノにするまで学園に来ちゃダメッスよ!」
「悪いなラギー、助かるよ。…監督生が世話になったな、リドル。」
ジャミルは窓のさんに足を掛けてリドルを振り返る。風に靡いた髪によりその表情は窺い知れなかったが、隙間から見えた三白眼の瞳は冷たい氷のようだった。
本当は監督生の代わりに一発殴ってやりたいが、それを監督生は望んでいない。
「ジャミル…っ!」
「知らないようだから教えてやるが、俺にとって監督生は命を投げ出しても構わないと思えるくらい大切な人だ。『魂の番』は知ってるだろ?」
「そんな、まさか…」
絨毯に乗り込んだジャミルは胡座をかいた上に横向きに監督生を座らせて顎を掬い上げると、見せつけるように深く口付けた。
ちゅ、くちゅ…と濡れた音が響く舌を絡ませ合うキスを目の前に、ラギーはぎょっと驚いた表情を浮かべ、リドルは気まずそうに視線を逸らした。
暫くしてからジャミルが顔を離すタイミングで舌を抜けば、そのキスがいかに濃厚だったかを示す銀の糸がプツリと切れた。
「っふ、ぁ…」
「…例え他のαのモノになったとしても、必ず惹かれ合う運命にある。監督生と生涯を共にするのはこの世界では俺しかいない。…絨毯、スカラビアまで頼む。」
濃厚な口付けを受けてくったりとよりかかる監督生に制服の上着をかけてジャミルが魔法の絨毯にそう告げると、二人を乗せた絨毯はふわりと動き出し鏡舎へ向かって加速する。
「ジャミルさん…」
「ん、どうした?」
「好き、大好きです。…私をジャミルさんだけのモノにして、ください…」
「言われなくてもそのつもりだ。そう簡単に手放してやるつもりはないし、もう遠慮はしない。……俺は監督生が思う以上に監督生が好きだ。その分嫉妬深いし独占欲も強い自覚がある。それでもいいのか?」
ジャミルの言葉に監督生は肯定するかのように薄く形の整った唇へそっと唇を重ねた。
これが正しい選択なのかわからないが、後悔はしていない。
地上では寮生を蹴散らしたジェイドとフロイドが上空を横切る絨毯を発見し、ほっと安堵の胸を撫で下ろしていた。
ハートの女王が統べる薔薇の迷路を後に、茜色に染まる夕焼けに見守られながら絨毯は静かに鏡舎を潜り抜ける。
目指すは砂の海が果てしなく広がる、星空が幻想的な宮殿。
運命の時が刻一刻と迫っていた。
◇To be continued◇
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