闇に散る華
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「イイこと教えてやるよ。」
そう言ったレオナは口角を僅かに上げて、ジャミルとは正反対の余裕のある笑みを浮かべていた。
普段ならそう簡単に情報提供する事はしないレオナをジャミルは疑いの目で見やる。
確かにレオナは卑怯な手を使う時もあるため絶大な信頼が出来るかと聞かれれば答えは否だ。特別仲が良い訳ではないし寧ろ話した事なんて数える程度しかない。彼の言う通り、信じるかどうかはジャミル次第だ。
それでも少しでも監督生に繋がる手掛かりが見つかるかもしれないため、聞かない訳にはいかなかった。
「探してるお姫様はハーツラビュルにいるぜ。」
「……っ!?」
遡る事昨日の昼間、仕方なしに出席した寮長会議でのこと。
いつものようにつまらない話を聴きながら椅子に深く座り、腕組みをして窓から射す陽光にウトウトしながら落ちてくる瞼を必死に持ち上げて、欠伸をするため大きく息を吸った時だった。
ふわり、とほのかに甘いΩの香りがした。寮長は全員αのためΩの香りがするのはあり得ない。
レオナの眠気はどこへ行ったのやら、その香りで一気に覚醒して話はそっちのけで視線だけで全員を見渡した。
他の寮長の顔色を伺ったが誰一人表情を崩していないし、挙動不審な動きをしている者もいない。どうやら獣人属のレオナだからこそ気付けたらしい。
周囲に気付かれぬように、くんと静かに鼻を鳴らしながら出所を探すと、一番遠い席に座るすました顔のリドルに辿り着いた。
ハーツラビュルにもΩの生徒は少人数だが在籍している。リドルとは寮長会議の度に顔を合わせているのだがこんなに強いΩの香りを感じた事はかつてなかった。
ふと、その甘い香りに混じって僅かに覚えのある匂いが鼻腔を擽った。
「(……この匂いは、確か…)」
レオナはその匂いが誰のものなのか瞬時に分かったが、どこかで接触した程度にしか思わなかったし、まさか監督生に関わっているなんてこの時のレオナは想像すらしなかったため声は掛けなかった。
しかし、寮長会議が終わって解散した後で少しずつ気になり始めてしまった。何をするにも中途半端、ついにはやる気が失せて授業を受ける気にもならなくなった。
普段なら面倒臭い事には首を突っ込まない主義だが監督生の事になるとどうも気になってしまい、その結果レオナにここまで考えさせる事となった。
すれ違ったり、近付くだけでは匂いは移らない。長時間傍にいる等濃厚接触でもすれば話は別だ。
まさか、とは思ったがわざわざ追いかけて問い詰めるような性格でもない。それに証拠も何もない。
モヤモヤした思いを抱えたまま、ただただ時間だけが過ぎていったのだが、リーチ兄弟が寮に来て事の顛末を語られた事でレオナは監督生が行方不明になっているのを知った。
やはり、レオナの考えは間違っていなかった。あの時、柄にもない事をしてでもリドルに声をかけてみるべきだったか。今更後悔しても遅いのは理解しているのだが、あの時の己が腹立たしく思い舌打ちをした。
さて、どうしようかと思い悩んでいる時に就寝時間を過ぎてもなかなか寝付けず散歩から戻ってきたジャックと談話室で鉢合わせ、色々話を聞いている中で興味深いものがあった。
道中に偶然会ったルークより監督生の匂いがしたため理由を聞けば、
『
と、言われたそうだ。一緒にいたルークに移るほどトレイからかなり強いΩの香り、つまり監督生の匂いがしていた。ルークの発言から推測して、トレイは行方不明になった監督生と何らかの形で関与した可能性が高い動かぬ証拠となった。
レオナの記憶が正しければトレイはβだったはず。恋仲になっているのであれば匂いが移るのも分かるが、何度か廊下ですれ違った監督生からはジャミルの匂いしかしなかった。そのため、トレイとその関係になっていること自体ゼロに近い。
トレイが誰のために監督生と接触したのかと考えれば、やはり寮長であるαのリドルのためではないか。
「黒で決まりだな。」
「鼻の利く獣人属の皆さんにご協力して頂こうかと思いましたが…想像以上に早く解決出来て何よりです。」
「この俺を犬ッコロのように使おうとするなんざいい度胸じゃねぇか。」
「これはこれは、大変失礼しました。」
威嚇するように喉を鳴らすレオナに対して、ジェイドは薄笑いを浮かべて全く心のこもっていない謝罪を述べた。
それもそのはず、サバナクロー寮に赴いてからだいぶ時間が経っていたのだ。
事情を説明した際にレオナの顔色が変わったのを見て何か知っていると感じ取ったジェイドは、レオナに冷淡にあしらわれ横暴な態度を取られても臆することなく撤退せずに居座り続けた。
それまでの間、飽きた・帰りたいと駄々をこねるフロイドを監督生の為だから我慢するようにと宥めながら、レオナが重すぎる腰を上げるのを待った。
日が変わる前に動き出したレオナは口角をニヤリと上げて悪巧みの顔をしていた。ジェイドが何を言ってもピクリとも動かなかったレオナだったが、実は頭の中では監督生を救出する作戦を立てるためフル稼働していた。
「ラギー、ついてこい。」
「バイト代弾んで下さいよ、レオナさん。」
「フロイド、行きますよ。」
「う〜ん…オレぇ、今すげー眠いんだけど…」
ジェイドは待ち続けるのに耐えかねてビーチチェアで寝入っていたフロイドを起こして、先を行くレオナとラギーの後を追ってスカラビアへ戻り、今に至る。
「監督生…」
ハーツラビュルに、監督生がいる。ジャミルは拳をグッと握り締めて目的の場所に行くため歩き出した。レオナの横を通り過ぎたところで再び声を掛けられた。
「相手はあのリドルだ。真正面からやり合ってもユニーク魔法を使われりゃ終いだろうよ。考えなしに相手の懐に飛び込むなんざ遠謀深慮をモットーとするスカラビア寮生が聞いて呆れるぜ。」
そんな事はレオナに言われなくてもわかりきった事だった。リドルのユニーク魔法『
ジャミルは優秀な生徒であるが、魔法を取り上げられてしまえば手も足も出ない。仮に接近戦で挑もうとしても、場の条件によっては近づく事すらできないだろう。
「なら、あなたには俺を納得させる考えがあるっていうのですか?」
「ああ。じゃなけりゃこんなトコにいねぇよ。もっとも、そのためにはここにいる全員の手を借りる必要があるがなぁ?」
レオナ、ラギー、ジェイド、フロイド、カリム、そしてジャミル。
レオナは荒くれ者が多いサバナクローを纏める寮長、そしてマジフト部では部長を務め、重要な司令塔で作戦を立てるのはお手の物。場の状況を把握して臨機応変な対応が出来る人物だ。
ラギー、ジェイド、ジャミルは頭の回転も早く慎重に物事を判断し、手先が器用で細かい作業をするのが得意だ。潜入先で非常事態が起きても彼らのユニーク魔法を利用すれば切り抜ける事が出来るし、何か情報を得ることも可能だろう。フロイドの大胆不敵で予測のつかない行動は敵陣突破するための最大の武器となるだろう。
ジェイドとフロイドでハーツラビュルに乗り込み寮生を引きつけている間にラギーとジャミルで監督生を救出する事となった。
そして、カリムは人を裏切るような事をしない性格の良さを利用してリドルを誘き出し、寮に帰さないようになるべく長く引き留めておくようレオナに言われた。
「ーー…カリム、この作戦が成功するかは全てお前にかかってる。」
「……オレは、友達を騙すのは良くないと思ってるし、傷付けるのはもっと嫌いだ。だけど…」
かつてのジャミルと同じことをリドルにやろうとしているのにカリムの心は酷く痛んだ。
幼少期から共に育ち信頼していたジャミルに裏切られたカリムだからこそ、その人の気持ちが痛いほどわかる。だから本当は加担したくない。
しかし、このまま放っておくのは誰も幸せにならない事だけは分かった。それに監督生がいるべき場所は、ハーツラビュルでもリドルの隣でもない。
監督生の居場所はジャミルの隣。カリムからはジャミルの傍にいる監督生はキラキラ輝いて見えていた。ジャミルも顔には出さないけれど、毎日が楽しそうで。
そんな二人が離れ離れになるなんて考えたくないし、悲しい顔は見たくない。
「ジャミルや監督生が悲しんでるって思ったらやらない理由はない。オレに任せてくれ!」
カリムは得意げに片手を胸に当てて、微笑んでみせた。
作戦実行は昼間から午後にかけて。
「なあ、ところでなんでレオナは監督生を姫って呼んだんだ?あいつ、男じゃないのか?」
「……、…あー…」
ジャミルを相手に監督生を姫と呼んだが、よく考えればここで監督生の事を知っているのはジャミルを除いてはレオナのみ。しかも、ジャミルもレオナが監督生を女であることを知っていることは知らない。
ジャミルも監督生を女と知っているのは自分だけだと思っていたため訝しげにレオナを見据えた。
「そりゃあジャミルくんが監督生くんを助ける王子様としたら監督生くんがお姫様って相場が決まってるんスよ。ね、レオナさん?」
「……ああ。」
「へえ、面白い例えだな!」
カリムを騙すために適当なことを言ったラギーだったが、どうやら信じたようだ。しかし、勘の良いリーチ兄弟は今の会話を聞いてお互いを目配せして何かを察したような笑みを浮かべた。
「貸しひとつッスよ、レオナさん。」
「ラギー、お前どこで気付いた?」
「監督生くんが初めてうちの寮に来た時からッスかね。ハイエナの嗅覚、ナメないで下さいよ。」
周囲に聞こえないように小声で会話するレオナとラギーをよそに、ジャミルは一人バルコニーへ向かった。
ここで、監督生と運命的な出逢いを果たした。あの時の夜は今でも忘れられない。
監督生を想い、満天の星が輝く空を見上げた瞬間に一筋の流れ星が空を駆けていった。
ーー…どうか、無事でありますように。
願掛けなんてらしくもないけれど、願わずにはいられなかった。早くこの手で抱き締めて、温もりを感じたい。声を聞きたい。
今まで監督生が元の世界に戻りやすいように気持ちを伝えないよう努めてきた。それが監督生の為だと思っていたからだった。
しかし、その結果αの生徒達に狙われて今回の事件に発展してしまった。
きっと監督生に触れたら気持ちが溢れてしまうに違いない。監督生を困らせてしまうと頭では理解していたが、日に日に大きくなる想いにそれも限界を迎えようとしていた。
『魂の番』であるからと、悠長な事は言っていられない。気持ちを伝えなければ他のαに掠め取られてしまう事だって十分にあり得る。現に、今がそうだ。
もしも監督生が同じ気持ちなら、元の世界に戻るその日まで愛すればいい。
ジャミルは決意を固めた。
*
その頃、ハーツラビュル寮のとある一室では薔薇の香りと共にΩの発するむせ返るような甘い匂いが充満していた。
あの後、トレイのユニーク魔法の効果が切れた状態でリドルによって連れ戻された部屋には香が焚かれていて、それはΩの発情期を無理に引き出させる効果を含む媚薬であった。
無理矢理抱かれるのかと思ったのだが、リドルに助けを求めるまでは放置する事にしたらしい。部屋には監督生しかいなかった。
制服を脱がされ、下着姿でベッドの上に横になっていた。体動によりサラシは完全に緩まり、押さえつけていた双丘は露わとなっていた。白雪のような肌は熱を帯びてほんのり赤く染まり、実に官能的であった。
舌を噛み切らないように
「ふっ、…ぅ、ん…!」
少し身動きするだけで肌に直に当たるシーツが刺激となり、とてつもない快感が身体中を駆け巡り、波に飲まれないように布をグッと噛み締めた。
体が熱くて仕方がない。αの欲を受け入れたくて子宮が切なく疼く。快楽を欲する身体を早く楽にさせて欲しい。
黒曜石の瞳には今の自分はどう映るのだろう。欲に侵された姿を見て浅ましいと思うのだろうか。それでも構わない。
少し低い声音で名前を囁かれたい。骨張った指で自分でも知らない部分を暴かれたい。昂った熱い欲棒に貫かれ、欲を吐き出されたい。彼の色に染まりたい。
「(ジャ、ミルさ…、欲しい…じゃみるさん…)」
快感を拾う度に中から溢れる愛蜜が下着を濡らし、受け止めきれない分が脚の間を伝った。
発情期はこんなにも苦しいものなのか。この気持ちを受け止めてくれる人も、両目から零れ落ちた涙を掬ってくれる人もいない。
“欲しい”と請えば簡単に手に入れられるだろう快楽。でも、それを言う相手はリドルではない。
脚の間から感じる冷たさに不快感を覚えて身を少し大きく動かせば、先程とは比べ物にならない刺激が脳を支配して一瞬にして視界が白んだ。
「んンっ、ぅ…っ〜〜!」
ヒクッ、ヒク…と身体を震わせ何度目か分からぬ絶頂を迎え、監督生はとうとう意識を手放した。
◇To be continued◇
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