闇に散る華
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オンボロ寮から学園へと続く鏡を抜け、当たり前なのだがすれ違う生徒は皆、男。中には男と思えない中性的な顔立ちの生徒や、女であってもおかしくない可愛らしい生徒もいた。
獣人属や角の生えた人、見た目には人と変わらないが魔法や薬で人の姿に変えている海洋生物もいる。
なんとか教室まで辿り着き、扉の前で緊張で早る呼吸を整えていると。
「君、大丈夫?」
振り返ると、ターコイズブルーの大きな目、藤色の髪を持った儚い印象をもつ美少年が監督生を見つめていた。
女の子みたいだと思ったが声を聞く限りでは間違いなく男。自分のいた世界ではこんな人は見たことがなかった。
何も言わない監督生を心配したのか、戸惑うように眉を下げる目の前の人に監督生は我に帰る。
「あ、大丈夫です…。あなたもこのクラスの人?」
「そう。君も同じクラス、かな?」
「はい。今日からここで勉強させてもらうことになりました。監督生です。」
「僕はエペル・フェルミエって言います。よろしくね。とりあえず、教室に入ろう。」
エペルに促され、監督生も彼に続いて教室に入った。
殆どの生徒が登校しており、教室内は騒ついている。
席は指定されており、監督生は窓側の一番後ろの席だった。椅子を引き、静かに着席する。
一年生の教室は建物の中程にあり、窓から外を見ると、向かいの校舎の一つ下の階の廊下が見えた。
「(あ…、あの人は…)」」
そこを歩いているのは、昨日スカラビア寮の外を案内してくれたカリムと、朝まで一緒に過ごしてくれたジャミルがいた。
二年生の教室は向かいの校舎の中、ちょうど監督生の席から見えた廊下の位置にあって、席替えがない限りはいつでも眺める事が出来る。
こんなに広い学園なのだから見かける事はないと思っていたのに、いい意味で裏切られた。
「ジャミルさん…。ふふ、困った顔してる。」
カリムに何か言われたのだろう、ジャミルは眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をしている。こう見れば、ごく普通の高校生と何も変わりはない。
微笑ましい光景に監督生は頬杖をついて様子を見ていると、その視線に気付いたジャミルが振り向き、目があった。
こんな距離が離れていたら普通の人は気付かないはずなのに、さすがアジーム家の従者だ。
視線の正体が監督生と気付いたジャミルは、僅かに表情を柔らげた。
それを見た監督生の頬はほんのり赤く染まり、ジャミルから視線が逸らされた。
そんな仕草が可愛らしく思えて、ジャミルはついクスッと笑ってしまった。それを一緒にいたカリムが見逃す筈がなかった。
「おっ、なんだ。ジャミルも気付いてたのか?」
「ふん、当然だ。監督生は俺の…」
魂の番なのだからと言いかけ、口を閉ざす。それをカリムとはいえ、他人に言ってしまったら監督生を元の世界へ帰すという決意が揺らぎそうになるからだ。
言いかけたその言葉をグッと飲み込む。
「…監督生に会ってからジャミルは嬉しそうだ。」
そう言ったカリムに、ジャミルは少し困惑した。そんなに態度に出ていたのだろうか。
感情が表に出ないように振る舞っていたつもりなのに。
「なんで…そう思う。」
「ん?なんでって…本当は朝からずっとそう思ってたんだ。運命の人に会えて嬉しいってオーラが漏れててさ。それはオレしか気付いてないけどな。」
俺の苦労も知らなかったくせに、そういうところは敏感なんだなと嫌味を言いたくなる。
というか、今なんて言った…?
カリムの口からある言葉が出てきたのは気のせいだろうか。チラリと視線だけでカリムを見ると、全てを見透かしているような、そんな表情をしていた。
そういうのに鈍感だと思っていたカリムに最初に気付かれた。いや、逆にカリムだから良かったのか?
「カリム…俺は…」
「応援するぜ、ジャミル!オレに出来ることがあったら何でも協力するからな。」
眩しい笑顔で言い放つカリムに、ジャミルは複雑そうな表情を浮かべた。
カリム、確かに監督生は俺にとって運命の人だ。
けど、俺は監督生に気持ちを伝えずに元の世界に帰すと決めたんだ。手を貸すつもりでいるのなら、余計な事はせずに手を出さないでくれ。
カリムに言ったところで無意味だろうが…。
「ああ、何かあれば…な。」
俺の気持ちに気付けたとしても、それは上辺だけ。やっぱりお前は何もわかってないんだ。抱える想いがどれだけ苦しいかなんて…。
◇To be continued◇
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