闇に散る華
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「ここ…であってるよね。」
スカラビア寮を出た監督生はクロウリーに教えてもらった道順を辿り、一件の建物の前に到着した。
建物に続く門を開けるとギィ…と軋む音が鳴った。
枯れ葉すらない木が植えられている。建物や門、枝の間には蜘蛛の巣がこれでもかというくらいに張られている。
外見は廃れており、窓はベニヤ板で補強されてる程度。ここが、昨日言っていたオンボロ寮だ。
遊園地にあるお化け屋敷みたいな外観。煤や埃に塗れ、雑草なんかも生えていて、暫く手入れされていないようだ。
「随分荒れてる…後で綺麗にしよう。」
いつ元の世界に帰れるか分からないが、ここにいる間気持ちよく過ごせるように掃除をする必要がありそうだ。
学校に行く支度をするため、ひとまず寮の扉を開いた。
ギイィ…と軋む音を響かせ開いた扉の先を見れば、朝だというのに廊下は薄暗く、天井の隅には蜘蛛の巣が張り、壁は劣化して捲れ上がっていた。
玄関の近くの少し埃っぽい棚の上に、真新しい教科書や鞄等が置かれていた。
「えっと…おじゃま、します?」
誰もいないのだが、反射的にそのセリフが出てしまう。古びた廊下を歩けばキシキシと音が鳴る。
床が抜けないだけありがたいと思っておこう。
近くの部屋を覗くと、大きな窓の近くにはソファーや暖炉があり、壁には肖像画が掛かっている。二階に続く階段もある。恐らくここが談話室となっているのだろう。
外観はアレだが、内装は合格としよう。住めるだけまだマシだと自分に言い聞かせる。
浴室やトイレなんかは想像したくないが、きっと…。
「よし、とりあえず購買に寄って食べるものを買ってから行こう。今日からバイトもあるし頑張ろう。」
一通り寮内を見て周り、学園へ向かう準備に取り掛かる。
時間割表を確認し、必要な物を鞄へしまいこむ。モストロ・ラウンジでの必要物品も忘れずに鞄へ入れた。
もう一度鏡で全身を見た後、チョーカーとブレスレットが装着されている事を確認した。
「うん、大丈夫。…ん?」
ふと目に入った棚の上の物に目を向けると、鞄に隠れて分からなかったが、一枚の紙切れと小瓶が置かれていた。
[あなたのクラスは1年B組です。ハメを外さない程度に学園生活を楽しんで下さい。発情期が来る前に抑制剤を飲む事を忘れないで。何か困った事があれば学園長室まで]
クロウリーからのメモだ。その隣の小瓶に入っている白い錠剤は抑制剤であろう。
Ωは約三ヶ月に一度、一週間程度の発情期が訪れる。“約”のため、きっちり三ヶ月毎にくるかといえば、答えは否。体調によっては前後する事もある。
監督生の初めての発情期は昨日。初めてで不安定な状態だったため、ジャミルのユニーク魔法によって鎮められたが、次はどうなるのか。
三ヶ月もあれば、ジャミルとの関係も大きく変わるかもしれないが、そもそも寮も学年も違うためその間全く遭遇しない可能性だってある。
会う約束をしない限り会うことはないかもしれない。
何か困った事があれば相談しても良いと言われたが、昨日会ったばかりであるため気軽に相談する事は気が引けた。
しかも、次の発情期が来たときにジャミルは対応してくれるのか。
ジャミルが自分の相手だとどこかで感じてはいるが、確証はない。昨日のあれも偶然ジャミルが傍にいたから。優しく介抱してくれたのも、自分がΩだから。
ジャミルは優しいから、他のΩがそうなった時にもきっと手を差し伸ばしているのではと思うと、胸が少しチクリと痛んだ。
会って間もない相手に対してそんな感情を持つなんておかしくなってしまったのかと思った監督生は、『魂の番』である以前にジャミルという1人の人に惹かれているからと言うことをまだ知らない。
監督生は“恋”というものを知らなかった。
恋の意味は勿論知っているが、好きになった人が今まで一度もいなかった。
「……ジャミルさん…」
何の意味もなくポツリと呟いた名前にキュッと胸が締め付けられた。
「…行ってきます。」
監督生は開けた扉をゆっくり閉めて鍵を掛けてから学園へ向かった。
それを離れた所で見ている者がいた事は監督生は知らなかった。
ミステリアスな雰囲気を醸し出す、漆黒の髪に竜を彷彿させる角を持った生徒は、顎に指を添えて興味深そうに鏡の中に入った監督生を眺めていた。
右のエルフ耳にはイヤーカフがはめられていた。浅緑の双眼に爬虫類を連想させる縦長の瞳。整った顔立ちであり、美丈夫とはまさにこの生徒のためにあるような言葉だった。
「そうか、あれが…」
昨日、平穏だった空気が変わったのは今の生徒が原因かと一人で納得した。
「ふん。子供騙しの装飾品でこの僕を騙せるとでも…?まあ良い、楽しませてもらおう。」
不敵な笑みを浮かべた後、眩い光が瞬きその生徒は姿を消した。
◇To be continued◇
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