感情の名
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
好きに使っていいからと風呂場に押し込まれ、早数分経つ。
オンボロ寮の風呂場と違い、アラビアン風の装飾が施されている。確か、アジーム家の資金で建て替えたのだったか。
「凄すぎる…」
副寮長の部屋であるからか、何もかも高級で豪華な物に見えてくる。というより…
「普段ジャミル先輩が使ってる物を使う…?」
あのサラサラの髪の秘訣を知るチャンスなのでは…と思いたいが、気になる人の入浴シーンを想像して赤面してしまう。
とりあえずシャワーだけでも浴びなければと思い、濡れた服を脱いで浴室に入り込んだ。
*
カリムの入浴が済んで部屋へ戻ってきたジャミルは、ふぅ…と一息吐いた。
「やれやれ、やっとカリムから解放されたか。」
カリムには風呂くらい自分でできるからと言われたため、浴室の前で待機していたが、中から慌てた声や落胆した声が聞こえ、時間がかかりそうだと判断したジャミルは半ば強引に浴室へ突入し風呂の世話をしてきた。
物心ついた時からカリムの身の回りの世話をしているジャミルにとって入浴はお手の物で、ものの数十分で完了。
主人の身なりを整えて、何かあったら直ぐに呼ぶように言って別れた。
浴室からシャワーの音が聞こえてきて、そういえば監督生がいたのだったと思い出した。
それと同時に換えの服を出していなかった事に気付き、クローゼットから適当な服を出して脱衣所へ持っていった。
「監督生、服を…」
脱衣所のドアを開けたタイミングで、丁度浴室のドアも開いたため目の前には一糸纏わぬ姿の監督生がいて…。
お互い顔を合わせて数秒。先に顔を背けたジャミルは監督生に服を突き付け、その場から逃げるようにして引き返し、脱衣所のドアを閉めた。
残された監督生は今の出来事を思い返し、貸し出されたジャミルの服に顔を押し付けて声にならない悲鳴を上げた。
「ど、どうしよ。…こんな姿、じゃなくて!ジャミル先輩に…見られ…!」
何でこのタイミングで出たのだろうか、自分のちんけな身体を見せてしまったと思うことは沢山あるが。一番は、性別を隠していた事が学園長以外にバレてしまった。
ジャミルは数いる生徒の中では口は堅そうであるが、何かあった時の脅しに使われる可能性だってなくはない。
どうにか忘れてくれないか。彼のユニーク魔法ならどうにかなりそうだが、残念ながら自分は何も使えない。
「あの…ジャミル先輩。シャワーと服、ありがとうございました。」
「ああ、その服はいつ返してくれてもいい。…あと、さっきの…」
「え、あ…見なかった事にして下さい、これで失礼します!!」
脱衣所から出た監督生はそれだけ言って、脱兎のごとくジャミルの部屋から出て、オンボロ寮へ戻っていった。
残されたジャミルも今の出来事を頭の中で整理していた。
自分は何を見たのか。男にしては柔らかな体つき。あれは明らかに…
彼だと思っていた存在はやはり、“彼女”であった。
監督生の反応で、疑いが確信に変わった瞬間であり、思い出すと顔が熱くなってくるのがわかった。
「ジャミル~、これ教えてくれ…って、どうしたんだ?耳まで赤いぞ。」
「うるさい、なんでもない。」
既に遅いが、パーカーのフードで顔を隠した。これから彼女に会ったときに果たして自分は普段通りの対応が出来るのだろうか…。
「(暫く会う事はないだろうから、気にする事はないか…。この事はもう考えない事にしよう。)」
そう思っていたのに…2人きりになるタイミングはすぐにやって来るのだった。
*
翌日、ジャミルは普段通りに午前中の授業を終え、昼休憩後調べ物をしに図書室へ向かっている最中、エースとデュースとすれ違った。
そして、いつもなら一緒にいる監督生がいない事に気付きつい声をかけてしまった。
「エース、監督生はどうした?いつも一緒にいるはずだが?」
「ジャミル先輩、監督生なら体調崩して寝込んでますよ。なんでも昨日すっげぇ雨に降られたみたいで。」
ああ、やはり。直ぐに風呂に入れたが、あんなずぶ濡れだったし。しかも慣れない環境で生活して、日頃の疲れも蓄積して体調を崩しやすくなってしまっていたか。
カリムのやつめ、帰ったら説教だ。と、これからについて考え、ジャミルはエースとデュースと別れた。
「てか、何で監督生?ジャミル先輩と接点なくね?」
「さあ?よく分からないが…。放課後差し入れも兼ねて監督生の様子を見にいこう。」
「そうだな。今は授業に遅れないように行こうぜ。」
確か次はクルーウェル先生の授業だったな、と2人は遅刻しないよう急いで教室に向かうのだった。
+