a whole new world
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
勉強、ダンス、運動……生まれてからずっとカリムの成績を追い越さないように調整してきたが、もうその必要はない。
阿呆な王も、ペテン師も……用のない邪魔な奴らは全て排除した。ああ、漸くこの時が来た。
「新たな支配者の誕生だ!ーー…さあ、俺の魔法の前に跪け!」
「仰せの通りに、ご主人様……」
「ジャミル様こそスカラビアの王に相応しい……」
雷鳴轟く赤黒い空。暗黒のベールを纏う煌びやかな宮殿。スカラビア寮に新たな王となった男の高笑いが響き渡った。
あの冷静な従者が禍々しいオーラを放ち、
強力な魔法で寮生は洗脳され、そして抗う者が排除された今、彼に逆らう者は誰もいない。
震える監督生を暫く凝視した後、手を伸ばして顎を掬い上げて視線を交差させる。
「(ーー…あいつらと時空の果てまで飛ばしてやってもよかったが……)」
異世界から来た魔法が使えない人間。特別飛び抜けた能力があるわけでもないし、頭が良いわけでもない。なんの取り柄もない、ただの弱い生き物。
おまけになにをさせても鈍臭いし、ここの生徒らしからぬ気立ての良さと慈悲深さで他の奴らにいいように利用されている姿を何度見たことか。
煙たがられていてもおかしくはないのに、どうしてか周囲には誰かが常にいる。
真紅の暴君を筆頭に、荒野の反逆者、深海の商人、美貌の圧制者、冥府の番人、深淵の支配者。そして彼らに近しい者達もーーもちろん、
魔力がない故に守らなければならない対象とみなされているのか。しかし、そうだからといって易々と手を貸すやつはこの学園にいない。
ということは、単純に監督生という存在に惹きつけられているやつが多いというわけだ。
そう言えば、この寮の中にも監督生をそういう目で見ているやつが何人かいたな。もしかすると関わっているやつらは全員……?
あいつのどこに惹かれたのかとか、いつからだったのかなんて……
そんなの、一番聞きたくないんだよ……!
良い所も悪い所も含めて、あいつのことは俺だけが知っていればそれでよかったんだ。それなのに……
次から次へと監督生に近付くやつが増えていくのは不愉快極まりなかったが、もうそんな思いを抱くこともない。
……監督生の目に映るのは、傍にいるのは俺だけでいい。だから、二度と誰の目にも映らぬように閉じ込めておけばいい。
この世界に俺がいればそれでいいじゃないかーー…
「さあ、お前の正体を暴こうか」
不敵な笑みを浮かべて監督生から離れたジャミルは空中に手を伸ばしてカーペットの上に魔法を放ち、造り出したソファーに深々と座って足を組んだ。
パチンと指を鳴らせば、監督生の体はふわりと宙に浮かび上がる。
「その前に……折角の祝いの場だ。まずはそれ相応の衣装に着替えたほうがいいな」
「え……?」
「今の俺は気分がいい。特別にお前に似合うものを見立ててやる」
戸惑う監督生をそっちのけにジャミルは顎に手を添えて独り言を呟きながら考え込みーーなにか閃いたのか企み顔を浮かべた。
脳裏に浮かんだのは、かつて砂漠の魔術師に仕えた者達の風貌。今の自分と監督生の立ち位置にぴったりではないか。
己に楯突かないよう、上下関係をはっきりわからせてやるのもいい。
「いい物をくれてやる。生涯この俺に仕えるんだからこれなんかはどうだ?」
監督生に向けて魔法をかけると眩い光が取り囲み、一瞬にして制服が臙脂色の踊り子の衣装へと変化する。
更に、装飾品として深い赤を基調としたブレスレットとピアス、そして従属の証として金のチョーカーも施された。
そうして衣装が変わったことで暴かれた監督生の本来の姿にジャミルは目を見開いた。
にわかに信じ難い光景だが目の前の人物が血相を変えて慌てふためく様子を見て、それが紛れもない事実だと認識すると笑いがとまらなかった。
「これはこれは……ふふ、やはりお前は女だったか」
透明感のある雪のような白さの肌。華奢な体にすらりと伸びた足。くびれたウエストと女性特有の丸みのある柔らかな二つの膨らみ。
今まで隠していた女の部分が露わとなってしまい、監督生は咄嗟に腕で胸を隠して前のめりになる。
それもそのはず、上半身は下着同様の姿。しかも人前で肌を露出するなんてことは滅多にないため、羞恥から赤面して俯いてしまった。
くつくつと愉快そうに笑うジャミルはソファーから立ち上がって床に下ろした監督生に近付くと、俯く彼女の顎を掬い上げて品定めするような視線を送る。
加虐心を刺激する怯えた表情。熱砂の国での宴の席で女性の肌は見慣れたものだったが、彼女達とは真逆の色白で真珠のような艶肌。今まで見てきた中でも特別美しく、触れれば消えてしまいそうな儚い印象を与えた。
「ーー…ああ、とても美しい。……その体で男を
「そ、そんなのしたことないですっ!」
「くくくっ……そう必死にならずとも、誰もお前が女だってことに気付いていないだろうさ」
ずっと見ていたからこそわかる。なるべく目立たないように、そしてばれないように振る舞っていたことくらい。
だから誰もが監督生を同性と認識して他の生徒と変わらない態度で接していたのだろう。そんな中、それを知ったのはただ一人。
自分だけだという事実がジャミルの気を更に良くさせた。
手を振り払って逃げようと背を向けた監督生に間髪を容れず長髪が変異した無数の黒蛇が纏わり付いて羽交締めにする。次いで身動きが取れなくなったところでジャミルが抱き
「逃げるなよ。傷付くだろ?」
「ひゃ、ぁあっ……!」
腕の中に閉じ込めた彼女の耳元で吐息混じりに囁けば、嬌声にも似た声が漏れ出てぶるりと身を小さく震わせた。
まさか自分からそんな声が出るなんて思わなかったのか監督生は動揺した様子で自らの口を塞ぎ、顔を真っ赤にさせていた。
羞恥に耐える姿がいじらしくて、もっと苛めたい気持ちがジャミルの中で膨らんでいく。
一体どんな声で鳴くのか。どんな表情で欲に溺れて、どんな姿で乱れるのか。
もっと知りたい。強く、そう思った。監督生の頬に手を添えて横を向かせると、おもむろに顔を近付ける。
「やっ、だめ……!」
唇が触れる寸前で突き飛ばされた隙に、足をもつれさせながら必死に逃げていく監督生が視界の隅に映った。
恐らく向かう先は寮の外。ホリデーのため帰省している生徒が多いが、中には故郷に帰らず学園で過ごす生徒もいるため、そいつらに助けを求めるつもりなのだろう。
ここから出られないというのに、無駄な足掻きを。ああ、本当に……
「ーー…馬鹿なやつ。俺から逃げられるとでも?」
もうすぐ出口というところで無情にも監督生の体は浮かび上がり、ソファーに腰掛けているジャミルの元に連れ戻される。
跪いた監督生の首に一匹の黒蛇が巻き付いて、獲物を仕留める時のように呼気時に合わせて徐々に力が込められていく。
「いい加減諦めたらどうだ?お前のような人間は最強の男のそばがふさわしい。そう思わないか?」
「く、るし……」
「俺から逃げようとした罰だ。………ああ、こう言えば解放してやらんこともない。ーー…この俺に“ご主人様”と呼べたらな」
ぐいっと顎を持ち上げられたことで顔が真上を向く。その視線の先で自分を見下ろす毒蛇が口元をニヤリと吊り上がらせていた。
今従ってしまえばこの男の思う壺。そんな人の言うことを聞くなんてそれだけは絶対に避けたい。
ジャミルから離れるため身を捩らせた監督生だが悲しい
「だ、れがっ……」
「ふん、それならせいぜい抗えばいい」
抵抗すればするほどぐぐっ、と首を絞める力が少しずつ強くなる。
意識が遠のきながらも監督生は懸命に腕を伸ばし、手近にあった金のカップを掴んで中の水をジャミルに向けてひっくり返した。
「ぐっ!?」
「……っ、げほっ、かはっ……!」
解放されて青白くなっていた顔に血色が戻り、一気に酸素が肺に送り込まれたことで激しく咳き込んだ監督生だったが、感じる視線に顔を上げた瞬間見る見るうちに顔が青くなっていく。逃げないといけないのに、まるで金縛りにあったように動くことが出来なかった。
それもそのはず。今まで自分を苦しめていた男の表情が一変して無表情となり、酷く冷たい目に射抜かれていたからだ。
「ーー…やれやれ、一度痛い目に遭わなきゃわからないようだな」
「ひっ……!」
怒らせた相手が至極楽しそうな笑みを浮かべていたのは最早恐怖でしかない。
ジャミルが宙に手を
未知の感覚に背中を震わせた監督生だったが、突如として感じた鋭い痛みに我慢出来ず声を上げて体を強張らせた。
自分の身になにが起きたのか理解が追いつかなかったが、痛みが走った胸元を見ると一匹の黒蛇が尖った牙を突き立てていた。
噛まれた痕からぷくりと浮き出た血液を見て恐怖に駆られた監督生が悲鳴を上げたのを合図に、次から次へと蛇が柔肌に噛み付いて痕を残していく。
「(さて、いつまで耐えられるかな)」
悲痛な叫びを聞きながらジャミルは金の器に盛られた瑞々しい真っ赤な林檎に齧り付き、果汁で濡れた唇をペロリと舐めて楽しそうな表情でその様子を眺めていた。
従順にさせるためには手段を選ばない。なす術もなく痛めつけて、いかに己が非力であるのかをわからせてやればいい。
監督生が縋り付いてくるその瞬間を思い描くだけでゾクゾクとした快感に似たものが背筋を駆け抜けていく。
助けを求めるような涙に濡れた瞳を向けられても気付かない振りをしていると、やがて啜り泣く声が聞こえてくる。
「……ごめっなさ、っぅ、許してくださいっ、……ご主人様ぁっ……!」
泣いて許しを請う監督生の言葉に、ジャミルは恍惚の表情を浮かべる。漸くこの時が訪れたからだ。
顔を覆い肩を震わせる監督生の姿は酷く痛々しい。しかし、それが美しく愛おしいと思えるほどジャミルの心は歪んでしまっていた。
「ふ、ぅう……ごめん、なさっ、ごめんなさいっ」
「ああ、こんなに怯えて可哀想に。……お前たち、もういい。下がれ」
ジャミルの命令で監督生に巻き付いていた蛇達は一斉に身を引いて主人の足元へ戻っていく。
とぐろをまいて鎌首をもたげる彼らの中の一匹の大蛇が主人の体をゆっくりと這い上がり肩口まで辿り着くと、頭を垂れて褐色の頬に頭を寄せた。
決して自分の手は汚さない。妖艶な笑みを浮かべる賢く狡い策謀家は、
「あまり強く噛むなと命じていたがまだ加減が難しいらしい。その傷、痕にならなきゃいいが……(……痕が残る傷を付けていいのはこの先も俺だけだからな)」
恐怖でへたり込んでしゃくり上げる監督生を魔法で引き寄せて膝に乗せたジャミルは悪びれた様子もなく、彼女の怯えた表情にうっとりしながら頬を撫でる。
そしてそのまま首筋、鎖骨へと手を滑らせて胸元の小さな傷口に触れ、まだ鮮血が浮くそこに唇を寄せて舌を這わせてからじゅっとわざと音を立てて肌を吸い上げる。
くっきりと新たに刻まれた赤い印に満足気な表情を浮かべ、監督生の後頭部に手を回して顔を近付ける。
「ちゃんと言えたいい子には褒美をやらんとな。……そうだろう、監督生?」
「……あ、ぁ……」
チャコールグレーの瞳が朱色に染まっている。
監督生がそう認識した時には既に彼の術中に陥っていて、強制的に至近距離でジャミルの目を見ていた涙の膜が張った瞳は徐々に朱色に侵食されていく。
「俺はお前を愛してる。だから、お前も俺のことが好きで好きで堪らなくさせてやろう。俺に身も心も全部差し出すんだ。……さあ、忠誠を誓え」
「………わ、たしは、ぁ……っ、ゃ…めて、くださ……っんン!」
この後に及んでまだ抗おうとする監督生に深く口付けて口腔内を犯せば、苦しそうに呻いていた声は次第に甘美なものへと変わっていく。
暫くキスを堪能してから唇を離すと、散々抵抗していたあの姿が嘘のようにしおらしくなり、恐怖で強張っていた表情は頬を紅潮させて恍惚の顔付きになっていた。
その瞳にはもう、ジャミルしか映っていない。
「ーー…監督生、お前の主人は誰だ?」
「………私のご主人様は……ジャミル様です」
「ああ、そうだ。それともう一つ。お前は誰のものだ?」
「……私は……ジャミル様のものです。……あなたに、私の全てを捧げます」
すっかりジャミルの虜になった監督生は、主人にぴったり身を寄せて何度も愛を囁く。時にキスをねだり、寵愛を受けて幸せそうにする姿はとても愛らしい。
向けられた想いは偽りの愛だとわかっているが、もう後には引けない。
魔法を解いた瞬間、全て忘れ去られる。自分だけを見つめるこの瞳は他の誰かを映し、甘い言葉や愛もなかったことになる。そう、今のままでは。
少しずつ洗脳を解きながら新しい記憶を刷り込めば、いずれそれが本当の記憶となる。
俺だけが愛を与えるなんてフェアじゃないだろ?それに、人形を愛でる趣味はないんでね。
どうせ誰も来やしないんだ。時間をかけてたっぷり愛でてやればいい。欲しいものはなんだって手に入れてやる。
いつまでも二人きりの新しい世界で一緒にいよう。
「監督生、俺の願いを叶えてくれないか?お前じゃなきゃ叶えられないんだ」
「はい、ジャミル様。なんなりとお申し付けください」
穢れを知らない双眼に映る己の姿は欲に溺れた醜いものだった。しかし、この姿になった今でも監督生に対する気持ちは変わらない。
身も心も清純な彼女を手折る瞬間を何度夢見たことか。
「俺は監督生を愛してる。だからお前をもっと知りたい。……お前の全てが欲しい」
「……はい、ジャミル様の仰せのままに……」
監督生の答えを聞くやいなや転移魔法で自室に戻り、何度も唇を奪いながらベッドに体を沈ませる。あとはもう、本能に従うだけだった。
こんな形でしか愛を伝えられない俺を……優しい君なら許してくれるよな?
このまま光が届かない深い闇の中に堕ちていこう。二人で、一緒に……
◆END◆
+
1/1ページ