あなたへ贈る愛の言葉
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お菓子作りなんてした事なかったけど、この日の為にたくさん練習した。あなたに少しでも可愛く見られたいから目一杯着飾って、日頃の感謝と一緒に秘めた想いを伝えるの。
2月14日。
元いた世界では友達やお世話になってる人に贈り物を送ったり、好きな人に想いを伝える素敵な日でもある。
私に当てはまるのは後者の方。大好きな大好きなジャミル先輩に想いを伝えたい。
やっぱり好きな人からは可愛いって思われたい。だから出来る限りお洒落をして、一生懸命作ったカップケーキにもデコレーションして綺麗にラッピングした。いつもお料理をしてる先輩には到底敵わないけど、大好きな先輩の事を想いながら作ったからこの気持ちが伝わったらいいな…。
可愛い服を着てお洒落したかったけど、性別を隠して生活してるから制服でスカラビア寮へ向かう。鏡舎を潜り抜けると、ひやりと夜の砂漠特有の冷たい空気が頬を撫で上げた。
「さむ…」
吐く息が白く立ち上り、星空に溶けていく。寒さに身を震わせ急ぎ足で寮内へ入れば、空調の効いた暖かい談話室と消灯時間がとうに過ぎて静まり返った廊下に出迎えられる。
点々と灯る洋燈を頼りに、いそいそと広い廊下を歩いていく。
目的の部屋に近付くにつれてドキドキと高鳴る胸と熱くなる顔を冷ますように手で扇いでみるも、一向に熱は引いてくれない。
今からこんなんじゃ、想いを伝える頃には緊張がピークを迎えて心臓がもたないかもしれない。
そんな事を考えていると、ゆっくり向かったはずなのに気が付けばもう部屋の前まで辿り着いていた。
ノックしようとした手は一度宙を彷徨い、胸の前へ。
服の上からでも感じる心臓の鼓動は今までにないくらい早く動いていて、緊張して口の中はカラカラに乾いていた。一旦気持ちを落ち着かせるためにゆっくり深呼吸をする。
「(折角ここまで来たんだから…頑張れ、私!)」
意を決してコンコン、と控えめにドアをノックすれば、中で人が動く気配を感じた。
少し離れた所で待っていると、音もなく開いたドアの向こうに立っている大好きな人に出迎えられた。
「そろそろ来る頃だろうと思っていたよ、監督生。」
「ジャミル、先輩…?」
目の前にいるのは紛れもなく、私の好きな人であり恋人のジャミル先輩なのだけれど…
いつも見ていたコーンロウは解かれていて、今はルーズに一つに纏まったお団子ヘアになっていた。
ただそれだけなのにいつも視界に入らない首筋や鎖骨、色っぽい後れ毛によって普段の雰囲気がガラリと変わって、新しい一面が見れた嬉しさで胸がキュンと狭くなったのと同時に、普段見ることのない私服が素敵すぎて涙が出そうになったけど、今泣いてしまったらきっと困らせるからぐっと堪えた。
「外は寒かっただろ。ここにいる間、過ごしやすいよう部屋を暖めておいたよ。」
す…と頬に伸ばされて触れた手の温もりが心地良くて、高揚していた心とは裏腹に肌は随分冷えていたのだと感じた。
先輩に促されて部屋の中に入れば、ふわりと漂う優しい香りが鼻腔を擽る。その出所を辿ると、ベッドサイドテーブルの上に見慣れた香炉が置かれていた。
「先輩、この匂い…」
「少しでも監督生の緊張が解れればと思って。どうだ、少しは落ち着いたか?」
緊張しているのを見越して、前に私が好きだと言った香りを焚いて待っててくれていたのだと思うと、更に“好き”の気持ちは高まっていく。
好き過ぎて言葉では言い表せられない。
ゆったりとした足取りでベッドに向かい、端に座った先輩を追いかけて口を開く。
「先輩、あのっ…!」
するりと腰を抱かれて先輩の足の間にすっぽり収まって向かい合わせの体勢になる。続きを喋ろうとしたのに、そっと唇に触れた人差し指によってそれは阻止されてしまった。意図が分からずに目の前の先輩を見れば、私を見上げる三白眼がスッと細められた。
その意地悪な瞳は艶っぽくて、見つめられるとまるで甘美な毒に侵されたように頭のてっぺんから足の先までじわじわと痺れてくる。
「呼び方、前に教えたはずだが……俺の覚え違いだったか?」
「……っ!」
頭を引き寄せられた事でコツンと合わさった額が熱い。グッと近付いた距離に、少しでも動けば心臓の音が伝わってしまいそうなのと、普段は意識しない静かな息遣いを感じて呼吸するタイミングがずれた事で喉の奥がヒュッと音を立てた。
それと同時に漂ってくるのは香辛料やお香の匂いじゃない、先輩のいい匂いを直に感じて頭の中はふわふわしてくる。
「……じゃ、みる…」
「ん、よく聞こえないな。ほら、もう一回言ってみろ。」
精一杯振り絞った声は案の定情けないくらい震えていて、それを聞いた先輩にくつくつと喉の奥で笑われる。
その悪役じみた笑い方がどうしようもなく好きで、思わず目の前の愛しい人に抱き付いた。
「ジャミル、ジャミル……好き。」
「ああ、俺もだよ。」
額、頬に落とされる優しいキスを受けて多幸感に包まれる。
ジャミルは何でもできて、かっこよくて優しい。強くて頼もしくて、いつも守ってくれる。時々ちょっと意地悪なところもあるけど、傷付けるような事は決してしない。そんなところも含めて全部大好きで、私の自慢の恋人。
人を好きになったのも、キスをしたのも、エッチをしたのも、私の
「いつも傍にいてくれて、助けてくれてありがとうございます。これ、私の気持ちです。初めて作ったので味の保証はできませんが……」
顔を見るのが恥ずかしくて半ば押し付けるようにジャミルに手提げ袋に入ったお菓子を渡せば、くすりと笑う声が聞こえる。
「ありがとう。後でじっくり味わわせてもらうよ。……それで?」
「えっ。」
「これを渡すためだけにわざわざここまで来たわけじゃないだろう?」
全てを見透かしている、そんな風に言われてしまえばもう腹を括るしかない。
緊張で震える手でボタンを一つ一つ外し、シャツを脱ぎ捨てる。続いてベルトのバックルを外してスラックスを緩めれば、後は重力に従いするりと床に落ちていった。
今日の為に街に買いに行った淡いピンク色で少し透けているベビードールを纏う姿をジャミルはどう思っているのだろうか。不安と羞恥が入り混じり、顔を上げる事も出来なくて胸の前で両手を握り締める。
「ふっ、なかなか悪くないな。俺の為に選んで着てくれたのなら、恥ずかしがらずにもっと見せてくれたっていいだろ。」
「ぁ、ぅ…」
やんわり掴まれた手首はグッと左右に押しやられ、上から下まで完全にジャミルの視界に入ってしまう。
恥ずかしさを押し殺してチラリとジャミルを見れば、感じ取った熱視線に背中を押されたような気がした。
こんな格好だから、ちょっと大胆になっても…いいよね?
「ジャミル、大好きです。……だから、その…私を食べて、ください。」
ジャミルの膝に跨り、最大限の誘い文句は捨てきれなかった羞恥が邪魔をして聞き取れるかわからないくらい小さかったけど、どうやらちゃんと伝わったようで。
「言ったからには最後まで付き合ってくれよ、監督生。」
ちゅ…と触れるだけのキスをされた後、太腿を撫でた手はベビードールの裾を捲り、更にその奥へ進められていく。艶のある低い声で囁かれれば、その先の事を期待して体は熱を持ち始める。
あなたの熱が私を甘く蕩けさせて、やがて一つに混ざり合う。どうか、一欠片も残さず味わい尽くして…。
ーーーー………
ーーー………
疲れ切って眠る監督生の柔らかい髪をゆっくり撫でれば華奢な体は身じろいだ後、再び穏やかな寝息を立て始める。
「また無理をさせたか…。」
好きだから触れていたい。手離したくなくて、もっともっとと貪欲になる結果、どうしても歯止めがきかなくなってしまう。
ピロートークが出来る程度には加減しているつもりでも、なかなかうまくいかない。もっと俺に余裕があれば監督生にこうも無茶をさせる事はないのだろうが…
毎回気絶しているかのように深い眠りに落ちる監督生を見てそんな事を考えてしまう。
だから今日は何もせず、ただ隣で眠ろうとしていたのに。
日中声をかけた時に感じた緊張感と落ち着きのなさに違和感を抱いたのは間違いではなく。
部屋に来た監督生の言動を観察すればそのつもりで来ているのだと手に取るようにわかってしまった。
可愛い彼女のお誘いを断るなんて、そんなの出来るわけないだろう?
普段の監督生からは想像出来ないくらい大胆な格好は健気で、文字通り食べてしまいたい程に可愛くて愛おしい。
人を好きになって想い合える事がこんなにも幸せなことだと教えてくれた監督生には感謝しかない。
ベッドサイドテーブルに置いた袋の中身は初めて作ったとは思えないカップケーキが二つ。不器用な君の事だからきっと何度も作ったんだろう。俺のために慣れないお菓子作りをしてくれたんだと思えば言いようのない愛しさが込み上げる。
そういえば入学前、妹が見ていた雑誌の記事に載っていたバレンタイン特集に贈り物で作るお菓子には意味が込められている物があるらしい。カップケーキには確か…。
監督生がそれを知っているのかはさておき、意味を思い出して嬉しさで胸が締め付けられる。
…俺ばかりがこんなに幸せな気持ちになってもいいのだろうかと時々不安になる事もある。
それでもこの先もずっと君が隣にいる限り繋いだ手を離すつもりはない。俺のこの想いを君は受け入れてくれるだろうか。
誰にも邪魔されないようにドアには鍵もかけたし、起きたら監督生が作ったカップケーキを食べてその後は存分に甘やかしてやろう。
そして、今度は起きてる君に今日言えなかった想いを伝えよう。
ーー…愛してる、と。
◆END◆
カップケーキを贈る意味:あなたは特別な存在
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