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年に一度のハロウィーン。それは生きている者も、ゴーストも共に楽しむ特別な日。NRCの誰もが浮足立っていた。
ハロウィーンウィーク開催に向けて、各寮衣装合わせや飾り付けの最終チェックを行なっていた。
ハーツラビュルはスケルトン。サバナクローは海賊。オクタヴィネルはミイラ男。ポムフィオーレはヴァンパイア。イグニハイドはカボチャの騎士。ディアソムニアは龍。
そして、スカラビアは…
「監督生ーー!」
「え、わっ…!」
ハロウィーン実行委員ではない監督生は授業が終わり、オンボロ寮へ帰るために中庭を歩いていたのだがその途中に名前を呼ばれ、振り向きざまに走ってきた相手にギュッと抱き締められた。
少し目線を上げると、褐色肌と白髪が目に入った…のだがその上、ピンと伸びた獣を模した白い耳、目線を下に落とせばふさふさの白い尻尾が生えていた。
その人物を改めて見れば、よく知った顔が太陽のように眩しい笑顔を見せた。
「カリム先輩!そのカッコ…ハロウィーンの仮装ですか?」
エキゾチックなアラビアンメイク、狼を彷彿させる黒い手足、臙脂色の衣装をベースに金の刺繍、黒のインナーにはスカラビア寮のシンボルである蛇の刺繍が施されていた。
「ああ。この狼男の衣装、よく出来てると思わないか?寮生達と一緒に作ったんだ。」
「はいっ、とっても素敵です!」
「えへへ、ありがとな!…そうだ。」
カリムはそう言って監督生から少し距離を取ると、悪役じみた顔をしながら両手の指を曲げて前に出してみせた。
「がおーーっ!…どうだ?迫力があって怖いだろ?」
「ふふっ、とても可愛いです。」
「えー、かっこいいと思ったんだけどな…。」
思い通りの反応が返って来なかった所為か少し膨れ面になったカリムだったが、それすらも可愛いと思えてしまう。
「その耳、どうなってるんですか?」
「気になるなら触るか?」
カリムは少し身を屈めると、監督生が触りやすいように頭を傾けた。髪色と同じ色の耳は、頭皮との境目が分からないくらいにフィットしていてまるで本物のようだった。
監督生はその耳に手を伸ばし、その質感を楽しむように優しく触れた。
当然、獣人属とは違い作り物だと分かる物であるが、ふわふわした耳はカリムの感情に合わせて今にも動き出しそうであった。
「凄い、触り心地いいですね。」
「そう言ってくれたら頑張って作った甲斐があるぜ。…あ、そういえばそろそろ来る頃だと思うんだけどな…」
キョロキョロして辺りを見渡したカリムは、遅れて後ろからやってきた人物を見つけて片手を振り上げた。
「いた、ジャミル!」
「カリム!!お前はまたそうやって一人でフラフラ出歩いて…!」
「大丈夫だって、ジャミルは心配性だなあ。」
「ちっとも反省してないな。全く…毎度探すこっちの身にもなってくれ。だいたい…、ん?」
カリムに追いついたジャミルは腰に手を当てて説教めいた事を言い出したが、カリムの後ろから感じる視線に開きかけた口を閉じた。
「ジャミル先輩、こんにちは。」
「なんだ、監督生もいたのか。喋ってたところ悪いが、カリムを連れ戻しに来たんだ。だから…」
制服を身に纏ったジャミルはいつもよりフードを深くかぶっていたのだが、それに違和感を感じた監督生はじっと注視する。
その視線に耐えかねたジャミルはムッとした表情になり、フードの端を軽く摘んで更に顔を隠すように引っ張った。
「…じろじろ見られるのは気分が悪いな。」
「あ、すみません。」
「なあ、ジャミル。もうちょっとだけいいだろ?」
「ダメだ。寮長のお前が戻らないといつまでも準備が終わらないぞ。」
カリムの発言にジャミルが険しい表情をしたのとほぼ同時にピクッ…と僅かに動いたフードを見た監督生は驚いて目を丸くした。
見間違いかと思ったがジャミルが話すたび、口調と感情に合わせてほんの少しであるが動きを見せた。
「フードが…」
「え?」
今も監督生の声がする度にフードの中が僅かに動いているのを感じたジャミルは気まずそうに視線を逸らした。
監督生はフードの中に虫が入っているのかと思い、それならば取ってあげないといけないと考えてジャミルの頭へと手を伸ばす。
「そのまま動かないで下さいね?」
「あ、いや、これは違う。」
近付く監督生から距離を取るため後退しようとしたジャミルだったが…。
「ひゃ…!」
「…っ!?」
自分を追いかけるために前進した監督生が躓いたのを見て咄嗟に体が動き、倒れそうになった体を抱きとめた。
しかし、その行動のせいでフードがめくれてしまったため、殆ど覆われた視界はクリアとなっただけではなく押さえつけられて窮屈そうにしていたものが狭いフードの中から解放された。
「君はほんと、危なっかしいな。もう少し落ち着いた行動を…」
「ジャミル先輩、それ…」
監督生の目に映ったのは、漆黒の髪と同じ色をした狼の耳と背中に隠れていた尻尾。
カリムと同様作り物だと思われた耳は獣人属同様に音を拾うたびにピクッと動き、ジャミルの感情に合わせてフサフサの尻尾もゆらゆらと左右に揺れ動いた。
隠し通そうとした物を監督生に見られ、ジャミルは溜め息を吐いた。
「作り物じゃ…」
「ああ、それは…」
ーーーーーーー…………
ーーーーーー…………
昨日の魔法薬学の実習中。
「バッドボーイ!もう一度最初からやり直しだ。」
「え〜、そんなぁ…」
「難しいな…。」
用意された材料から作るのは、眠気覚ましの薬の調合。
“雷鳴樹の葉”、“鬼灯の種”、“暁天草”。温度が一度でも下がれば失敗する。その繊細な作業につまずく生徒が多数いた。
日頃からカリムの為に薬を調合しているジャミルにとってはお手の物、早々に課題を終わらせて次の課題に取り組んでいた。
「“宵闇草”5gを“月桂樹の実”に加えて混ぜて…」
ジャミルに与えられた課題は眠り薬の調合。教科書通りに材料を調合している最中の事だった。
「うわっ、あぶねっ!」
「あっ…ちょっ、ジャミルに!」
他生徒が躓いた時に薬剤入りのビーカーが手から離れ、調合した薬剤がジャミルにかかってしまったのだった。
しかも、殆ど全量を頭からかぶった。
「……!?」
「うわ、悪いっ!」
「バイパー、直ぐに洗ってこい。」
被害にあったジャミルに怪我はなかったが、薬剤が皮膚に触れた事で何かしらの反応が起こる可能性がある。それを想定し、クルーウェルはそう指示したのだった。
その後何事もなく全ての授業が終わり、1日が終わった。
しかし翌朝、つまり今朝。
やけに外が騒がしく感じる。例えるなら、窓を隙間なくしっかり閉めているのに雨粒が地に落ちる音がはっきり聞こえるような、そんな感じだ。
起床したジャミルはカーテンを開けた時に窓に映った人物を見て刺客かと思い振り返ったが、そこには勿論誰もおらず。
怪訝な顔をして洗顔のため洗面所に行きながら髪を整えている最中に異変に気付いた。
本来あるべき箇所に、人間なら当然あるものがない。ペタペタと顔の横を触るが、やはり“耳”がない。それに、ズボンの後ろが窮屈で仕方なかった。
まさかと思い鏡で確認したところ、獣人属と同様の耳と尻尾が生えていたという。
嗅覚と聴覚が発達した以外は不便なく日常生活を送る事が出来るが、これで外を歩くとなれば寮生からだけでなく、全生徒から感じる視線が痛いだろう。目立ちたくはないため注目の的になるのは正直避けたい。
幸いな事に日常的にフードをかぶっている事が多いため、ケモノ耳は隠す事ができるだろう。だが問題は…
「これをどう隠すか…」
寮服では腰の布を少し多めに垂らせば尻尾自体は隠せた。だが、耳と同様に感情の起伏で容易に動きをみせる尻尾を周りにバレずに隠す事ができるのだろうか。
「だったら、ジャミルも仮装しようぜ!ちょうど今年のスカラビアは狼男だし、耳と尻尾があったっておかしくないだろ。いい考えだと思わないか?」
「あ、ああ…まあ…」
とりあえず寮長であるカリムには説明したのだが…この主人は私生活も仮装をして過ごせと言っているのだろうか。いや、考えるだけ無駄か。
この効果がいつまで持続するのか不明だが、私生活については自分で考えるとして、ハロウィーンウィーク中は確かにカリムの考えでもいいかもしれない。
そう思いながら学園生活ではフードをかぶり、尻尾は窮屈だったがスラックスへ入れてなんとか授業を終わらせた。
そしてスカラビア寮へ戻り、ハロウィーンウィークに向けて準備をしている最中にカリムの姿を見失って探し回り、今に至るのだった。
「まあ、ざっと説明すればこんな感じだ。… 監督生、聞いてるか?」
「えっ?…はい。」
「…、…怪しいな。」
勿論ジャミルの話は聞いていたのだが、感情に合わせて左右に動く尻尾と動く耳が気になって仕方がなかった。
あのふわふわの黒い耳に触れたらどんな反応をするのだろうか。艶のある尻尾の触り心地はきっと高級な絨毯を思わせるような手触りなのだろう。
「ーー…あの、ジャミル先輩。」
「今君が何を思っているのか分かりたくなかったが、それだけは絶対にお断りだ。」
「まだ何も言ってないのですが。」
「さっきからずっと耳と尻尾しか見てないからな。言わなくても君の考えなんて手に取るようにわかる。」
獣人属の彼らが耳と尻尾を触られる度に過敏な反応を見せているのをジャミルは何度か目撃した事がある。
きっと、あまり快いものではないのだろう。
「じゃあ敢えて言わせてもらいます。…そのお耳を触りたいです。」
「ダメだ。」
「うっ、じゃあ尻尾…」
「嫌だね。他人に触られるなんて冗談じゃない。」
「むぅ…ジャミル先輩のケチ。」
「なんとでも言えばいい。」
「……レオナ先輩でも触らせてくれるのに。」
その言葉にジャミルの表情に変化はなかったが、代わりにピクッと耳が反応した。今、監督生は誰の名前を言ったのだろうか。聞き間違いではないのなら、あの気怠げにしている第二王子の名前を口にしたような。
絶対他者に触らせないだろうと思っていた男の名前が出てきた事にも驚いたが、それよりも監督生が他の男に触れているという事実を知った事が衝撃的であった。
少なくともジャミルが知る監督生は積極的に人と慣れ親しむような人物ではなかったはず。別に、監督生とはそういう関係ではないため誰といようが知った事ではないのだが、このまま拒否し続ける事で監督生がレオナの元に行く事を想像したらイラつくし嫌な気分になった。
いつのまにか姿を消したカリムがいないのはいつもなら腹立たしい事であるのだが、今は寧ろ好都合だった。それに、監督生に対しての気持ちも確かめたかった。
「……分かった。」
「……?」
「気が変わった。少しだけなら触ってもいいぞ。ここじゃ人目があるから、場所を変えよう。」
単に他の男と比較されるのが癪に障っただけだったが、それが監督生に伝わる筈がなく。
監督生にとっては以前から気になっていたジャミルと2人きりになれるのは願ってもない事だった。嬉しくて口角が上がりっぱなしだったのだが、先を歩くジャミルがそれを知る事はなかった。
人が誰もいない、中庭の林檎の木の下の芝生に座ったジャミルは目の前で立て膝をして期待に満ちた表情をしている監督生をチラリと見やった後、ゆっくり瞼を閉じた。
「(ジャミルさん、睫毛長いし顔も髪も綺麗…)」
改めて間近で見るジャミルは端正な顔立ちをしていた。それだけでなく艶のある絹のような美しい黒髪、背筋の伸びた姿勢、そして近くに寄ったからこそ分かるジャミルの匂い…。
触らせてとお願いしたのはいいが逆にそれらを意識し過ぎて緊張してしまい、一度耳へと伸ばした手は空中を彷徨った。
しかしいつまでも待たせる訳にはいかない。意を決して柔らかい毛質の黒い耳にそっと指先で触れると耳の先端が僅かに震えた。
それが無性に可愛く思えて指の腹を使って、親指と人差し指の間に耳を挟むようにして根元から先端に向かって円を描くように触れていく。
そうすると、ビクッとジャミルの肩に力が入ったのを感じた。顔を覗き込むと、今の反応を見られたせいなのか褐色の肌は微かに赤く色付き、瞼を伏せたまま堪えるように胡座をかいた膝の上で拳を握り締めていた。
ジャミルにとって頭を触られるなんて経験は記憶に無いため、少し気恥ずかしさを覚えたのだった。
「ふふ、ふわふわしてて気持ちいい…。狼のジャミル先輩可愛いですね。」
「(…こんなはずじゃ…、相手が監督生だから調子が狂うな。)」
もっと乱暴に触られるのかと思ったのに、予想に反してそっと優しく触ってくるものだから堪らない。熱い顔はきっと、普段慣れない事をされているからだと思いたい。
そんなジャミルの事など知らず、その反応が嫌悪から来るものだと思い申し訳なく感じた監督生は耳に触れていた手を少し離した。
「やっぱり嫌…ですよね。すみません。」
「別に嫌じゃないが…、…もう終わりか?」
「え…?」
物足りなそうに見つめるジャミルが何を訴えているのか察した監督生は再度黒い耳へと手を伸ばした。
始めのうちは引き受けた事を後悔して早く終われば良いと思っていたジャミルだったのに、そんな気持ちを忘れてしまうくらい監督生の手つきが優しくて目を閉じて感じ入ってしまっていた。
それと距離が近付いた事で確証を得たのは、監督生からふわりと漂う優しく甘い匂いは明らかに男が出すものでは無いということ。やはり、思った通り監督生は…。
そう考えるとあのレオナが触らせた意味が理解出来たのだが、誰よりも先に監督生の正体に気付いていたのだと知れば胸中穏やかではいられなかった。
監督生の秘密を知るのは自分だけでいいのにと思うと、チリ…と黒い感情が湧き上がる。
すん、と鼻を鳴らせば監督生の匂いに混ざり17年間傍で仕えている慣れた匂いも漂ってくる。大方一方的にスキンシップの多いカリムに抱き付かれたのだろうが、簡単にさせるなんて無防備すぎる。
監督生が悪いわけではないのに、胸の奥で黒い炎が燃え上がった。それは、カリムやレオナに対しての嫉妬心からだった。
さて、どうしたら鎮まるだろうか…。
「トリック・オア・トリート。」
「えっ?」
「…聞こえなかったか?」
「聞こえましたが…」
それは、朝から何度も聞いたセリフだ。悪戯されないように何個かお菓子を持っていたのだが、それも底を尽きた。もう誰にも言われないだろうと思っていたのに、まさかジャミルから言われるなんて想定外だった。
「今は持ってないんです、すみませ…」
言いかけて、トン…と監督生の肩口にジャミルの額が触れた。普段他者に甘える事はしないジャミルが、例えるなら誰も寄せ付けない肉食獣が甘えてくるような感じがして可愛いなんて思いながら滑らかな黒髪を梳くように撫でていた時だった。
ーー…ガブッ!
「いっ…!」
いつの間にか片手が背中に回され、もう片方の手で緩められた制服は肩までずらされていた。ジャミルの頭は丁度露出された首筋にあって、疼痛はそこからきているようだった。
ジャミルが監督生の柔らかな肌から顔を離せばそこにはくっきりと歯形が残っていて、なんとも官能的な痣が付いた事で満足そうに口角を吊り上げた。
「なにするんですか!」
監督生の正体の事、匂いをつける事は先を越されたが、監督生の肌を最初に傷付けたのは自分だと思えば嫉妬心は少しばかり鎮まった。
「ふん、何も貰えないから“イタズラ”をしたまでだ。俺だからなにもされないとでも思ったか?随分と甘く見られたものだ。」
「〜〜っ!!」
「君は無防備すぎる。そんなだから俺みたいなヤツに付け込まれるんだよ。」
不敵な笑みでそう言ったジャミルは立ち上がり、カリムが狼の真似をした時と同じように顔の横で片手の指を曲げてベッと舌を覗かせた後にフードをかぶりながらその場を去った。
以前から気になっていた監督生の性別は薄々気付いていたものの、確証が得られなかったためなかなか一歩が踏み出せなかった。
男なら他の生徒と同じような関係でいようと思っていたのだが、今回の事ではっきりした。
ーー…もう、遠慮する必要はないな。
次はどんな事をしようかと思いながらジャミルはスカラビア寮へ帰るべく鏡舎へと向かった。
残された監督生は突然の出来事に立ち上がる事が出来ず、ジャミルの姿が見えなくなるまで見送った。そして、今起こった事を思い出して一気に赤面した。
まさか、あのジャミルがあんな事をするなんて。歯形を付けられた首筋がジンジンと熱を持つ。そこに触れれば痛みを伴ったが、胸が甘くキュッと締め付けられ体が更に熱くなった。
「ジャミル先輩…」
ーー…こんな事されたら、好きになっちゃいますよ。
今回の事でジャミルの事が気になる存在から好きな人へと変わり、その気持ちを更に募らせたのであった。
その後。
「あんな事をされたのに懲りずによく来れるな。」
「…ジャミル先輩に会いたいからじゃ、理由になりませんか?」
「耳と尻尾を触りたいからだろ。」
「それもありますけど…。」
噛んだ事で暫く監督生は来ないだろうと思っていたジャミルであったが、そんな考えをよそに会うたびにお願いされて耳と尻尾を触らせる日々が続いていた。
効果が切れる前に恋人にしてしまおうと計画を企てられているなんて監督生は露知らず。
授業が終わった監督生は今日もジャミルに会いに行くのだった。
◆END◆
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