狂気の愛に堕ちる
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誰だって、想いを寄せている相手に認められたいし、近くで感じたいと思う。
俺はどうやらその対象が監督生だったようだ。
いつからかって?…さあ、あまり覚えてないな。
理由は、まあ…俺に持っていない何かが君にはあったんだろう。いつの間にか惹かれていた。
俺にそんな感情を自覚させてくれた君には感謝してるよ。育った環境上無縁だと思ってたんでね。
最初は淡い想いを抱いていただけ。遠くから眺めるだけで満足していた。
次第にそれだけじゃ足らなくなって、少しずつ距離を縮めていった。警戒心の強い君はなかなか心を開いてくれなかったが、徐々に話しかけてくれるようになり、そして笑顔を見せてくれるようになった。
君なしでは生活が成り立たない程、君を欲している。こんなに誰かを好きになるなんて、俺にも出来るんだと気付かせてくれた。
監督生が俺の全てだった。
だから…俺を置いて元の世界へ帰るなんて、そんな酷な事はしないよな?
「元の世界に戻れる方法が見つかった?」
「はいっ、そうなんです!」
授業が終わり、寮へ帰る為に廊下を歩いていると監督生に呼び止められた。振り返ると満面の笑みで嬉しそうに駆け寄ってくるから何事かと思えば。
遂にこの時が…。時間をかけて、漸くこの関係まで築き上げたというのに。
最初からこうなる事は分かっていた。
鼓動が変に早まり、心臓が握り潰されるような、そんな感じがした。
「…そうか。よかったじゃないか。」
「ジャミル先輩には沢山お世話になったので、一番最初に来ちゃいました。」
「まだ他には言ってないのか?」
「みんなには、もう少ししてから話そうかと…今はまだジャミル先輩にだけです。みんなには内緒ですよ?」
「ああ、わかってるさ。誰にも言わない。」
「ありがとうございます。…三日後の夜の10時から5分間だけ魔法の鏡から元の世界に通じるんです。それを逃したらもう二度と帰ることが出来ないようで…だから何としてでも帰ろうって思ってるんです。…あ、用事があるので私はこれで。その時になったら声をかけますね。」
そう言って監督生は俺の元を去っていった。ご丁寧に帰る時間と方法まで伝えて…。
早まる鼓動を落ち着かせる。嘘だって言って欲しいのに、脳裏に焼き付いた嬉しそうな顔が頭から離れず現実を突き付けられる。
監督生が居なくなるのを認めたくない、帰らせたくないという邪な感情が心を支配する。
わざわざ帰る方法を教えてまで監督生は帰りたいのか?引き止めて欲しいのでは、という考えが過ぎったが、嬉しそうに話していたからそれはまず無いだろう。
まだ誰にも知られていない、二人だけの秘密。
今、俺が感情に任せてその鏡を割ってしまえば確実に疑われる。それだけは避けたい。監督生に嫌われるようなことはしたくない。
…なら、何もせずこのまま監督生を送り出す方が無難か。自由にさせるのも、一つの愛だと考えた。
本当に好きだからこそ、監督生を見送る覚悟を決めた。
それから、数日後。
早朝に起きて、カリムの弁当と朝食を作って、身支度を整えて学園へ行く。いつものように授業を受けて、部活をして、寮へ帰る。
普段通りの学園。…監督生がいない事を除けば。
「監督生君、帰っちゃったな…。」
「少し寂しいけど、これでよかったんだよ。それより、あいつが帰った後で鏡が割れたんだろ?よかったよな、その前に帰れて。」
すれ違った寮生がそう話していた。監督生が帰った事は、監督生と親しかった生徒全員が知っている。
ショックを受けている生徒も多いようだ。
「ジャミルは平気か?お前、監督生の事一番可愛がってたもんな。」
「…監督生が決めた事だから俺がとやかく言う筋合いはない。もういいだろ、この話は。終わった事だ。」
そう、終わったんだ。監督生に対する、この想いは誰にも言わなかった。俺だけの大切な思い出だ。
「カリム、そろそろ寝る時間だ。いつもの時間に起こせばいいな?」
「悪いな、ジャミル。じゃあおやすみ。」
カリムと別れ、自室に戻る。
入浴、今日の授業の振り返りと課題を済ませ、明日の授業の予習をする。
その後は電気を消して、寝る準備を行う。
今日はよく眠りたいから誰にも睡眠の邪魔をさせないように鍵をかけておこう。
あとは…。
副寮長となり、部屋を移された時に偶然見つけた隠し扉。壁に溶け込んだように隠れていたそれを、先代の副寮長達は気付いていたんだろうか。
その扉を開ければ目下に広がるのは地下まで繋がる長い階段。かなり暗くなっているそこを、光を灯したマジカルペンを頼りに下っていく。
足音が暗闇に吸い込まれる。
下まで辿り着き、重く頑丈な扉の鍵を解錠し、中に入る。
そこは窓が無い事を除けば、上の寮生達が使っているのと同じような部屋だ。
その部屋のベッドの上に、目当ての人物が寝息をたてていた。
傍に歩み寄り、肩を揺すると瞼がゆっくり開かれる。
「よく眠れたか、監督生。」
「…はい、ジャミル様。お帰りなさい。」
少し透け感のある生地で純白のベビードールを身に纏い、朱色に染まった瞳は真っ直ぐに俺を見上げている。
顎を持ち上げて、柔らかい唇へ口付けをした。
「ジャミル様、もっと…」
唇を離せば首に監督生の細い両腕が回され、濡れた声で強請る姿はとても愛らしい。
「ふっ。存分に可愛がってやるよ。君には俺しかいないからな。」
「ジャミル様さえいれば…他は何もいりません。」
その言葉をどれほど待ち望んだ事か。俺が欲しい言葉を君が与えてくれる。最高の気分だ。
愛しい監督生に酷く濃厚なキスを送りながらベッドに華奢な身体を縫い付ける。期待に満ちた眼差しを向けられ気持ちが昂る。今日もまた、君に溺れる…。
あの日の夜、元の世界へ帰る間際に俺の部屋へ来た監督生。
『ジャミル先輩、今までありがとうございました。…先輩と過ごした時間は…一番楽しかったです。』
『……。』
『…さよなら。お元気で。』
もう、逢えない。君に二度と触れる事が出来ない。仕方ないと、それでいいと思っていた。
ーー…何を躊躇してる?今まで散々我慢して生きてきたんだろう。もう、遠慮しないんじゃなかったのか?欲望に従え、後悔するぞ。
心の中の
耳を貸すな。監督生の幸せを誰よりも願っていたのは他の誰でもない、この俺だ。ダメだとわかっていたのに…
ーー…そうだった。もう我慢しないと、譲らないと決めたじゃないか。
もう止まらなかった。このまま監督生を失うくらいなら、悪魔に魂を売ってやる。監督生は、誰にも渡さない。
背を向けて歩き出す監督生の腕を掴んで引き寄せる。振り向いたその目は驚いて大きく見開き俺の瞳を捉えた。…これは好都合。
逃がさないように壁に監督生を押し付け、両頬に手を添えて顔を上に向かせた。グッと縮まる距離。その瞳を注視する。
『ジャ、ミル…』
『ーー…瞳に映るはお前の
ユニーク魔法を詠唱した後、徐々に朱色に染まる瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
嗚呼、その涙さえも愛おしい。
『… 監督生、お前の主人は誰だ?』
『…それは、あなたさまです、ジャミル様。』
ゾワリ、と腰から脳まで快感が走った。これ以上にない快感。最高だ。もう、離さない。お前は俺のものだ…!
『監督生、命令だ。今すぐあの鏡を壊して来い。誰にも見つかるなよ。』
『仰せのままに。』
あんな物があるから監督生が帰りたがるんだ。なら、その手段を無くせば監督生はもう帰りたいだなんて言わないだろう?
君は自らの手でその手段を絶った。
『俺の傍にいろ。俺から離れていかないと、俺だけを愛すると誓うんだ。』
俺は、君を心から愛してる。こんなに君を想ってるのは俺しかいない。その俺が、君の愛を欲して何が悪い?
『はい、私は…ジャミル様だけを愛します。一生お傍にいさせて下さい。』
これからは、俺のためにその身を捧げるんだ。
「…んっ、すき、ですっジャミル様、っぁ!」
「俺もだよ、監督生。」
快楽に溺れ、甘い声で俺に縋り付く監督生をキツく抱き締める。肌に触れる体温が心地良い。
学園では監督生は元の世界へ帰ったとされているが、実際はここにいる。こんな事になっているなんて、誰も思わないだろう。
俺は君という甘美な毒に侵された。
君の目には今の俺がどう映っている?狂ってるって嘲笑うか?
…俺にこんなことをさせたのは、ここまで狂わせたのは監督生、他の誰でもない君だ。だから、責任をとって俺の傍にいなきゃいけない。当然だろう?
ここを誰かに知られたら、その時には俺達の事を知る人が誰もいない土地へ君を連れ出そう。行き先はどこでもいい。
それがダメなら…そうだな。その時には黄泉の国にでも行ってみるか?どうせもう後戻りは出来ないから、どこまでも堕ちてやるよ。監督生となら、怖くない。
◆END◆
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