漫画にしたいメモ

兄さんは、俺にとってヒーローだった。どんな時も俺のことを一番に考えてくれた。俺が困ってると必ず助けてくれる。そんな兄さんが大好きだった。
小学校の時、兄さんはクラスの中でも目立つ存在で、リーダーシップをとることも多かった。でも、なにか役割を任されそうになると、決まって「凪のことがだいじだから」と断ってくれた。俺を優先してくれる。本当に嬉しかった。

中学に上がる頃になると、目立つようなリーダーシップをとることで周囲に期待をさせることがわかっていたので控えめになった。両親が海外で仕事をする話が持ち上がった時、兄さんはふたつ返事で「俺が凪を守るから大丈夫だ。家事も勉強もおろそかにしないから、心配しないで行って」と促した。それが本当に格好よくて、ああ自分も脚を引っ張らないようにちゃんとしなくちゃと思ったものだ。

2人での生活が落ち着いた中2あたりから、颯太は遠回しに俺を避けていると感じることがあった。いま思えば、きっとお互いに意識し始めたところだったんだろう。一度は「部屋を分けようか」という議題も出たけれど、結局は子どもの頃のまま、セミダブルのベッドで2人で眠ることになった。吐息を感じる距離に、双子のそれじゃない情がこもるのはたやすかった。

颯太に触れたい、颯太の一番で居続けたい、…颯太を抱きたい。

ある日の放課後、クラスの女子に颯太が呼び出された。ああ、これはきっとそういうことなんだ、と思ってこっそり物陰から様子をうかがっていると、その女子は「颯太くんが好きです。付き合ってください…!」と精いっぱいの告白を披露した。颯太はなんて返すんだろう?もしその子とお付き合いが始まったら、きっと俺のことなんて。

「ごめん。誰とも付き合うつもりはないんだ。」

颯太は表情も変えず、それでいて冷たく突き放すわけではないニュアンスで、隙のない断り方をした。安堵したけれど、それがまさか「自分がゲイだから」という理由があったとは、その時は知らなかった。しばらくして、あの出来事が起こった。ゲイコミュニティに成人だと偽装してもぐりこんだ颯太が、処女喪失未遂にあった。その事実でさえも後から知ったことで、自分が求められた時は本当に驚いた。

「欲しい」と思っていたのは俺だけだと思っていた。同じ細胞の同じ身体へ欲を抱くなんて、これほどの禁忌がほかにあるだろうか。
「恋愛」をまだ知らない俺と颯太は、求めあうことだけに夢中になってしまったけれど… 願わくば、この先もずっと、颯太が俺だけを求めてくれたらいい。「恋愛」なんて知らなくてもいい。互いに向けるこの気持ちだけがすべてだと、少なくとも颯太はそう思ってくれたらいい。
1/1ページ
スキ