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学パロ


放課後の校内で、ソーダ味のアイスを一口、口に含む。シャリリとした食感と口の中に広がる爽やかな味に暑さを忘れてしまいそうになる。甘みも少なく、さっぱりとしたそれは最近のぼくのお気に入りであった。

「そんなに美味しい?」

半ば呆れながら答えるのは本を片手に隣を歩いていた幼馴染・・・行秋だ。行秋は賢く聡明で(悪知恵が働くとも言う)、入学して数ヶ月で図書室の本を読み切ったらしい。職員、生徒ともにその偉業に驚きは隠せなかったが、後日重雲が本の感想を聞いたら少し物足りなかったと宣ってみせた。行秋の手は昨日とは違う本を乗せており、本当に本が好きなのだろうと思う。

「美味しいぞ。高校にもなると自販機でアイスを買えるから便利だな。」

「そうだね、小中学校の時は水筒に氷詰めてたもんね」

行秋が暑い暑いという隣でひたすら無表情で何かの術式?お経のようなものをぶつぶつ呟いていたかと思うと急に水筒に顔を突っ込み始めたりと、夏のぼくは奇行ばかり繰り返していた。高校に入ってからはいつでもアイスが入手できるようになったため、その奇行の数は減少していっている。

「はは、懐かしいな・・・行秋と出会って初めての夏は行秋が心配して濡れたタオルをくれたりしたんだよな」

「いやあれは急にブツブツ呟き始めたのが怖くてタオル投げつけただけだけどね。」

「・・・遊びに行くと毎回アイス用意してくれてたよな」

「家の者に君のことアイスに魂を捧げた男って教えてたからね。」

「いつからぼくの悪口大会になったんだ??」

「別に悪口のつもりは無いさ。ありのままを伝えてるんだ。ほら、僕って正直者だから。」

ふふん!と何故かドヤ顔しながら腕を組む行秋は重雲とは違ってじっとりと汗をかいている。つぅ・・・っと汗が首筋を伝うのが何とも言い表せない色気を醸し出している。

「・・・暑くないのか?」

「暑いに決まってるでしょ。夏だよ?」

「アイス買えばいいのに」

「もう三本も食べたんだよ?君みたいに一日に十本とか食べてたらお腹壊すし。」

丁度いい所まで読み切ったのかパタン、と音を立てて本が閉じられる。通学カバンの中に本をしまい、代わりにタオルを取り出す。落ちていく汗を拭いながら暑い暑い、と口にする。暑いというのに賛同するし、この体質的にも夏は苦手だが・・・不思議と嫌いにはなれないのだ。蝉の合唱も焼き尽くす太陽の熱も向日葵のように笑う彼も。何だか煌めいて見えるのだ。

「・・・あ」

汗を拭っていた行秋が一言呟き、正面を見つめる。そこには確かクラスメートの男子生徒と女子生徒がいる。

「最近付き合い始めたらしいね。」

「そうなのか?」

「もう、疎いなぁ」

行秋の言う通り、ぼくはどうにも色恋について人より疎いらしい。中学の時に同じクラスの女子から告白(?)された時も、それか告白とは知らず、「そうか、ありがとう!」と言ってその場を離れようとしたら泣かれてしまった。行秋が仲裁に入ってくれなかったら一生あそこでわたわたしてたかもしれない。とにかく、どうやらぼくは全くもって恋愛のいろはが分からないらしい。行秋に「君の恋人になる人が可哀想だ」と嘆かれたほどだ。

「行秋は彼女とかいないのか?」

「・・・いると思う?四六時中君と一緒に行動してるのに?」

それもそうか、と納得する。確かに昼食時はもちろん移動教室まで一緒に行動し、休みの日だって遊んでる・・・これで彼女がいたら驚きだ。

「ま、好きな人はいるけどね」

「そうか、好きな人・・・・・・好きな人??!」

「うるさ」

さらり、と当然のように言われた言葉に数秒遅れで反応する。

「す、好きな人・・・いるのか!?」

「いるけど・・・な、なんだい、居たらダメなの?」

「いや、ダメでは・・・ない、けど・・・」

何故だろう、少し胸がモヤっとする。もし行秋に彼女が出来たら・・・ぼくとの時間が減ってしまうからだろうか。

「・・・安心してよ、付き合えないから」

「付き合えない?」

「そう。まぁ別にいいんだよ。君といるの楽しいし。」

「あ、ありがとう?」

付き合えない・・・付き合わない、じゃなくて。もしかして相手は恋人持ちだったりするのだろうか、何時だったか行秋の家で読まされた身分違いの恋やらの類だろうか。

「あ、」

また同じように行秋が呟く。行秋の視線をもう一度辿って例のカップルとやらに目を向ける。

「・・・なっ、」

「やるねぇー」

そのカップルはこちらに気づいていないのだろうか。先程まで談笑していただけなのに少し目を離した瞬間に・・・接吻をしていた。

「は、は、は、破廉恥だ・・・!」

「流石に照れすぎじゃない?」

「校内で・・・うぅ、破廉恥だ・・・」

「接吻だけで破廉恥ねぇ」

顔を手で覆ってのぼせあがったぼくを引きずるようにして行秋はさっさとその場を去る。ぼくは校舎を出る間ずっと破廉恥だ・・・とぶつぶつうわ言を呟いていた。

「重雲重雲、君もいい年なんだからキスぐらいで真っ赤にならないでくれ」

「う、う・・・行秋は平気、なのか・・・?」

「うん?まぁ別にキスなんて恋愛小説によく出てくるし、重雲みたいに茹でダコにはならないさ」

「そうか・・・したこともあるのか?」

「・・・さあ」

「な、なんなんだ今の間は・・・!」

あははっ、とカラカラとした笑い声を上げながら行秋が楽しそうにはしゃぐ。全く・・・行秋の人を揶揄う癖はどうにかならないのか。

「ほら、アイスアイス!」

「え?あ、わ!」

焦げるような太陽に負けてアイスが液体へと戻りつつある。手に伝う液体を拭うも次から次へと溶けていくそれは到底留められるものではなかった。

「あぁもう・・・えいっ」

行秋がしゃくり、とアイスへとかぶりつく。もともと小さい口だからその一口は小さいものだけれど。

「何見てるの、重雲も早く食べなきゃ」

「・・・っ、あ、すまない!」

思わず見つめていたことを指摘されて慌てて行秋と同じそうにアイスを咀嚼する。

「ね、ね、重雲」

くいくい、と行秋が袖を引っ張ってくる。指先はとんとんと自らの唇を指している。

「ふん?ほーしたんら?」

「間接キス・・・ね?」

そう言っていたずらっ子のように微笑んだ行秋を前に咥えていたアイスは今度こそ地面へと落ちてどろどろに溶けてしまった。
とある夏の一コマ。
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