エピソード3


「何処にーーーアイツら!」
「こっちはいねぇな!あっちを探すぞ!!」

荒々しい男たちの声が遠ざかっていく。バタバタと廊下から走り去る音。

《……ねぇ、行った?》
《行ったんだゾ》

空き教室の教壇の下。
自分とグリムはホッと息を吐く。



リドル先輩から逃げて、しばらくは誰にも遭遇せず。このまま無事に辿り着くかなと思いきや、今度はナゼか〝オクタヴィネル寮生〟に絡まれ追いかけられた。過去にオクタヴィネルに追われた経験はあの先輩たちのみ。今しがた起きた件は、まったく理由が見当つかない。つきたくないが……相手はあのオクタヴィネル。自分たちの預かり知らぬところで事態は、想像以上に最悪なのかもしれないと………あまり考えたくなかった危険な可能性が、一気に跳ね上がる。

(指名手配でもされてるのかて、思っちゃう)

もしかしたら、もしかしてなので。

自分の予測が正しければ、もし〝彼ら〟に遭遇すれば。今度こそ洒落にならない目に遭わせられる嫌な予感して、その想像で背筋が寒くなる。法則性とまでいかないが、これまで軒並み知り合いたちの様子がおかしかった。それに加えてあの寮の寮生たちが、血走った目で追跡してきた。

(………今の自分たちに〝味方〟してくれる相手はいるのだろうか)

現状をわからないなりに様々な騒動を巻き込まれてきた。はやる心を押さえながら、冷静に考えようとする。いつも世界は自分に厳しい。そして、優しかったりする。思わぬ人物が手助けしたりしてくれる。それまでには自分たちでどうにかしなきゃいけない。

「こーだーー、陸の獣は!」

体感的に数十分は経ったと感じ、グリムに声をかけて教室から出ようとした矢先。バタバタと幾つもの足音が聞こえてきた。先ほど去っていった奴らが戻ってきたのかと思い、慌てて元の場所へと隠れ直す。教室に入って来た場合、逃げ道のルートをシュミレーションしたところで、外で複数の声が誰かへ一方的に罵る声が反響する。

《今度は一体ドコからなんだ?》
《まだ動けないね》
《オマエ、助けようとか言わねーよな?》
《さすがに立場を弁えてるよ》

人助けをしてる場面ではないことはわかっているし、いつも好き好んで問題事につっこんでいるわけじゃない。

《なんか、おかしくねぇか?》
《うん、どっちかという逆パターンならありそうだけど…》
《アズールんとこの奴らが、表立ってケンカ売るなんてあんまり無いんだゾ》

自分たちは隠れていた場所に引っ込んでいるが、盗み聞きしている内に会話から、オクタヴィネル生がサバナクロー生に攻撃しているようだ。もうちょっと近づいてもバレないかな。野次馬根性でもないがどうしても気になる。ソッと声の聞こえる方へと移動していく。近くの扉越しに耳を当てた。グリムがまた何か言いたげな半目をしてるが、同じようにマネて扉の近くへと移動する。

「ーーーいい加減、解放してくれないっスかねぇ?オレ、こう見えても忙しいんっスよ」

聞き覚えのある声。
記憶に馴染んだこの口調は、自分が知っている人物ではただ一人。

《ラギーの声なんだゾ》

罵声を浴びせられていたのは、ラギー・ブッチ先輩だった。



あと少し、もうすぐ、決定的な事実が彼らに突きつけられる時が迫っていた。
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