捻れた世界は待ってくれない


この日はオンボロ寮を掃除する日だ。エースとデュースにも、声をかけてみたけど来てくれるかな。バルガス先生も休日は部活の顧問してるしなぁ。

「んしょっと」

一階にある邪魔になりそうなものを外へと持ち出す。外の天気は晴れている。吹く風も穏やかだ。これなら、寮の窓を全部開いて風通しして換気できそうだな。

《ここを掃除するのかい?》
《ここも寂れて何十年。人の手が入るのは感慨深いものじゃ》
《その原因は俺たちだけどな!》

クスクス笑うゴーストたちは踊るように周りをふよふよと浮いている。以前贈ったブローチがキラリと光った。足元のグリムがぶなっと鳴く。

「おまえらも暇なら手伝うんだゾ!」
《おや〜グリ坊は手伝ってるんだねぇ。報酬は食い物かい?》
《そのぽっこり腹が更にぽっこりしそうだな!》
「うるせーんだゾ!」
《ユウ副寮長はちゃんと食べているかのう?》
《お前は他のに比べて細っこいんだからちゃんと肉をつけろよ》
《餓死して俺たちみたいになるなよ。俺ぁ、腹がぽっこりだけどよ!》
「おまえの死因は絶対餓死じゃないんだゾ」
「コラ!グリム!ははは…善処します」

軽口叩きあうが不謹慎な内容。ゴーストたちは気にしてない。グリムはいつも通り食い物で釣ったが、言われてみたら最近丸っこくなってきたな。逆に私は心配されたよ。そんなに細っこいんだろうか?精神的に女だから別にいいんだろうけど、顔はなよいとか言われるしいちおう男としてどうなん…やっぱ男としてムキムキ筋肉質の方が男らしい?筋トレ頑張ろう。

「ユウ!遅れてすまなかったな!」
「気にしてないよ。来てくれてありがとう」
「先輩と寮長に見つかってごまかすの手こずったわ」
「ごまかす必要なくない?悪いことしてるわけじゃないし」
「クローバー先輩と[[rb:寮長 > カシラ]]にアレがバレたらなんて言われるかわからない」
「あ〜謝礼としてサボってた課題手伝うやつか」
「僕はサボってないぞ!わからないだけだ!」
「胸張って言うな。トレイ先輩とかそこんとこ厳しいからね」
「エースて器用なのに容量良く生きようとして空回りすぎだと思う」
「うっせ!お前もなんだかんだ容量いいのに利用されすぎじゃね?」
「利用するならちゃんと手伝ってね〜」
「はぁ、図太いというかしたたか〜」
「喋ってないで掃除するんだゾ!」
「こいつなんでやる気なの?」

息を切らして走ってきた二人はそんな事のあらましを話すが、リドル先輩は騙せたとしてもトレイ先輩にはバレてる気がする。なんかこちらに聞きにきたら、今日の掃除のことを言ってフォローしておくか。それにしてもエースて、つくづくもったいないな。ちゃんとまじめに取り組めばいいのに。

それぞれ掃除の段階計画を話して、作業に取り掛かる。

サラバ!埃っぽい住処!

まあ、しはじめてこの寮の意外とある広さに四苦八苦する羽目になるんだけどさ。


持ち運べそうな重いものをデュースの浮遊術で運び出し、エースの風魔法で換気に応用してみた。人使い荒いと文句言われたが無視しつつ、エースの器用さにデュースと二人で驚く。

「エースて習った魔法、ほどよく使えるんだね」
「器用だと思っていたが、浮遊術もうまくこなしているじゃないか」
「なのにもったいない」
「モッタイナイてなんだ?」
「我が故郷の言葉なんだ。なんか、こうあと一歩惜しい!て感じ?」
「なんとなく意味がわかる」
「全部、話聞こてますよーーー!」

物を運び出したら、埃をはたいたりクモの巣をとったり掃き掃除をする。手動で行うには時間がかかりすぎる。デュースがこれだと一日で終わらないなと言うので、効率の良い掃除方法はないかと考えるが思いつかない。数十年の汚れを舐めていた。人間組が悩んでいるところに、ゴーストたちが掃除用の魔道具のことを話してくれた。先生たちの面談でも、チラッとでてきたな。

「それって便利なモノなの?」
《魔法がかかってるからな。便利だぞ》
「んなモン、オンボロ寮にあるわけないじゃん」
「ユウ!遅くなったな。部活関係で遅れてしまった」
「「バ、バルガス先生!?」」
「む。スペードとトラッポラか。手伝ってるとは本当のことだったんだな!」

外から馬鹿でかい声が聞こえてくる。この声はバルガス先生。エースとデュースが、びっくりしたような表情をしている。伝えるのを忘れてた。胸の筋肉をピクピクさせたバルガス先生が満を満たして登場。二人は悲鳴をあげた。エースにちょっとこっちこいと、肩に腕をまわされ内緒話するように顔が近づいてきた。デュースはバルガス先生の相手をしている。

「ユウ!どういうことだよ!」
「ごめん。伝え忘れてた。手伝ってくれるて言ってて、本当に来てくれるて思ってなかった」
「まさか先生登場はびっくりしたわ。休日まで暑苦しいのはマジ勘弁」
「人手が増えたから早く終わるかもよ」
「だといいけどな」

バルガス先生の登場に驚いていた二人だが、先生が噂の掃除用の魔道具を持参してきたので、エースの態度がころっと変わる。調子のいいやつ。バルガス先生曰く、トレイン先生とクルーウェル先生の心遣いでくれるそうなので、ありがたく貰っておくことにする。お礼はまた言おう。これから一人でするときもやりやすくなりそう。


魔道具の導入で劇的にピッチは上がった。備え付けの各ベットのシーツを剥がして、寮内が進んできた頃合いを見て、自分が屋根の雨漏りもやろうとしたら待ったをかけられる。

「飛行術もままならないのに危なすぎる」
「お前がゴーストになっちまったらどうするんだよ!」
「どんくさいお前が屋根で俊敏に動けるわけがない!」
「ものすごい言われよう」

屋根の雨漏りは、バルガス先生を中心にエースとデュースたち運動できる系が担当してくれた。自分は大人しく寮内を掃除することにした。キッチンも前に掃除してくれたとはいえ、気になるところまだまだ盛りだくさんなので手をつけてみる。

「これは食い物じゃねーんだゾ」
「こんな中からでてきた食べ物なんて腹壊すレベルじゃないよ。あ、それ、紅茶セットだ。未開封・未使用ぽいっし魔道具使ってやれば使えるかも」
《楽しそうだね〜》
「宝探しみたいで楽しいよ。あなたたちも手伝ってくれてありがとうね」
《たまにはこんなこともいいですな》
《さぁーて、そろそろ時間が迫ってきたぜ。ラストスパートだ!》

ゴーストたちも興に乗ったのか魔法で手伝ってくれていた。一回目で張り切りすぎてものすごく進んだように感じる。


「終わったーーー!」

外に出していたモノを掃除し終えると、元の位置に戻して作業は終了した。バルガス先生とゴーストいがい、地面に寝転びながら終了を叫んだ。

「一日でなんとか終わらせたな」
「アラがあるがこれで環境は改善したんじゃないか」
「これから雨漏りで寒さに震えなくてもいい……!」
「もう少し手を加えたいところがあったんだがな。今日はもうこれで終わりだな!」
「バルガス先生ありがとございます!」

バルガス先生にお礼を言うと、がははと笑いながら豪快に背中をバシバシされた。痛い。それから用事があると先に帰っていった。

「オレたちも今日のところは帰るわ。風呂はいりてぇ」
「門限ギリギリになりそうだな」
「二人ともありがとう!明日、課題手伝うね!」

二人を見送ると、寮の扉の鍵を閉めた。

「自分たちもお風呂に入ろっか」
「埃っぽいくてなんかドロドロなんだゾ」

最初は嫌がっていたのに、強制的に入るうちに抵抗しなくなってきて今じゃすっかり入る習慣が身についている。


《二人ともオツカレサマ》

ゴーストたちから労いの言葉が、一人と一匹に贈られた。その日のオンボロ寮はきらきらと光っているようだった。
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