捻れた世界は待ってくれない


今日の放課後は部活のないエースとデュースと、グリムでオンボロ寮で駄弁りながらダラダラ過ごしている。この生活にもなんだかんだで慣れてきて少し余裕がでてきていた。一番の要因は、ストーリー性のある夢を見なくなったことだ。たまにならいいけど、連日睡眠がちゃんとできてなくてダルかったし。

「あれから、考えて、考えて……思ったんだ。ユウは危機感が足りなさすぎる」
「デュースどうしたよ」
「面倒くさくなりそうなんだゾ」
「そこで、だ。以前ケン…体術を習いたいとか言ってただろう?」
「教えてくれるの!?」
「喜ぶな!?」

そんな時にデュースが何を思ったか。私のポンコツ具合を見かねたのか、体術もといケンカ塾を開いてくれるそうだ。マロンタルトのおつかいの時に、本気半分ノリ半分で頼んでみたことを本当に検討していてくれたらしい。

「暑苦しいのNGなんで、購買部で食い物でも買ってくるわ」
「食い物!?オレ様も行くんだゾ!」
「ポテトよろしくお願いしまーす。これお金。グリムのも分もある」
「アイスティーを頼む」
「パシリにしないでくれる!?」

エースは面倒くさいと思ったのだろう。巻き込まれないように、買い物してくると逃げようとした。別に一緒にやりたいわけじゃないので、おやつ買ってきてもらおうと頼んだ。グリムもついていくとなると絶対たかりそうだし。こういうことが多々あるので、食費がかさんでいるような気がする。夜にでも家計簿を見直すか。


エースとグリムが部屋からでていくと、まず準備しようとデュースが言った。服をいきなり脱ぎ始めたのでビクッとなった。デュースが不思議そうな顔で見てくるのでごまかす。

「準備?」
「体操服だ。動きやすい服の方がいいだろ?破くわけじゃないが」
「本格的」

着替え終わったら、色々道具を持って外へとでる。男子の前で着替えるのも慣れてしまった。毎回気にしていても変だし、一度思い切って着替えたらあっさりと終わった。体は男だし!と開き直りつつある。

「この学園は平均身長が高めだからな。気にしていたらすまないがお前は身長が控えめだから、顔面に拳が届かない場合がある」
「身長は気にしてないよ。でも、リドル寮長と同じくらいだから口は滑らさない方がいいかもね」
「[[rb:寮長 > カシラ]]には内緒にしてくれ」
「カシラて呼んでるんだ」
「顔を狙うより脚にしとけばいい。脛とか狙えば痛みで隙ができる。その間に逃げればいい」
「そういうもんなの?」
「逆ギレされるのは確実だが、喧嘩を売ってきた方が悪いんだ。正当防衛だ」

デュースがいつもの悪い顔で両手をパシッとする。でたよ、ワル語録。

手本を見せてくれたのだが、蹴り出す足技が高速です。こういうところには陸上部の練習が応用されていたりするんだろうか。表情は悪いのだが彼なりに真剣に教えてくれた。蹴り方の練習をしばらくしてから、次に濡れた雑巾を持ち出した。

「なぜに、雑巾」
「普通は喧嘩に関係ないて思うだろ?濡れた雑巾の威力は凄いんだ。ビチャビチャだとなおヤバイいんだ。鼻に入って苦しい」
「まるで経験したことある言い方だね」
「昔、母さんと喧嘩になって投げられたことがある」
「実体験だった!?さ、さすが、デュースのお母さん」
「的を狙うコントロール能力とかも鍛えておかないとな」
「的て言っちゃったよ」

投げ方の練習をしてみたがこれが難しかった。デュースが自分の身長くらいのある板を持ってくれたので、顔あたりにそこに投げてみたがあたらない。イメージでは顔面にバシャッと張り付くのだが、板の上を通りすぎるし胸や腹の位置に当たってしまう。

「ダーツとかアーチェリーみたいな感じで応用?」
「いつも持ってるものじゃないしな。まわりのモンを利用すればいいんだよ。掃除用の箒とかボールとか」
「忍者理論に通じる」
「ニンジャ?」
「こっちの例え方みたいな」


今日のところはこれで終わりだとデュースが言い、二人で後片付けをしはじめる。また時間が合いそうだったら、ちょこちょこ教えてくれるそう。

「お前は小柄だから真っ向勝負じゃ勝てねぇ。まずは逃げる。逃げれなかったら隙を作る。後はアテにしない方がいいが、助けてくれそうな人を探すとかだな」
「最初はそんなもんか。絡まれるのも慣れてきたけどさ」
「名門と聞いていたから優等生にならなければと思っていたのに、血の気が多い奴が多すぎる」
「ねー、今日はありがとう。ちょっと自信持てた気がする」
「お礼を言われるほどでもねぇよ。だいたい捻りあげれたら撤退してくれるんだけどな」
「それはデュースさんだからできることじゃ。握力も鍛えておこうかな…」

照れたように笑うデュース。言っていることは物騒だが、こうやって自分のために何かしてくれるのは嬉しい。ヤンキーとは無縁の人生を送ってきたが、こういう友達を作れたのはよかったな。

「うげぇ、まーた暑苦しいことやってるよ……なんで体操服?」

お互いほのぼの雰囲気でいたら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。げんなりした顔で隠れたようにこちらを覗くエースと、半目で呆れているグリムがいた。グリムはもぐもぐと食べ物を食べている。

「遅かったね。動きやすい格好したんだ」
「お前ら何を目指してんの??グリムの奴あれもこれも目移りしてお守り大変だったつーの」
「おもり…もぐ…じゃないん…もぐ」
「コラ、食べるか喋るかどちらかにしろ」
「えーと、おつかれさま?」

エースはエースで、食い物センサーバーサーカー状態になったグリムを止めるのに必死だったようだ。いつものようにうまいこと立ち回ろうとして失敗したな。片付けをして、ぞろぞろとオンボロ寮へと入る。三人と一匹の毎日はいつもこんな感じだ。


もし、元の世界に帰る前に。
元の姿に戻ってしまっても、こんな関係のままでいられるかな。なーんて、そんなことを考えた。
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