捻れた世界は待ってくれない
雑用から教室に戻ってくると野次馬が囲み、おバカたちがドンぱち開始しようとしていた。エースとグリムの間に入り止めているデュースの姿が見える。野次馬の外側の方にいたハーツラビュル寮一年たちが、こっちに近づいてきた。ざっと理由を尋ねると、グリムが火の魔法を使った。まずいのはエースも風の魔法を使ったということ。いつかの石像みたいに、今度は教室黒焦げになるやん。あの時は学園長がやってきて愛の鞭をふるわれてたっけ。遠い目でその光景を思いだす。思考停止しそうになる。
「デュースが止めに入ってんだけどなかなか治らなくてさ」
「あいつまで参加しそうな勢いなんだよ」
「監督生どうにかできる?」
「ムリ!」
「こんなの寮長にバレたら連帯責任とらされる!!」
ハーツラビュル寮生一年の言葉で、リドル先輩を思い出す。この前ヘルプしていいて許可もらったじゃん。早速すぎる。デュースやハーツラビュル寮生たちは巻き込まれ事故になる前にバレるまえにバラせ。カムバック魔法封じはグリムとエースのみ体験していただこう。
「ちょっと[[rb:寮長 > カシラ]]を呼んでくる!二人もあのバカ止めといて!」
「「カシラ!?」」
疑問符が飛んでいる。とっさにデュースの呼び方がうつってしまった。そんなことはどうでもいい。自分は二年の教室に向かった。
雑用とかで学園内をうろちょろするようになったとはいえ、二年生の教室に来たことがなかった。
来てはみたもののクラスが多いので軽く迷子。2年E組てどこ?一つ一つの教室覗くのコワい。上級生がいっぱいだが、時間がお昼休み入った頃でよかった。まだ人が少ないかも。9年間の義務教育で年功序列が染みついているので、目上の人たちがわんさかいるテリトリーは緊張する。さっさとリドル先輩を探してズラかりたい。誰かに聞くしかないが、廊下には聞ける人が少ない。一か八かさらっと教えてくれそうな人を探すしかない!判定基準としてケモミミは血の気が多いから避けて、ハーツラビュル寮生を……温玉先輩コンビとかいるし2年とあんま交流ないわ。即座に考えるのは止め、直感で目があった人に聞こう!というかヤケクソ基準にした。そしたら、アラビアンっぽい人とパチリと見事に目があった。目を逸らされる前に特攻を試みる。
「こんにちは。すみません、ここは2年生の教室ですか?」
「君は1年生か?」
「はい。2年生のリドル・ローズハート先輩がどこかにいるかご存知ないですか?」
「居るかどうかわからないが、あいつのクラスならあそこから数えて五番目の教室だよ」
「あそこですか。教えてくださりありがとうございます!」
「ああ……」
ガンつけられることも、めんどくさがれることもなくさらりと教えてくれた。見た目がアラビアン風ヤンチャなヤンキーっぽい人だから、緊張したけれど普通の先輩でよかった。必要以上に纏わりついていると、気が変わってしまう場合もありそうなのでお礼を言ってさっさと離れた。
「失礼します!![[rb:寮長 > カシラ]]!奴らの首をはねてください!」
スパーンと、豪快に2年E組の教室の扉を開いた。まわりの先輩たちが、全員こちらを見ている。見知った顔はいない。まばらにいる教室の中、特徴のある赤髪がこちらをバッと振り返った。自分を確認すると、表情が柔らかくなってくれる。
「お行儀が悪いよ。グリムが魔法を使用したのかい?」
「はい!ウチのバカと先輩のところのバカが、教室を黒焦げにしようとしてるんです!」
「エースの方か。まったく、あいかわらずだね」
「デュースと他のハーツラビュル寮一年が止めに入ってくれてるんです。ヒートアップしていて、このままじゃ集団首はね案件になってしまう!」
「落ち着いて、それなら急いだ方がいいね。お昼休みなのになんでそんなことになったんだい?」
「どうせしょうもないことです!」
「断言されるほどしょうもないことを頻繁にしてるようだね」
急に訪ねて来ても、リドル先輩は落ち着いていてどこか嬉しそう雰囲気。人当たりが優しくなったよねこの人。急ぎ足で教室を出るときに挨拶してから出て行く。上級生の教室なのに焦りすぎて、失礼なことしたな。お昼休みに入っていたから人がまばらで助かった。
1年生の廊下に辿り着くと、道ゆく人が隣にいるリドル先輩の姿に驚いている。寮長ともなると校内じゃ有名人だろうしな。1Aの騒ぎを知ってるであろう、他クラスのハーツラビュル寮生は悟ったような表情している。
騒ぎの元、クラス内にリドル先輩が一歩を踏み出すとモーゼのように野次馬が両脇に割れる。
「グリム、エース。魔法を使って騒ぎを起こしたそうだね?」
急に静まりかえった教室に、先輩の声はよく通った。
「げっ、寮長」
「ぶなっ!?」
今まさに魔法を使おうとしていただろう両者から上擦った声があがる。言いわけできない犯行現場に、やっぱタイミングが悪いなと思う。
「ルールを破った者の末路は、身を持っておわかりだよね?」
「こ、これにはわけが…!」
「これに関しては、横暴とはいえないだろう?寮長として寮生の非常識な行いは見逃せないよ」
「オレ様はちがっーーー」
だらだら汗を流す両者のは言葉は聞きいられるわけもなく。
「[[rb:首をはねろ! > オフ・ウィズ・ユアヘッド]]」
「「ぎゃあーーー!!」」
ガッチャンと、施錠の音は響き渡った。
一部始終を見ていた野次馬たちは恐怖で硬直していた。デュースは身を持って経験したあの日々を思い出してるし、ハーツラビュルも悲鳴を上げている。無差別首はねのトラウマだろうか。リドル先輩はエースとグリムを自身の前に立たせて、くどくどと説教している。他の生徒は巻き込まれたくないとばかりに迅速に散った。止めていたデュースとハーツラビュル寮生たちには、もうつきあわなくていいからとさっと食事に行ってもらった。
「リドル先輩、貴重なお昼休みがほぼ潰れてしまって」
「移動時間にこっそり携帯食を食べるとするよ。気にしなくていい」
「ありがとうございます…!」
「首輪は一週間ぐらい目安で、反省の色が見えるなら日にちを早めるか決める」
「これで少しは懲りてくれたら助かるんですけどね………」
ケンカコンビから文句は言われるだろうが知ったこちゃねぇ。グリムには散々言い含めたのに。エースは、まぁ……風の魔法さえ使わなかったらね。
「先輩として頼られるのも悪くないね」
コンビにグチャグチャになった教室を片付けるよう命令したリドル先輩は、教室に戻ろうとしていた。迷惑がらずに微笑む先輩に、先輩力を感じながら心がほっこりした。優しい人には懐いてしまうのは仕方ないと、また心の中で言い訳した。
「自分も先輩の後輩でよかったです」
先輩がたどたどした手つきで頭を撫でてくれたので、なんかものすごく癒された。トレイ先輩のマネかな?この後のコンビの文句も跳ね除けそうな力をもらった。これでトレイ先輩、チェーニャさん、リドル先輩の幼馴染み組からのなでなでコンプリートされたことに気づいたけれど、ひっそりと心の中にしまった。
あとでトレイ先輩から話を聞いた。
「あの事件以降、落ち着いてはいたんだがよろしくない噂もあってだな。今回の一連の事件は、1年生たちにハーツラビュル寮長の姿を見せるいいきっかけになったな」
「騒動起こしたことには怒らないんですね」
「学園長が言うユウの猛獣使いの才能は、たしかにあるんじゃないか?」
「え…それ、遠回しに……」
自分とこの寮長、猛獣て思ってるんですね。とは言葉にできなかった。トレイ先輩てそいうとこあるーーー!
トレイ先輩がいいお兄さんの表情で言うので、私はさすがナイカレ生としか思えなかった。この学園の生徒たちは接点が多くなればなるほど第一印象が木っ端微塵にされる。
こうして、教室黒焦げ事件は無事未遂で終わった。