捻れた世界は待ってくれない


「待てよ!」
「逃げてんじゃねぇ!」

ヤババババ!なんかケモミミ寮所属不良に追いかけられています!

よりにもよってグリムと別行動時。いつものごとく放課後に雑用の仕事をしていたら、なんか因縁つけられた。学年はわからないけれど『センセイのお手伝いでちゅか〜いい子ちゃんですね〜』とか言ってきやがったので、スルーして通りすぎようとしたら荒く手を掴まれ、痛くて思わず脛を蹴り上げてしまったのである。おわかり頂けただろうか?自分としては正当防衛と主張します。この前デュースにケンカ塾開いてもらったばかりというのに、なんというザマである。しかし、ちまちま筋トレしてきた成果が出てきているのか鉱山の時より持久力が少し上がっているような感じがする。今度ジョギングも始めてみよう。

現実逃避はここまで。誰かに助けを求めなければならない。腕に抱えたそこそこ重い備品も枷になってきてマジでムリ。ケモミミ寮の人達は身体能力が高いと聞いたから、逃げ続けるのは不可能だ。居候としている身だから雑用してるだけなのに、なんでこんな目にあうのか……よくよく思い返せばエースとデュースたちといる時でも、よく不良が絡んでくるよな。この学園ヤンキー多すぎ!

『そんなに逃げてどうしましたの?』
「ヤンキーに目ぇつけられた」
『あらあら』
「それで、ぎゃっ!」

気品のある声が自分の耳に入ってきた。バッと壁を見ると、そこにはロザリアちゃんがいた。走りまわっていたので、西校舎の方まで来ちゃったみたい。肖像画とはいえロザリアちゃんと会ったせいか、気が緩んで転けてしまった。ヤバイ。箱の中身は傷んでないか確認して再び逃げようとしたら、二人組が走ってきて止まる音がした。

「ぎゃははは、こいつ転んでじゃん!」
「お前みたいなモヤシが逃げられると思ってんのかよ!」

両手をバキバキしだす、獰猛な獣人たちに恐怖する。自分は常に必要分のお金しか持ってきてないのでカツアゲは回避できるけど、フルボッコは回避できなさそう。万事休す。

『お待ちなさい。ワタクシの目の前で、その子をランボウするおつもり?』
「あぁ?紙キレは黙ってろよ」
『体格のいい下郎が、小さな子供をジュウリンするなんて、悍ましい』
「ジュ、ジュウリン?」

(ロザリアちゃん!?台詞のチョイスが!?)

「ジャマするつーならタダじゃすまさないぜ」
『あら、今度はワタクシに手を出そうとするの?そう…なら、こちらにも対抗手段はあるのよ?』

助け舟をだしてくれるロザリアちゃんにキレ散らかす不良たちだが、言葉のセレクトに少し戸惑っている。悪い顔して近寄っていく姿はまさに暴漢そのもの。ロザリアちゃんは動けないのだ。このままでは傷つけられるはずなのに、余裕がある表情で不良たちを煽っていた。

『きゃああああああ、誰かお助けになってぇ!ランボウされる!』
「「「えええええ!?」」」

それから一呼吸してから甲高い悲鳴が上がった。代々伝わる乙女の悲鳴を繰り出した。この乙女の悲鳴、間一髪で聞きつけた王子様(相手役の男の子)が助けにきてくれるという伝統の技なのだが、ここはナイトレイブンカレッジ!そんな運良く助けにきてくれる人なんて………!

「肖像画の君、どうしたんだい?相変わらず麗しいね」

ガラリと近くの教室から扉が開くと、飾りのついたお洒落な帽子を被った美形がでてきた。えええええ、神かがったタイミングで登場したーーー!台詞も芝居かかっている。

『狩人の君!そこの下郎がワタクシとその子をランボウするおつもりなの!』
「なんと!セ・ニュル!」
「テメェ、ポムフィオーレ寮のやつじゃねぇか!関係ないだろが!?」
「ヒィ!ルーク・ハント!」

その登場にも疑問抱かず、当たり前のように助けにきた王子様に告げる。王子様じゃなくて狩人なんだ!?一人はガンを飛ばし、一人は怯えたように後方へと下がる。

「なんだ。またキミたちか。暴力を振るうのも大概にしたまえ。直接関係はないが目の前でご婦人と……見るからに入りたての新入生が襲われているんだ。一人の男として見逃せない光景だね」

「そんなシュミはねぇ!ハッ、ガタイは良さそうだが所詮ポムフィオーレのやつだ!オレたちとやろうってのか?」
「おい!やめろ!そいつはやめとけ!」
「……サバナクロー寮の生徒か」

きらりと瞳が輝いたように見えた。不良の片割れが飛び出そうとしているのをもう一人が抑えこんでいる。帽子の狩人さんは、少し考えこんでから彼らの方へと歩みよる。詰め寄る間合いは一瞬だった。

「きゃうんっ!」
「きゃいんっ!」

鳴き声を上げる獣人たち。目を爛々と輝かせる狩人。なんの躊躇いもなく両手で二人分の尻尾を鷲掴んだーーー!!

「やれやれ…セ・ドマージュ。寮ごとに舐めるのは良くない傾向だ」
「「や、やめぇ、きゃううううん」」

さすりさすりと尻尾を掴む手はどこか優しい。獣人たちは頰赤らめ吐息がでている。毛の手触りを楽しむように、ペットを撫でて接するように……なんか、どことなくヒワイな……え??私はナニを見せられているんです??

「粗暴な行いするわりに、毛の手入れはしっかり行われているようだね。上質な毛皮を持つエモノは仕留めるのは、狩人にとって最高なことさ!私と追いかけっこをしないかい?サバナクロー寮のキミたちには負けないくらい、脚力には自信があるのだよ!」
「うわあああ!だから嫌だったんだよ!こいつへんたいだからああああ!」
「いやあああ!待てっえええ置いてくなーーー!」

尻尾をギュと掴み、ニコッと笑う狩人先輩の発言は爽やかなはずなのに、不穏に聞こえるのはなぜなのだろう。圧倒的強者のオーラ。パシンッと不良たちは先輩の手を払い除けるとすごいスピードで逃げ去った。さっきのオラついた態度とはうって変わって、暴漢に襲われた乙女ように悲鳴を上げながら。嵐は過ぎ去った。両手を上げやれやれとした仕草をして、こちらの方へと彼は向いた。改めて全身の姿を見ると、キラキラエフェクトハンパない!

『うふふ、ルークくん。ありがとうございますわ』
「助けてくださりありがとうございます」

ロザリアちゃんがお礼を言ったのを聞いて、自分もお礼を言う。一連の流れで硬直していたが、この人に助けられた。

「ノン!無事で何よりだよ。粗暴な輩が多いからねキミも気をつけるといい。それでは」

特に気にした様子もなく、何事もなかったように彼も去っていった。怒涛の展開に思考が追いつかない。一体何が起こったのかわからない。ロザリアちゃんの方を見ると、片目をウィンクして微笑んだ。もしかして、あの人が教室に居るの知っていたのかな。

「強烈だった」
『個性的でおもしろい子でしょ?それよりいいの?何かモノを運んでいたんじゃないかしら』
「………あ、雑用!早く準備室に運ばなきゃ。ロザリアちゃん、手助けしてくれてありがとう!でも、またあいつら仕返しにきたら危ないんじゃ…」
『そんな心配そうな顔をなさらないで?ワタクシたち、学校のビヒンと呼ばれるものは傷つけられないように学園長直々に防衛の魔法がかけられているのよ?』
「え!そうなの!じゃあ、あの人」
『知ってて助けてくれたのよ?素敵でしょう』
「ヤバイですね。恋に落ちてしまいますね」
『あら?あらあら?恋バナしましょう!ワタクシしてみたかったのよね〜♪』
「言葉のアヤですよ!不良がいたり紳士がいたり不思議な学校だな」
『それくらいがちょうどいいのよ。楽しい方がいいわ』

危ない目にあったんだけど。出会った人たちは愉快犯が多いな。知り合った先輩たちもそんなこと言っていたし。ロザリアちゃんに別れを告げて、雑用へと戻る。すぐに切り替える自分も少しづつこの学園のあれそれに染まってきているのかもしれない。

(ヘンタイっぽい人だけど、紳士だな。はっ!?あれがいわゆるヘンタイという名、紳士!?)
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