捻れた世界は待ってくれない


ある程度落ち着いた日常を送るようになってから夢は見なくなった。でも、寝入る前に色々考えることが多くなった。

〝魔法〟があるし、獣人や人魚や人外、別の種族などいるから異世界は異世界。この世界はパラレルワールドかも知れない。あくまで現在の持ってる情報で仮説を立ててるだけだから…そうじゃないけれど、そういう系統の話が好きだったから元の世界でよく調べてた。

食文化やサブカルチャーなど自分の故郷と似通っている部分がありすぎる。見覚えのある文明の機器もある。ケイト先輩御用達のマジカメを見たときはびっくり。SNSは衝撃。特にこの似通う部分で助かったのは、お金の価値が似ていたことだ。マドルの単位が1000マドル=1000円の価値なら計算しやすい。

勉強では、数学関係はこちらの世界に通じてる。音楽、美術と芸術関係があるのも助かった。私はオンチだけど音楽好きだし。タンバリンなら得意。絵を描くのも好き。

それ以外はまったくの未知だった。魔法に関する科目だけで確認したら約10種類以上もありそう。ほぼ教科は魔法関係。名門魔法士養成学校だからあたりまえだ。魔力があることが前提の学園。自分みたいなのは前代未聞な異例。異世界人の対応に、先生方も私自身も手探りの状態だし。

それで悩んでいるのは、元の世界に帰る手がかりを見つけること。まず手掛かりになりそうな図書室の蔵書は膨大すぎて時間がたりないし、専門用語多すぎてそれを調べていたら全然進まない。学園長や先生方も調べてくれてるみたいだけど、まだまだ時間がかかりそう。次に学園の住人たちに聞きまわってみた。食堂のゴーストや、オンボロ寮のゴーストたち、しゃべる絵画や肖像画たち。

「絵画や肖像画たちに聞いても手がかりなしか…」

長い時間、学園にいるカレラだがそれでも、私みたいな事例は初めてなのだと言う。詰んだと言いたいが、まだ調べ始めたばかり。ちゃんと生活するのにもままならない現状だし、長期滞在になりそうな予感はしている。

自分なりにこの世界を楽しんでいる気持ちだけど、家族のことを考えるとどうなっているのか気になるし、ちょっと罪悪感。誰かにこのもやもやを話したいけれど、話しづらい話題だったりするーーーついこないだまでは。

『そういう話ならワタクシたちに言いなさいな。ワタクシたちこの中から動けませんの。暇つぶしに持ってこいですわ』
「ロザリアちゃん…暇つぶしって…」
『貴女の行動、どれも突拍子もないから面白いんですの』
「面白いならいいか〜」
『貴女て本当に大らかよね。もう少し相手の言動に怒ってもいいのよ?』
「あんま気にしないですね。それに、ただでさえ怒らそうとしてくる連中や血の気の多い連中の巣窟ですし。できるかぎり、争いは避けて平穏無事に生活していきたい」
『切実ねぇ。それもそうね。どこからどう見えても、非弱そうでカモにされそうな見た目してるものね』
「唐突にディスられた?」

ロザリアちゃん。ナイトレイブンカレッジ唯一の女性的みたいなポジションで、お上品な喋り方をする超絶美女。ただし肖像画。お上品に辛口な性格をしているお方だ。ハーツラビュルの事件が終わり、仲直りのなんでもない日も無事終わってから、ケイト先輩から正式に紹介してもらった。その時に初めて会ってあまりにも美麗な姿に思わず求婚したが、さらっと断られた。

『ふふ、あの時はびっくりしましたわ。まさか肖像画に求婚してくるなんて、何十年ぶりに大笑いしてしまいましたもの。近くにいたケイトくんなんて、引いてましたのよ?』
「ケイト先輩引いてたの!?わた、自分、先輩にやらかしすぎてるんですけど」
『そんなに気になさらないで、あの子もたいして気にしてないわ」
「そっか…」
『…でもね、あの子も話のネタにはしているみたいなのよ?』
「ケ、ケイト先輩め!どおりでクラスの連中から妙な誤解されてたんだな!?」

軽くその時のことをロザリアちゃんに話したら、まさかの事実が判明。なんかの拍子に比較的仲のいいクラスメイトとエースとデュースとグリムで、恋バナの話になったんだけど、なぜか私がロザリアちゃんと結婚するために足蹴なく通っているということになっていたのだ。さらにエースが悪ノリして、なんか純愛ラブストーリーに発展してしまい、誤解を解くの大変だった。

クスクス笑う美しい肖像画を見ながら、魔法な世界に日々順応していく。彼女には〝わたし〟のことはバレている。女の子と話せるだけで、安心感ハンパない。ロザリアちゃんが素敵な女性でよかった。
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