捻れた世界は待ってくれない


バルガス先生は、体力育成や飛行術などの体育系授業。部活も運動系の顧問。クルーウェル先生は、錬金術、魔法薬学などの座学の理系授業。1年A組の担任。トレイン先生は、魔法史学などの座学の文系授業。複数受け持ってるっぽい。

その他にも学校の先生や大人はいるのだが、この学園………なんか先生少ないような?


放課後の授業が終わり雑用もないので、グリムを連れてどこに行こうかと悩む。エーデュースたちは秋大会が近いので部活だ。学園生活に慣れてきたなと考えつつ、自分はこの疑問に答えてくれそうな方に会いに行った。

「ゲメールデさん、この学校の先生て少ないですよね?」
「そういえば、同じ教師の顔何度も見るんだゾ」
『今日の質問はそれかい?』

〝ゲメールデさん〟
この学校に飾られている、しゃべる絵画だ。命名はトレイン先生。

トレイン先生のおかげで久方ぶりに会話ができて、こうやって疑問に思ったことや、ナイカレの話を聞きにきたりと仲良くしている人外のヒトリだ。グリムとの別行動許可を得たとはいえ頻繁に離れるわけにいかないので、グリムも連れてきたらなんやかんやゴーストたちみたく仲良くなってた。

『初めて会った時に、この学園は複雑だと言っただろう?』
「そう言ってましたね」
「その疑問、私が答えてあげましょう!」
「ぎゃ!!」
「ぶなぁ!なんだ、あんたか。急にデカイ声で登場するのやめてほしーいんだぞ」
「おや、失礼」

マントを翻し、授業みたく飛び込んでくるクロウリー学園長のおでましだ。いつから聞いてたとか野暮な考えは放棄する。

『クロウリー。ヒトの話に乱入してくるのは感心しないね』
「学園の機密事項なので、学園長として間に入っただけですよ」
「こいつ、余計なことバラされたらヤバいから口止めしにきたんだゾ」
「グリムくん、失礼なこと言うのはよしなさい。それと、監督生さん。トレイン先生たちにナニを吹きこんでくれたんです。どエライ目に合いましたよ」
「どエライ目に合ったわりには、元気すぎではありませんか?」

学園長はグリムの言葉なんて微塵も気にしてなさそうだ。あと、先生方のあれこれも微塵も気にしてなさそうだ。せっかく出向いてきてくれたんだから、この前の話は聞いてるはずだから、その返答を聞いてみよう。

「先生たちからお話は聞いているみたいでよかったです。それで、今後のお考えを聞きたいんですが……」
「え?貴方、本気で考えているのですか?」
「冗談言うわけないでしょう!………その言い方だと、本当に自分の問題のこと探してくれてます?」

思わず自分の目がジト目になるのを感じる。胡散臭いとは思っていたが、先生たちと関わるようになってから、ちょっと不審感が芽生えちゃうお年頃になりました。

「ちゃんと、探してますよ!オンボロ寮については所有を貴方に移したので、ご自由になさっても構いません。あとの手配は先生方に一任しています」
「さらっととんでもないこと聞いたような」
「……ゴホン。それよりも聞きたいことあったのでしょう?」
「全力で誤魔化そうとしてるんだゾ」

これ以上聞いても答えてくれなさそうだから、ゲメールデさんに聞こうとしたことを学園長に聞き直すことにする。

「この学校、生徒の人数の割に教師の数が少ないような気がするんですが、先生たちが兼任で請け負う授業多いですよね?………寮も、寮長と副寮長が管理してるっぽいとも聞きましたし」
「あ〜えっーと、それはですねぇ…まぁ、監督生さんなら話してもいいですかね。以前、ここの生徒たちプライドが高くて問題児が多いと言ったでしょう?」
「はい、たしかそう聞きましたね」

(学園長も問題大有りの気がしてるけど…)

「ここは名門魔法士育成学校。教師たちももちろん有能で優秀です」
「それはわかります!しかも、すごく親身でいい先生たちですもんね!もしかして、少数精鋭?」
「………単純に言いますと、ここの教育現場は戦場なのです。息をするように次から次に問題を起こす生徒たち、たまにと言えど強烈に怒鳴り込んでくる親御さん、あまつさえ弱みを握り教師を脅してくる生徒もいるので、教師の離職率が高いのは秘密ですよ?つまり、教育者が足りません。それで問題はあるんですが、ここの生徒たちは闇の鏡に選ばれるくらい自主性と各分野で優秀すぎるんですよね。一部……いや、子供といえど寮を管理できる手腕の持ち主たちです。逆に大人の言うことに素直に従ってくれない部分もあるんですよ。教師の目を欺くのはお手の物ですし、実質寮長クラスの生徒は教師より立場が上の生徒もいます。王族もいますし、寄付金がすごい大金持ちもいますし」
「「めちゃ暴露してるーーーーー!?」」
「教育現場の闇と学校の機密事項、大暴露してくれてるんですか!?大人の事情なんて知りたくなかった!なんて世知辛い教育現場や!返して!私のファンタジー!」
「これで、この学園の教師事情おわかりいただけましたか?監督生さんには期待していますよ!貴方とグリムくんは、この学園を変える超起爆剤ですから!」
「おい!待てコラ!どういうことです!?ちょっとトップとしてどうなんですかソレ!」
「あんた、教育者としてどうなんだゾ!」
「それでは、私やる事があるので!」
「に、逃げやがった!」
「あいつ、一体何しに来たんだゾ……?」

たぶん、この前の話をしにきたんだろうが、どさくさに紛れて重要なことをいくつも押し付けられたような。16歳の子どもと魔獣に押し付けるの問題大有りじゃないでしょうか。猛獣使いなんて、学園長が勝手に言ってるだけだし。

『魔法士としては優れているのだがねぇ』
「ゲメールデさん、学園長て昔からアレなの?」
『昔からアレだよ』
「えええ…」
「あいつ、ロクでもない奴なんだゾ」

魔法が使えるからって、夢見すぎちゃダメだ。ほんの少し学園長に対して考え方を改めた。戻る方法について、あの人アテにしちゃいけないな。先生方や先輩たちの評価が身に染みた。


その日、監督生は少しづつしっかりしていこうと決意した………しっかりしようと本人は思っても、流されやすいお人好しの性格は変えられない。獣人たちの怠惰な反逆も、人魚たちの強欲な商売も、策謀家の主従問題にも、問答無用に彼女である彼は、しっかりと巻き込まれていくのだ。
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