捻れた世界は待ってくれない


ここ最近の騒動が落ち着いてから、私の滞在が長期化すると判断してそれに対応するために先生方が面談の場を設けてくれた。もちろん、ルチウスも参加してます。グリムは不参加だけど…難しい話し合いの場だと思って逃げた。捕まえきれなかったから、あとはゴーストさんたちにお願いしてきた。ある意味、グリム(寮長)のおかげで結束力が高くなるオンボロ寮。

「チィッ!あの毛玉!逃げやがって!」
《副寮長、ガラが悪いのぉ》
《あとはオレたちが探しといてやるから行ってきな》
《ヒヒヒ、面倒は見といてやるぜ。いってらっしゃい》
「ありがとう、ゴーストたち。行ってきます」

先生方も見た目が顔面力と性格も個性的なので、緊張して話せなかったら悪いから、メモに箇条書きにしたらなかなかの分厚さになった。学園生活は学ぶことが未知で楽しいけど、足を引っ張らないかなと不安など考えていることを話してみた。自分から言い出しにくいことだったから、主張の場を設けてもらったのは助かる!前に学園長に相談しようとしていたことも、せっかくだし話してみよう。先生方が話し合って判断して学園長に働きかけてもらった方がスムーズに通りやすいのかなと思ったり。付き合い長い方が話は聞きやすいと、仕事でグチってるお父さんが言っていた。

グリムとの別の自由行動や、自分が帰った後のグリムのナイカレでの4年間とか、オンボロ寮の掃除・改装許可のこととか前々から聞きたかったことも話に加えた。たぶん、他にも気になってたこともあるけど忘れてるような気もする。思いだした時に、また聞けばいいか。

「帰った後のことは、それはまだ考えすぎのような気がするが、私から学園長に話は通しておこう」
「突然この世界に迷いこんできたので、もしかしたら帰るのも突然になる可能性があると思ってるんです」
「ふむ、それは一理ある。我々でもこの原因を解明する難しいところだ。過去の事例を探してもなかなか該当…いや、不安にさせるようなことを言ってしまったな。すまない」
「い、いえ!先生方も探して下さってるんですね!ありがとうございます」
「オレたちのトップは、ちょっとアテにならないところがあるからな」
「こら、余計なことを言うな。監督生とはいえ、別々行動をとらなければならない場合もある。ある程度ならグリムとの別行動はとってもいいだろう。ただしあまり一匹だけにはするな、他にお目付け役がいるなら頼むこと。なにをしでかすかわからない」
「…肝に命じておきます」

相談すると、あっさり許可がでた。お目付け役必要だけど、校内ではエースとデュースに頼もう。謝礼のおごり代も用意しておかなくちゃ。どこを削ろう。


先生方がオンボロ寮のことについて話だした。

「それと確認しておくが、オンボロ寮の件は本当か?」
「?はい、そうです?」
「ツッコミたいところは多々あるが、掃除用の魔道具とか渡されなかったか?」
「そんなアイテムあるんですか!?ゴーストカメラという貴重なものは渡されてます」
「……………はぁぁぁ」
「く、クルーウェル先生?」
「お前に対してのため息じゃない。少し頭が痛くて、な」
「一度、学園長にはキチンとお話した方がいいですね」
「トレイン先生には弱い部分があるからな!学園長も少しは懲りてくれるといいな!ところで、ユウ」
「は、はい、バルガス先生」
「1人で掃除するのは大変だろうし、重いものとかあるだろう。オレが手伝いに行ってやろう!」
「えええ!?先生の手を煩わせる訳には」
「1人でなにもかも背負いこまなくてもいい」
「手が空いたら、俺も様子を見に行く」
「こういう時は、ちゃんと大人に頼りなさい」

トレイン先生の言葉に、お父さんが私が困った時によく言ってくれたのを思いだす。一人で抱え込まず、信頼できる大人をちゃんと見極めなさい。悪い大人もいるけれど、良い大人もそれ以上にいるんだよという言葉。16歳になるけど、子どもの私にはまだその辺りの判断が難しい。でも、休みの日まで時間を割いてくれる大人たちは信じたいし頼りたいと思うった。


「それで、この世界の常識がわからなくて、どの辺りから学べばいいでしょうか?」
「それをいうと範囲が広すぎるな。この学園内でやってけるくらいには教える必要があるか」
「まったく学園長にも困ったものだ。丸投げする前にもう少し配慮が欲しい。ああ、君に対して責めているわけではないよ。あの方は何十年も長を務めるだけの器や知識・魔法力はあるものの、子どもに対する扱いに配慮が欠けているのでな」
「学園長の問答無用の授業乱入には、どうにかならないかだな!全体的に向上するからいいかもしれんが…」

先生も生徒も、全体的に学園長に厳しいな。よって先生方が相談して組んでくれた教科カリキュラムは、魔法が使えない自分は消去的に、一般的な勉強、魔法の歴史やグレードセブンを主に学ぶ魔法史学、魔力がなくても知識があればできる魔法薬学、飛行術以外は普通の体育もやる体育育成の授業に力を入れることになった。それから様子を見ながら滞在期間の長さに応じて、試験の内容や普段の授業科目も増やすかどうかも考えるそうだ。要は私の頭のデキで決めていくシビア!

「その決まった授業以外で、他に君はどういうモノを学びたい?」

参考にとトレイン先生が聞いてくれた。

ナイカレは教師の人数の都合上。教科別自由選択で、それぞれ全学年が一緒に授業を受けれる仕組みもあるらしい。一纏めに学年の垣根を無くして教える戦法なのだとか。それで授業は上級生も下級生も入り混じるから、必然的に上級生がリーダーを務めることも多いそうだ。大人数で教師一人で見るのは厳しいもんな。こういう授業取り入れているから、上級生の先輩たちがしっかりしてるのかと一人納得した………陰キャ的に恐ろしい試練だな。外国風は授業方式がすごい。クラス合同とかも普通にあるらしいし。

「実はどの教科も興味があって、受けたいとは思ってるんです。特に古代呪文語とか、動物言語学とか」

古代呪文とか難しいそうだけどすごく興味がある。少なくとも子どもの頃に、オリジナルの呪文をノートに書いてたレベルの話ではないだろうけど。動物言語学は、動物の言葉がわかる某ドクターの映画やファンタジー児童文学を見て読んでいたから、憧れのまま言ってみただけである。理解できるかわからない。いつかゴリラと会話したい。

「そこに興味があるのか。意欲はあるのだがな……君に魔法がないのがもったいないくらいだ」
「もういっそ、他の子犬と同じように全ての教科を受けてみたらどうだ?」
「やってみなきゃわからんしな!」
「バルガス先生、声がデカい。まぁ、とにかくだ。チャレンジして見るのも悪くないだろう」


魔力がないという時点で、普通の授業の採点システムでは難しいらしく、学園長は何を考えているんだと怒る先生たちに申し訳なくなる。こんなに迷惑かけるならグリムと雑用係のままの方がよかったんじゃないかて思ってしまった。グリム特にサボるし。

「雑用係のままの方が迷惑かけなかったのかな」
「何を言ってるんだ。お前はまだ子どもなんだから、学習機会を奪われてはいかん!心配するな!オレの授業についてくればオレのような均整のとれたボディを手に入れられる!」
「筋肉になんでも絡ませるのはやめろ、バルガス先生。それと子犬、お前は頭の回転は悪くない。学習しようとする意欲はあることはこちらも伝わっている。気にせずなんでも聞いてこい」
「頼んだ雑用も問題なくこなしている。勤勉に授業に取り組んでいるのなら問題ない。問題毎が起こっている間もよくやっていたのだから、これからも頑張りなさい」

クルーウェル先生もトレイン先生も(ルチウスを撫でながら)続いて、心が暖かくなるような言葉をくれたのでこれからも頑張ろう。

「はい!ありがとうございます。これからも、頑張っていきます」

いつ帰るかわからない子どもに、この学園の先生たちは優しかった。
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