捻れた世界は待ってくれない


今日も一日色んなプチハプニングがあったなと思いながら、広げていた教科書やノートを片付ける。

「監督生」
「はい」
「所用があるので、残りなさい」

教室から出ようとしたら、終了ともに一緒に退出したモーゼズ・トレイン先生に呼び止められた。最近は雑用も引き受けているからそれかなと思う。エースとデュースにはこの事を話しているから、先にクラスの方に戻っててと言った。グリムも連れて帰ってもらった。ルチウスとグリム相性が悪いからね。

「トレイン先生、どうしたんですか?」
「君と話したいという人物がいるんだ。クルーウェル先生には遅れると伝えてあるから、安心しなさい」
「は、はい」


そこにいたのは、いつも話かけられずにいた『しゃべる絵画さん』だった。

「ゲメールデ、連れてきたよ」
「絵画さん!」
『お久しぶりだね。迷い子』
「お久しぶりです」
『学園生活楽しんでいるかい』
「はい、楽しいですよ」
『それはよかった。友達もできているようで安心したよ』
「騒がしくて、すみません…」
『あれくらい子供は元気な方がいい』

(迷い子て、私のことかな?異世界迷子だしな)

しゃべる絵画さんは、エースが掃除をサボった時に教えてくれた人外さんである。あの時は絵画が喋りだしてびっくりして感動した。あれから、一連の騒動でバタバタしていたから話す時間がなかったんだけど、ようやくしゃべる機会が訪れてよかった。トレイン先生が言ってた話したいこととは……私のこと心配してくれてたのかな。

「何を言っているんだ。ゲメールデ。マナーのなってないのは……」
『モーゼズ、君は少々頭が固すぎる。見習えとは言わないが[[rb:学園長 > クロウリー]]くらいの自由さでなきゃ疲れてしまうよ?』
「あの方が、最も頭痛の種だよ」
「トレイン先生と絵画さんて仲良かったんですね」

黙って見ていたであろうトレイン先生が苦い声で、絵画さんに否定しているが意に介してないようだった。同僚と話しているような雰囲気にちょっと驚く。ルチウスとペアだけどトレイン先生て取っ付きにくい感じがしてたから、こうやってダレかと親しく話す姿が新鮮だった。

『私とモーゼズは、彼がここに教職についた頃からの顔馴染みでね。魔法史学含む座学の文系授業を受けおっているから、ここで毎日顔を合わせるんだよ』
「余計な情報を言わないことだ」
『それくらい別にいいじゃないか。その子に説明しとかないと混乱するだろう?そうだ、ゴーストたちからも君の話は聞いているよ』
「ゲメールデ、どちらに話すか決めさない」
「ゴーストたちから!?何か変なこと言われてる!?」
『変なことじゃないさ。さて、時間を取らせてしまったようだね』
「そうだな。これ以上は長引くのもあれなので、お開きにしよう」
「え、はい。またお話しましょうね……えっと、ゲメールデさん?」
『ふふ、またね』

教室を後にすると、一緒にトレイン先生と並んで歩く。職員室へと戻るのだろう。ちらっと隣にいる先生の姿を見る。なんか絵画さんとしゃべってるトレイン先生に感動してしまった。言っちゃあなんだが、飛行術や魔法薬学とか思いっきり魔法を体現している授業と比べると、歴史系の文系授業て地味。特に昼一の魔法史学は眠りに誘うようでヤバい時がある。気合で起きてるけど。なので、トレイン先生の魔法学校の先生みたいな姿を見れてちょっと嬉しい。

「何か聞きたいことがあるのかね?」
「へ!?えっと、あるはあるんですが、まとまらなくて…」
「では、質問がまとまったら聞きにくるといい。ゴーストたちと仲良いとは知っていたが、ゲメールデから君の話が出てきたのは驚いたよ」
「以前、親切にしていただいたんです。トレイン先生、話す機会を与えてくださりありがとうございます」
「………そこまで、喜ぶとは思わなかった。ゲメールデや肖像画のロザリアやといい、君がそれなりにこの世界に馴染めているようで、教師として少し安心したよ」

ニャーと相槌打つようにルチウスが鳴く。

ロザリアちゃんとも仲良くなった情報伝達されてるなんて!思わぬ先生の言葉に、心の中がルンバしはじめた。最近は授業でわからないところとか聞くようになったものの、ルチウス同伴だけどトレイン先生のイメージ、某魔法学校の魔法薬学の教授と雰囲気が似てるような似てないような気がして、近づきにくかったし緊張してた。思い返せば、エレメンタリースクールの問題すらわからない自分に対して、馬鹿にせず懇切丁寧に質問に答えてくれていたし、グリムがルチウスと喧嘩しても怒鳴ることはしなかった。クルーウェル先生からこの前のことを聞いたのか、そこらへんもフォローしてくれるようになった。そして、今日は授業にまったく関係ないのに忙しい身で、絵画さんとしゃべる機会を与えてくれた。めちゃ優しいよ!

「これからは私を通さなくてもいいから、ゲメールデと好きに会話していい。新入生はあまりいないが、上級生は少数カレラと親しくする者もいるから、そう珍しくはない」
「はい!ということは、他の〝ヒト〟たちともおしゃべりしてもいいんですか?」
「勉学を疎かにしない限り、私から言うことはない」
「しょ、精進します!では、教室に戻ります」
「ああ、ではまた次の授業で」

教師からの許可もおりたことで、間が空いたら学校中のヒトたちに接触してみよう。楽しみが増えたな。カレラにこの学校の歴史とか、過去の珍事とか聞けちゃったりするかな。

「あ!あの、絵画さんのこと〝ゲメールデ〟て呼んでましたけど、名前があるんですか?」
「いや、名前はないよ。呼び方がないから、そう名付けただけだ。その名前の意味は〝絵画〟そのまんまだよ」
「先生………結婚してください」
「早く教室に戻りなさい」

名前がないから、名付けたという先生の姿に心臓を撃ち抜かれました。ロザリアちゃんにもこの前求婚したから、ちょっと落ち着かないと。ほんの僅かな時間だったけれど、トレイン先生のことがもっと好きになれたので、とてもいい出来事だった。
3/16ページ