捻れた世界は待ってくれない


「子犬、貴様こんな内容もわからないのか?」
「わからないです」

うん!魔法薬学の授業楽しいんだけど、思ったより難しい!………マジで、わかんねぇ。鞭を持ちつつ、担任兼魔法薬学の教師・デイヴィス・クルーウェル先生の鋭いお目々に睨まれながら、デュースとグリムと補習授業を受けています。現実逃避です。

クルーウェル先生は、自分たち1年A組の担任の教師だ。最初はどんな先生が、問題児(自分含む)いるクラスを担任したのか気になっていたが、個性的な生徒以上に強烈な先生だったので、すっかり心配していたことは消え失せてしまった。だって学園長もそうだけど、クルーウェル先生、生徒指導に鞭使うんだもん。場合によって痣が残るくらい厳しくしてる時もあるからガクブルです。我が故郷じゃ体罰指導とかでバッシングもんですよ。

魔法薬学は実験が主になるから、危険なので厳しくならざるおえないのだと思う。なのだが、クルーウェル先生の恐怖指導の噂を聞くと怖いものは怖いんですよ。それなのに、自分は補習の常連になりつつある。連日の補習授業にエースに鼻で笑われたが、奴はトレイン先生の授業で盛大に寝ていたので居眠り補習である、自分含むメンツにカシコイ奴はいません!初めて授業受けた時はなんとかなりそうとか思ってたが、なんとかならなかった。いつだって、世の中は甘くないんだと知っていたじゃないか!と、自分は落ち込む日々です。そして今、補習授業の内容がどこがわからなくて先生に怒られ中です。しょぼくれる自分の傍らでデュースとグリムが励ましてくれている。

「大丈夫だ、ユウ!僕もわからない!」
「オレ様もわからないんだゾ!」
「bat boy!誇らしげにするな!」

いい音を立てながら、デュースとグリムの頭をはたく先生はツッコミも冴えてる。どうしたものかと悩む先生に、申し訳ないなと体を更に縮こまる。自分の作った初級魔法薬のデキを見ながら難しい顔をしている。

「グリムはともかく、ユウとデュースの授業に対するやる気は悪くはない。しかしこれでは、採点がつけられない。特にユウ。お前は頭の回転は悪くはない。ヒントを与えてやればデキがよくなるんだが………そう、いつも手助けしてはやれない。お前用の採点システムは先生同士で協議しているが………今後、小テストや期末試験で困ったことになってしまうな」
「座学もできなければ実技もできない…グリムごめん、退学早まりそうかも…」
「!?諦めるのは早いんだゾ!?」
「ユ、ユウ!まだ、時間はあるぞ!」

クルーウェル先生の厳しいお言葉に心臓がグサリと貫かれる。フォローしてくれてる部分もあるが、まったくの事実だ。返す言葉もございません。ただでさえ自分は実技ができない。なんとか座学の方で挽回したいのに座学もできないなんて、先生もフォローもしようがないだろう。グリムが退学騒動起こす前に、劣等生な私が退学しそうだよ!そもそも入学してることが間違いな気がする!

「特にここの要素は、基本中の基本。エレメンタリースクールで習うものだぞ」
「え!?エレメンタリースクール!?」
「何をそう驚く?それとデュース、お前はミドルスクールで習う要素ばかり間違っている。ちゃんと先生の話は聞いていたのか?」
「えっ!?ミドルスクール!?」

クルーウェル先生の指摘に、デュースと私はまったく同じ反応で頭を抱える。デュースは中学の頃ヤンチャしてたから言うに言えないだろうけど、私はようやく気付いてしまったのだ。エースも前に言ってたよな。そりゃそうだよな。自分は天才肌じゃないし飛び級どころではない。幼稚園、保育所、小学校、中学校で習う魔法の勉強もしてないのに、いきなり高校の授業についていけるわけがなかった。なんで、こんな簡単なこと気づけなかったんだろう。ファンタジーに興奮してて、大事な下地の部分をスルーしてたからだな!ゲームでも漫画でも、世界観や専門用語理解してなかったら楽しめないところあるし。

「あの、その」
「なんだ?」
「この世界に来て一ヶ月も経ってないので、エレメンタリースクールの内容がわからないです」
「………そうか。そいうことか。そこらへんの配慮をまったくしていなかったな」
「通りで難しいと思いました。エレメンタリースクールからやり直したいです」
「やり直すもなにも学んでいないだろう。さすがに範囲の規模が広すぎる。他の先生に相談しなければ、ならないな。子犬ども、今日の補修は一旦終了だ」
「やったんだ、フガッ」
「コラ!グリム!今日はありがとうございました!!」
「デュース、お前もう一度そこのところを復習しておけ。次の授業でやり直す」
「はい!」
「ユウ、一つお前に確かめることがある。『学園長』から参考書、説明など、そこら辺のフォローは?」
「ないです!」
「把握した」

クルーウェル先生は授業に使う荷物を片付けると、補習授業は終了となった。どことなく、先生の表情に青筋が浮かんでいたような気がしたが、気づかないフリをした。先生の口から出てきた、学園長の存在に合掌した。

「ユウ、異世界人だったな」
「デュースくん忘れないで!?」
「馴染みすぎてて忘れてた」

補習からの帰り道。デュースに言われた一言………馴染みすぎてるよね。これで少なくとも授業を受けやすくなる気がした。わからないことは、スナオに伝えるものだなぁ。
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