捻れた世界で生きてゆけ
夢を見た気がする。
薄ぼんやりと目の前にいる見知らぬ少女は、ボクの手をとり一つ二つ言葉を紡いで消えっていった。
『どうかーーーあなたが生きやすくなりますように』
あの少女は誰だったのだろう。
目が覚めた時、トレイの顔が真っ先に見えた。
ここまで近くにいるのは数年ぶりかも知れない。
彼から聞かされたのは、自身がオーバーブロットしたという事実だった。まさか、自分がオーバーブロットするなんてと信じられなかった。
「俺も悪かった。お前が苦しんでいるの知ってたのにずっと…」
彼から吐露される思いに、涙腺がさらに刺激される。
なにもかもぶちまけた。ずっと思っていたことを吐き出す。止まりかたも辞めかたもわからなくて、お母様はそんなこと教えてくれなくて。
ボクは、間違ってると言って欲しかった。
あれから、数日が経つ。
1日休みをとって、学校生活を再開したが少しだけ居心地が悪い。それを悟られないように今まで以上に学問、体力育成などに打ち込んだ。
それなのに心はどこか晴れやかで、息苦しさを感じない。ルールとルールと縛られ続けたのに、本音を吐き出してしまってからは、緩くなったと思う。トレイには変わりすぎだと言われてしまうほどに。正直あんな醜態を晒してしまったので、もう寮生は誰もついてこないだろうと思っていた。彼らはそれでも、受け入れるところは受け入れてくれた。
…ちょっとトレイが過保護になったのは、驚いてるけど。もしかしたら、元々だったのかな…?
自身に精一杯になりすぎて、色んなモノを見落としてきた。これからは、今度は、変わっていけるだろうか。
なんでもない日は、ハプニングあったたものの成功に終わったと思う。薔薇の塗り残しはあったけれど、みんなで塗る薔薇塗りはこんなに楽しかったのか、また一つ発見した。
マジカルペンを軽く振れば、ポンポン綺麗に赤く染まっていく。その場にあの少年の姿が見えなかったので探すと少し遠くの方にいた。キラキラと幼い子供のように、ボクの魔法を眺める姿に恥ずかしくなってしまった。この魔法はたいした上級魔法でもない。それでも、喜んでくれるならとマジカルペンを持つ手に力が入った。酷いことたくさん言ってしまったからあやまらなければ。
チェーニャが乱入してきて騒がしくなってしまったが、トレイとのやりとりで彼もどこかで自身を助けてくれたのだ気づいた………今度のウィンターホリデーで、数年ぶりにトレイとチェーニャと遊びたいと思った。そして、お礼を言いたい。ずっと見守ってくれていたことに。
ウィンターホリデー、ボクは、ボクの家族と向き合わなければならないそうひっそりと決心した。
学園長からのサプライズは素敵な贈り物だった。自身のあやまちは消えないけれど、一口含んだマロンタルトの味は、とても美味しかった。
まわりを、笑いあってくれる存在がたくさんいる。一人だと思っていたはずなのに、実際はボクのことを心配してくれる人達ばかりで、反抗してくるヤツらばかりで、それもいいとさえ思う。
食い意地が張りすぎてるのかトレイのタルトに顔面ごと突っ込むグリム、それに怒るデュースとエース。なにやら振動しながら撮影するケイト。しょうがないなぁと笑うトレイ。
ああ、楽しいな。
大笑いしてたら、監督生がにこにこ笑ってしゃべる。
「笑ってるほうがいいですね」
「…そうかい?」
「笑ってるほうが怖くないですよ」
「怖かった?」
「首はねてる時は、怖かったですよ」
「…そうだね」
「今は怖くないですよ。実はあやまりたかったことがあるんです。自分たちの騒動にハーツラビュル寮生を巻き込んでしまったこと、本当に申し訳ありませんでした」
「それは、退学の騒動のことかい?でも、キミは悪くは…いや、その謝罪を受け取るよ。だから、こちらの謝罪も受け取ってもらえるかい?」
「へ!?はい」
「これまで酷いことを言ってしまったこと。危ないことに巻き込んでしまったこと。すまなかった。頰ぶたれても仕方ないことをしてしまった」
「ヒイイイ、殴るは無理です!平和主義なので!」
「リドル、謝罪の仕方が硬すぎる」
「リドルくんもカントクセイちゃんも真面目すぎるんだよ!ごっめーん♪でいいんだよ〜」
「それは軽すぎないっすか!?」
会話からの謝罪の流れに、外野から指摘される自分たちの性格に、お互いそういえば…とまた笑いあう。ボクもキミも真面目なのかもしれない。彼はこの世界の魔法すべてが初めて。魔法に関する常識も初めてなら、それに関して学んできたこの知識をキミに教えよう。
まだ新学期。
これからの学園生活…よろしくね、ユウ。
[chapter:女王様はコドクじゃない]