知り合った先輩は人魚らしい


授業終了後、昼休みに雑用で職員室に向かう廊下を歩いている時だった。ばったり先輩に出会った。連絡先を交換しようとありがたいお誘いを頂いたのだが、残念ながらスマホは持っていない。

「監督生さんはスマホを持ってらっしゃらないんですか?」
「持ってないです。身一つでこちらに来たので、もはやスマホどころか財布もなかった」
「一応保護者……である学園長に頼んで見ては?連絡手段がないと困るでしょう?」
「それがあまり連絡手段困ってないんです。あの人神出鬼没だし。いざとなったら、寮にいるゴーストたちが伝言係請け負ってくれるので、スマホ使う必要がないんです。だから娯楽の機械になってしまうので尚更頼みにくくて」
「ほぉ……ゴーストと仲がいいんですか?オンボロ寮のゴーストたちは、イタズラ好きで有名と聞いています。餌食になると言われているので、あまりこの学園で近づく人はいないんですよ」

(あいつら、有名ゴーストだったのか)

トレイ先輩にも似たような反応されたことがあるが、ゴーストと仲良くする人少な?イメージが某魔法学園のままでいってたから意外だ。帰ったらいっぱい遊んでやるか!話してやるか!

「自分たちも物騒な歓迎されましたが、寮で生活していくうちに仲良くなったんです。案外彼ら気の良い楽しい奴らですよ。今度、オンボロ寮に遊びに来ますか?おもてなしは期待できないですけど!」
「……ふふ、検討しておきます。それでスマホのことなんですが、マジカメなどご興味ありませんか?」
「マジカメかぁ。気にはなってます。そんなに有名なツールなんですか?」
「ええ、この学園のほとんどの生徒が嗜んでいますよ。中には、マジカメフォロワー500万人の有名な方も在学しています」
「500万人!?芸能人ですか!?すごいな。ナイトレイブンカレッジ」

名門魔法学校なだけに、芸能人までも通ってるらしい。ケイト先輩経由で少しは知ってたけど、それだけの人がやってるSNS。こっちと同じならできそうかな、進んでやりたいと思わないな…外の人に異世界人てバレたら見世物にされそうだし。というか、本来なら自分みたいな存在もっと隠しておくべきでは。式典で公開処刑されたから、そのまま学園の生徒にはバレてるけど。ケイト先輩のマジカメに何度か、自分も写真に写っちまった気がする。

「興味がありますか?監督生さんもマジカメしてみては、貴方のことを気になっている方が多いですよ。〝異世界から来た〟というのは、刺激的ですからね」
「エンタメにされてる気分」
「複雑そうな表情だ」
「悪目立ちしてる身でも、あんまり目立ちたくないんです。目立つと厄介な輩が寄ってくるし」
「気にしすぎでは?この学園ではごろごろいますよ。学園長に頼みにくいのなら差し上げましょうか?スマホの機種替えをして一台余っているんです」
「えええ!?い、いらないです!先輩とはまだ知りあって間もないし、この前ワカメの施し受けましたし、そんな高価なもの頂くわけにはいきません!」
「ワカメの施し……生真面目ですね。肩の力は抜いた方がいいですよ。あとは繋ぐだけになりますし、これでいくらか出費も抑えれます。娯楽がないと楽しくないでしょう?」

仏かあんたは!?至れり尽せり……!トレイ先輩といい親切な先輩が多すぎて惚れてまうやろーーー!!元の世界でこんなイケメンたちに、優しくしてもらったことないから耐性がなさすぎてヤバヤバのヤバ。優しくしてもらったのは画面の向こうだけだから、いまいち現実のイケメンの距離感にドキマギしてしまう。今!男だから!らぶが始まっちゃあいけねぇ。らぶすとーりー始まったら、別作品になってしまう。それに勘違いして、変に接近してキモがれたら傷ついちゃう!メタな思考で己を戒め、心の中の乙女に往復ビンタした。

「スマホ持ってもマジカメはしないですよ」
「珍しいですね、だいたいの方はやりたがるのに」
「いや、興味がないっていうわけじゃないんです。知り合いのマジカメ好きの先輩のアカウントとかフォローしたいし、見てみたいとは思ってはいます。自分から、情報を発信するというのが怖くて」
「……へぇ、怖いとはどういうことです?」
「自分みたいな奴が自撮りして載せたりするじゃないですか?わるい人に見つかってネットの掲示板とかに転載さえ晒され容姿弄りと叩きが繰り広げられるんです。そうして未来永劫、電子の世界でその写真は彷徨い消えるまで怯えなきゃならないんです」
「妄想……想像力が豊かすぎませんか?」
「うっかり個人情報なんか載せた日には、住所氏名年齢学校、近所のペットの名前ポチまで特定され、大炎上して火祭りに仕上げられるんです。破滅のカウントダウン」
「どんな極悪人なんですか」
「極悪人じゃなくても、善良な一般市民、罪なき子どもたちも運が悪かったら晒されたりしますよ?」
「落ち度のない小さな子どもまでもが?業の深い世界から来たのですね」

ちょいと被害妄想すぎるし偏見すぎるかもだけど、こう思うにはわけがある。こっちでいうミドルスクールの時のクラブ活動で団体表彰され、地元のニュースペーパーのオンラインページに、部員集合の写真を載せてもらったことがある。しかし、それは悲劇だった。

一人の友達から相談されて発覚。まだプライバシー保護機能とやらがなかったそうなので、その写真は心無い人達が転載。大人なのか子どもなのかわからない匿名の人達が、みんなの容姿比較で愉しく遊んでいる。それを見たとき衝撃で、あまりにも酷くて、もう一人の友達とみんなには知らせず墓場まで持ってこうと約束した。

誰かが通報したのかオンラインページの写真は消え、転載された写真も消えていた。残っているのは消されない嘲笑っていたコメントたち。それもあってか子供心ながら、個人情報の取り扱いには用心する様になった。不特定多数に見られるオンラインに、写真を載せることは絶対にしないと決めた。やられた痛みを知ってるから、他の人にはそんなことしたくない。人間不審にはならなかったものの、容姿コンプレックスにはなっちまったぜ。自滅でも落ち度がなくても、いつ誰が餌食になるかわからないものだと自分は思う。先輩の言った通り、業の深い世界ですよ。

「とにかく!先輩みたいに好意的にみてくれる人ばかりじゃないんです!裏垢なんぞ作った日には、弱みを握られどんな目に合わせられるか……恐ろしや………!先輩もマジカメ利用には、にんぎ……げんだから気をつけてくださいね。どんなド変態野郎に目をつけられるかわかったもんじゃないですから」
「現在進行形である種の変態に絡まれていますよ」
「なんと!!否定できませんね!!」
「力強い肯定。はぁ………鋭いのか鋭くないのか、危機管理能力あるのかないのか、意味不明な存在には変わりないことがわかりました。ありがとうございます」
「いやー!先輩ほどじゃないですよぉ!イデデデ!なんで、今、耳たぶ引っ張ったんですか!?」
「気分です」

昔の事を思いだして、鼻息が荒々しくなってしまった。変態扱いされたのは納得いかないが、先輩の人魚姿見たときに、ちゃんと理性があるかどうかわからないので否定できない。ディアソムニア寮のリリア先輩と初接触の時、興奮して意識飛んだし気をつけなければ。

「監督生さんの見方がまた一つ変わりました。スマホの件も急でしたね、またの機会にしましょうか」
「なんで自分にスマホ持たせたがるんです??」
「……なんで、でしょうね?」
「あ、すみません。なんでもないっす」
「詮索しにきてくれてもいいんですよ?」
「キュウゲキニキョウミガナクナリマシタ、ナンデモナイッス」
「そうですか」

ギザ歯先輩は急激に怖くなる時がある。特有の凶悪な笑みが出るときは、なんか藪蛇つついちゃいけない雰囲気が漂う。今回も名前聞くの先送りにしよう…あれ!?連絡先交換したら必然的にわかるじゃん!!私バカなの!?というか雑用の途中だった。昼ごはん食い損ねる。グリムたちもう済ませただろうな。時間を忘れちゃうくらい先輩との会話は楽しい。そんな考えが脳裏によぎり、いつもの悪い癖がでてしまった。

「それにマジカメしなくても、こうやって先輩が気にかけておしゃべりしてくれるので、とても楽しいですよ。ネットでのやりとりも楽しいですけど、生身の会話も楽しいですね」
「………………」

先輩がいつものポーズのまま無言になった。はい、やっちまいました。距離無し発言。この前はケイト先輩にやらかして気まずくなってしまったのです。距離無し発言問題再び!?その問題は解決したから、また新たに気まずくなるのは嫌だ!急いで取り繕う言葉並べる。

「き、気持ち悪かったですか!?自分、コミュニケーションの取り方下手くそで、人にどういう言葉で話しかけたらいいか、いつも間違ってしまって、その、あの、気分を害されたなら、ごめんなさい!」
「そこまで卑下しなくてもいいですよ、身内と……幼馴染み以外で僕にそういう風に言って下さる方が初めてなので、少し吃驚しただけです」
「あらゆるヒトからそういう反応されるんですが、この学園そこまで荒んでいるんですか!?」
「大袈裟ですよ。お気持ちは嬉しいですが……僕だけにだけそういう風に言ったんじゃないんですね」

気持ち悪がられはしなかったが、今度はおもしろくなさそうな雰囲気である。ギザ歯先輩レベルの人当たりとコミュ力なら言われ放題な気がするがそうじゃないみたいな。この学園の人材レベル意識高すぎじゃないの。

「はい!自分のことを気にかけてくれるいいヒトたちで、自分はなんだかんだ恵まれていると思ってるんです。特に先輩は親しいハーツラビュル寮生以外の他寮の先輩なので、余計にそう思っちゃいますね」
「……そう、なんですか?」
「ハーツラビュルいがいで、自分の身の上で早くに親身に接してくれた人て先輩くらいなんです。ちょっと、またトクベツというかなんというか…うわ、テレちゃいますね!これ以上話していると恥ずかしいこと口走りそうなので、そろそろ職員室に行きます。それではまたお話しましょうね」
「……はい、またお会いましょう」

何か言おうとしたら、恥ずかしいこと口走ってしまった。なんか告白したみたいじゃないかあああ!!特別って、特別てなんだよ!おまえ何言ってんだよ!

再び固まった先輩を見て、それこそ顔が赤くなり妙な雰囲気になってしまうので、すたこらさっさと立ち去った。返事は返してくれたので嫌がられていないだろう。先輩の態度や目的はわからないけど、らぶな感情で近づいてきてないので、そういうところが垣間見られると却って安心する。勘違いしなくて済むからね。いまだに植物園の事件が解決してないので、これ以上怯えさせないで欲しい。勝手に騒いでるだけだけど。
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