捻れた世界で生きてゆけ


開幕の宣誓をして『なんでもない日』のパーティーは始まった。ハーツラビュル寮の雰囲気も柔らかく、前のパーティーとは大違い。リドル寮長も形式が満足いくものらしくにこやか。ティーポットに眠りネズミは入ってないけれど、いなくてもいいかと言うくらい雰囲気も柔らかい。トレイ先輩が急に変えなくていいといい考え方教えていた。すっかりリドル先輩に甘々である。今度、眠りネズミ触るのお願いしようかな。

エースがグチを言っていたがデュースがまあまあとあやし、ケイト先輩はマジカメ映えできて嬉しそうだ。朝に準備に間に合わないとケイト先輩がヘルプにきたので、もちろん自分たちもお手伝いしましたとも。招待客だけど、タダ飯だし労働力で返します。グリムのつまみ食いを必死に阻止した。

グリムがお腹空いたと言ったところに、リドル先輩がまったをかける。なんと、白い薔薇の塗り残しを発見してしまった。あわあわと狼狽える自分含めたメンツたち。

「どうか、お目こぼしを!」
「…なんてね。1本や2本で罰したりしないさ。みんなで塗れば早いだろうしね」
「って塗るのは変わんねーのかよ!」

ニッコリ微笑むシャレにならない寮長の冗談に、エースが渾身のツッコミを入れる。ツッコミのキレがよくなってるなぁ。ほっこりとトレイ先輩はしていた。

「それじゃみんな、準備はいい?」

赤く薔薇を塗ろう。軽快な音楽が流れ始めたーーー魔法でリドル先輩がつけてくれた。キラキラと紙吹雪が落ちてきて綺麗だなぁと思う。

自分は一個だけ手塗りで塗っただけで、あとはハーツラビュルの五人組とグリムの魔法を眺めていた。こう改めて見ると素晴らしいイリュージョン、でもこれは本物。特にリドル先輩の魔法は薔薇塗りでも惜しみなく発揮された。実践魔法に強いらしい。よくこの人をあの少ない人数で止めれたものだ。

精錬された魔法力の技術に、久しぶりに見る。怖くないファンタジーは超絶楽しい。わいわい、がやがやとする男の子たちに、元の世界で、よく男子たちがバカやったりアホなことしてたなと思い出す。この光景は上品すぎるので思いだしたらダメなヤツだけど。

「キラキラな目をして、監督生は本当に魔法が好きだな。そんなにいいもんなのか?」

知らぬ間にトレイ先輩が近寄ってきていた。ホント、隠密スキルが高いなこの世界の人達。

「はい!自分にはないから余計にそうなんだと思います…自分が持ってないから羨ましくなるし憧れます」
「憧れるか…」
「自分も同じようになりたい。でも、なれない。努力して追いつけ身につけれるものならまだしも〝魔法〟が使えるなんて、努力しても無理です。こればっかりは仕方がないです。でも、憧れていたものが身近にある。自分にとって奇跡なんです。まあ、おっかない魔法もありますけど…ね」

この前のオバブロ戦で危ないことも身にしみたので、魔法は危険なものがあると気をつけようと思った。それに結局、異世界転移特典もらえなかったし。

「状況が状況だったのであまり言えませんけど、トレイ先輩の虹色のトランプも綺麗でした」
「…そうか。機会があればまた見せてやろうか?」
「え、いいんですか?」
「その代わり、2人でいる時は取り繕わなくていい。一人称〝私〟なんだろ?あ、あと乙女趣味というのか?そんなに隠さなくていいさ。ハーツラビュルはそういうモノが多いしな」
「………あはは」

ババババレてる!?何回か取りこぼしていたので、気づいている人は気づいてるのか。中身はギリギリ、バレてなさそう?体が男だしな。でも、トレイ先輩には隠せば隠すほどバレバレになりそう。中身は乙女です体で押し通せるか!?

「お、薔薇塗り終わったな。リドルのとこに行ってくるよ。また後で、ユウ」
「はい、またあとで…あ、名前」

頭を一撫でして去っていった。あの時のこと覚えていたみたいだった。


薔薇塗りも終わって、パーティーでわいわいしてたところに、本題のリドル先輩の詫びタルト実食会が始まった。トレイ先輩がすかさず褒めるリドル作苺タルトはおいしそうだった。で、本題のお味は。

「か、絡み合う苺とオイスターの斬新すぎるお味……」

悲報。トレイ先輩の冗談を真に受けて、リドル先輩は苺タルトにオイスター注入してしまったらしい!トレイ先輩の嘘はリドル先輩にも範囲内なのか。

不味すぎてみんな爆笑する。こういう馬鹿もいい!それがいい!でも、飲み物が早急に欲しいところです!

ゲテモノ喰いのグリムにケイト先輩が賛同していて、発覚するケイト先輩の苦手な食べ物が甘いもの。トレイ先輩がにこやかに暴露していた。知ってて甘いものを提供していたらしい先輩に、ケイト先輩は顔が引き攣っていた。魔法で味変えてるからギリセーフ?トレイ先輩の人格がどんどん更新されていく。さすがナイカレ生。

トレイ先輩がこちらを、ふと見て意味ありげに微笑みをくれた…ケイト先輩曰く〝思ってたけど言わない〟はどうやら自分にも適応されるらしい、ホントどこまでバレてるんだろ…コワーイ!

「ふんふふーん♪」

神出鬼没とはこの人のこと。満を満たしてチェーニャさんの登場である。自由気ままにトレイ先輩の作ったお菓子を食べていた。突然の部外者により騒然としてるのに、マイペースにお祝いを祝うチェーニャさん。ジト目でリドル先輩が注意しているが、自分とグリムを見てニタァて笑う。

「それはそっちの人たちも同じじゃにゃーの」
「結局オマエはどこの寮なんだゾ?」
「うちの学園の生徒じゃないんだ」

新事実発覚。ナイカレの長年のライバル校。ロイヤルソードアカデミーの生徒さんなんだそうだ。

「なんかすごく格好いい名前ですね!?」

他にも魔法学校があるんだと思った。この学園だけでも相当、人数多いような気がするけど。ロイヤルソードアカデミーの名前で、他のハーツラビュル寮生たちが騒つく。急に殺気だったのでグリムと顔を見合わせてびっくり顔。

「おっと。それじゃ俺も帰るとするかにゃ」
「チェーニャ…ありがとな」
「どういたしまして♪じゃあ、また。フッフフーン〜〜♫」

短いやりとりだがトレイ先輩がチェーニャさんにお礼を言う。あの時の手助け。先輩は気づいていたみたいだ。去り際、私の頭を一撫でして帰っていったので、トレイ先輩とリドル先輩に凝視された。嬉しいけど、一応自分、今は男。ちょっとフクザツゥ。それも、チェーニャさんを追う寮生たちで吹き飛ばされた。高確率で敵視しているナイカレ生たちに、不思議に思って聞いてみたらロイアカに100年も延々に負け続けているのだとか。あー、100年モノの怨念かぁ〜。


次から次へと問題が起こるようで、机の上にポンッと学園長からプレゼントが届いた。メモには、『魔法かけて保存していたので食べれます』と、書いてある。

「ん?なんだそれ?」
「開けてみよっか」
「学園長のことだから、変なもんじゃないよな?」
「いまいち信用されてねぇな」

箱の中身を開くとお菓子が出てくる。魔法で、ぱぁんとヒラヒラ花びらがほころんだ。なんという粋な演出。それをかき消す、お菓子の正体にフリーズした。

「え…!?これって…!?」
「マロンタルト!?」

どこかで見たマロンタルト。ただのマロンタルトなのに…メモの意味を合わせると、ある考えがよぎる。

「もしかして…」
「学園長、保管してたんだぁーー」

答え合わせしてくれたのはケイト先輩だった。やっぱり、破棄されたはずのマロンタルトだコレ。

「どういうことですか!?捨てられたんじゃ…」
「…そのマロンを破棄しに行った日。偶然、捨てるなら貰うって貰ってくれたんだよ」
「そういうそぶりまったくなかったんだゾ」
「ニクイことするね」
「魔法で保管してたということは食べれるんですか?」
「食べれるよ♪風味も鮮度も保てる魔法だからね。学園長がやったなら確実」
「魔法て本当便利」
「この前から学園長への好感度爆上がりなんだけど」
「計算でやってないか?」
「やりそうだな」
「いいことしても疑われる学園長」

「このマロンタルト…」

リドル先輩が、ずっと黙っていた口を開いた。あのマロンタルトは破棄されずここにある。つい最近あった騒動。でも、今日はすべてを吹き飛ばすための、なんでもないパーティーの日。

「食べれるとはいえ、日を置いてしまったものですが…最初の1ピースをどうぞ!」
「…本当に食べてもいいのかい?」
「あたりまえです!これは、そもそもあなたのために作ったんですから!」
「破棄しろと命令したのはボクだ」
「だっー!気にせず食べたらいいじゃねぇか!」
「訳『寮長、タルト食べてすみませんでした』だ、そうです」
「訳になってねぇ!?」

素直じゃない彼だが、真っ先に誰よりも早く助けに行ったのをみんな知っている。まわりの暖かい視線にむず痒くなっているエースにほっこりする。

「…!ふふっ。わかった、いただくとするよ」

リドル先輩もそのやりとりに、ようやく緊張がほぐれたのか。マロンタルトを食べてくれる。いただきます、とタルトを頬張るリドル先輩は幸せそうだった。未練や後悔があったという姿に、このマロンタルトを食べてもらうことができたのはよかった。

思惑はどうあれ、粋な計らいしてくれた大人に感謝だった。


私たちもマロンタルトを食べよう。

『なんでもない日』のパーティーはまだまだ続く。
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