捻れた世界で生きてゆけ


「俺の話は終わりだ。お前も話したいことがあるんじゃないか?さっき言いかけてただろう?」

また随分と話しこんでしまったような気がする。こちらも話すことがあったが、はたしてこの空気で思ったことを話していいものか?自分は…リドル先輩自身のことを知らなさすぎる。そんな奴がリドル先輩の親のことにつっこむ段階ではないと思ってしまった。では、なにを話せばいいのだろうか?せっかく話を聞いてもらえるのだ。この機会を無駄にしたくない。

少しでもいい。少しでも伝わればいい。

「自分はローズハート先輩は間違ってるて、思うんです」

リドル先輩の時と同じように、トレイ先輩の目を見て伝える。口下手な自分の気持ちが、少しでも伝わるように。

「そして、ローズハート先輩のご両親の教育はもっと間違ってると思っています」

トレイ先輩の表情は変わらない。その場所だけが、時が止まってしまったように勘違いする。深呼吸をした。

「…でも、ローズハート先輩と会って安心した部分もあるんです」

先輩は、意外な言葉を聞いたような表情をした。

「…最初、この学園でやっていけるか心配だったんです。でも入ってみたら。悪く言う人少なかったんです。先生も先輩も。言う人はいるし変な人に目をつけられますが、直接はっきりと自分の可笑しさを真っ向から言ってくれる人はいなかった。この異世界でどんな間違いをしてしまうのかわからなかった。ローズハート先輩がああ言ってくれたとき、ちょっと安心したんです」

「…言い方がキツくなかったか?」
「はい、キツかったですよ。まあ、最初の洗礼と思えば…」
「洗礼て…」

久しぶりに笑った顔を見た。マロンタルト作りのときの雰囲気が戻ってきた気分。

「実はですね。シャンデリア壊した時も、死罪言い渡されるんだと思いました」
「それは、かっ飛びすぎじゃないか?」

「歴史的遺産を破壊ですよ?この程度で済んでるの今も不思議なくらいです…魔法使えないのに、学園長の露骨な贔屓とも言われそうな待遇で、名門魔法学園に入学しちゃったの後ろめたいというかなんというか…ちゃんと言ってくれる人がいるんだなって。間違ってるて指摘しくれるんだなって、自分の存在を受け入れないけれど迫害はしなかった。それも、ローズハート先輩だと思うんです。もちろん、ダイヤモンド先輩もクローバー先輩の優しさも安心します」

こうやって不安を吐露するのは、クロウリー学園長いがいでトレイ先輩がはじめてかもしれない。

「だから自分たちは、リドル先輩を止めたいです」

自分たちが、正しいとは限らない。それでも彼の過去や寮長になった経緯聞いて強く思った。

ーーー私にも〝魔法〟があったなら、もっとちゃんと向き合えたのかな。

心の底から異世界転移特典もらえなかったのを、カミサマとやらを恨んだ。
せめて、努力すればするほど能力が上がるとかならよかったのに。


トレイ先輩と別れたあと図書館を探索する。部屋が多少環境改善されたので、本を借りることにした。

司書さんに授業で習う範囲の本がどこにあるのか聞いてそれを借りたり、珊瑚の海の本やこの世界の海洋生物の本を借りてみた。足が生えてる人魚だが、本物と遭遇したのでやっぱどういうものなのか気になる。今度あったら色々聞きたいな。教えてくれるかな。

(あ、そう言えば)

魔法士に関する資料コーナーで、面白いものを見つけたのを思いだす。

「あ、あった『魔法士対抗戦戦術書』」

見た目は広辞苑。中身がゲームの攻略本。
魔法士の決闘とは、関係なさそうだけどなぜか気になる本だ。なにか作戦のきっかけになったらいいな。





寮に帰ると、デュースとグリムがお風呂に入っているらしい。いつの間にか交代制になってる!なんのかんの、言いながらグリムも大人しく従ってるので仲良くなってるよね。

エースとは初っ端から二人でかち合ったので、気まずすぎる。大喧嘩したあとて、どういう風に接すればいいの?

「…夕飯はまだ?」
「…まだ、食ってねぇ」

夕飯はまだみたいなので、買い込んでいた食材を取り出しにキッチンへと向かう。

電気をつけたらビックリした。

「!?」

キッチンがピカピカ…とでもないけど綺麗になってた。それまでは、食材を保管するために少しは綺麗にしていたが、見違えていた。

「え?え?どういうこと?いつビフォーアフターされた」
「オレとデュースとグリムがやったんだよ」

私の疑問に答えるようにエースが隣にいた。気まずそうに頭をポリポリ掻きつつ、口を開いてまた驚いた。

「さっきは言いすぎた……かもしんねぇ」

急激にしおらしくなったので、脳処理が追いつかなくて挙動が不審になる。
こ、これは、エースなりの……?

「う、うん、こっちも怒鳴ってごめんね」
「い、言っとくけど、オレはああ言ったのは間違ってるて思わないから、デュースが言うから仕方がなく…」

なにか言い訳めいたことで取り繕っているが、頬が少し朱色をさしているのでこちらも顔や気が緩んできた。いつツンデレキャラに転身したんですか?…ん?てことは、キッチンの掃除はお詫びにと、してくれたのか…?なにそれ、かわいい。む、息子よーーー!

おかしなテンションになりそうなので、自分を戒める。この態度があともうちょっと他の人にも、と思う。

「なにニヤけてんだよ!?」

それでトドメをさされて笑っていたら、お風呂から上がってきたデュースとグリムに、仲直りできたのかと微笑ましい表情で言われて、エースもトドメをさされていた。勝手に言ってろと言いながら、入れ替わりでお風呂場に行ったエースを、二人と一匹で顔を見合わせて笑いあった。

仲直り、できて良かった。


そこで、めでたしめでたしではなく。

ゴーストたちから学園長の伝言が届いた。

《決闘の日取りと時間は》
《明日の15時半あたりと》
《なりましたぞ。頑張れ!若人たち!》

オンボロ寮に野郎ども悲鳴と雄叫びが轟いた。

いくらなんでも、早すぎですよ!学園長!

今夜も平和に過ぎてくれない。
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