捻れた世界で生きてゆけ


ポタポタ、黒い染みがどんどん溜まっていく。
ダレかの悲痛な叫び声が聞こえたような、気がした。


はっと目を覚ますとベットの中だった。はて?真夜中にトイレに行って、ゴーストたちとおしゃべりしたところまでは覚えている。それ以降の記憶がない。ナニカに接触した記憶はあるような…?いくら考えても思い出せないので、まっいっかと流した。

今日は作戦決行の日。授業があるからうまくいくかわからないけど、図書室で昼休み放課後空いた時間に張り込みだ。自分も色々と図書室に用があるし、もしかしたらギザ歯先輩にも遭遇するかもしれないので、お礼の品を鞄に忍ばせておこう。授業はまだ座学中心だ。今後どうなるのやら…。

それは放課後だった。
ついにトレイ先輩は姿を現した。

ようやっとである。今日一日中そわそわしてたのでようやく落ち着く。三トリオはあいかわらずだったので、自分もひっぱられないように必死に授業を受けた。死活問題だから自分の場合。クラスメイトたちの距離はマッハで遠のいていた。クラスの中にはハーツラビュル寮の一年生もいたから、バッチリ噂は広まったようだ。もうどうにでもなーれー。

「………」

トレイ先輩の様子がひっそりと、なにか物憂げな表情をしていた。

(今日もリドル先輩が違反者の首をはねていたと、ハーツラビュル寮の生徒が他の生徒たちとしゃべっていたな)

そいつらがチラチラと、おまえらのせいだと意味の含んだ視線をよこしてきたが、目線をかっちり合わせガン見して返しておいた。なにも言い返さないけれどやはり鬱陶しいので、視線でなんか文句あんのかゴラァと脅してみた。昨日もっと怖い人とお話ししたので少し自信がついている。現在進行形で反抗してるし、なによりこっちには伝説のパイセンがついてますから!自分もなかなかの小物っぷり!


「クローバー先輩」
「!お前たちか……」

先陣はデュースが務めた。トレイ先輩はこちらを認識し驚いた表情した。レシピ本を返しに来る読みは間違ってなかったようだ。

「オレたち、やっぱり寮長のやり方に納得いかねーんだけど」
「………だろうな」

思いつめたように空気が重い。トレイ先輩、リドル先輩のやり方は間違ってるて思ってるのだろうか。それをどう受け取ったのかハイパータメ口で話しかけるエース。元ヤンではあるがちょっとはデュースを見習わんかい。でも、トレイ先輩そこらへん気にしてないんだよなぁ。小さい頃の情報を話せば、誰から聞いたと答えた返される。そうだよな、いきなりそんなこと知ってたら驚くわな。デュースがチェーニャさんのことを言えば納得したように呟いた。『年上なんだからビシッと怒ってやればいいんだゾ』と言うグリムに自分は同意すると同時に、それで言うこと聞いてくれるなら苦労しないんだけどなと複雑な気持ちになった。


必要ならそうすると言うトレイ先輩に、エースは苛立ったように聞いた。

「俺にはあいつを叱ることなんか出来ない。リドルの全てはーーー厳しいルールのもとで〝造られた〟ものだからだ」

彼の表情は、リドル先輩と同じ苦しそうだった。複雑な予感がした。





【悲報】リドル先輩の親御さん毒親だった。

いや、人様の親を毒親呼ばわりとはアレなんだけどさ。そうとしか思えない。元の世界でも、そんな話はニュースや身近でもよく聞いたことがある。聞いた話は想像を絶していた。地元じゃ知らない人がいないほど有名な魔法医術士で、特に母親が優秀な人。それでリドル先輩にも優秀であることを求めて…ここまでならどこかで聞いた話。一番ヤベェのは、学習プログラムが分刻みで決まってるような生活をさせていたということだ。食べるもの着るもの消耗品から友達まで、全部決められていたらしい。アウトすぎる。魔獣のグリムでさえドン引き案件。児童相談所案件では?この世界そんなのあるのだろうか。問題起訴したところで解決できるとは限らないけれど…親が立派そうに見える分タチが悪すぎる。

「それでもリドルは両親の期待に応えるために黙って全部こなし、10歳にしてあのユニーク魔法を完成させた。成績もエレメンタリースクールからずっと学年首位を保持しつづけてる」

それがどんなに大変なことか想像もつかない…と言った、トレイ先輩は悲痛だった。そりゃ言えんわ。叱れないわ。親の無茶振りについていけるくらい才能ありすぎたのも…リドル先輩が健気すぎて、ちょっと全力で頭撫でて甘やかしたいんですけど。首はねられるだろうな!自分がいきなりそんなことやったら変態行為ですけどね!

「寮長がああなのは、親のせいなんですね」
「かつて自分がそうだったように、そしてルールを破るのは絶対的に悪だと思ってる。だって…」
「ルールによって造られた自分の全てを否定することになる……ってこと?」

厳しいルールで縛られて、恐れで支配してこそ成長できると信じている。そんな教育を施された一つ年上の先輩。そんなの洗脳じゃないかーーー逃げ場なんてないじゃないか。トレイ先輩は最後に絞りだすように、自分たちが横暴だと思うこともわかると言い、リドル先輩のやり方が正しくないこともと紡いだ。

「俺には……やっぱりあいつを叱ることなんて出来ない」

デュースがリドル先輩の過去にショックを受けている。しなだれるグリムを横目に自分は考えた。なんて難しくて複雑な問題なんだ。入りたての新入生が口をだしていい話じゃない。ここでの常識はまだわからないし、どこまでこちらの常識と似ているのか…今の話を聞いて思ったのが、ある種の虐待じゃないの?恐怖と洗脳で縛りつけてる時点で人格が歪みそうだ。もしそれが自分だったらとすごく嫌な気分。もうこれって、クロウリー校長に相談した方がいい案件では?たしかこの学園て四年制だからあと二年は猶予がある。リドル先輩と毒親の改善をするか、距離をどうにかしないと一生苦しむような気がするんですが…今はまだ保ててるかもだけどいつか本当に…いや、異世界迷子中の自分が人のこと心配してる場合かて感じだけど!余計なお節介なのかな…うーんモヤモヤする。勝手なのは承知でトレイ先輩にいっそ思ったこと相談しよう。

「あの、クローバー先輩、そのことについて相談が」
「今の話聞いて、よーくわかった」

トレイ先輩に話しかけたと同時に、ずっと黙っていたエースが口を開いた。アッ、イヤなヨカン!この流れミタコトアルゾー!

「リドル寮長があんななのは、アンタのせいだわ」

空気が冷えた。場が固まる。全員驚く。エースが、怒涛のエース節が炸裂させた。

「親を選べなかったのはしょうがない。でも、少なくとも間違ってるて昔から思ってたんでしょ。同じ間違いしてるって思ってるならちゃんと言えよ。可哀想な奴だからって同情して甘やかして、みんなに嫌われて孤立してくの見てるだけ?」

おまえ!本当!ブレねぇな!

ちょっとブーメランになってない。そこがエースのすごいとこだけど。ハリセンがあったらしばいていた。いや、もうこれしばいて止めるべきじゃ。言ってることは的を得てる部分もある。でも、何十年もそのことに悩んで苦しんでる人にかけるべき言葉じゃない。煽ってる。現にトレイ先輩、あまりの言いように悲痛な表情から恐い表情に変化してるよ。敵対してどうすんねん!?せっかく無礼な態度でも優しく話してくれたのに!配慮ががなさすぎる!胃が痛い!誰かー!胃薬頂戴!

デュースの制止も虚しく、エースはトドメを刺した。

「アンタも首をはねられるのが怖くて黙ってるって?ダッセえな!!何が幼なじみだ。そんなんダチでもなんでもねえわ!」

(ヤバイ!)

トレイ先輩がブチ切れる前に、私は声を出した。

『いい加減にしろ!言っていいことと悪いことがあるだろうが!』

腹の底から声が出た。ブチ切れとまではいかないけれど、初めて人に怒ったような気がする。自分でもビックリで、まわりもビックリで、それこそ本当に場が鎮まりかえる。いち早く回復したのは、エースだった。

「オレが悪いて言うのかよ!おまえもいい顔しいの八方美人だな!」
「いい顔しいの八方美人で結構。そもそも最初におまえもバカにしてきたし。そんなんで気にせんわ!今の完全にエースが悪いから!どこからどう見てもどこの悪役!?てくらい悪いから!」
「はぁ!?おまえは魔法がないから…魔法封じされてねぇからなんとも思わないんだろうな!」
「ああ、そうですよ!魔法に関してはどうしようもない!食べ物捨てることとみんなで思い込めて作ったものを台無しにされたのは腹が立つけど、トレイ先輩に対する態度はさすがに見ててやりすぎてるわ!」
「本当のことだろうが!」
「相手が誰彼構わず、言いたいこと言えるのはエースの美点でもあるけど!言いかたってもんがあるでしょうが!」
「話し方考えてたら言いたいこと言えねーじゃん!怒ってんのにナチュラルに褒めるな!反応に困るだろうが!」
「それやから、魔法封じされるん!」

売り言葉に買い言葉、怒られると反発するエースに、自分も諫めるどころかだんだんイライラ。訛りがでてしまっている。エースが自分の制服の首裾を掴んだのをきっかけに、自分も掴み返す。うん、握力ないから掴んでいるだけだった。怒ってる男の子にこういう事するのは小学校の時以来。声も大きしい怖い。怖いけれど、ここまでしたんなら引けない。今にも殴り合いになりそうな状況になってしまった。

「エースもユウも落ち着け!美点だと思ってるのかそれ!?」
「おい、おい、お前らが喧嘩してどうする!」
「人間てめんどくさいんだゾ」

その状況に仲裁を入れようとしたのか、デュースが自分、トレイ先輩がエースの体を羽交い締めにした。どっちも相手の身長より低いから、簡単に引き剥がされる。ここで思ったのが、トレイ先輩がやや暴れるエースを押さえつけていたことだ。ビクッともしないことに、エースがまじでという顔でトレイ先輩を見ていた。トレイ先輩何気に腕っぷしあるのかな。自分?デュースに敵うわけないので、大人しくしました。

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!?」

エースが苦しげに言うので、自分も頭が少し冷える。カッとなって言ったが、解決策はまるでないのだ。あの首輪を今取るすべがない…どうすれば。もう根本の原因に全部押し付ければいいんだよ!

「リドル先輩の親ぶっ飛ばしに行こう!」

出た言葉がそれだった。トレイ先輩に相談しよう事柄が一気に吹っ飛んでしまい、エライことになった。アレ?もっと違う言い方だったんだけど。

「えっ、どういうことだ!?」
「飛躍しすぎてないか!?」
「説明して!お願い!そこに至る理由を説明して!」
「まぁ、今の話で一番ムカつくのはアイツの両親なんだゾ!」
「納得すんな!」

【【コラ!君たち!図書室では静かにー!!!】】
「アンタが一番声でけぇんだゾ」

話がブレた時、絶妙なタイミングでクロウリー校長のおでましだ。見てたよね。きっと、最初から見てたよね?!





図書室は静かにするところですよ、というクロウリー学園長。すみませんと言ったが、どうしてここにいるのか気になったので尋ねた。なんと、自分の元の世界に戻る方法について調べてくれていたらしい。いつもの口癖つきだけどちょっと感動した。忘れられてなかった!よかった!

「別に小説の続きが気になって早く借りにきたわけではありませんから!」

前言撤回。そっちが目的だろ!?一言多いんですけど!胡乱げで見つめていたら、場を誤魔化すようにわざとらしくオッホンとしきり直していた。


「なるほど、そんなことが…謝るのも嫌だけど穏便に寮長を説得できる気もしない、と」
「ま、そんなとこ」

エースたちと事のあらましを相談すると、仮面で表情が隠れているが難しそうな雰囲気を漂わせる学園長。転寮するという選択肢もあるが、魂の資質によって闇の鏡が選んだものだから、変えるとなるとかなり面倒な手続きや儀式が必要になるらしい。式典以来だが、闇の鏡てそんなにすごいんだな。魂の資質見るくらいだし…公開処刑されましたけどね。そうだ、闇の鏡にもまた会いたいと学園長にお願いしてみよう。自分がここに迷いこんだきっかけを探すヒントになりそうだし。まあ、その前に色々向き合わないといけない現実が待ってますが。転寮と聞いて、リドル先輩に負けて逃げてるカンジがしてスッキリしないというエースに対して、学園長が爆弾発言をした。

「ローズハートくんに決闘申し込んで、君が寮長になっちゃえばいいんじゃないですか?」

全員絶叫した。声が大きいと叱るがあんたが変なこと言うからだ。いきなり決闘フラグが立つなんて強引すぎる。

「意外ですね。ローズハート寮長は決闘で決めたんですね?」
「…入学して一週間でしたからね」

それからは、怒涛の真実。リドル先輩が寮長の座を手に入れるために決闘済みで、この学園で寮長になるには、前寮長に指名されたり現寮長に決闘で勝利したりなど、他にもいくつか方法があるのだとか。自分はなんとなく、優秀なリドル先輩のことだから指名された方だと思っていた。リドル先輩もしかしたら脳筋疑惑浮上しちゃたんですが。

決闘とはシンプルな方法の一つで、魔法による私闘は禁止だけれど、正式な手順を踏み学園長立ち会いのもと行われる決闘ならOKなんだそうだ。決闘相手に事前のハンデをかすことは禁じられているから、謝ることなくリドル先輩に首輪を外してもらうことが可能らしい。マジかこの学園。拳でKIMEROなのか。不良が多いなとは思ってたけど、本格的に魔法学園じゃなくてヤンキー漫画じゃないか。

「寮長に挑む権利は入学した瞬間から全生徒に与えられていますよ、どうしますか?トラッポラくん。ローズハートくんに挑みますか?」

そんな問いかけに了承するのが三トリオ。反骨精神に元ヤンに魔獣が引くわけがない。ただし、グリムは別の寮生なので挑むことが出来ないと却下された。二人がかりはいいんだ!?じゃあ誰が外してくれるんだと悲鳴をあげるグリムに、エースが寮長になれば先輩に命令して外してやるよと言っていた。もう勝つ気でいる。でも、それくらいの気持ちがないと、決闘に勝てるわけないか。トレイ先輩が本気で挑む気かと驚いている。特にデュースまでそんなこと言い出すとは思ってなかったみたい。違うんです。ソイツ元ヤンなので血が滾ってるんです。決闘とかもろ男のロマンだよね。現にトレイ先輩の問いに『一度はテッペンとってみたいじゃないっすか。挑むなら断然チームのカシラっすよ』とワル語録で返していた。悪い顔で言うので、悪い顔したエースに指摘されている。デュースは驚いてたが、普通じゃないんやで。

学園長の許可もおり、本格的に決闘することになった。

「なにか作戦を立てないとね…」
「お前たち……監督生もその方向でいくんだな」
「はい、クローバー先輩。自分も反抗してますから」
「そうか…」

色んなものが混ざる苦笑した顔で先輩に見られたが、自分もあちら側なので決闘に参加しないがなにかサポートできることはしたいと思ってる。トレイ先輩が、こちらに近づき声のトーンを落としてしゃべりかけてきた。

「話したいことがあるんだ。できれば君にだけ」
「?えっーと、わかりました。あのエースたちには?」
「今は聞いてくれなさそうだからな」

たしかに今の反抗ハッスル中のエースは聞いてくれなさそうだ。自分も話したいことがあったので、それに了承した。


魔法で勝てるイメージが湧かないからと、マジで拳を持ち出そうとしたデュースたち。しかし、そんなに甘くはなかった。決闘は魔法以外の攻撃は使用禁止だと、学園長が後出しで言っていた。そこはやっぱり魔法学校なんだな。

手続きは明日には終わってると言いつつ、めちゃ楽しそうにその場から去っていく。エースが気合を入れるように色々と口にしていたが、前回もフラグを立てていたので具体的なアレソレは、また惨劇の結末をひきおこしそうで…不安!
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