知り合った先輩は人魚らしい


キザ歯先輩。

年下にも丁寧な物腰で敬語な、頭も良くて美形な容姿の人魚さん。会話から頭の良さが滲みでてるからそう思ってるけれど、ところどころ物騒な単語もチラつくから安定のナイカレ生。人魚姿はまだお目にかかっていないが、物事には順序があるからもっと仲良くなれたら、いつか見てみたいな。

放課後の中庭で再び出会って以来、自寮を含めて学園のあちこちで〝偶然〟出会うことが増えたので、ちょっとした世間話をするようになった。この前は、雑用を終えて寮への帰宅中に差し入れをくれた。

「うおああああわかあめあああ」
「人語でお願いします」
「せせセンパイ、これどうしたんですか!?」
「海藻が好きだという人間はなかなかいないので、お近づきに贈ろうと思いまして」
「でも、これ、新鮮ですよ!」
「鮮度がわかってらっしゃるんですか?」
「購買部でこんなものまで取り扱ってるんですか!?」
「これは僕が採取してきたので売ってませんよ」
「まさかの……ん?て、ことは、人魚が取ってきたわかめ!?」
「そこに付加価値つけると思いませんでした」
「か、家宝にします!歴史的価値がありますから!」
「その海藻の歴史1時間にも満たないです。腐りますから早めに召し上がって下さい」

こっちの世界に来てから、あまり見かけない食材なので興奮してしまった。ちょうど購買部で〝ミソ〟を入手できたくらいの時だったので、夕飯はワカメのミソ汁にしようと思った。歯応えあって美味しかった。なにより聞いたら、先輩直々に取ってきたらしいという事実。頭の中で、このイケメンが人魚姿でワカメを採取しているシーンを思い浮かべた。クールなイメージと合致しなくて、シュールすぎて混乱した。採取時間を聞いて、髪の方を見れば少し湿っているように見えた。なんとなく香りも懐かしい磯の匂いがした。

「ううう……もったいないけど、腐るなら食べます。こんな貴重なものお返しどうすればいいんですか!?こうなったら先輩のパシリになります!どうぞ雑用を申しつけ下さい!」
「実質タダの海藻一つで、ここまで反応されると思いませんでした。この学園で自らパシリになりたがる人間、初めて見ましたよ。お断りします。ちょっと面倒見なければならないのが複数いるので」
「それ以外に自分のお返しの仕方がないです」
「軽々しくそういう提案なさらない方がいいですよ?」
「うーん、ではどうすればいいですか?」
「今回はお近づきの印ということで、ね?労働は来たるべき時に契約書を持ってきます」
「了解です!パシリにも手続きが必要なんですね」
「変化球しか投げれないんですか?」
「自分はストレートしか投げられませんよ?」
「そういう話じゃないです」

ここまでしてもらったら我が故郷特有のお返し精神が疼いてしまい、勢いのあまりパシリになると提案したが即却下された。どうやらすでに先輩にパシリがいるようだ。自分は身一つで異世界転移してしまったので、お返しできるものは何も持っていない。お金はグリムの腹に消えかけてるし。シンプルに考えて労働でお返しするのが一番と考えたのに。別にパシリになれば、その内人魚姿が見れるかもとか考えてませんよ。

先輩ていい人魚だな。偶然とはいえ、食べ物に困ってる時に食材をくれたので、好感度が上がるしかなかった。あと人間から人魚にどう変化してるんだろう?もしかして魔法少女の変身シーンみたいな手順踏んでいるんだろうか。見てぇ。

またワカメに気を取られ、名前聞くのを忘れた。
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