捻れた世界で生きてゆけ


ハーツラビュル寮の庭で、これからどうしようかと話し合いをするも、エースがひたすらリドル先輩の恨み言を吐いていてどうにも話が進まない。デュースも、どんどん優等生から遠ざかっていることに落ち込んでいる。グリムは体が小さいので、首輪が苦しくて重いと呻いている。それで、しんどそうなのでそっと引き寄せると抱っこしてあげた。結構重いな。首輪の分重量もあるか。それを見てエースが呆れた目をしてくる。

「おまえ、ほんとに甘いよな〜その毛玉に」
「ううっ、オレ様かわいそうなんだゾ!」
「自業自得だからね?そんなこと言う子たちは、[[rb:オンボロ寮 >おうち]]に入れてあげませんよ」
「お母さんか!」
「………お母さん…?そうか、お母さんになればいいんだ!」
「えっ」

エースのツッコミに、監督生は閃いた!友達の感情で接すると嫌になってくるし、泣きそうになるし、責任を全部放棄したくなる。しかし、マザー精神は偉大。自分の母の振る舞いを思い出す。慈愛に満ちた姿を…もうね、このヤンチャボーイズたちがヤンチャすぎて手に負えないんですよ。マザーの精神で接しないとつきあっていけないんですよ。監督生、母になる。

「エースとデュースとグリムは自分で産んだ子、エースとデュースとグリムは自分で産んだ子…」
「ヒィ!なんかまたトチ狂った思考回路に!」
「エース、おまえのせいなんだゾ!」
「オレのせい!?」

なかなかのカオスな空間になってきたところに、ソレは突然現れた。

「その首輪の重ねづけ、イカしとるにゃぁ〜」

突然、その場に生首が降臨した。
唐突なホラー展開。

「ぎゃーーーーー!!」
「生首お化け〜〜!!」
「うわっ!?」
「うおっ!?」
「おっと、身体を出すの忘れとったわ」

混乱し叫ぶ自分たちをよそに、のんびりした口調で生首は残りの姿を現した。人間だった…んん??耳が、猫耳ーーー!?

「うっ…!」
「どうしたユウ!?」
「人外の気配を察知!」
「君の名前は?」
「スルーしないで!」

自分の反応に慣れきった奴らは、即座に真顔に戻り生首に話しかけた。もう相手にするだけ無駄だと思われているようだ。別にいいけど。

「俺はアルチェーミ・アルチェーミエヴィチ・ピンカー。猫のような人のような魔力を持った摩訶不思議なヤツ」
「アルチェ……なんだって?」
「みんなチェーニャって呼ぶかねぇ。少なくとも…そのへんのヤツらとはレベルが違うぜー」
「うん、わかる。こんな変な人。レベルが違っているに違いない!」
「でたぞ…貶してんのか褒めてんのかわからない反応」

気にした様子もなく、からから笑うチェーニャさんこれくらい普通だと言う。しゃべる絵画さんも、同じことを言ってたな。しゃべりに行きたいけどそれどころじゃないんだよな。ふいっとエースたちから視線を外し、こちらの方に目を向けてきたチェーニャさん。視線がバチッと合う。私はもう驚かない。この顔面力。しげしげと眺めつつ細長い瞳が、さらに細長くなって嗤った。笑う、じゃないのである、ニヤァと可笑しそうなもの見たような目で笑うのだ。背筋が寒くなる。この振り回すような雰囲気に、イライラしてきたのかエースが悪態をつき、どっか行けと言いはじめた。やはりそれを気にすることなく、聞き捨てならないことを話したのだ。まさに今、リドル先輩の情報を入手!はぐらかしたような喋りだけど、小さい頃からの知り合いっぽい。我々は即座に食いついた。手詰まりの状態だ、少しでも情報が欲しい。

「あの眼鏡に聞いてみにゃあ」

自分たちが知っている眼鏡の特徴を持っているのは、トレイ・クローバー先輩しかいない。ふわふわとしたしゃべりの中で、デュースがトレイ先輩とリドル先輩の関係の感想言うと、また食えないような返し方してきた。

「ほいじゃあ」
「あっ、おい!」
「フフフ〜ン♪」

しゃべるだけしゃべって、体からじょじょに消えていき、最後に生首に戻り消えていった。なんだか世にも奇妙な体験をした感じ。

「なんか変なヤツだったんだにゃあ……あっ!口調がうつった!」

独自の雰囲気にまかれたグリムが、口調うつっていた。


今日はもう休日なので、一旦オンボロ寮に戻ることにする。ずっとこのままじゃ授業がまともに受けられないので、トレイ先輩に話を聞きに行くことにした。デュースはちらっとエースの顔を確認したが、ダセーから絶対に謝らない!と頑固な意思で抗ってくるのでため息をはいていた。作戦決行は明確に決めておらず、図書室でクローバー先輩がマロンタルトのレシピ本を返しにくるのを、待ち伏せしてみようとなった。

うまくいくかな?





ここに居座っても仕方がないので、オンボロ寮へと帰宅する首輪付き御一行。

明日になったら、また噂になっているだろうな。

式典(入学式)ぶち壊し事件
グレードセブン黒焦げ事件
10億マドルシャンデリア破壊事件
ハーツラビュル寮タルト盗み食い事件
ハーツラビュル寮寮長への反逆事件(←今ココ)

す、すごすぎる。一週間も経たずにこれだけの悪行を積み重ねるなんてヤバすぎるぜ。その中に含まれてる自分不憫すぎない?まあ、どうせ誰も庇ってもくれないからいいけど。自らもつっこんだしいいけど。今日の昼ご飯・夜ご飯は食いっぱぐれるのはさすがにヤバいので、購買部へと買い出しに行くことにした。どうせ、作戦決行まで暇なんだし、みんなに居住区スペースの掃除を手伝ってもらおう。いつまでもあんなほこりっぽいところや、散らかっているところで居たくないだろうし。

「ちょっと今日は先輩たちとばったり顔合わせんの気まずいから、パーティーが続行しているうちに行こうぜ!」
「走るな!危ないぞ!」
「ぶなぁ!オレ様お腹空いたんだゾ!」

目の前を走っていく三トリオを、結構元気だなと眺めながら自分はゆっくり歩く。まだ体力強化してないので、温存するのに越したことがない。


「ーーーやぁ、ありす。まだここにいたんのかにゃあ」
「ホゲェ!!?」

リターンズ生首、目の前に登場。びっくりして腰抜かした。

「うんうん、いい反応にゃあ」
「…え?え?どっか行ったんじゃ?」

チェーニャさんが、また自分の目の前に姿を現したのだ。まさか再び生首が登場するとは、思っていなかったから混乱する。

「おみゃーにだけ、伝えとくことあるかぁの」
「自分、にだけですか?」
「そう。女王様にぃ、立ち向かうならぁの。住人たちをミカタにつけりゃいいにゃあ」
「んんん??」
「迷いこんできたぁ子はひっかきまわしたぁが、おみゃーはまーた違うみたいにゃあ」
「え!?自分の事情知ってるんですか!?」
「まぁ、俺はどっちのミカタでもないし、どっちのミカタでもあるぅ。じゃあの、ありす」
「えーーー!?全然話がかみ合ってない!」

言うだけ言って、さっさとすぅーと消えてった。そこには一人。自分だけが取り残された。なんだか、狐につつまれたみたいだった。

「〝ありす〟て誰?」





「…ふう、これで、今夜の寝床は昨日よりマシだな」
「うわー。日が暮れるまで掃除してたな。埃塗れだしメシ食う前にフロ入ろう。おいグリム。フロ行くぞ」
「ツナ缶食いたいんだゾ」
「グリム、行ってきなさい」
「えぇー」
「大人しくお風呂に入れば、プリンのデザートがつきます」
「即風呂場に行ったな、あいつ」
「…食い意地ありすぎだろ。フロ行ってくるわ」
「ありがとう。エースよろしくね」

餌で釣れば些細な言うことは聞くようになった。正直これはどうなんかなぁとも思うんだけど、ペットも子育てもしたことないし、何よりモンスター育てたことないし。イレギュラーすぎる。まだ餌で釣れば、言うこと聞くだけマシだと思った。図書室にモンスターを育てる本とかないかな?元の世界の知識がなかなか適応されない。困った。

あれからオンボロ寮に戻ってきて、昼メシ食べてから今の今まで掃除していた。グリムがサボろうしたが、エースとデュースの連携で監視してくれたので、ぶつぶつ言いながらも大人しく掃除を手伝ってくれた。エライエライと、耳の炎にあたらないように撫でたら照れてた。悪ガキみたいなことしなければ、マスコットキャラなの本当にかわいい。あとでブラッシングしてあげよう。意外だったのがエースの反応だった。リドル先輩関連は反抗的だが、自分たちに迷惑かけているとは思っているのか文句言わず手伝ってくれた。初対面の時は最悪だったけれど、友好的な関係を築けているようだ。なんか感動して、ついにエライねと頭を撫でたら照れてた。男同士なのに辞めろと言ったので、わしゃわしゃした。マザー精神の効果は偉大である。自分の精神も安定した。これがいつまで持続するがわからないが。

デュースは頼むまでもなく自発的に手伝ってくれた。なんか一連の流れを見ていたみたいでそわそわしていたから、なでなでして褒めてあげたら照れてた。おまえがやりたいならそれでも…ごにょごにょに言っていたが、本気で嫌がっているわけじゃないので大丈夫だと思う。デュースはお母さんっ子だから、なんか受け入れてくれたようだ。あれ?一応自分男だよな??ゴツくないからまだマシなのかな。

監督生はHADAKA関連いがいなら、平気でスキンシップができるように麻痺してきたのだった。


「はぁ…朝の件がなかったらなぁ…」
「エース、ほぼ寮で生活してねぇもんな」
「おまえのせいで、とっばちり受けたんたゾ!反省しろ!」
「決定打押したのおまえだからなぁ!」

ぎゃいぎゃいと騒ぐボーイズたち。全員お風呂に入って夕食タイム。円陣の形を取る。真ん中にはメシである。今夜は、早寝をすることに決めた。みんな、朝の件や掃除でだいぶ疲れているし、自分も寝不足で疲れているので体力を回復したいとなった。食事中、気の重いままアレなのでなにか楽しい話題を探してみる。うん。何もなかった。元の世界の時も、一人でボッチ飯だったから、男の子と何話していいのかわからない。女の子同士でもわからない。自分の趣味を話しはじめたら、ドン引きさせる自信はあるので自重しよう。

そんな人間だったのに驚きの適応能力。人て意外な才能が隠されているんだな…喜んでいいものなのか?

「あんなんが、寮長て本当終わってるわ」
「悪口はいけないぞ、て言いたいとことだが…この首輪見たらな…」
「ユウも、さすがにあいつのこと最悪だと思ったんだゾ?」
「え、ぜんぜん。だが、マロンタルトは許さねぇ。マロンタルトだってっ……マロンタルトだって生きてたんだっ!」
「生きてねぇよ」
「美味しく食べられる予定だったのに!」
「いや、それ俺の台詞…そうじゃなくてユウだって馬鹿にされただろう」
「うーん。あんぐらいで怒ってたら、君らと仲良くできませんよ」
「ヤッパリ、ユウサン。オコッテル?オコッテル?」
「今回はあんま怒ってないよ〜元々怒りの沸点低い方だし。またやらかしたらその時は自分でもどうなるかわからないけどな!なんせブチ切れたことないから!」
「肝に命じとくんだゾ!おまえら!」
「だから、なんで偉そうにしてんだよ!」

エースがまた愚痴を言いはじめたのでその話に乗っかる。グリムは反省しておらず、両頬をぐにーんと伸ばしてみた。ぐえぇ…と呻き声を上げる。それにしても寮長かぁ。このオンボロ寮も寮長とか副寮長の役割決めてみるのも面白そう。暇つぶしになるし。目立ちたがりのグリムは寮長になるとか言うんだろうか?自分はどっちかというと裏からサポートの方がいいな。副寮長でいいや。この寮、魔獣と異世界人とゴーストしかいない謎な寮だから。魔獣が寮長やっても問題なさそうよな。寮長会議とか絶対呼ばれなさそうだし。あの学園長だしな、なに言いだすかわからないけど。

「ねぇねぇ、グリム、寮長やってみない?」
「ぐにぃ……寮長?」
「いきなり何言い出してんの?!まさかアタマが!?」
「ついにアタマが!?」
「おまえら本当失礼だな」
「コイツがやったらダメなやつだろソレ」
「そもそもこの寮、そんな役割いるのか?」
「いらないと思うけど、決めてみてもおもしろそうだなと思って」
「適当すぎる。寮長決めんならユウの方がいいんじゃね?」
「寮の中で一番偉く、そして目立つ!目立ちたくない!」
「諦めろ。式典で全校生徒に問答無用でお披露目されたおまえは、もうとっくに手遅れだ」
「俺ら以上に有名人だからな。ユウの肩書…」
「ナニ言われてんの!?」
「オレ様、寮長になってやってもいいんだゾ!一番エライからな!」
「うわっ、こいつ良いところしか聞いてねぇ!」
「寮長て大変そうだよな…なんか」
「グリムがやりたいて言うんだからいいじゃないか。副寮長は自分がやるからさ」
「ん?いいのか?こんなノリで」
「いいじゃん、いいじゃん!モンスターが寮長て斬新じゃない?新しい風吹かそうぜ!」
「おー!」
「なんだこの流れ」

よし!うまくいった押しつけれたぞ!一般生徒でさえ濃いのに、寮長クラスになると個性が爆発してるに違いない。リドル先輩ももれなく爆発してたし。万が一、寮長会議に参加しろて言われたらグリムを生贄にしよう。学園長に押しつけよう。流されやすい自分じゃその面子の中でやっていけるとは思えない。ふっ、チョロいぜ!

「ユウ、悪どい顔してるなぁ」
「こいつ、顔に出過ぎじゃね?」




夢は見なかったが、真夜中に目が覚めた。

(トイレに行こう…)

寝ぼけ目でむくりと起き上がり、グリムを起こさないようにしてベットから抜け出す。エースたちもグースカ寝てるので、つまづかないようにした。自分の部屋に、綺麗にしたもう一つベットを持ち込み緊急客人用の寝泊りスペースを設けた。まだ他の部屋が手付かずというのもあるけど、いずれこのオンボロ寮を丸ごとビフォーアクターしたい。ちょっとした野望である。一つのベットて狭そうに寝るエースたちに、ふふって笑う。寝るまで一悶着あったのを思い出しながら、静かなオンボロ寮の廊下を歩いた。


「月が綺麗だな」

トイレを済ませて、綺麗な景色で心を潤す。この世界、夜の景色が幻想的でいつまでも微睡んでいられる。トイレは慣れない。まずブツが慣れない。まだまだ慣れない男の体に悩みながら、心を落ち着かせるために窓から景色を眺める。

《眠れないのかい?》
《眠れないだろう!男ばかりだしねぇ》
《大変じゃなぁ!》

密やかに真上から声がかけられ、後ろにビュッと後ずさる。何事だと、上を見るとどこにもおらず、まわりにふよふよとゴーストたちがヒッヒッヒッと笑っていた。少し違和感がある。月の光で、キラッと何かが光った。それぞれの帽子のつばに何やらアクセサリーがつけられていた。これはブローチ?ピン?

《昨日は贈り物ありがとう》
《わしらにお礼するなんて変わり者じゃなぁ》
《生きてる以来さ!贈り物されるなんて!》

口々に言っているのに、一つずつちゃんと聞こえる。急にシーンとした所に声をかけられたからビビった。今日は驚いてばかり。

「その贈り物を用意してくれたのは、サムさんだよ」

小声でプレゼントを選んでくれた人を言う。ゴーストたちがクスクスと笑う。

《知ってるよぅ、サム坊はセンスがいいからね》
《おしゃれするのは何10年ぶりかのぅ》
《贈り物を渡そうとしたのは、おまえさんだからね》

嬉しそうにしているので、こちらもなんだか嬉しくなってきた。喜んでもらえるのはこちらも嬉しい。でも、お金は元々学園長のモノだし、選んだのはサムさんだ。自分はただ運んで渡しただけなような気がする。

「そうだ。ベット下のお金、学園長に返品してくれたんだよね…こちらこそ、ありがとうね。なにからなにまで」

ゴーストたちからは最初に会った時より、柔らかな空気に包まれているのでなんだか贈り物したのはよかったみたい。ゴーストと話してみたかったし、掴みはOKのようだ。

《贈り物は嬉しかったさ》
《嬉しいのは、感謝の気持ちじゃよ》
《俺たちゴーストはタマシイの状態だから、そのココロが直に感じれて気持ちがいいのさ》

「そう言うもんなの?」

それなら、自分の黒い部分もバレてるような気がするのだが…

《そんなお前に、少しだけ俺たちから忠告だ》
《おぬしはそのココロの持ち主じゃ》
《我らのような存在や、人ならざるモノは強く惹き付けるだろぅ》

「へぇ?そうなの?」

《人事のように言うではない》
《この学園はヒネくれてるヤツが多いからね》
《あまりに好意的に接するのもほどほどにしな》

「う、うん…ゴーストたちにもそこまで言われるなんて…よっぽどなのね」

朝のチェーニャさんに続いて、ゴーストたちにも忠告されてる。学園長も散々いいこと言ってなかったし、色々ヤバイ人達がいるとは知ってるけれど、ここは危ない部分もあるらしい。見た感じいい人の方が多いような気がする。

《まぁ、まだ大丈夫》
《仲良くなっても距離の保ちかたを見極めれば大丈夫さ》
《この寮に居続けるならわしらが少しづつ教えていこうぞ》

「仲良くしてくれるなら嬉しいな」

《うーん、わかってないな》
《では、では、夜も更けている。もうそろそろあの方が訪れるころ…おやすみ》
《お嬢さん、いや副寮長と呼ぶべきかの?》

あ、バレてる。会話もバッチリ聞かれてんな。


カタンッと小さな音が鳴る。

(誰か起きたのかな?)

音の鳴った方へ無意識に顔を向けようとしたときーーー大きな手が、強めの力で肩を掴まれる。ギョッとしてどこかを見上げると暗闇の中で、金色のような青みがかった緑色の瞳だけが浮いていた。意識はそこで途切れた。
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