捻れた世界で生きてゆけ


このままでいいと思ってない。
だけど、どうすることもできない。


「ごめんねー、オレたち寮長には逆らえないからさ☆それじゃあエースちゃんたち、まったね〜」
「謝れば寮に戻れるように寮長はなだめておくから」

絶対に謝らないと叫ぶ、首輪付きの自寮の後輩たちと魔獣ーーーそれから、巻き込まれた監督生の子。監督生はこちらの目をジッと見て会釈してから彼らの後を追った。

(あーあ、キラわれちゃったかな?)

ーーー仲直りは、失敗してしまった。

「意外だったな。カントクセイちゃんは、リドルくんに謝ると思ったよ」
「…監督生は全然悪くないだろう」
「そうだね。なにも悪くないよ…エースちゃんたちもマロンタルトについては何も悪くないよ。きっかけは盗み喰いでもさ…ただ暴言が過ぎたよ」

「寮長は…俺の言い分は聞きいれてくれなかったからな。言っちゃいけないことも教えるべきだったな」
「戻ろっか…」
「その前に、俺はマロンタルトを処分するよ」
「オレが処分するよ」
「ケイト…いや、副寮長として」
「オレは、昨日のマロンタルト作りほぼ手伝ってないし、何の思いれもないからさ。捨ててくる」
「ケイト!」
「トレイくんはリドルくんをなだめておいて〜!」


(捨てるて、言ってるくせにそんな苦しそうな表情しないでよ)

オレは無理矢理、トレイくんの手からマロンタルトを奪い去ると、気持ちを落ち着かせるため歩きだした。

ーーーイヤな予感はしていた。

昨日の夜、寮に戻れば後輩から、ハートの女王の法律第256条に違反した寮生10人を纏めて首をはねたと聞いて、リドルの機嫌が最悪な状態だと知ったからだ。ここ最近、彼の機嫌はすこぶる悪い。今年は何から何までもおかしかった。オンボロ寮の彼らには悪いが、記念すべき式典はあの騒動でぶち壊された。気を取り直して寮の歓迎会を済ませて持ち直しそうだったのに、翌日。よりにもよって新入生のエースがグレートセブンの石像、しかもハートの女王の石像を黒焦げにしてしまった。そのあと追い討ちに、歴史的遺産もののシャンデリアを破壊と退学騒動を起こした。結局、本人たちが閉山した鉱山から原材料の石を持ち帰り退学を取り消したと言う伝説を残したが、間が悪かった。悪かったのだ。

その騒動の一端を担ったのが、よりにもよって、ハーツラビュル寮の新入生二人だったから、その数日で1年必死に寮長として留年者・退学者を出さずに厳しい法律を守り寮生を正しくさせていたリドルの努力が壊されてしまったーーー付け入る隙ができてしまった。他寮ではハーツラビュルを気に食わない輩が不祥事を嗤い、自寮ではこの1年、厳しい独自のルールで縛りつけていた反動が返ってきてしまっていた。

『新入生がやらかしたんだ。オレたちが小さなルールを破ったってアレよりはマシだろう?』

元々反発精神のある奴らが行動を公に起こしはじめた。それまでなんだかんだリドルのユニーク魔法に怯えていた奴らが、些細なルールを破るようになってしまった。集団心理とは怖いもので結果このザマである。やるならバレずにしろ。そして、その影響はリドル自身にも及びはじめていた。たしかにリドルは厳しい。責任感の強い彼が、なんとか綻びはじめた規律をただそうとするのは仕方がない。ただ、正すやり方がどんどん捻れまくっていた。女王の法律を律儀に守りすぎている。それに法律全810条をすべて覚えてる彼の、違反認定力がさらにその酷さを加速させていた。寮長と寮生のルールの認識差がありすぎる。副寮長のトレイですら第350条までフォローのしようがない。

(そのやり方じゃ、誰もついてこれない)

現に入ったばかりの後輩はこのルールを理解も許容もできていない、転寮したいと泣いていた。慰めて落ち着かせても次に問題が起きればもう耐えらないだろう。そして、先ほどのエースたちのあの反抗も必ず影響する。積もりに積もった不満が爆発してしまうのは時間の問題だーーーそれでも、リドル・ローズハートを見限ることなんてできなかった。ハーツラビュル寮三年生は、彼が寮長になる経緯を知っている。一年前のあの日のことを。だからこそ責任がある。

オレじゃ止められないんだ。
オレじゃ逆らえないんだ。
そんな選択すれば誰があの子の味方であれるんだ?

『ボクだって、やりたくて首をはねてるわけじゃない』

絞りだすような声音。

一人で弱音も吐かなかった頑張る『寮長』を、せめて支えるトランプ兵であってもいいでしょ?

それが、オレの選択だった。


『なぜ?貴方一人がそこまで責任を負わなきゃいけないんですか?』

そう彼に言ったのは異世界から迷いこんで来た少年。
その瞳は真っ直ぐに、女王の瞳を見ていた。

[chapter:トランプ兵のねがい]


手に持つマロンタルトを見る。

(食べれないんだ、オレ)

食い意地やら下心やら含まれていても、カレらが必死で作った思いを込めたモノを捨てようとしている。それを、気にしないフリしてやりすごすはオレの役目だ。

(ヤダなぁ)

嫌だけれど誰がやらなくてはいけない。それにこれをトレイくんにはさせたくなかった。

「そのマロンタルト、どうするおつもりで?」

ーーーダレか、ダレでもいいからあの子を、[[rb:止めて >助けて]]くれ
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