捻れた世界で生きてゆけ


また夢を見た。
女王らしき人が女の子を怒ってる。
カード兵がミスを押しつけあう。
同じカード兵たちが連れてかれる彼らを笑っていた。
薔薇の色くらいでどうしてそうなるの?

ーーーねぇ……なんで誰も女王を止めないの?


どこかで、またポタポタと雫が落ちた。

「ユウ、起きろ。遅刻したら首をはねられる!」

朝起きたら、わりと距離の違いデュースの顔面を確認した。叫ばないのは色んな顔面耐久試練をクリアしてきたからか。この顔の良さにも慣れつつある。それに二連続変な夢で寝不足になりそうだよ。そんなやりとりをしていたら、ケイト先輩がオンボロ寮へやってきた。

「おっはよー!昨日のお泊まり会は楽しかった?」
「ふぁ…おはよーございまーす。しましたよ、トランプ」

朝から元気なケイト先輩に眠たそうなエースはトランプをしたと返す。昨日の一騒動は我々の秘密です。ケイト先輩なんかにゃバレた日は根堀り葉堀り聞かれてしまう。あの騒動は置いといて、ババ抜きはとても楽しかった。さらに言うと気兼ねなく男同士で遊ぶお泊まり会も楽しかった。図太いけれどごまかせない性別の差。もしかしたら、男同士でバカをするのを憧れていたのかも。子供の頃は性別なんて気にしてなかったのに、成長するにつれいつの間に男の子遊ばなくなった。男の子と遊んでいるとごちゃごちゃ言われると、妙にもやもやしていた元の世界。これは願望なのかそれが影響してしまったのか…男の子に性転換したのは、少しだけそのしがらみたいなものを捨て去りたかったのかな。

「…さてと、昨日作ったタルトを持ってリドルくんに謝りにいこっか」

明るく言うケイト先輩。その後にボソッと人手不足だと呟き、一瞬難しそうな顔をした。エースが不思議そうに尋ね返していた。


ハーツラビュル寮あいかわずメルヘンチックな建物。かわいいな。童話の世界に迷い込んだような気持ち…あれ?昔どこかで、不思議な世界に迷いこんだ話を読んだことあるような?そういう題材とした作品ていっぱいあるしな。

「んじゃ、タルトを渡して謝って…」
「待ってたよー!オレくん!」

エースがそう言いかけたと同時に、ケイト先輩が分裂した。

《!?》

正しく言うとくりそつな顔の人が二人、自分たちを率いてきたケイト先輩に話かけたのだ。ちょっと軽くパニックになった。ちなみに自分は興奮を抑えるため心臓停止、一歩手前だった。

『スプリット・カード』
ケイト先輩のユニーク魔法。自分の分身を作れるんだそうだ。増やすのはめちゃしんどいらしくあまり長持ちしないんだとか。だから、昨日デュース達が倒しても倒しても倒れなかったのね。まさか…平面属性だけでなく忍者属性まで!なんだこの陽キャ!?分身の術まで極めてやがる!

そこから続々と、自分たちに話しかけるケイト軍団。その中のハーツラビュル寮の体操着を着たケイト先輩が本物らしい。お前かよ!もはや、恒例となりつつある白薔薇を赤薔薇に塗る作業。あたりまえのように、ケイト先輩に言いくめられ作業を開始した。


ケイト軍団に囲まれるエースたちを見て思う。魔法は素敵だけど、陽キャ軍団の戦闘力が凄まじいな。うん。だって、ケイト先輩が本物含めて四人もいるんだ。ものすごいインパクトである。自分はまだ、エースたち陽キャに揉まれてなんとか慣れつつあるし、ケイト先輩への苦手要素も薄まったがなかなか圧巻だと思う。あれ、真正の陰キャがあんな魔境に放り込まれたらシンデシマいそうだ。せめて一対一でお願いしたい。自分は気配を消しソッとペンキの入ったバケツを手にとると白薔薇をを赤く塗りはじめた。

「カントクセイちゃんも、昨日より手際が良くないってるね〜!」
「うん、うん。偉い、偉い♪」
「あ、エースちゃん、グリムちゃんいい感じー!」
「デュースちゃんもいい感じだよっ♬」

(ヒイイイ、か、囲まんといてーーー!)

みんなから離れていたはずが、パリピパワーに押されていつの間に手動色塗りチームに入らされていた。みんな昨日より色塗りが良くなっている。…………いまさらなんですが他寮である自分とグリムは混じっていいんだろうか!?ちょっと聞いてみよう。もしかしたら『なんでもない日』のパーティーの法律に自分たちがNGだったら仲直り大作戦が台無しだ!

「お疲れ様♪よくできました。ありがとねー!」

無事色塗りを終えると、ケイト先輩は分身をしまい直し、そろそろ時間だと自分たちに言った。『よし今度こそ』とエースが気合を入れ直し。グリムがご馳走あるかなとはしゃぎ、デュースが自分の塗った薔薇を満足げに見つめていた。

「ダイヤモンド先輩」
「ん?カントクセイちゃん、どうしたの♪」
「すっごい、いまさらで直前なんですが…自分とグリムって他寮なんですけど、あの、女王の法律に違反してないですかね?」
「えっ!」
「あ、もしかし、」
「いやいやいや!大丈夫だよ、『なんでもない日』に他寮の生徒は参加できないなんていう法律はないから…」
「…よかった。ありがとうございます」

ケイト先輩が驚いた顔して、すぐさま否定してくれたので安心した。これで安心して謝りに行ける。さて、片付けるかと思い動こうとした。おもむろにケイト先輩が口を開く。

「カントクセイちゃんは、理不尽だと思わないの?」
「え?」

つい口からでたような言葉だった。理不尽だとは女王の法律のことか?それともエースに巻き込まれたこととか?

「…あ、ごめんね。今の忘れて」

苦笑して、頭をぽりぽりかくケイト先輩。話を打ち切りそうになった。その時、なぜか先輩が苦しんでるような気がして…余計なお世話だと思うのに答え返してしまった。

「なにもかも理不尽だと思いますよ」
「!」
「でも、なんとかその中で頑張るしかない。そりゃ、もちろん。流されやすい自分にも譲れないものがありますよ…だけど、この世界にはこれがあるのかはわからないんですが…自分の故郷にはこんな教えがあるんです…『郷に入っては郷に従え』」
「『郷に入っては郷に従え』か」
「別の土地や環境に入れば、そこでの習慣や風習に習いなさいという教えなんです」
「へぇ…!」
「自分の世界にもそれぞれの価値観や違いがたくさんありました。異世界ならもっとですよね?昨日、図書館で少しだけこの世界の国とか調べてみたら、全然違ってて驚きました。生まれも育つ環境もまったく違う。だけど、おたがいの価値観を尊重しあえたならーーーステキだなと思います」

なんとか言いたいこと伝わっただろうか。つまり極力法律には従うぜという意志と、それでも納得できないことには従わないという意志を伝えた。

「否定ばかりじゃなくて譲歩しながら、折り合いをつけて仲良くやっていけたらいいな、て思います。なので、エースとローズハート先輩もちゃんとケリつけて仲直りできるといいですね」

ちょっと喋りすぎたかも。恥ずかしい。照れ臭くなりながらも、キレイにしまったと思う。

「…そうだね。カントクセイちゃん…なんかありがとね」
「なにもしてませんよ」

その会話の後の空気は、どこか温かった。





司会のハーツラビュル寮生が、口上を言う。めちゃオシャレにキメたリドル寮長が登場だ。うわあああ、見てる分には絵になるよなぁ。性格が強烈すぎて喋ると消しとぶけども!あとティーポットにちょっとはみ出している眠りネズミ可愛すぎる。でも、衛生面大丈夫なん?人に飼育されたネズミなのかな?誰が世話してるんだろ!とにかく可愛い。小動物とか不意打ちかよ!

リドル寮長が女王チェックをする尻目に、グリムたちが騒いでいた。自分と同じくハーツラビュルの寮服をカッコいいと言っていた、グリムそこの感覚は一緒なんだ。

「パーティーの日は正装って、法律でも決まってるからね。今日はお兄さんがコーディネートしてあげよう!」

語尾に星がつきそうな勢いでパッとケイト先輩が、エース、デュース、グリムをお着替えしてしまった!こんな魔法もあるんだ!彼ら顔が派手なのでばっちしキマっていた。大喜びの三トリオを眺めながらお礼を言いに行く。

「先輩、ありがとうございます。グリムまで!」
「いいよ、いいよ!気にしないでー、カントクセイちゃんも着替えちゃう?」
「自分はいいです。かわいくてステキなんですけど…ちょっと自分の顔面力じゃ着る勇気が…」
「顔面力とは…?」


乾杯のグラスが鳴ると、雰囲気は楽しいパーティー気分。いい感じだ。

「エースちゃんい、今がチャンスじゃない?」
「よし………あの〜、寮長」

リドル寮長はピリッとしているが、ほんの少しだけ柔らかな雰囲気を感じる。パーティーの進行がしっかり進んでいるからかな?

(自分は、必要なさそうだな。変にでしゃばらないでいておこう)

ーーーでも、世界はそう上手く、綺麗に終わることを許してくれない。
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