捻れた世界で生きてゆけ


この素敵な魔法は、トレイ先輩のユニーク魔法だった。

『[[rb:薔薇を塗ろう > ドゥードゥル・スート]]』
正確には【要素を上書きする魔法】だそうだ。味だけじゃなく色や匂いなんかも上書きできるらしいが、効力は短時間しか持たないから[[rb:ドゥードゥル >落書き]]みたいなものと、本人が言ってた。短時間でも物理的に感覚を上書きできるてすごい。この世界に来てからこんなんばかり思ってるな。

トレイ先輩のおかげで弱まっていたらしい精神ゲージは回復し、また新たにこの世界で頑張ろうと力がみなぎってきた。そのためには、明日の『なんでもない日』パーティーでエースにケジメをつけさせすっきりさせたあと、図書館通いを日課にしよう。あそこには絶対ヒントが隠されてると思うし、なにより面白そうな本がいっぱい。自分て本当に調子がいいな。問題はグリムが大人しくしてくれるかだ。どこまで別々に自由行動をとっていいのやら。

「意地悪なリドルの魔法なんかより全然スゴイんだゾ!」
「ゴラァ!」
「あいてっ!」

トレイ先輩の話を聞いて、グリムがこの魔法があればツナ缶食べ放題とか夢じゃねぇかに付け加えて、失礼なことを言うのでペシンとはたく。よほど首輪をつけたリドル先輩のことを根に持っているようだ。そんな悪いコには物理でツナ缶責めにしてやろうか。ちょうどツナ缶ケースで寮に入荷したし。食い意地があってもいくら好きな食べ物でも、同じ味だけて飽きると思う。好きなモノはほどほどがちょうど良い。

「あはは…いいんだよ監督生。俺の魔法なんか寮長の魔法に比べれば子どものオモチャみたいなものだ。レベルが違うよ」

トレイ先輩もなんで比べるのだろう。みんなもそうだよなーな雰囲気。なんかちょっと寂しくなってしまって、なんとなくちょいとポロリとでた。

「子どものオモチャでも、誰かを幸せにできる魔法なのにな」

現につい先ほど先輩の魔法でハッピーになったからね。

「ユウ!か、監督生、そろそろ遅いし寝ようぜ!」

エースが突然慌てて話を逸らしてきた。なんで焦ってんの?マロンタルトばくばく食ってたくせに。デュースとグリムも同じぐらいの反応だ。変なところで仲良いな。

「…………さ!今日はもう遅い!タルトを寮長に渡すのは明日にして寮に戻ろう。明日は当日だから遅刻するなよ」
「明日は忙しくなるからね〜!」

トレイ先輩とケイト先輩がそう締めくくり、解散の雰囲気となる。後片付けは先輩たちがしてくれるらしい、至れり尽くせり…!解散雰囲気で、ケイト先輩がエースたちとわいわいしている間にそっとトレイ先輩に近づく。

「残ったマロンタルト一切れもらってもいいですか?」
「…?いいぞ。一切れでいいのか?」
「はい。差し入れしたい人がいるので」
「…そうか、少し待ってなさい」

トレイ先輩が可愛いお皿に乗せて潰れないようにラップしてくれた。これはケイト先輩が言うマジカメ映え?になるな。

購買部で買った荷物を整理して帰り支度をしていると、夕方から今まで濃い事件が連続で発生してたから、すっかり忘れていた学園長へのワイロ。長々とお話しできる時間じゃないから、タルトの差し入れとマドルのブツだけにすませとこう。学園長と今後について話すことモリモリすぎて、圧倒的に時間がたりない。

「え!いいんですか?そんな可愛いお皿に乗せて…」
「学園長にあげるんだろう?これは俺の私物だから気にするな」

トレイ先輩が含み顔で、耳元にそっと耳打ちしてきた。バレてる。悪巧みできないな、この先輩には。


朝と昼に出会った先輩たちを、夜にはもう好きになってた。
リドル先輩は本当はどんな人なんだろう?





「ユウ、また泊めてくんない?寮には入れてくれないらしーし」

エースが不満顔でケイト先輩を見た。さっきそれで騒いでいたのか。これもすっかり忘れていたが、エースは寮に出禁にされている。精神面的に野郎を裏若き乙女の部屋にご招待するのはいかがなものかと思うが、さすがに友人を学園内とはいえ、外に放置させるわけにいかない。オンボロ寮で保護しとこう。そして、頻繁に利用するならオンボロ寮の改装要員に…ゲフンゲフン。おっと黒いことを考えてしまった。エースの風魔法て力加減を加えたら、便利そうなんだよね。天気のいい日にある程度ものだして、窓とか部屋の扉とか全開放して風通しよくしたら、風魔法で爽やかさプラスして空気清浄みたいなことできないかな…外の木も傷つけずにクモの巣とか払いたいし、外観も隙間とかに塵とかたまってそう。風魔法…使える。あ、でも邪魔な重いものとかどうしよう。

「うん、いいよ」
「即答だと思ってました!」
「あらー。刺のある言い方〜」
「こらエース。あまりユウに甘えるのはよせ」
「えー!じゃあ野宿しろってのかよ〜」
「迷惑かける心配なら、デュースもお目付け役として泊めてもらったらどうだ?副寮長として俺が外泊許可だしてやるぞ」

今度はデュースも泊まる流れになった。この際、野郎が一人や二人増えようが問題ない。たった今、思ったのだ。デュースの魔法もなかなか便利だよね。大釜とか重いものだせるし、エースをぶん投げるくらい浮遊力がある、コントロールを調整すれば重いものとか外へ運びだせるかもしれない。二階から直接降ろさずとも窓からイケるかも。デュース不器用だけど、最終的にうまくできるようになってるから、そこは練習すればいけると思う。あくどいところもあるけどピュアだから、手伝ってくれそうだしな。お礼もはずむし。

ふと視線を感じた。騒がしく反対しそうなグリムが、例のチベスナ顔でこちらを見ている。なんで、思考がバレてるんだろう?よほど顔にでているのかな?

察しのいい狸は嫌いだよと、セルフで棒有名な台詞をパロってみた。この世界で元ネタわかってくれる人いないんだろうなぁ。

ケイト先輩が羨ましかったらしく、便乗して泊まろうとしてきた。エースとデュースは新人だから見逃してくれるみたいだけど、明日の準備がありそうな三年生は駄目なんじゃないかな。

「お前はダーメ」
「新人ちゃんに甘くない!?…ちぇ、さげぽよ」

ケイト先輩の言葉どこかで聞いたことあるような…この世界てどのくらい言葉が共通しているのかな。これはこっちの世界に元ネタ知ってるやついるんじゃないだろうか!?

「ダイヤモンド先輩、クローバー先輩おやすみなさい」

この世界はパレレルワールド説がでてきたと、哲学なことを考えながら帰路についた。


「絶対、この首輪を取ってもらうからな!見てろよ、寮長!」

エースの気合がはいっているが、謝る態度じゃない…だ、大丈夫かな?
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