捻れた世界で生きてゆけ
栗を拾いながら誤解を解きつつ、植物園であったコワイ管理人さん(仮)のことを二人に話した。セクハラ()のことを話すと自分の秘密にも触れちゃいそうになるし、それを話さずに話したらあの人が野郎にセクハラ()するという恐ろしい誤解が生まれてしまう。マイルドに〆られそうになったと話しグリムは口止めした。今度こそ噛み殺される。
「いや、管理人じゃないっしょ」
「もしかして不良が多いのでは…?」
元ヤン疑惑のデュースがそう呟いた。
タルトが作れるくらいたくさんの栗が拾えたので、トレイ先輩のところへ持っていくことになった。調理室に着くと中には、これから使用するものすべて揃えてくれてるトイレ先輩がいた。そしてメインの栗も揃う。『お帰り、たくさん拾えたな』という言うトレイ先輩まじお父さん。雰囲気が柔らかくて癒される。良くも悪くも強烈な人間とヒトに遭遇する確率が高いので余計に思う。
魔法使う組のタルトが楽しみなはしゃぐグリム、栗の剥く量にげっそりデュース。魔法使えない組のエースと自分は手で剥くこととなった。トレイ先輩は両方の段取りを監督しながら、教えていくポジションである。一年コンビとグリムは、いつものような仲の良い喧嘩しながらわちゃわちゃしている。私はそこから少し離れて、それを眺めつつちまちまと栗を剥いていた。輪の中に入って騒ぐ楽しさも知っているが、こうやって誰かが楽しそうにしているのを見るのも楽しい。デュースは不器用だけど、いつも一生懸命。頑張ってる姿を見てるとこっちも頑張ろうて思う。グリムは食べ物のことになると手際が良くなる。ちょっとつまみ食いしてるけど、薔薇の色塗りも最後の方がうまくなってたし。なんだかんだ要領いいんだろうな。エースは薔薇の時も栗の時もソツなくこなすので要領がいい。魔法なしなのにこの中で一番手際よく栗を剥いてっている。なのに反骨精神の塊だから余計な一言もあいまって世渡りが下手っぴ…人のこと言えんけど、そこら辺マイルドにならないもんか。お、デュースがまた魔法で栗をぐしゃぐしゃにしちゃった。
「裏ごしするから大丈夫さ。ただ味が悪くなるから渋皮は残さないようにな」
すかさず優しい指導をするお菓子作りのトレイ先生は、教えるのが本当にうまい。そんな雰囲気がみんなの作業を進めてさせている。ふと、こちらの方をトレイ先輩が見る。近づいてきた。
「監督生。放置しててごめんな、あいつら目が離せなくて」
「気にしないで下さい。まあ、自分もあんまり進んでないですけど…」
「魔法が使えないもんな…手で剥くにはコツがあるんだ。ここを…こうやって…こうすれば…早くに剥けるようになる。さあ、やってみて」
「は、はい!」
一人ポツンとしていたのを気にしていたんだろうか。優しい。うまくできないと言えばコツを教えてくれた。ご自身で再現してくれたのでわかりやすい。魔法使わなくてもトレイ先輩器用だな!
「監督生は呑みこみが早いな。偉いぞ」
教えてくれた方法、何回か試しているうちに自分のスピードも早くなっていった。それをしばらく見ていた、トレイ先輩が偉いぞと褒めてくれた。頭を撫でられた。わ、嬉しい。
「!ああ、すまない。よく知りもしない同性に撫でられるのって嫌だよな。君の雰囲気が、その、つい妹弟にするようにしてしまったな」
ポリポリと頰をかくトレイ先輩は少し焦ってるようだ。ものすごく悪いことをしたような表情をしている。撫でたくらいで大袈裟なような?ワタシサッキモノスゴイコトサレタゾ。妹弟がいるのかなるほど…だからお兄ちゃん感がしっくりきたのか。褒められるのは嫌じゃないので、ちょっと甘えてみようかな…監督生、無償の優しさ飢えてるので。
「先輩、ぜんぜん嫌じゃないです。嬉しいです」
苦笑していたトレイ先輩がはたっと止まる。リドル先輩しかりギザ歯先輩しかり、ここの人たちてどうしてちょいと本心を伝えると固まるのだろう。よく図太く鈍感だなんだ言われるけど、さすがに何回目にもなるとわかりますよ。ちょっと何回もやられると、さすがの自分でも自重しようと思っちゃう。さすがに図々しかったかな。
「この学園てこういう風に接するのって珍しいんですか?」
自分は純正のいい子ではなく腹黒いと思っている。下心だってある。ただ亡くなったおばあちゃんが、素直に生きていきないと小さな頃からしつけられたのもあって、今さらどういうふるまいをすればいいかわからない。あとあまり事を荒立てたくない。結局どっちつかずの立場をとっていたらグループからはじかれて、図太くなってしまった。日和見とか言われるんだろうけどよ!他にも原因がたくさんあるけどね!
「…学園にも素直なやつがいるし、明るいやつもいる。ただ君みたいに純粋に厚意を受けってくれるやつは少ないかな」
「そうでしょうか?逆にクローバー先輩みたいに、自分みたいなヤツ受け入れてくれる人の方が多いような気がするんです」
「…」
沈黙がおりたので栗を剥く作業にとりかかる。ちらっと騒がしい方を見ると、あいかわらず似たような事を言い争っていた。いつのまにか、誰が一番早く捌けれるかという勝負に変わっていた。いいな、男子て楽しそう。あ、自分も男子だった。
「君は怒ることてあるのか?」
「えっと、ありますよ。怒るとき、怒るとき…丹精込めて作ったものを捨てられてたりとかですかね?」
「そりゃ誰だって怒るだろ……これ聞いたら怒るかもしれないが聞いてもいいか?」
「え!?な、なんですか?いいですよ」
いきなり怒るのかと聞かれたから答えてみた。検討違いのようだったらしく、ちょっと怖いこと言ってきた。何言われるんだろう。
「気になってたんだ…魔法が使えないのを馬鹿にされて悔しくないか?羨ましくないか?」
「クローバー先輩、顔に似合わず直球。そんなの悔しくて羨ましいに決まってるじゃないですか」
「それを素直に答えるんだな」
「だって本当に思ってることですもん。自分、心の中でバリバリ嫉妬してますよ。特に飛行術、悔しすぎる…飛びたかった…自分も大空を飛びたかった!」
子供の頃、なんかやたらふさふさの箒とかに乗ってごっこ遊びしてた。それくらいロマンを感じてる。自分の原点は某宅急便さんなので…ハーツラビュルの副寮長はなかなか手厳しいようだ。直球で一番気にしてること聞いてくる。しかし、この際聞いてもらおうじゃないか。どんだけマジで魔法使えない少年の悲しみを!自分は悲しみを栗にぶつけつつ魔法の憧れを語り、剥き加減のスピードがパワーアップする。それでトレイ先輩の反応はどうかと言うと、呆れるところかおもしろい話を聞くかのように接してくれている。ケイト先輩といい、トレイ先輩といい本当いい先輩だよ。なにをそう謙遜しているのか。
「あんまり、て言いたいところだが、そうか…ふっ」
「笑いましたね」
「わかりやすく嫉妬してますとか解説されたら、笑うしかないだろう?悪意がなくて気が抜けるよ」
「悪意が伝わる方が気持ちよくないのでは?」
「それも、そうだな」
「うーん、質問の意図がよくわからないですが、とにかく詫びタルト作ってエースにちゃんとあやまらせて、ローズハート先輩と仲直りできたらいいですね!」
「仲直り…か」
またトレイ先輩は、意味深に寂しそうに笑っていた。会話はデュースのトレイ先輩へのヘルプで一旦中断し、栗の裏ごしが終わるまで自分と先輩はしゃべることはなかった。
「だーっ!やっと裏ごし全部終わった!」
エースの一言とともに、一つの作業は終了を告げた。みんな腕や手が痛いと言いながら、トレイ先輩の次の指示に従う。作業順に従っていると、トレイ先輩がさらりととんでもないことを言ってのける。最後に隠し味にオイスターソースを適量加えると言いだしたのだ。
「「オイスターソース!?」」
驚く自分たちに、トレイ先輩は『カキからたっぷり〜』とさもお菓子作りに必要な調味料かのように言うので、『セイウチ印のヤングオイスターソース』は隠し味に使うのにアリなのかもと、納得の雰囲気が漂いはじめた。
「…プッ。アッハッハ!嘘だよ」
嘘だったらしい。先輩はいたいけな後輩たちに嘘ついたらしい。危っねぇ!危うくヤベーダークマターを精製するところだった。何でも鵜呑みにせず疑ってかかれということ教訓として教えてくれたらしいが、すっごいいい意地悪な笑顔なのでまるっと信じてた後輩たちのことからかって楽しんでいたぞ。
「優しそうに見えてさらっと嘘をつくヤツなんだゾ」
まったくその通りである。なんだかんだ曲者揃いのナイトレイブンカレッジの生徒ということだな先輩も。
(購買部って初めて来たな。直接来る機会なかったし)
場所はうって変わって購買部。マロンペーストを作りすぎたので、足りない材料とついでに他のものを、おつかいすることになった。買い出しチームはデュースと自分と、粉マゼマゼに疲れたグリム。着いたはいいが、とてもクリームとか売ってそうな雰囲気のお店じゃない。魔法アイテム的なお店にちょっとワクワク。
「Hey!迷える小鬼ちゃんたち、ご機嫌いかが?」
店主もパンチの効いた方だった。
彼のお名前は、サムさんと言うらしい。Mr.Sのミステリーショップの店主さんだ。呪いのタロットカードとかいう闇アイテムに、興味をそそられる品揃えに心動かれつつも当初の目的は遂行する。闇アイテムをスルーしてデュースがおつかいメモを渡した。
「Sweetなラインナップだ。OK!今出してくるよ」
「おぉ…本当にあるのか」
そういえば購買部で欲しいものあるんだった。言うだけいって、取り置きしておいてもらおう。おつかいだけで手持ちいっぱいだし。生活必需品と、ゴーストたちのお礼の品と、ギザ歯先輩へのお礼の品。それと詫びツナ缶。いっぱいあるな。
「あの、すみません。あと個人的にあれば、取り置きして欲しいものがあるのですが…」
「Oh!小鬼ちゃんのことは聞いているよ、だいたいこの学園で必要とするもの衣類とかも荷造りしておいたよ。学園住みのゴーストに郵送を頼んでいるから寮には届いているはず、それでもっと必要があるものはまたショップにお越しを」
サムさんはWinkを自分にくれた。
「あ、ありがとうございます!」
あまりのありがたい気遣いに嬉しいすぎて、まじかよ神かよとしか感想しかでてこない!やはりどの世界線でもSHOPは偉大なり。
「ゴーストたちが郵送するのか…」
「あとツナ缶が欲しんいんだゾ!」
「コラ!ツナ缶はいりません!」
デュースが感嘆していると、グリムが思いだしたように口を開く。デュースが叱ってくれたがその必要はない。
「あ、いいのいいの。デュース。グリムにはツケツナ缶と詫びツナ缶が溜まりまくってるから、すみません。サムさん、ケースでツナ缶て売ってますか?」
「OK!あるよ!重いだろうから、これもゴーストたちに頼んでおくね!」
「なんでもありますね…お願いします。それと、これはあるかどうかわからないんですが…ゴーストでも食べれるものか、身につけられるものてありますか?」
「…ゴーストの?」
「はい、オンボロ寮のゴーストたちにお礼をしたくて」
「律儀な小鬼ちゃんだ。とっておきを用意しておこう。お代はタダにはできないが、安くしておくよ!じゃあ、待っていてね」
ツナ缶のことを聞いたら普通にあるとの返事、なんでもありだなここ。ゴーストの品を聞くと少し驚いていたが、あるらしい。さっすが魔法の学園!サムさんは今度こそ店の奥にひっこんでいた。
「ツケツナ缶詫びツナ缶」
「オレ様もそんなに食えないんだゾ」
「いや、食料備蓄品として保存の効くもの買っておこうと思って、まだ環境改善が進んでないけど…食糧がまったくないから不安で」
「んなぁ……昨日は空腹で寝るしかなかったのだ」
「どんな生活を強いられてるんだ」
「今日から改善されてくんだ」
少しの待ち時間、デュースたちと他愛の無い話をした。
あとは店内を少しぶらつき、先輩のお礼の品を見繕った。包装紙も売ってたから落ち着いたら包装するか。サムさんに、おつかいの代金と自分の買い物代金を支払いをお店をあとにする。
「Bye!」
サムさんは、ニコニコ見送ってくれた。
ーーーそれは突然でした。そう、突然でした。
事の発端は、購買部からのおつかいの帰り道です。生真面目な優しい友人は、重たい荷物を持ってくれたのです。自分は男ですが、彼のさりげない優しさにキュウンと来ました。重たいものを持つコツがあるんだと言う彼は、買い出しに慣れているようでした。それをきっかけに、彼の家庭の事情が少し知れたのです。家の手伝いをする偉い子で、お母さんを大事にするとてもいい子でした。自分は感動して心からそれを伝えると、彼は苦悩した表情で全然そんなことはないと否定しました。どうして、否定するのだろう…苦悩にみちたその表情に彼には悔いている過去があるようでした。
「っいって!」
その時です。突然、彼が痛いと叫んだのです。何かにぶつかったようです。買い物袋の卵6個パックが一つ全滅してしまったのです!
野生の不良が現れました。
その野生の不良は、昼間に飯テロしてきたいちゃもん野郎の二人組です。また、いちゃもんをつけてきたのです。優しい彼は静かに怒りました。卵1パック全滅は彼の理性を飛ばせる威力だったのです。
「弁償してください。鶏に謝ってください」
目が据わっていました。自分はすかさず、相棒のペットをつかみ安全圏へ避難しました。不良二人組はおおげさだと嘲笑いながら煽ります。そこで、ついに彼はキレてしまったのです。
「アぁ!ヒヨコになれないかわりに、美味いタルトになる予定だったんだぞ!」
いつもの丁寧な言葉使いは消え失せ、荒れた口調の彼がいました。なぜか無精卵の卵がヒヨコになると信じていました。あまりの豹変っぷりに、野生の不良たちもビビりまくりです。自分と相棒も抱き合っていました。
「弁償しねぇっつーなら、6発てめーらぶっ飛ばす」
謝る隙も与えませんでした。
宣言通りに彼は二人相手に喧嘩を開始したのです。
「オラァ!」
助走をつけた彼は、一人目に飛び蹴りを喰らわしました。
顔面に一発。
溝内に一発。
トドメに拳をつきだし、顎へとそれをたたき込み、一人目は空を舞いました。
あ、まんがでみたことある。
「オラァ!」
二人目はビビりながら背後に回ろうとしましたが、彼はすかさず反射神経で回し蹴りを喰らわせました。
吹っ飛んだ相手の首元を掴むと頭突きで一発。
両頬を往復ビンタ、回転させ、トドメにジャーマンスープレックスです。
地面に埋まらなかったのは幸いです。修理が大変ですからね。
あ、まんがでみたことある。
………………六発どころじゃねぇ!
[[rb:命 >タマ]]とりにいってるじゃねーか!
魔法世界の不良の身体能力どうなってんの!?
一連の流れが早すぎて追いつけない!
置いてけぼり!
自分の頭に浮かんだのはそれです。
以上、自分の回想は終わります。
ーーー最後プロレス技で〆。そこにいたのは、ズタボロにされた男たちと、勝利した男の姿だった…
「いつから不良漫画になっちまったんだ!?」
あいつら、死んでないよね…?
友人が伝説のヘッドでした。