捻れた世界で生きてゆけ


図書館であった出来事、ギザ歯先輩が人魚と発覚したので内緒にしておく。先輩はなぜ自分にそのことを明かしたのだろう…今度会った時にでも聞いてみよう。それまでに一応お礼の品を考えなくては…プレゼントセンスないんだよな。

待ち合わせ時間に間に合い予定通り森の中へと入っていく。たくさん栗が落ちていたので、グリムは忙しなく動いている。

「たくさん落ちてるんだゾ!マロンタルト食べ放題…ぐへへ。早速拾って…あいでっ!栗の刺がーーー!」
「素手で拾うのは無理そうだな」

植物園の中へ、カゴかバケツを探しに行くことになった。

「うわー、思ったよりも中広い」
「管理している奴を手分けして探すか」
「んじゃ、右に行く」
「俺は左に」
「自分とグリムはまっすぐ奥へ行くね」

集合場所は分かれたところと決めて植物園内を散策する。道なりに生えている植物やフルーツを見る。見たこともない植物もいっぱいあった。異世界を感じて少し楽しい。グリムが涎を垂らす勢いで見ている。

「取っちゃだめだよ」
「ーーーいって!」

なんか踏んだような気がする。声も聞こえた。グリムにいきなり変声期が訪れたのか?

「ーーーおい」

声をかけられた。素通りした道を振り返るとーーー。

「人の尻尾踏んでおいて素通りとはいい度胸だな」

不機嫌MAXのケモミミがあああ!


グリムがここの管理人さんかと聞いているが、こんな柄の悪そうなの管理人さんではない。ケモミミさんが昼寝していたところを、思いっきりその尻尾を踏んでしまったらしい。通り道に尻尾を出さないでほしい。こちとら故意におシッポを踏む加虐心はねぇ!…尻尾大丈夫なんだろうか?神経断裂とかしてないだろうか?

「すみません!」

色々思うものあるけどあやまっとこう。かなりブチ切れ寸前っぽい。

「お前……」

そこで、ようやくまじまじと自分の顔をケモミミさんが見てきた。

「あァ、入学式で鏡に魔法が使えねぇって言われてた草食動物か」

草食動物!?いえ、雑食動物ですけど!?ギザ歯先輩に続きケモミミさんまでが、式典でぽんこつ公開処刑された自分を覚えていたよう。お〜の〜れ〜闇の鏡め!

なにか考えこむようにしてから、超至近距離で目を瞑り顔を近づけてきてニオイを嗅がれた。グリムと私は悲鳴をあげた。自分の心は大パニックです。あっちの方が身長高いからその分距離が近づきすぎてるし、ケモミミばかり目がいってて至近距離でお顔見たら、あら、端正。いやーーー!近い!くそう!メンクイ学園長のせいだ!パニックになった私は口走った。

「お風呂は毎日入ってます!」

男でも女でも体臭のこと言われるの嫌やで?その言葉を聞いたかどうかわからないが、嗅いでいた動きを止めそのままの体制で、閉じていた瞳を開ける。

(わぁ、翡翠色の瞳初めて見た)

天然物の瞳の色に少し呆けてしまった。先ほどからなにか難しいものを見るように眉間に皺をよせる。それから顔を元の高さにまで戻すと、今度は左手で頭をガシッ鷲掴みにされ右手で体をまさぐられた。

「このレオナ様の尻尾踏んでおいて何にもナシってそりゃねぇだろ?少し気になることがある確認させろ」
「ぎゃあああああ!」
「ユウウウウ!誰かあああこの野郎チカンンンなんだゾオオオ!」

野郎に人生で初めてとんでもないセクハラを受けています。グリムがチカンと叫んでいるがよく知ってたな!?こっちにも共有用語としてあるのか!?そもそもおまえ魔物じゃ!?

「むぐうっ」

デカイ声をだしてしまっただろうか、頭を鷲掴んでた手が今度口元を覆い隠すように塞がれる。骨張った大きな手だ。はい、事案です。グリムが押し黙る、私の命の危険を察知したのだろう。騒ぐのはマズイと考えてくれたが、魔法を放つのも時間の問題。植物園で火はやめて!


体をまさぐっていた手は、首元をスッーとなぞった。喉仏あたりを確かめるように何度も触られる。

「顔は女々しいが喉仏がある。体も固い。男の体だ」

ーーーなにかを確かめるような声音だ。

「臭いも男だ」

ーーーまるで。

「どう見ても、触っても、考えても、男だ。じゃあ?なぜ?」
「この違和感は、」


「レオナさーん!もー。やぱっりココにい…な、ナニしてんスか、レオナさん…」

顔をなんとか声をかけてきた人の方へ向かせると、超ドン引きしたモフモフのケモミミさんが自分に両手で、両肩を抱いていた。

救世主に見えた。


「今日は補修の日っスのに、サボって寝てると思ったら…」
「おいラギー。そんな目で見るな。誤解だ」
「どこをどう見て誤解なんスか!?オレはショックっスよ!」
「少し気になることがあるから、確認してただけだ…さっきからなんだ、その格好は」
「男を襲ってるレオナさんを見て、オレも身の危険を感じたっス」
「ツラ貸せラギー」
「きゃーっ!オレも襲われちゃっうスーーー!」

自分とグリムは呆気にとられていた。先ほどの剣呑な雰囲気は離散し、二人?二匹?のケモミミのコミカルなやりとりが行われていた。モフモフのケモミミさんがラギーさんで、セクハラケモミミさんがレオナさんというらしい。二人の会話から名前が判明した。ラギーさんが騒ぎはじめてから、秒速で自分から離れたレオナさんは淡々と誤解をとこうとしていた。しかし、アレはどこからどう見ても事案。自分は恐怖の表情をうかべていたし半泣き寸前。今日は色んな感情を体験する日だ。

ついにレオナさんの拳がラギーさんにとんだが、ラギーさんはヒョイっとかわす。二人の身のこなしから普段から荒事に慣れていると見た。この学園、やはり不良が多い。

「さーて、お遊びはこれまでにして、レオナさん補習行くっスよ?これ以上留年したら、来年はオレと同級生ッスよ?」
「あー、うるせえな。キャンキャン言うんじゃねぇよ、ラギー」
「オレだって言いたかないッス!」

やればできるのにと、くどくどと説教しながらレオナさんの背中を押しながら立ち去ろうとするラギーさんは、ぜんぜん物怖じしてない強い。

「チッ…おい」

押されながら、レオナさんが顔だけを向けてこちらに言い放った。

「今度俺の縄張りに入る時には気をつけろよ。草食動物ども」
「そっスよー、今度は襲われないよ…イデ!」

ラギーさんに拳骨を落とし、それから興味を失せたようにその場から立ち去った。私とグリムはその場にへたり込んだ。

「緊張したんだゾ…」
「命拾いしたね…めちゃ、いいようにされてたけど」
「オレ様でもわかる…あの管理人さんはヤバイんだぞ」
「あんな管理人さんいてたまるか!」

いくら男性体だからといって、乙女の心は傷ついたので、グリムをモフモフして心を癒した。グリムは珍しく空気を読んで大人しくしていた。この体になってはじめての恐怖体験だったので、ケモミミ集団サバナクロー寮生には極力近づかないようしようと心に誓った。野生の感が知らないが、まさか勘づかれかけたのはびっくり。これからのために、いつかまた絡まれた時のために、ムキムキになろうと監督生は静かに心に誓った。ムキムキになったら、助けてくれたラギーさんにお礼をしにいこう。


「おーい、あっちにカゴとトングがあったぜ〜」
「…2人ともどうかしたのか?て、ユウ!?衣服が乱れているがどうした?」
「いや、その」
「肉食動物な管理人さんに襲われたんだゾ」
「肉食動物が管理人さん!?」
「放し飼いになってんの!?」
「グリム!!」

こうして、ありとあらゆる場所で誤解は広がっていく。
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