捻れた世界で生きてゆけ


『リドル・ローズハート先輩』

ナイトイレブンカレッジ・二年生。ハーツラビュル寮の寮長。

昨日の夜、エースが『なんでもない日』のパーティー用のタルトを盗み食いし、ルールを破ったという理由でご自身の魔法?を使い、エースの魔法を封じた首輪をつけた本人。式典では暴走するグリムを止めるために首輪をつけた人。

ハートの女王の法律は、ちょっとクセが強くてよくわからない。変なルールだとも私は思う…ちょっとメルヘンちっくで可愛いかもとも思ったりするが、ルール違反の罰が厳しすぎていきすぎている。

ーーーでも、初めてちゃんと会話するこの人の言うことて、ハートの女王の法律いがいまともなこと言ってない?

私は衝撃を受けていた。


「ケイト。あまりおしゃべりがすぎると、そのよく回る口ごと首をはねてしまうよ」
「いやいや、勘弁してよ〜!」

腕を組んで仁王立ちのリドル先輩が、凍りつく周囲を更に凍りつかせた。周囲の雰囲気を緩やかにほぐすように、ケイト先輩がくだけた感じで言っている。首をはねるという物騒な言葉だが、自分が連想するのはマジ斬首なので魔法封じと聞いてから少しほっとしてる。そもそも魔法無しの自分からしたらまったくの無害な能力だ。どちらかというとグリムとかの魔法の方が自分的に危ない。これからの生活にちょくちょく利用させていただくけど。

「ふなっ!?コイツ、入学式でオレ様に変な首輪つけたヤツだゾ!」

グリムがまた相手の勘に触るようなことを言っていた。怒っとんのに火に油注ぐなや!エースの時は盗み食いしたとはいえやりすぎ感あるけど、グリムの時は式典時の措置は冷静で最適の対処だと思う。あんな大勢の人間がいるところで、火を放ちまくって危ないことしてた。燃えやすそうな服を大勢の人が着ていて大パニックになってたし、燃えないにしてもヘタしたらこけて圧殺で死者が出たり、冷静な判断ができなくなったパニック時の大衆の行動はもう誰にも止められない。

(止められないなら、首輪つけられなかったら、グリムは殺されていたんではないか?)

グリムと打ち解けつつある今の気持ちで考えて、背中に冷たい何かが伝う。

(それは、嫌だなぁ)

その後も、燃えやすそうなオンボロ寮でゴースト相手に無造作に火を使ってた。校内でも普通に使おうとしていた。

(〝監督生〟ていう立場をもらっているし、これからはグリムにむやみやたらに火を扱うことについて、ちゃんとお話ししよう。いつまでも見逃してくれるとは限らないし)

あの時は夢か現実かはっきりしてなくて、めくるめくるファンタジーで興奮していたし色んな出来事ありすぎて考えにもおよばなかった。現実と認識して元の世界に戻るためにここに足をつけたら、今後の立ち振る舞いも考えなければいけない………そういや、お尻に火がついて犠牲になってた人いたけど無事だったんだろうか。

「キミたちは、昨日退学騒ぎになった新入生か。人のユニーク魔法を『変な首輪』呼ばわりするのやめてくれないかな」

グリムの声を聞いて、こちらの方へ顔を向ける。冷めた視線でビクッとなるが、顔面をしっかり正面から見た。あたりまえのように整ったお顔。この学園の入学基準の項目に、容姿端麗の項目が絶対入っているに違いない。学園長にメンクイ疑惑浮上した瞬間だった。


「まったく。学園長も甘い。規律違反を許していてはいずれ全体が緩んで崩れる。ルールに逆らったやつはみんなひと思いに首をはねてしまえばいいのに。学園長はキミたちを許したようだけど次に規律違反をしたら」
「あ、やっぱり。学園長の対応も学園の皆さんも優しすぎますよね」
「ーーーえ?」
「え?」
「何言ってるんだゾ!?」

真面目なこともアホなことも、考えていたからだろう。エースが顔に似合わず…とぼやくの聞きながら、この学園で初めて自分たちの行いが咎められたのを聞いて、ポロッと思っていたことが言葉にでてしまった。グリムが悲鳴をあげてるし、え?何言っての?!という驚愕の表情で全員に見られた。しかも、説教をしているリドル先輩ももれなく…もしかして、学園長て生徒から信頼ないんか?



しばらく、沈黙が舞い降りた。誰もしゃべらない。自分もなにかまずいことをしゃべってしまったのかと、うーんうーんと考える。

(説教中なのに遮っちゃったからか!前の世界でも先生の話を遮ってしゃべる子が怒られてたもんな!)

そう結論づけて、リドル先輩の目を見て話す。謝る時は誠心誠意を伝えなさいと教えてくれた。驚愕の表情のまま固まってるリドル先輩は、どうやら先ほどの怒りはおさまっているように見える?これは先手で謝ってしまえばいい、ついでにさっきのグリムの失言もフォローしておこう。自分は無害な人間ですよとアピールは必要だ。うなれ!私のごますり能力!味方が少ない今、たくましく腹黒に生きていこう…!

「申し訳ございません。ローズハート先輩」
「え?」
「先輩のお説教中なのに話を遮ってしまったからです。それから、そこの毛玉の失言も申し訳ございません。式典の時はグリムを助けてくださりありがとうございました」
「助け?」
「どうぞ、話を続けてください」
「……」

最終的に黙ってしまった。あ、ヤベ、台詞をミスったか?


「ユウ、どういうっ…フガアッ!」

自分の発言に気に喰わないというグリムが、猛反発をおこそうとした。大失言乱舞をくりだすと直感がピーンとくる。近くにいた毛玉の口をふさぎかかえこみ顔落とす、なるべくグリムしか聞こえない声量で話す。

(声を小さくして)
(あの首輪、いきなり魔法が使えなくなるし、息苦しいしで最悪だったんだゾ!?)

素直に同じように声量を落とすグリムは、それでも文句を言ってくる。もしかしたらヒトコロモンスターになってたんやぞ。

(入学式で暴れたグリムが悪いんだよ?もし物理的に止めてくれる人いなかったら、君は害獣駆除とかでブチ殺されてたかもしれないんだよ?)
(その発想の方が怖いんだゾ!図太いくせになんでそんな殺伐してるんだゾ…)
(身一つで特別な能力も与えられず、絶対的な味方もいない世界で楽天的になれませんて)
(!寝る前に言ってたくせに、オレ様がいる…はっ!)
(え?)

ポロリとこぼれたのであろうグリムの言葉に今度はこちらが驚く。急いで口をふさぐがお顔は真っ赤。たしかにそんなことを話した。でも、検討すると言ってたじゃないか。そうだけど…思わぬところで返答が返ってきて、嬉しい気持ちになった。

(なーんだ。あんだけ嫌がってたのに)
(いや、それは、オレ様は優しいから、その、うーあとで、ツナ缶献上するんだゾ…)

どこぞの学園長の台詞を言いつつも、否定はしないので肯定と受けとった。どうやら、この世界で絶対的な味方は得られそうです。


あれ?そういや、なんで小声で喋ってるだっけ…?しまった!今、ハーツラビュルの寮長と話してたやん!バッと顔をあげる。リドル先輩の顔は困惑した表情だった。よし…怒ってない!

「キミは」
「あのー、ところで寮長。この首輪って……外して貰えたりしませんかね?」

エ、エースーーーーー!!!そういうとこやで!リドル先輩話そうとしたよね!?話は聞こうね!そして、チョイスする言葉間違っとんぞ!?まずは謝りなさいよ!失言も弁解してないじゃんか!

リドル先輩は自分とエースの顔を見比べ、はぁとため息をつきエースの方へ視線を向けた。

「反省しているようなら外してあげようかと思っていたけど、先ほどの発言からしてキミに反省の色があるようには見えないな。しばらくそれを付けて過ごすといい」

(ですよねー!)

めちゃいい笑顔で言いきった。その表情は絶対首輪を外してくれなさそうだった。

(先輩は、自分に何を言おうとしていたんだろ?)

どこかで、ポタッと雫が落ちた音がした。



「返事は『ハイ、寮長』!」
「「はい、寮長!」」
「よろしい」
「まあまあ、俺がちゃんと見張っておきますから」
「キミは副寮長なんだからヘラヘラしてないでしっかりしてよね」

エースとデュースの返事に、一応納得したのかひとまず怒りを収めるリドル先輩。トレイ先輩が苦笑気味にフォローをいれるが、年下のリドル先輩にたしなめられていた。トレイ先輩副寮長なんだ。厳しい寮長と優しい副寮長…いいバランスだな。ハートの女王の法律なんちゃらで、シュガーポットの角砂糖を買いに行かなきゃいけないとその場を立ち去るリドル先輩。法律何条あるんだろう?恐るべし。

最後にチラッと何か言いたげのリドル先輩に、ニコッと笑って会釈しといた。何も言わず行ってしまった。自分に対しての怒りを感じないので、誠意は伝わったと思っとこう。なにか言いたければまた接触してきてくれるだろう、自寮いがい常にエースとデュースといっしょにいるし。二人を巻きこんだのはこちらに非がないと言えない。シャンデリア事件の主犯格をハーツラビュル寮から二名も輩出したので申し訳ない。シャンデリア事件の話になるたびにどこの寮の奴だとかも出てくるだろうし、アレでリドル先輩も被害こうむってないかな?責任をとらなきゃいけない立場の人て大変だよな…また落ちついたら改めて謝罪しにいかないと…監督生の立場も大変です。ことの発端はあれだけど、エースの盗み喰いについては自業自得ですよ。

「あー、ちくしょー」

と、机に倒れこむエース。むしろ、あれでなぜ許してもらえると思っているのか。リドル先輩曰く、一年生の序盤は魔法実践より基礎を学ぶ座学が中心だそうだ。魔法が使えなければ昨日みたいな騒ぎも起こさないという。マジで正論しか言ってない。みんな安易に魔法使いすぎてる、自分は見れるの嬉しいけど…。制御しきれない。てっことは、当分は魔法実践がないから座学に集中できる。なんとか先生たちと仲良くなって魔法実践中心になってきたとき、魔法無し生徒の対応を考えてもらおう。いや、学園長に相談すべきか?考えることたくさんありすぎ!てか、学園長大雑把にしか教えてくれないんだもん。放課後か今夜あたり凸らねぇと。それと放課後は図書館のぜひ行きたいから寄ろ。


「そういえば『ユニーク魔法』ってなんですか?」

ちょくちょく会話に出てきた単語を、先輩たちに聞いてみた。トレイ先輩とケイト先輩が答えてくれる。

「監督生はあまり知らないもんな。厳密に世界で1人かはさておき……一般的にその人しか使えない個性的な魔法のことを『ユニーク魔法』と呼ぶんだ。そのうち授業でちゃんと習うと思うぞ」
「リドルくんのユニーク魔法は『他人の魔法を一定時間封じることができる魔法』その名も……[[rb:首をはねろ >オフ・ウィズ・ユアヘッド]]!」
「ヒェッ!名前がもう怖ぇ〜のだ!」
「か、格好いい!」

つまり、制限時間つき無効化能力だ。能力バトル系と超能力系モノで、能力的に他キャラを制御できるから、最強キャラになりやすいタイプの能力持ちだったリドル先輩。だいたいは肉弾戦に持ちこむから最後は拳になるんだけど…先輩あの見た目で最終的に拳で語るタイプなんだろうか?というか、自分の中の黒の歴史が疼きます。能力が暴走したヤツを最後の砦として制御する姿とかカッコイイやん!それに必殺技みたいでカッコいい!

「ユウ、おまえ…うん…」
「おまえ、魔法がないから…」
「だってローズハート先輩の魔法て自分には無害どころか安全だし…罰的に反省文500枚とかの方が恐ろしいわ。手首が死ぬ」
「まあ…それはそれで、嫌だけどさ…」
「…カントクセイちゃんて、リドルくんにやけに好意的だよね?」

倒れ込んだままのエースは力がなくなっていくようだ。デュースも頰がひきつってる。一年生同士で話していたら、ケイト先輩が神妙な面持ちで話を切りだした。また話が脱線してしまったようだ。

「好意的というか、自分から見たらローズハート先輩て、ちょっと厳しすぎるのと法律を強要するいがいは、真っ当な人だなと思ってます。正論しか言ってないし」
「厳しいの一言ですますな!」

現在、首輪つきの調教されてるエースが猛反発してきた。同じ寮生で魔法を使える立場の人間からはそうでもないらしい。

「エースだって、初めて会ったときグリムの言葉に『ハートの女王ってクールじゃん!優しいだけの女王なんて、誰も従わないだろう!』とかドヤ顔でいってたじゃん」
「ド、ドヤ?なんでもいいけど、そうは言ってたけどさ、前に散々馬鹿にしたこと根に持ってるだろ…」
「一字一句覚えてますわ〜、別にもう怒ってないけどね」

エースとの会話を打ち切る。色んな人間がいるんだからみんなそれぞれ印象は違うと思うんです。それを伝えると、ケイト先輩とトレイ先輩は息を呑んだように口をつむぐが、またいつもようなにこやかな表情に戻る。

「そっか…魔法士にとっては魔法封じられんの首を失うくらいイタいからね〜」

にこやかの表情だけど、先輩たちから少し寂しそう雰囲気を感じた。




「ルール従ってさえいれば、リドル寮長も怖くないってことだ」

それもそれでどうなんだと思いつつ、詫びマロンタルトを作ることになった。タルトがないとエースはケイト先輩に入れてもらえないし、ホールじゃないと許してくれないらしい。ちょっとじゃないわ、厳しいわ。その理由として、ホールケーキの最初の1ピースを食べるのを楽しみにしているからという…え、リドル先輩可愛い…厳しいのにそこを楽しみにしてるんだ。でも、タルトのホールはだいぶお高いらしい。懐に学園長のカネが入っているが、今回のケリはエースがつけなければならない。カネで解決してはいけない。うん。

「じゃあ、作っちゃえば?」

軽く言ってのけるケイト先輩。実は盗み食いタルトはトレイ先輩作らしい。素晴らしい特技!トレイ先輩まさか…オトメン?器具や調味料なんかは一通り揃えているらしくそれを貸す条件に、リドル先輩が次に食べたがってるタルト作るのに協力してくれたら全部サポートしてくれるらしい。ケイト先輩、めちゃリドル先輩甘やかしてますね。あとやっぱり優しい先輩だ。

「栗がたくさんいるんだ。集めてきてくれないか?」
「めんどっ。で、どれくらい栗が必要なんすか?」
「パーティーに出すとすると…2〜300個かな」
「そんなに!?」
「栗に熱を通して皮を剥いて裏ごしするところまで手伝ってもらおうか」
「オレ様帰ってもいいか?」
「僕も」
「薄情者!ユウは!?見捨てないよな!?」
「え、手伝うよ」
「即答!言った側からあれだけど、お人好しすぎる…」

栗の個数と作業内容を聞いて悲鳴を上げるエースと、気の遠くなる作業になりそうななので見捨てようとするグリムとデュース。捨てられた子犬の目で見てくるエースに、最初から手伝うつもりの自分は普通に返した。気に遠くなる作業だけど、栗拾いとか元の世界でもやったことないし、マロンタルトも作ったことがない。初めての経験だらけで楽しそうだ。

「約束しただろ?一緒にあやまりに行くって」

エースは照れくさそうにしていた。

作りたてのマロンタルトがおいしいと聞いて、グリムが手のひらを返す。変わり身が早い。デュースも手伝うそうだなんやかんや、君もお人好しよな。作りたて食べれるなら、学園長用に一切れ貰ってもいいだろうか。賄賂の品ゲットだぜ!

栗の木がある場所は、学園内の植物園の裏の森にたくさんあるらしい。なんでもあるなこの学校。放課後植物園の前に集合という予定に決まる。でも、その前に図書館に寄らせてもらおう、グリムは二人に預けよう。制御できてない火気は厳禁だから。オンボロ寮は環境改善が必要だから本はまだ借りられなさそうだな。
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