捻れた世界で生きてゆけ
女の子の話で盛り上がるなか、そういえば…と、パリピ先輩がとんでもない爆弾を落とした。
「西校舎の肖像画・ロザリアちゃんはなかなかレベル高いよ。興味あるなら紹介するけど、お見合いパーティーセッティングしよっか?」
(なななななんだってー!)
私の頭は混乱する。注目すべき点は肖像画の部分である。思いだすのは絵画さん。他にもいらっしゃたのか!しかも貴重な女の子。
(話してみたい!)
男子校と名乗るだけあって、生徒は野郎ばかりだし、学園の先生もいまのところ男の人しか見かけない。あたりまえだけどこの世界の女性にあったことがない。肖像画という点をガン無視すれば、唯一の女の子と話す機会があるのだ。この提案、無碍に捨てるわけにはいけねぇ!もしかしたら、唯一の女子の理解者になってくれるかも…と期待する。シタゴゴロMAXです。もうロザリアちゃんていう名前だけで、美少女か美人だと連想できる。なにより、綺麗どころを知ってそうなパリピもといケイト・ダイヤモンド先輩の評価である。求めていたファンタジーが私を待っている!
「いらねーっす!ロザリアちゃん可愛くても平面なんでしょ!?」
「イケてるなら平たくてもいいじゃん」
「よくねっーす!」
エースがその誘いを断り嫌がっていた。魔法的なものに慣れている彼なら、平面に興味がないのは当然。それよりケイト先輩の発言はスルーできなかった。
(まさかの平面押し!?平面の良さをわかってらしゃるとは!)
この方わかってらしゃる!平面…ようは画の好みさえあえば可愛い二次元の美少女(魔法の肖像画)と合法でお話できるこの世界。その垣根を超え評価する、ケイト先輩の苦手意識は一切なくなった。パリピで陽キャという偏見を、自らの発言で先輩はぶっ壊してくれたのだ。評価爆上げである。遠のいていた距離感は、今度は私から急接近しはじめたのである。
「すみません、ダイヤモンド先輩。自分、ロザリアちゃんとお知り合いになりたいです。そのお見合いよろしくお願いします」
「えぇ!?まさか…食いつかれた!?」
「「ユウ!?」」
「また、けったいなこと言いだしたんだゾ」
「…ロザリアは肖像画だぞ?」
豆鉄砲を食らったかのような表情でケイト先輩は驚いている。一年コンビとトレイ先輩までもが驚いていた。予想外だと思われたのだろうか?世の中色んな趣味の人がいると思うけど…。その中で呆れたように疲れた表情のグリム。私と一番いっしょにいるもんね。ぱんつを乾かす為に自分の魔法が利用されてから、私のする事、発言等など回数経てを慣れてきつつある。君も私に迷惑かけまくるんだからこれぐらい形容してよね。
「え、えーっと」
「はっ!まさかロザリアちゃんにもタイプがあるんですか?そんな…ダイヤモンド先輩顔面レベル要求されたら、自分は引きさがるしかないですね」
「まだ何も言ってないけど!あ、あれ!?なんか今、けーくん褒められてる???」
「よく考えたら…生徒も教師も軒並み顔面偏差値高いこの学園で、自分みたいなぼんやりのっぺらぼうモブ顔が、目の肥えてるであろうロザリアちゃんの好みにひっかかる可能性などなかった。自分が恥ずかしい。ダイヤモンド先輩、恐れ多い発言失礼しました」
「いや、そこまで卑下しなくても!ロザリアちゃんは確かにメンクイだけど、自分に好意的な子なら暖かく受け入れてくれるよ!?」
「マジですか。ロザリアちゃん天使かよ。て、ことは合格ですか?」
「合格も不合格もないよ!?見目は麗しい方が喜ばれるけどねっ…うん、カントクセイちゃんのことロザリアちゃんに紹介しておくね。連絡とりたいからスマホどうしようか…」
「今度ぜひデートに誘って下さい。ぜひ平面の良さについて語りたいので。まさか先輩が平面の良さをわかる方だと思ってなかったので、先ほどの無礼すみません」
「突然の態度の軟化がソレなんだ」
「先輩の人柄で平面押しに悪いやつはいません。ぶっちぎり尊敬する先輩一位に君臨しました」
「どんな理由!?後輩からの評価は嬉しいけど!?」
さっきとうってかわって、距離無しのごとく先輩に近づく自分に、ケイト先輩は戸惑っているがウザがらないしキモがらない。むしろ、ちゃんと話を理解しようと聞いてくれるし、うわ、なんだこいつ。みたいな雰囲気がまったく感じないので、安心して素の自分をだせてしまうのだ。偏見を持って接してしまったのは自分の方だ。反省しよう。まぁ、本人はそんな気がないだろうけど自撮りに巻き込み晒すのはやめてね!顔面格差を全世界に発信しないで!
「…大人しい子だと思ってたら、よく喋る」
「なんかきっかけがないと第一印象それですよね」
「クローバー先輩も気をつけて下さい」
「気をつける?危なくなさそうに見えるが?」
「特に魔法関わった時のあいつのテンションです」
一気に喋りすぎて喉が渇く。水を一口飲んだ。
「ああ、緊張してきた。エースとかデュースとかレベル期待されてたら、本当申し訳ない」
「あたりまえのようにオレらも巻き込まれた」
「あたりまえのようにまた褒められた」
「てか、そんなに容姿て大事?中身の方がじゃね?」
「でたーーー!持っている者だけが許される『大事なのは中身』発言、性格良くて陽キャで特に容姿のいい者が言うと好感度爆発させる呪文…ただし自分みたいな容姿がそんなじゃないやつが使うと負け惜しみにしかとらえられない…破滅の呪文。くそうエース。火に油注ぐタイプのくせに好感度爆上げじゃないか!本気でそう思ってるとこが勝てないじゃないか!」
「早口やめて!ただ言っただけのコレにそんだけの意味があんの!?お前は褒めずにいられないの!?罵りどころか好感度あがってじゃん!ホント何と戦ってんの???」
「呪文なのか??…この流れは、嫌な予感が…そろそろ話を戻さないとまたアレが発動してしまう!」
「ん?アレって?」
「ケイト先輩!アレが発動する前に寮講義に話を戻して下さい!」
「アレって何!?」
脱線した話は、見兼ねたトレイ先輩によって仕切り直しとなる。ああ…また暴走してしまった。こういうところがあるからぼっちになっちゃうんだよなぁ。
「自分だって一度でいいからイケメンに生まれたかった。世知辛いの」
「人生一度しかないだろ…ユウは元の世界で何があったんだ?」
つい最近、女から男に変わったんです。前にも言ったが強制性転換するなら、せめておまけでつけてくれたらよかったのに、見目麗しくなってみたいものだ。
大事な部分をすっ飛ばし話す監督生は理解していなかった。
(この子、こういう子だったのか?)
(こういうヤツです。魔法に関わるものが大好きみたいで…たぶんその内、第一印象粉々に粉砕されると思いますよ)
(ある程度相手の趣向を気にしないケイトが、押されるのはなかなかだぞ?)
(え!?そうなんですか!?)
(まぁそうだな。肖像画に食いつく奴、初めて見たしな)
(えぇ、そうですね。僕も初めて見ます…)
そんな会話を、若干頬をひきつらせるトレイと、遠い目をしたデュースがこそこそ内緒話していた。この世界でだいぶ特殊な性癖を暴露してると彼女は微塵にも思わない。
「リリアじゃ。リリア・ヴァンルージュ」
エースとトレイ先輩の会話が止まった瞬間。
パッと上から少年が姿を現した。
魔法のように。
自分は興奮のあまり、グリムを巻き込んで倒れた。
「ーーーてっことで、だいたいの寮はこんなもんかな」
「あとは……ディアホニャララ寮ですっけ?」
「キリっとした顔で誤魔化すなよ、ディアソムニア寮ね」
寮講義をどこから話たっけと、トレイ先輩とケイト先輩が話はじめ、一通り終わり最後の寮となる。エースとデュースが漫才していた。
「ディアソムニア寮は……あの食堂の奥の特等席に固まってるメンツ」
ケイト先輩が顔の方向をそっと向ける。自分たちはつれてそこを見た。わぁ、雰囲気が独特的。ケイト先輩いわく、超セレブかつ庶民が話しかけづらいオーラ放ちまくりとのこと。寮長からして近寄りがたさMAXと話すケイト先輩の表情は本当に困った表情だ。意外だった。そういうの気にしない。あの誰に対しても陽キャパワーを見せつけるケイト先輩が、そこまで言う相手がいるなんて。
「あれ?子どもが混じってる」
「うちの学校は飛び級入学がアリだからな」
エースの疑問にトレイ先輩が答える。この学校、本当になんでもありなんだなぁ。学園長の独断で自分とグリムが入学できたくらいだからそれくらい普通に感じてしまう。
「でも、彼は子どもじゃないぞ。俺たちと同じ三年生の」
その言葉が止まった時だった。
少年が現れたのだ。
ーーーで、冒頭に戻る。
グリムが、コイツ瞬間移動したんだゾと呟いたあとの惨状だった。
「カントクセイちゃん!?大丈夫!?」
「はっ!自分は…!?」
「お前一瞬意識トンでたぞ!?」
反射的に支えてくれたらしいケイト先輩と、心配したデュースが駆け寄ってきてくれた。
「だ、誰か…オレ様のことも…心配して欲しいんだゾ」
自分が潰してしまった獣には、あとで購買部で詫びツナ缶を買って帰ろう。必要品もいるし。
「すみません。ご迷惑おかけしました」
「ほ、本当に、大丈夫か?」
「大丈夫です。持病の目眩が突発的にでただけです」
「保健室に行った方がいいんじゃ?」
「いや、大丈夫なんだゾ」
「〝魔法〟に触れたから興奮しただけだろ」
「コイツ、瞬間移動に興奮しただけっスから、先輩方気にせず話を続けて下さい」
「さっき言ってたのはこういうことか」
「あ〜今朝のテンションて、ソレだったんだ〜」
心配する先輩たちとは極端に、自分に慣れた三人組はシャッキと仕切り直す。トレイ先輩が遠い目をして呟き、ケイト先輩は今朝のことを思い出すように呟いた。その節はすみません。でも、そろそろディアソムニア寮の人を放置するのは悪いんじゃないかな。私のせいですけどね!!
ばちっと視線があった。
(わっ、可愛らしい顔。あー!このヒト?よく見たら耳が長い!)
「ディアソムニア寮の先輩、せっかく話しかけてくださったのに。お騒がせして申し訳ございません」
人外疑惑浮上に、動機息切れ目眩を気合でふきとばす。もうこれ以上先輩たちに迷惑かけるわけにいかない!
「で、なんの話してましたっけ?」
「リリアちゃんの、ね、年齢の話だっけ?」
ケイト先輩が表情を痙攣らせている。ちゃん付けはするんだ?なんで今の流れで普通に話せるんだ…とトレイ先輩が目元を覆っていた。騒ぎおこした人間なりのケジメですよ。
年齢不詳の美少年・リリア先輩は、目元を細めてうんうんとうなづいていた。
「うむ、なかなかの大物じゃな。お主ら、わしの年齢が気になるとな?」
「ふ、普通に話をしはじめたんだゾ」
「クフフ。こんなにピチピチで愛らしい美少年のわしだが、たしかにそこの眼鏡が言うように子どもとは呼べない歳かもしれんな」
「ピチピチ…」
今の騒動を何事もなくスルーしてしまう精神は年の功に思えた。この笑い声どこかで聞いたことがある。トレイ先輩が一歩引くような表情を浮かべていた。自分で言っちゃうのはアレだけど、失礼やで。でも!やっぱり!学園長枠のヒトみたいだな。このヒトは、人間に友好的みたいだけど。
「遠くから見るだけでなく気軽に話かけにくればよかろう。同じ学園に通う学友ではないか?我らがディアソムニア寮はいつでもお前たちを歓迎するぞ」
奥の方のメンツを見れば〝気安く話しかけるな人間風情が!〟とでもいいそうオーラがでまくっていた。なんてこった。絵画さんが言っていたことってこれか…これは難しい隔たりがありそうだな。
「気軽に話かけて欲しいって、カンジじゃないけどな……」
デュースがそう言って、エースが気にくわないと言いたげな表情だ。行ったら確実にシャンデリア事件以上の出来事がおこってしまいそう。何も起こらない訳がない。
「そうか。それは残念だ。そこの、む…こほんっ、人の子は、わしに友好的に見えるが、お主は来てみぬか?」
「えぇ!?自分こそ行ったらダメなのでは!?」
「はぁ!?こいつが行ったら何しでかすわかんねーよ!?」
「ふなっ!それはダメだゾ!まだ頭が安定してない!」
「それが一番ヤバイだろ!興奮しすぎて心配停止したらどうするんだ!?」
「そうだね。ディアソムニア寮て魔法力高いから、魔法耐性がないカントクセイちゃんがいったら、体にどういう影響でるかわからないしね」
「いや、死にはしないけど!勝手に殺さないで!なにがあっても鼻血くらいで済ませるから!」
「鼻血はでるのかよ」
エース、おまえにだけは言われたくない。どういうことだグリム!
「と…いういうことで、ヴァンルージュ先輩のお誘いは、本当に、本当にありがたいんですけれど、人間の分際でお声がけするには勇気がいります。でも、お話できて嬉しかったです。もし、また今回のこと気にしていなければ、またお話したいです。ありがとうございます!」
気にして話かけにはきてはくれたんだから、素直な気持ちは伝えてもいいよね。私の言葉にハーツラビュルの面々がギョッとした。
「食事中、上から失礼したなーーーではまた、いずれ」
リリア先輩は目を見開き、それからーーー嬉しそうに笑った。
「おい監督生。いや、ユウ。まーた、そんなノリで対応しやがって…相手は、20メートル以上離れてんのに、オレらの話が聞こえた奴だぞ?コワッ!」
彼が立ち去った後に、エースが呆れた声で話かけてきた。最後の方小声だった。たぶん、聞こえてると思うよ、それ。
「怖がってるのに、タメ口だったじゃん。ちょっとは先輩に敬意を払おうよ」
「ユウて普通の人間だよな?なんでそんなに怖くないんだ?」
「え?最初に狸に丸焼きされそうになったり、ゴーストに囲まれたり、鉱山の冒険で、色々あったから慣れてきたのかな?あれくらいで怖がってたら今後も大変そうだし」
「なにその適応力!?」
「図太すぎる」
「というか、もしかしたら人外の先輩かもなんだよ!?さすがナイトレイブンカレッジ、ファンタジーに憧れる少年の夢を叶えてくれるところだぜ」
「魔法士養成学校なんですが」
「誰が狸じゃーーー!!!」
某猫型ロボットのように怒るグリムをいさめつつ、わちゃわちゃ一年ズで話す。先輩たちがしーんとしていることに気づいた。
「先輩たちどうしたんですか?」
「ばーか、お前のせいだよ」
「引いているんじゃないか?」
先輩たちに話しかけたのに、答えかえしたのはコンビだった。こいつら、どんどん辛辣になってきてない!?
「あーあ、リリアちゃん嬉しそうだったな」
「そういう反応、普通なんじゃないんですが?」
「ここでは、君のいう〝普通〟は〝普通〟じゃないんだよ。彼はディアソムニア寮の中でも友好的な部類…なんだがな、距離の縮め方がどうにも」
絵画さんも言ってたな。温厚的なトレイ先輩がそういうなら、ここはどんだけねじくれ曲がっているんだ。距離の縮め方ならケイト先輩もどっこいどっこいな気が。
「うんうん、そうだね!カントクセイちゃんはまた話かけられるよ…まあ、ロザリアちゃんの話に食いついてきたくらいだから感性が特殊なのかな?」
「心配だな…この子。ここの学園は捻くれた奴らばかりだからな。優しい言葉で声かけしてくる奴にはまず警戒をもて」
「なに、お父さんになってんスか!?トレイ先輩!」
「親切の塊みたい先輩たちがそう言いましても」
説得力がなさすぎる気がする。先輩たちが困ったように顔を見合わせて、そういうところだと言った。嬉しいと思えば、嬉しいて喜べればいいのにと思う。きっとこの学園では私は〝いい子〟ちゃんだと思われてしまうのだろう。いい子でもないんですが!!
ヒトでも、人でも、レッテルははられてしまうと知った。
その後、ディアソムニア寮の寮長はヤバヤバのヤバだとかいう話から、ハーツラビュルの寮長もヤバヤバのヤバな話に移り変わり。ここぞとばかりに悪態をつくエースに、ケイト先輩が相槌うち、エースは勢いのついた台詞を言い放つ。
「心の狭さが激ヤバだよ!」
「ーーーふうん?ボクって激ヤバなの?」
エースの失言て神かがり的なタイミングだよね。合掌。
ケイト先輩はとっさの機転で、激ヤバなくらいかわいいという褒め言葉に変換していた。世渡り上手と下手の両極端を見てしまった。