捻れた世界で生きてゆけ
グリムが逃げないように、利き腕の方じゃない方で抱きかかえながら授業を受けた。他の生徒と先生が二度見していたがガン無視である。グリムは喚いていたが『昨日の今日なんだから、学園長に知れたら今度こそ退学かもね』と、喚くたびに最悪の未来を囁いていたら大人しくなった。これも一時的な効果だ。
「あー、監督生それは一体…?」
「先生、お気になさらず。監督してるだけなので」
「物理で?」
監督生が魔物を締めていたと、ささやかに噂は流れていくのであった。
ようやくお昼休みになる。待ちにまったご飯です。グリムとエースと自分は特に顔を輝いていたはず。
「イエーイ!なんだゾ!」
「こいつ昼休みになった時間、元気になったな」
「現金すぎる」
ビッフェ式のオシャレな食堂で楽しくなってしまう。グリムはるんるん気分で、アレもコレもと言ってくる。自分の分も乗せているので、プレートはてんこ盛りになってる。自分の顔と皿を、周りにいた人が二度見してた。違うんです。これ。半分は自分の近くにいる毛玉の食い物です。
「おいおい、どうしてくれんだヨゥ?」
すっごいテンプレ不良キターーー!!テンション爆上げ状態のグリムは周りを注意深く見ていなかったので、いかにもな上級生にぶつかった。カルボナーラを落としてしまったらしく、慰謝料としてグリムのお肉よこせと言ってきた。しかも、ナチュラルに飯テロかましてくるのやめろよ!厄介な!
「先輩、私闘は禁止にされていたはず…」
「あぁ!?覚悟はできてんだろうなぁ?」
諫めようと声をだすデュースに、不良先輩のパンチが襲う。ワンパンチで終わった。条件反射なのか、デュースとエースが二人の先輩を〆あげる。あまりの俊速に一瞬で騒ぎは終わる。下級生にオラついてくるくらいなので、たいしたことなかったらしい。テンプレ通りのセリフを吐いてすたこら逃げていく。
「酷い目にあった」
黒の手袋を嵌め直すデュースの顔は汗がでてたのに、息が一つも乱れていない。エースもグリムもそれを気にしていない。
「騒ぎはおこさないようにしてたのに…」
「本当うまくいかないよな」
「自分もデュースに、喧嘩習った方がいいかな?」
「え?なんでだ?!」
「お前の場合、逃げ足の強化した方がいいんじゃね?」
「それも、そうだね」
しどろもどろになってるけど、身のこのなしが慣れてるよ。元ヤン疑惑が確信にかわりつつある。
テーブル席を陣取り、食レポしはじめるグリムにどこからそんな知識を、と思う。食事に関して語彙が豊かになるので、グルメリポーター的なものの方が天職なんじゃ…テレビにもでれるし目立つし、マスコットボディで言動と行動さえ気をつければ人気者にも…?グリム的にいいんじゃない?
「この学園には7つの寮があるんだよ」
グリムが食べながら二人に他の寮のことを聞く。自分も気になってたところに、声が別の方向から聞こえてきた。声の方を向くと、二人の上級生がいた。エースがげっ!と呻く。今朝、我々を騙したちゃっかり笑顔のパリピ先輩ことーーーケイト・ダイヤモンド先輩と、知らない先輩だ。寮の外ならルールに従わなくていいらしいので、今は優しい先輩だと自称している。デュースがちゃん付けを嫌がっていると、知らない先輩がケイトの愛情表現だと謎のフォローを入れる。慣れてて麻痺してたけどエースがタメ語で先輩に口聞いてて、これ例の寮長さんに聞かれたらまた怒られるのでは?
「悪い。トレイ。トレイ・クローバーだ。君は…」
パリピ先輩と同じくハーツラビュルの三年生だと自己紹介してくれた。そして、いつの間にか会話相手が自分になっていた。エースとしゃべっていませんでしたか!?そして、ナゼ隣に座る!?穏やかな雰囲気の人だなと思ったらぐいぐいきやがる!追い討ちをかけるように、仲良くしようと言うパリピ先輩が、みんなとアドレス交換を提案してくる。ちなみにグリムを挟んで座るので、ついに私はハーツラビュル寮生に囲まれた。
「お、おぉう…!?」
距離感の暴力に、陰キャは怯えます!アカどうのと聞こえたが、この世界もそういうのあるのか。スマホは持ってないことを伝えると天然記念物扱い、スマホを買いに行ことデートに誘われてビビった。紛らわしいこと言わないでほしい。スマホの店だけ教えてほしいです。
エースがハーツラビュル寮のことを聞くと、普通に二人は言っているはずなのに不思議な違和感を感じた。
「伝統を重んじるハーツラビュル寮でも、前の寮長はゆるゆるでね〜」
「リドル寮長は、一年で寮長になったんだ」
(前の寮長とは交代した感じなのかな?)
ご飯食べながら、二人の先輩たちによる寮講義が開催された。7つの寮の特徴をわかりやすく教えてくれるが名前が長い。
「…覚えきれるかな」
「みんな名前がなげぇんだぞ〜!」
「ざっくりでオーケー!嫌でも覚えるし」
「闇の鏡で資質が決まるが…なんとなく寮ごとにキャラが固まってる感じあるな」
「めちゃわかる」
こんがらがる自分たちに、トレイ先輩が具体例を指し示してくれた。
「マッチョが……イヌミミカチューシャとは斬新な」
ケモミミインパクトで教えてくれた内容が吹き飛んだ。ケモミミはサバナクロー寮とだけ覚えおこう。ケモ、ケモミミ…まじかとなってる間、色々教えてくれたのに今度はポムフィオーレ寮のインパクトでふっ飛んだ。
(女の子!?男子校なのに!?)
「ホワッ!超可愛い女の子がいるんだゾ!」
グリム、人間の見目の良し悪しわかったんだ!?
「エッ!?男子校なのに!?」
「アホ。男子校に正式入学した奴に女がいるわけないでしょーが」
「「えー!?」」
エースさん…この学園に現在マジカル男体化しちまった女子ならおるんですけどね…ポム寮(略)の美のおかげで、私の中身のなよさが霞んでいるらしいと確信した。どおりでバレないわけだ。私のこと知ってるの、しゃべる絵画さんとクロウリー学園長くらいだし。男子が会話しているのを聞きながら、ある考えが思いうかぶ。
(やはり、男の娘か)
その子を見たとき脳髄に激震がはしった。あんな可愛い子が女の子であるわけない。この学校男の娘もいるのか。ああいうタイプわりと中身が男前だったりするんだろうか…?ケモミミインパクトと男の娘インパクトで他の寮のほとんどの印象がふっとんでしまった。少しづつ覚えていけばいいかな。講義はまだまだ続くよう。
〝彼女〟は気づかない。絵画やクロウリーが気づいているなら、それに近い似た性質の者たちが気づく可能性があることを。
例えば、普段は迷惑をかけまくる魔物が、心配げにチラッと気にしてることも。
例えば、黄緑と黒の腕章をつけた幼顔の少年が、ハーツラビュル寮生に囲まれた腕章のない〝少年〟を視認したことを。