捻れた世界で生きてゆけ
変な夢を見た。
トランプ…兵?が白バラを赤いペンキで塗って赤バラにしている。
女の子が尋ねたら、女王様が赤いバラ好きだからという…夢。
不思議な夢。
でも、なんでだろう。
私、なにか忘れてる?
「変な夢見た…」
帰ってきて早々に寝つきが悪いだなんて。ちゃんと寝てゲージ回復しないとやべぇからな。明日からの正式な初登校が遅刻なんて笑えない。
むにゃむにゃしているグリムを抱き枕にするように引き寄せ、二度寝しようと布団に潜りこんだ。獣臭が気になるので風呂場に強制連行したが、ツケツナ缶でつってごしごししてよかった。誰かが昔使っていただろうブラシも手入れして、ブラッシングしてあげたら気持ちよさそうだった。ふわふわのボディは最高である。チャームポイントらしい耳の炎は、聞いたら一時的に消せるらしい。
「寝てたらかわいいのに」
もしくは減らず口がマシになればいいのに。
『ドンドン』
寝ようとしたら、今度はドアを叩く音が聞こえた。えー?勘弁してくれよ。ゴーストだったらしばかなきゃ。
「オレ、ここの寮生になる!」
ぶすくれたデカい首輪をしているエースが現れた!お、おまえ、こんな真夜中にハーツラビュル寮で、どんなプレイを!?うちのオンボロ寮入居者大歓迎だけどそれはアカンやろ。
グリムがゲッとうなった。
「赤毛の上級生にやられた首輪なんだゾ」
あ、最初の時のアレか。危うくとんでもない勘違いをするところだった。
自寮に戻って早々、寮長のタルトを盗み食いしたらしい。グリムと同じレベルじゃないか!よく冷蔵庫の中のモノ食べれたな!?
話を聞いてみれば、謝りもせず言い訳をぐだぐだ。夕食を食い損ねてお腹がすいているのはしかたがない。だが、食べ物の恨みは恐ろしい。ほぼこいつが悪いです。エースとこの寮長さんも厳しいすぎると思うが、自分たちも寮に食い物がないのでお腹空いているから、もしそんなことされたら食ったやつを磔にするくらいしちゃうかも。この寮たりないものが多すぎてヤバいから、学園長に直談判するしかない。誤解もといておかなきゃ。なんせ我々、一文無し。替えのぱんつもねェんです。ヤバない?もし私が女の子の体だったら配慮なさすぎるで。ぱんつは手洗いしてグリムの炎(弱火)で乾かした。話題のチベスナ顔で私を見てきたが知らんぷりした。監督生、相棒が火使えて嬉しい。万能すぎる。
あれだけひやかしに来てる、ゴーストたちがかわいそうなモノを見るような目で我々を見てきたのは、なんともいえなかったけど。
「明日の朝、一緒にあやまりにいってあげるから。もう寝よう」
「言ったな?絶対だぞ!?」
眠すぎてエースの頭に犬耳が幻覚で見えるような気がする。次の瞬間、エースがとんでもない爆弾発言をした。
「ね!オレ、スマートだからこの部屋で一緒に寝ていい?」
自分たちの部屋で寝たいと言いだしたのだ。他の部屋はまだ掃除してないから、寝泊りできるところが少ない。
「談話室のソファーで寝ろ」
ぶすくれたエースは、とぼとぼとぶつぶつ言いながら部屋にでていった。今度は尻尾が見える。完全に幻覚が見えはじめた。グリムも私もやれやれとしながら、布団に潜りこむ。
男子高てこんな距離感近いのか。この世界に来てから、小学校以来こんなに男の子と喋ったことなかったなぁ。あれ?真夜中に野郎が訪ねてくるて情操教育的に悪いんじゃ。同じ屋根の下で同年代の男の子といるなんて、お父さんが知ったら卒倒しちゃう。お母さんは喜びそうだけど。男と認識されてるぽいっから、そういう対象にはならなさそうだ。元女子としては、それでいいのかとも思うけど、おとことおとこのらぶすとーりーがはじまってしまうのは避けたい。否定しているわけではない。
それに元の世界に帰るんやし…私が帰れたら、グリムはどうなってしまうだろう?四年間学校に通わせてあげてほしいなぁ。学園長に話さなきゃいけないこといっぱい。
同じ屋根の下に、異性がいてもすぐに寝ました。色々あったからな。確実になにか大切なものを豪速球で捨ててる。
エースもグリムも起きてない。朝、畳んだ制服の上に、手紙と小包が置かれていた。パラっと開ける。
『監督生くんへ
ゴーストさんから聞きました。生活面の配慮が怠っていたのを申し訳ありません。これは私からのささやかな資金援助です。あなたのことだから気にするでしょうから、学校のお金ではなく私の手持ち分からなので安心して下さい。当面の生活資金が入っています。好きに使って下さい。買い物は学園の購買部でできます。正式に入学が決まったので、後日そこら辺も学園長室でお話いたします。
ナイトレイブンカレッジ学園長・ディア・クロウリー』
ゴーストさああああああん。学園長うううううう。ありがとうございますううう!!!ゴーストさんが静かだったのは、学園長に言いに行ってくれたんだ。うそ、嬉しいんだけど。そこに憐れみが含まれてようが、すごく今必要なやつだから。これでなんとかなりそうだ。飢え死には回避だ。ゴーストたちのあれやこれはふっとび、高感度爆上げである。実に単純。購買部に行ったらなにかお礼の品を買おう。
学園長には学園長室のある方面に土下座しとこう。それにしても、どうしよう。ここまでしてもらうのも気がひけるし、放課後終わったあととか、休日とか私だけでも雑用の仕事させてもらわなきゃ申し訳ない。グリムは嫌がるだろうから、無理にさせなくてもいいや。むしろ無理矢理させて、トラブルが起きたら目も当てられない。ゴーストさんたちに面倒見てもらえるかな?
るんるんした心境で、小包を開ける。
そのお金が、姿を現した瞬間。
私は崩れおちた。
この世界の感覚と、自分の世界の感覚が恐ろしくズレていることに。
マドルの札束が、1束以上あることに。
学園長!?お小遣い数千円の高校生になんちゅうもん渡しとんのやあああ!
この先、自身と相手の、お互いがいくつものカルチャーショックを受けることに、彼女である彼は気づいていなかった。