捻れた世界をまだ知らない
作戦はこうだった。
まず、自分とグリムが別々に奴の注意を引きつけ洞窟から引き離す。十分距離が取れたら、エースの特大突風とグリムの火力ましましにした炎の竜巻で大ダメージを与える。そこへデュースの召喚術で重い物を召喚し、奴の頭上に落とし追い討ちをかける。動けなくなったところを洞窟へダッシュ!目当てのものをゲットしたらこの鉱山ともおさらばだ!スムーズに行くとは限らないので、あとは臨機応変とガッツで乗り切るしかない。
この作戦をどう思いついたって?まさか石像黒焦げ事件がフラグだったなんて誰が思うまい。それが原因ではじまった騒動なのにね。あとは偉大な先人たちのサブカルチャーを参考にさせていただいた…この世界にゲームあるのかな?
「その前に、あんた名前は?」
「え?ユウだけど」
「これから共同戦線をはるんだ。よろしくな、ユウ。オレのこともエースて呼んでくれよ。ファミリーネームを同年代のやつにそう呼ばれんの慣れないんだよ…あと、悪かった…」
あ、あの一言多いエースがあやまったー!ちょっとは気にしていたのか。デュースが急に態度が変わって気持ち悪いなと不気味がって、エースはしおらしさをけし、また喧嘩しはじめたが険悪の雰囲気ではなさそう。
「僕もデュースという名前で呼んでくれ、ユウ」
「しょーがないからオレ様も、名前で呼ぶんだぞ!ユウ!」
唐突に名前呼びイベントが発生。自分もグリムいがい心の中で呼んでいたからありがたい申し出だ。
「よろしくね、エース、デュース、グリム!」
照れ臭そうな空気が充満するなか、自分はついでとばかり言う。これから決戦だ気合を入れる。
「いくぞ!野郎どもーーー!」
「ユウもキャラ変わってない!?」
「その前に円陣を組んでみたらどうだ!?」
「イイね!」
「あつくるしいわ!」
「オレ様できないんだゾ…」
「ぎええ!怖い!」
最初の出だしはうまくいった。魔法石をゲットできたが、バケモノの復活速度が早かった。テンパりながらもデュースが大釜をくりだしなんとか脱出するもバケモノは諦めない。このままじゃラチが明かない。
「奴の動きは弱まっている」
口では弱音をはくが、みんなの表情は覚悟を決めていた。
「あいつを倒そうーーー!!」
グリムと目があう。その瞳は少し不安そうだった。普段は自信満々なのにどうしてそんな瞳なのだろう?館のゴーストの件から、ずっと信じてる。
「グリムの力なら大丈夫だよ!」
小さな魔物の瞳から、不安は消えた。
完全勝利を決めてみんなでハイタッチ。言葉で否定しているが、完全にこの三人の空気は仲良しに見える。やはり、戦いを通して男たちの絆は結ばれていくのか。私は戦えないから、邪魔にならないように物陰から見守っていた。それについて、どうすることもできないので心苦しく思ってたら、エースもデュースもグリムも、私のおかげだと言ってくれた。体力作り頑張ろう…その言葉の暖かさにうるっときながらしぼりだした。
「みんな協力してくれたおかげだよ」
さぁ、学園に帰ろうとしたら。バケモノのところに落ちていた謎の黒い石をグリムが食った。人間組全員はドン引きである。
「コラ!ペッしなさい!ペッ!」
「なんか食欲なくなるな…」
「食い意地はりすぎだろ…」
げんなりの表情でとぼとぼと帰っていく。ゲテモノの食レポじゃなかったら、グリム意外とコメンテーターにむいてるのでは?ゲテモノじゃなかったら美味しそうだったな…そんなこと言うと二人からまた勘違いされそうなので黙っておく。なんとかなったが、またこういう騒動で退学の危機がないとは言いきれない。今回の戦いでグリムの力の強さをまた改めて感じた。ちらっとボディガードの相談しみようかな。
あのバケモノは魔法石に執着していた。
学園長からここにバケモノがいるとは聞いていない。
なにかを守っているようにも見えた。
……気のせいだろうか?
「魔法石持って帰ってきたんですか?」
勝利の生還を果たし、命からがら帰ってきたら。え?マジで?というノリの学園長が普通に退学届けを書いていた。おい、待てコラ。
二人からの文句を聞きながし鉱山での話を聞いてきたので、勝利の余韻が残っているみんな熱く語った!命がけの大冒険を、な!なおグリムは、効果音を連発して重要な話のこしをおるので口を塞いどいた。バケモノからでてきたゲテモノもののことは、食欲失せるから話さなかった。
自分たちの話を聞いて大号泣しだす学園長に、グリムもといみんな後ろに後退した。わりとガタイよくて身長も高いうえ、あの仮面をつけその動作なので完全に不審者。大号泣から復活した学園長は、ナイトレイブンカレッジのことを語りだすのだが、いいところ一つも語ってない。ふと、真っ先にエースの顔が思いうかぶ。これからは大丈夫そうだけど、その語る内容は納得できるのが悲しいところ。自分のことも褒めてるらしいのだが、いいところ言っていない!猛獣使いの才能とかどんな才能だよ。話の流れで学園長の年齢不詳もしくは長寿疑惑が浮上したが、魔法学園の学園長だしファンタジーらしくていいと思う。
そこから、怒涛の展開。
エースとデュースは退学免除。
グリムと自分は異例の生徒として学園入学。
自分は史上初の魔法の使えない監督生。
安堵する二人。大喜びする獣。
グリムの大喜びに私もほっこりと心が暖かくなる。ずっと入りたいて、言ってたもんね。
「よかったね、グリム」
学園長の口癖はみんなスルーしているが、私はスルーしないでいてあげよう!
「ありがとうございます。優しい心遣い感謝します」
一礼してお礼を言った。裏になんかあると思わないわけないけど、この世界に居場所のない自分はホッとしたのだ。グリムとエースとデュースとも仲良くなれたと思うし、おそらく安全な場所で元の世界の戻り方を探せる。どうして自分がこの世界に迷いこんだかわからない。それもいずれわかる時がくるのだろうか。家族のことも心配だけど今がなにもできない。
「この世界のこと学んでいきたいと思います。知りたいことがたくさんあるので、勉強することが楽しみです。ご指導よろしくお願いします」
せっかくの魔法学園。魔法薬学とかあるのかな?何を学べるのだろう楽しみだな。
「ええ…私、優しいので」
どこか困惑した声音で、学園長はそう答えた。
監督生の仕事の一つ、貴重な魔法アイテム『ゴーストカメラ』を所持し生徒たちの学園生活を記録していくの請負った。こんな貴重なもの…収納できる入れ物探さなきゃ。でも、ヘタしたら許可なしで写真撮る行為て変態に間違われる可能性あるよね。余程の悪質行為じゃない限り、学園長正式の仕事だからそれ言って生徒たちに撮ってもいいか許可もらっていこう。そもそも、生徒として受け入れてもらえるのか、無理だな!アク強いしこの学園!
学園長室をあとにして、それぞれの寮へと戻る。エースとデュースは喧嘩しながら、お互いの名前を呼んでいたのでいいコンビじゃん。
お風呂に入ってベッドへ転がると、グリムをまどろみながら見る。喜ぶるんるんのグリムに、そうだ、と思いだした。水をさすような話題だが浮かれすぎも注意だ。巻き込まれるの私だし。寝る前にグリムに言っとこう。
「ねぇ、グリム。もしまた今回みたいな事態になって一緒に学園を追いだされて」
「んなぁっ!?いきなりなんだゾ!?」
「問題おこすじゃん。でね、グリムさえよければ私とさぁ…一緒にいてくれない。ツナ缶あげるから」
「オレ様がなんでもかんでも、ツナ缶で釣れると思うなよ!?」
「無理にとは言ってないよ。未来の大魔法士様にお願いしてるんだよ〜」
「………ま、まぁ、検討はしといてやるんだゾ」
言質はとったぞ。これで少しは保険かけられるか。
眠たい。ほぼ徹夜だったもんな。
ああ、でも。
「…ありがとう…よかった」
「オーケーはだしてない!?」
最初会ったときと、ずいぶん激変した関係。
あの時、この部屋へ飛びこんできてありがとう。
できれば、もう少し言うこと聞いて欲しいな。
明日からどんな毎日が始まるだろう。