捻れた世界をまだ知らない


そのお値段約10億マドル。こっちの世界で言うと10億円かな?支払うなんて一生をかけても無理やん!!逮捕される!?牢獄ものじゃない!?コレェ……いや魔法の世界だから…もう死罪じゃ…

「全員、即刻退学です!」

悲鳴をあげる二人を傍らに、自分はズコーと某新喜劇のようになった。



いやいやいや…学園長!?そんなんでいいんですか!?そんなノリでいいんですか!?学園の最高責任者・学園長がこの学校の問題を責任とらなきゃいけない。まず然るべきとこで話し合わなきゃいけないはずだ。むしろ退学だけで済むの!?事故と不注意とはいえ、これ普通に器物破損で立派な犯罪。自分たちお縄では?と、とりあえず命の心配はなさそう。

学園長の言葉に悲壮感漂う二人、やっぱり退学の流れで話は進んでいる。自分はどんどん落ちついて頭が冷静になっていく。

(このままいくと私が一番ヤバイんじゃない?)

色々理由があるにせよ、この二人はこの世界の住人だ。帰るべき場所があり、守ってくれる親がいる。弁償もしなくていい。

(かたや自分はどうだろう?)

学園の外に放り出されれば、身分証明証も持ってないし働けるかもわからない。そもそも未成年だ。この二人とはほぼ初対面でこれ以上迷惑かけれないし…。モンスターも普通にいるのに戦う術もない、知りあって間もないグリムは助けてくれないだろうし。怪我しても傷を癒すこともできず金もないから病院にいけない。大怪我して苦しみながら死んだり、生きながら喰われたり…うわぁ、嫌な想像しかできない。泣きそう。思い浮かぶのは餓死、病死、どうあがいても悲惨な末路。打ち首も怖いが、生きながら喰われたりとかよりはまだ…?

(…もうお縄について、ブタ箱にぶち込まれた方がまだ希望があるんじゃない?某魔法学園の世界みたいな牢獄とかは嫌だけど!)

「このシャンデリアはもう直せないでしょう」
「そんな…」

学園長とエースの会話が途切れると、自分は学園長に話しかけた。

「学園長、お話があります」
「…貴方か。貴方も文句がおありかい?でも、こればかりは私もさすがに庇えないですよ。身寄りもない若者を放りだすには心苦しいですがが…でも、ひと」

なにか言いかける学園長をさえぎり、私は一気に一息でしゃべる。

「それは重々承知です。なので学園長にまだご慈悲があるなら、これまでおこったすべての問題を異世界から来た自分の責任にしてもらえないでしょうか?」
「「「え?」」」

全員、ギョッとこちらに顔を向ける。グリムはまだ気絶中。

「自分はこの世界のことをまだ知りませんが、悪いことをしたら裁かれる場所があるはずです。えっと、たしかハート女王様とかいるくらいですよね?ここに来た詳細とかこれまでのことで充分に罰せられると思います。自分は異端です。歓迎されてないのなら、これ以上この世界に変な影響を及ぼさないように捕まえて監視する方が、あなたも安心すると思うのです。学園長もこれから事後処理とか対処しないといけませんよね?」
「え!?いや、えっーと…まあ、君の同行が把握できれば…楽に…て、えーーー?!」

おお、反応に手答えあり。超困惑してる。これはイケるか?命乞いもするぞ!ついでにこの二人の退学も取り消してもらおう。エースはまぁともかくデュースは手段が間違っていたとはいえ一生懸命手伝ってくれたのに被害者すぎるんだもん。自分たちに関わらなければ、こんなことに巻き込まれなかった。グリムは自分とペアでの条件だから退学回避は無理っしょ。あんなに喜んでたから、ほんのちょっと可哀想な気もするけど、考えなしの行動するから。

異世界人と魔物に巻き込まれ唆されて、石造黒焦げ・歴史的遺産破壊に関わった可哀想な被害者ていうような感じにすればいくらか同情もよせられるだろう。自分たちのことは式典で顔も割れてるし、そもそも前代未聞の事件だし。それに庇ったほうが彼らも自分たちを、逆恨みしようにもないだろう。私何もしてないけどね!連帯責任だけどね!

「自分の世界では、悪いことをすれば罰せられました。この世界でもそうでしょう?今回のことは重く受け止めています。歴史的遺産を永久的に消失させたんです。最悪打ち首にされてもしょうがないです。やり残したことはあるし。親孝行もしていない。死にたくはないですが…罰は受ける覚悟はできています」

絶句してるのかなんなのか、学園長はぽかんと口を開けている。おまえそんな考えができるのかと言われてるよう。しかし、これは好機。死ぬ覚悟なんかない。退学ですまそうとしてたくらいだラストスパートの泣き落としで、更生の余地があるから同情してもらえる可能性がある。チートはないものの、異世界モノの先人たちみたいに冷静に生き残る術を考えるんだ!頼むぜ!サブカルチャー!うなれ!たいしたことのない弁舌!

「それと…これは自分からのお願いです。エース・トラッポラさんとデュース・スペードさん。二人の退学を取り消してもらえないでしょうか?」
「「おまっ、なに言ってんだよ!?」」

自身の名前に反応したのか、硬直していた二人は同時に叫んだ。シンクロしとる。デュース、キャラ変わってない??二人がやいのやいの言ってるがスルーする。

「きみは、」
「何もなしが駄目なら、もう少し罰は緩めるとか対処して頂きたいのです。原因の根本はグリムと自分の監視不足です。学園長もおしゃってたでしょう?」
「まぁ…そう言いましたが…私、そこまで貴方に責任負わせるつもりは…わからない、なにをそこまで…」

あの胡散臭い学園長がたじんでいる!?このまま押しきるぞーーー!いや、こっち保身がかかってますから!学園長の過大すぎる過大評価に期待してますから!

「ふむ……わかりました。あなたの真摯な気持ちは受けとめました…ですが、1つだけ。もう1つだけシャン『ちょっと待ったあああ』

(ぎゃーーーーー!?なに!?なんか今、学園長喋ろうとしたよね??あんたらは喋んないで!)

最悪の自体を避けられそうなのに、シンクロした二人の言葉が学園長の声をかき消す。

「退学は嫌だけどさ!だからって、お前が死ぬ必要はねぇじゃねぇか!」
「そうだ!おめーは悪くねぇ!そんなんで退学を免れても、母さんに顔向けできねぇ。自分のケリは自分でつける!」

エースさん??私を勝手に殺さないでくれる??そういう話してたけど、そういう流れでいってなかったでしょーーー!デュースさん??あんた誰??とりあえず、私を殺さないで??

先ほどの退学言い渡されて漂ってた悲壮感はどこ吹く風、覚悟したような漢の表情で彼らは学園長に迫っていた。

「なにか、別の方法は」
「ないんですか!!!」
「私の話をまず聞きなさい!!!!!」



「ハッ!オレ様は一体何を………」
「…ずっと気絶してたほうが幸せだったかも、ね」

気絶していたグリムがパチっと目を覚まし、抱きかかえた私はそう呟いた。

なんということでしょう。
シャンデリア、直す方法あったんです。
私の心労は一体…!



場所は、ドワーフ鉱山。
シャンデリアに使われた魔法石は、ここで採掘されたものらしい。同じ性質を持つ魔法石見つければ、修理が可能とのこと。鉱山に残ってる確証はなく、閉山して時間はたち、掘り尽くされた可能性が高い。

制限時間、一晩、明日の朝まで。エース、デュース、グリムは退学。
私について。先ほどの会話が効いたのか学園長が考え直してくれた。学園には置いておけないそうなので私も退学するという形だが、学園とは別の場所で保護するよう検討するとのことだ。ひとまず野垂れ死ぬ運命を回避できるかもしれない。

魔法石…きつい条件だが見つかれば儲けもの。せっかくの魔法学園生活が体験できるのに、ここで捨ててしまうのはもったいない。絵画さんともまたしゃべりたいし。エースとデュースがワーワー喧嘩してるが、なんだかんだいざという時の連携が凄いのでそう悪くないんじゃないかと思う。

鉱山についても、二人と一匹は喧嘩していた。口を開けば人の行いを押しつけあう。

(よく飽きないよなぁ…)

と呆れて眺めていたら、ふとエースがこちらを向いた。ついでデュースもこちらを向いた。流れでグリムも。

「あー、でも、お前は悪くねぇと思うから、死んで詫びようとかすんなよ。寝覚め悪りぃし」
「それは、同意見だ」
「ど、どういうことなんだゾ!?子分、オマエ…し、死んじゃうのか!?」
「気絶してたっけな。こいつ、自分が死んですべて責任とるから、オレたちの退学取り消ししようとしたんだぜ?頭おかしいだろ?そーゆうのオレ、嫌なんだわ」
「命は大切しないといけない。親孝行したいて思ってるんだろ?」
「オ、オレ様もそういうの嫌なんだゾ!退学は嫌なのだ!でも、お前が死ぬ必要ないんだゾ!!」

途端にひとまずあの小屋へ話を聞きにいこうと、みんなはきびきび動きだした。後ろから大人しくついていく自分は思った。うん、すげぇ勘違いされてる。

(なんか頭のおかしい自殺志願者という勘違いされてるんですけど!?)

さっきもなんか勘違いされてるなとも思ったけど、とんだ死に急ぎ野郎という誤解が生まれていた。どこぞの主人公だよ。でも、勘違いしてくれてた方がストッパーになるならこのままにしておこう。今は何を言っても誤解を加速させるような気がする。魔法石が無事に手に入って学園に戻ったら、学園長の誤解だけはといておこう。

…みんな、悪い奴ではないのになぁ。

小屋の中は、どこか見たことのある部屋だった。



小屋を後にして、鉱山の中へと恐る恐る足を踏み入れる。

そこにいました。物騒なこと呟くゴーストが。

「ぎゃーーーーー!!」
「でたああああ」
「逃げるぞ!」
「回復した体力ゲージがあああ」

そこから、恐怖の追いかけっこが始まった。



お察しの通り。真っ先に脱落するのは自分です。

「グリム…みんな…自分はもうダメだ…自分を置いて逃げてくれ…」
「諦めるな!
「体力なさすぎ!」

だって足がもう動かない。筋肉痛。呼吸ができない。だけど、みんなを巻き添えにしたくない。

「オラァ!」

ぐるんと視界が回転すれば、デュースに俵担ぎで運ばれていた。うっ、これ腹に自分の体重が食いこむやつ。性転換して体重も増量しているので余計にだ。

「俺は諦めねーぞ![[rb:友達 > ダチ]]を見捨てんのが、一番ヤなんだよ」

また無意識にヤンキー口調に変わり、ギョッとする。

(知り合って間もないはずなのに、足手まといなのに友達て)

なにかが涙腺にふれそうになった。

「あ、ありがとう。スペードくん」
「お前さすがに体力なさすぎじゃね?」
「そんな言い方ないだろう!!」

安全な場所に避難すると、真っ先にエースが口を開いた。それを咎めるデュース。グリムはヘタっている。

「それについては…今後精進してきたい…思います」
「そんな死にそうな顔で返さないで下さい…」

エースががっくり肩を落としている。

…ッ…

音が聞こえた。

「…ん、なんか聞こえない?」

洞窟の中には更にヤベー奴がいた。もちろん全員で退却!退却ぅ!

ーーー坑道の奥に探していた魔法石をを見つけた。

「エグイ!」

今度はエースが自分を横抱きにして逃げたので、グリムとデュースと自分は。

(えええええ…)

という心境になったのである。

後に、エースは語った。『あれが一番安定している』と。

なるほどな?



どんどん雲行きは怪しくなるし、エースは退学でもいいとか言いだすし、デュースはキャラが激変してるし、グリムは油を更に投入している。また会話がループしている。

「おい、いい加減にしろよ」

存在感が消えていた自分は、ついにブチギレてしまった。足手まといの分際ではあるがもう我慢の限界です。

「どいつもこいつも、話は聞かない、すぐに煽り合う、相手を馬鹿にする、見下す、もういいかげんにしなさい!なんでみんな素敵なチカラ持ってんのにそうも争うの?協力すればあのヤベー奴だって倒せちゃうだろ!?」

反射的に言い返してくる二人と一匹に、自分も負けずに言い返してたら、どんどん話がズレてきた。

「魔法の使えない自分からしたら、あなたたちは十分凄いんだよ。トラッポラくんは五大元素のうちの風の能力を持ってて、身体能力も高い。それこそ訓練したらありとあらゆるものに適応できる力を持ってる。スペードくんの召喚術は打撃のあるものを召喚できるて、大きなことだよ。攻撃できるし防いで足止めもできる。物を浮遊させる力もある。応用できればドラゴンも呼べるかもなんだろ?グリムは五大元素のうちの火の能力、自分から見ても火力が強いと思うし、式典のとき強そうな人たちの攻撃かわしてただろ?飛行もできるんだからイケるよ!それからーーー…………」

褒めに褒めた。自分が知ってる最大限の称賛を彼らに浴びせ続けた。語彙力ーーー!喉がカラッカラッや。

おや…?みんなの様子が…?全員真っ赤になってらぁ。捻くれていたり、あまり褒められて慣れていないと見た。エースは人の怒りに油を大投入するしタイプだし、デュースは過去になんかありそうなワケありだし、グリムは普段尊大な態度だが素直に褒めるとかなり動揺する。このやんちゃボーイズどもめ。

「…ということで、魔法が使えるおまえらが羨ましいいい!ちょっとでも使いたかったわ!髪の薄いおじさんたちの髪が生える魔法とかさーーー!」
「最終的に願望になってねぇ!?」
「そんな魔法嬉しいのか!?」
「自分のお父さんが切なそうに鏡で、前頭部見てたら思わない?あと悩んでる人が多いから食い扶持が稼げる」
「前半はいいこと言ってるのに、後半がシビア」
「そうだ!トラッポラくんそろそろ降ろしてほしい」
「あ、忘れてた」
「で、協力しないの?するの?協力しないと褒め殺すぞ?」
「「「どんな脅しだ(なんだゾ!?)」」」
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