捻れた世界をまだ知らない


このナイトイレブンカレッジ学園、男子校らしいから性別を誤魔化す必要ないのでは…?と無理矢理自分を納得させた。しかもこの寮は自分とモンスターとゴーストしかいない。野郎のラッキースケベ的な展開やら、ポロリに遭遇する確率は低いのだ。たくましく生きよう自分。

ぐっすり寝こけていたら、朝っぱらからゴーストたちがちょっかいだしてきて、グリムがいつか追い出すと息巻いていた。しかし、心なしか自分に対して距離をとられてるよーな?…はっ!まさか、ゴーストたちに洗面所の騒ぎ見られてた!?ま、いっか。ゴーストだし。

学園長が今日の作業内容を言い渡しにオンボロ寮へ訪れ。必要事項を伝えたあと、去り際にグリムに聞こえぬようひそひそ声で話しかけられる。

「昨日の件ですが…」
「気遣い嬉しいんですけど、まず自分で色々挑戦してみます。男子校だからトイレ一種類しかないだろうし」
「そうですか…いや、よかった。そこまで図太いとそれほどバレなそうですね」
「貶してます!?」



メインストリートの掃除しようとしたら、そうそうにグリムがやらかした。偉い人の像を黒こげしてしまったのだ。オワタ。もう次はないぞとか言われていたのに今度こそ追い出される!でもグリムだけのせいじゃない、この学園のハーツラビュル寮新入生の男の子が煽って魔法を使ってしまったから。最初はにこやかにぐーれとなんちゃらの説明をしてくれて、なんとか仲良くやっていけそうと思っていたところに表情は一変。とんでもねぇゲス顔。めちゃくちゃ馬鹿にされた。あれ?デジャブ?こいつも自分が魔法がないことを嘲笑ったのだ!くそう!そんなに魔法が使えるのが偉いのかよ!炎についで風かよ!オーソドックス!うらやましい!それにしてもグリムがプンスコしてるが、昨日君も自分に似たようなことしたからね?

騒ぎを聞きつけた学園長が雷を落とし愛の鞭。痛そう。罰として、大食堂の窓拭き掃除100枚の刑。セ、セーフ?自分の監視責任を文句を言われたが、魔法使う暴走モンスターや見下して魔法でおちょくってくる生徒にどう対処しろというのだ。この世界のモンスターも人間も意地悪な奴多くない!?話を聞いてただけの、自分はとんだ理不尽なとばっちり。口が裂けても言えないけど。罰は気の遠くなる作業になりそう。



「オラァ!エースはどこだ!」

チンピラ顔負けの柄の悪さ。少なからず見た目のプリティボディで怖さがあまり感じられない。放課後になってずっと待っても来なかった。意地悪新入生エース・トラッポラが案の定サボりやがりました。これ以上関わるとロクな目にあわなさそうだから、さっさと掃除を済ませたかったけど、グリムが殴りこみに行こうとするのでしかたなく探しにいけば、教室には誰もいない。途方にくれている私たちに、まさかの存在が声をかけた。

「ふぎゃーーー!!!」
「絵がしゃべった!?」

さすが魔法学園。老紳士の絵画がしゃべるらしい。珍しくないらしい。普通絵はしゃべらないと言うと、絵画からとてもいい答えがかえってきた。個性は尊重しあう。いいことだ。エースとグリムにもこの絵画の絵具ちょびっと煎じて飲めばいいと思った。老紳士の絵画は穏やかな声音で誰をお探しかと聞いてくる。教えるとすぐさま居場所を教えてくれた。グリムはもうちょっと失礼のない言葉使いに直そうね。

グリムが知るやいなや、教室から飛びだした。置いてかれそうになり私も動こうする。あ、お礼言うの忘れてた。くるっと向き直り一礼する。

「絵画さん、ありがとうございます」

絵画が少し沈黙する。やっぱり先ほどの会話は失礼すぎたのだろうか。

『ふふっ…珍しい子だ。入学を許可するぐらいだ…律儀な子だねぇ。いい親御さんに育てられたんだね』
「親切にしてもらったらお礼言わないんですか…?」

思わず聞きかえした。小学校の頃に道徳で学ぶし、できなかったら親に怒られたものだ。少しだけ声のトーンが密やかになる。

『この学園は種族も身分も様々で複雑なんだよ、物事がすんなりいかない…いや、もしかしたら』
「……身に染みてわかります」

次から次へと問題がおこるからね。

『これからも色々あるだろうけど、頑張ってね』
「精進します!」

ここの生徒じゃないのに優しいよこの絵画さん!もう好き!あーこの絵画さんとずっとおしゃべりしてたい。元の世界のおじいちゃんを思いだすし。よく考えればしゃべる絵画とかいかにもファンタジー。求めてたこういうファンタジー。色々ひどい目にあいすぎて純粋な優しさ飢えてる。学園長の優しさは、うーん?

それが、伝わったのだろう。

『[[rb:学園長 > クロウリー]]に口添えしておくから、また都合がよかったらここに来なさい。色々教えてあげるよ、お嬢さん』

あ、バレてる。



自分たちの顔を見た瞬間逃走するエース。追いかけっこが始まった。奴はしばきます。

追いかけてわかった。

(こいつ……身体能力高い!)

自分の体力の無さっっっ!

ぐんぐんエースとグリムに引き離されていく。そして、ごりごり削られる自分の体力ゲージ。ヤバイ。奴をしばく前に、自分が酸欠と筋肉痛でゲームオーバーだ。異世界に来たからといって、身体能力も特に元の世界から向上してないようだ。マジで変わったのって性別だけかよ!厳しい!世界は私に厳しい!

「ちくしょう!!ごく一部いがい、この世界もあの野郎も最悪だな!良いとこは顔面と魔法だけだしーーー!」

恨み言を吐き捨てた。

「んん??なんでオレ褒められてんの!?」
「良いのか悪いのかどっちなんだゾ!?」



「ゼェ…ゼェ…そいつは掃除をサボる悪い奴ですううううう」

追いかけていたら、運良く居合わせたハーツラビュル寮の生徒さんが大釜魔法で潰してくれた。痛そう。よく見てみたら、そいつももれなく顔がよかった。え?この学園の顔面偏差値高すぎな??自分もどうせ性転換するならイケメンになりたかった。

「ゼーっツー…ハーー…ご、協力ありがとうございます」
「だ、大丈夫か…?」

気遣うように声をかけてくる、ハーツラビュル寮生さん。鋭い目つきではあるが優しそう。魔法もなけりゃ体力もない野郎でごめんよ。全力疾走で息切れ。体力つけなきゃな。名乗ってくれたハーツラビュル寮の生徒デュース・スペードさんは、エースと言い合っている。サボりは捕まえたし戻って掃除にとりかかるか…と……あれ?周りを見ると今度はグリムがいない。

「オレを身代わりにしたな!?そこのジュース!捕まえるぞ!」
「じゅ、ジュース!?」

今度はエースがブチ切れてるが、どっちもどっちやん!今度はグリムと追いかけっこが始まった。どーせ、自分は戦力外ですよ!と悪態つきたいところだが、本当にそうだし体力ゲージ回復してないのでお任せしよう…。



嫌な予感はしていた。自分が追いついた時には、グリムがシャンデリアに登っていた、脳内の警戒音が鳴っている。ワーアノーシャンデリアータカソー。二人よりも前にでて、グリムに吠える。

「ごらぁ!グリム!ハウス!こっちに来なさい!」
「魔法の使えない子分、何て怖くないんだゾ!ペット扱いすんナ!」

ぎゃーぎゃー騒ぎたてる自分たち。エースとデュースも騒いでいる。

「お前を投げればいいんだ!」

ん?今、不吉なこと聞こえたぞ?

悲鳴を上げるエースの声に即座に振り返ると浮いていた。おお!浮遊魔法!?て喜んで場合ではない!

《ガッシャーン!》



「シャ、シャンデリアがーーーー!!!」

自分含めた三人は顔を青ざめさせた。これは、マズい非常にマズい。学園長に知られたら。

「あ………学園長…」

青ざめしなった顔のエースの、小さな声が響いた。腕を組んで仁王立ちする学園長様の姿がいらっしゃいました。今度こそオワタ。絵画さん…ごめんね…。
2/5ページ