捻れた世界をまだ知らない


拝啓、私へ。

今の状況を説明すると。

たぶん、普通に自分の部屋で寝てたのに喋る狸に叩き起こされて目が覚めたら、魔法っぽいものがあるファンタジー世界に異世界転移しています。

最初は夢かと思った。だってさ、見たこともない姿の狸が喋って青い炎を撒き散らしてるんだよ。非現実的すぎるよね!?自分疲れてんのかな?と思うよ。体もやけに重いですし。

丸焼きにされそうになって逃げてたら、仮面をつけた不審人物もとい学園長に遭遇。専門用語だらけの説明を受けたら、だいたいこの世界がどういった世界なのかうっすらわかったような気がした。長く続く夢が妙に生々しくてどんどん現実が帯びていく。これって、最近流行りの異世界転生モノ!?とか思っちゃうよね。でも、導入部分のトラックとか自称神様とか誰かを庇ってとかじゃない。本当に普通に部屋で寝ていただけ……いや、なんでよ!?異世界転移しちゃう心当たりまったくないんですけどーーー!

原因を考える暇なく、不気味な鏡の前に立たされて判定されたら、魔法なしとかいう結果に。

(ですよねー!)

正直に言います。いよいよ魔法の鏡とかでてきて、ちょっとだけわくわくして、もしかして!?とか期待してました。寮分けとか某魔法児童文学と読んでたら誰でも一度は憧れるよね!

夢は一瞬で散りました。

異世界転生・転移モノみたいに特別な力を授けてくれないらしい。なにもぽんこつなのを全校集会みたいなところでオープンにしなくても。なんて世知辛い世の中だ。

騒ついた周りの視線に縮こまりながら、本当早く夢から覚めてくれないかなと思ってたら、また喋る狸が騒動を引き起こした。ナイス!狸!目の前で繰り広げられるファンタジーに胸はドキドキ。それもすぐに、手違いで入学したらしい事実に崩れおちそうになった。なんでや。部屋で寝てただけなのにそんなのってある!?しかも、喋る狸のせいで連帯責任的なものをとらされそうになり、訳がわからぬまま外に放りだされそうになったりして大変だった。狸は放りだされた。

結局のところ仮面の不審者クロウリー学園長の厚意で学園に置いてもらえたけど、追い出されてたらまじツンデタ。色々条件はつけられたが最悪な未来は回避できたと思いたい。



埃の絨毯を片付けなんとか寝る場所を掃除して、最低限生活スペースをつくったものの、圧倒的なオンボロに今の自分の開拓スキルじゃ太刀打ちできなくて悔しい。工具も資材も時間もたりなすぎる。雨も降ってきた。ちょっと気分もさがる。

(どうなっちゃうのかなぁ、わたし)

ふと、自分の体に違和感。これまでドタバタしすぎててまったく気にしていなかった。

そういえば、髪が短い…?もっと長かったよーな?声も前より低くなってるような気がするし…なんか下腹部ももぞもぞするような?なんだろこの違和感。異世界にきてなんか容姿でもかわちゃったんだろうか。もうひと片付けしたら姿見でちゃんと見てみよう。

そうしていたらあの狸が部屋の中に登場した。雨音と自分一人の物音以外しかなかった空間に響いたのでビクッとする。雨漏りしはじめたことに文句を言われて、手伝ってとお願いしたらものっそい馬鹿にされた。そんなに魔法が使えるのがすごいのかよ!すごいわ!うらやましいわ!せめて箒に乗りたかった!喋る狸もといグリムを相手にしたら腹たつので、もう気にせずバケツを探しにいくことにした。

バケツ錆びてないといいな、と暗い廊下をあるいていたらどこからどう見てもゴーストなゴーストと遭遇した。

「ぎゃーーーーー!!」

オンボロ寮に響く自分の絶叫、我ながら乙女らしからぬ雄叫び。自分の叫びに反応したグリムが顔をだして文句を言いにきた。

「ぎゃーーーーー!!」

自分以上にビビるモンスターに思わずお前もかよ!?と心の中でツッコンでしまった。口を開けば小憎たらしいのに、たまに人間らしいところが少しだけ親しみを覚えた。



グリムの魔法は、魔法がよくわからない自分でも、物理的にすごい魔法だと思う。炎系の魔法てオーソドックスだよね!しかも青い炎!

しかし、グリム。ゴーストにビビりすぎて目を瞑ってしまうのでイマイチ攻撃が当たらないっぽい。ちょっと協力を提案してみても、意固地に断られる。緊急事態なんだから少しは協力してよ!どうしようもないので、釣れそうな言葉で全力でそそのかしてみた。釣れた。よっしゃ。

ゴーストも蹴散らしふぅと一息ついたところで、タイミングよく現れるクロウリー学園長。絶対あんた見てただろ。なんかことごとく間合い絶妙なんですよね〜?休む間も無く今度はなぜかゴースト化したクロウリー学園長とまさかの第二戦。なんだかわからないが、グリムを説得して挑戦してみる。

第二戦の終えたあと、掃除の腕とか猛獣使いとかなんか割と高評価されてるが、自分は少し指示をだしてるだけでほぼなんもしてないような。当事者のグリムがあんなに頑張ったのだから、彼は入学する権利がある。本当に心のそこから入りたがっているしな。なにもしてない自分にできるのはしつこくお願いするだけだ。

結果は学校の雑用係というお役職を頂いたが学校に通えるようになった。グリムは文句を言っていたけど、入学を認めて貰えるだけで恩の字だ。元の世界に戻る手がかりを図書館へ探しにいけるし…だけどこの学園長、無理難題を押し付けてきそうで怖い。



クロウリー学園長が帰ろうとしたのでハッとして呼びとめた。

「すみません。この寮のお風呂てお湯使えますか?」

長く使われてない寮のお風呂場やトイレははたしてちゃんと機能するのか。そもそもこの世界のそこらへんの事情て元の世界と変わりないんだろうか。

「この寮は見た目こそオンボロですが、人間の〝貴方〟が困ると思うのでそこは整備しておきましたよ。私、優しいので」
「ありがとうございます」
「……まぁ、そうですね。やっぱり自分の目で見て確かめた方がいいですよね…ぶつぶつ…」

お風呂に入らず寝るのは気持ち悪いから、その返事を聞いてホッとした。唐突にぶつぶつしだしたクロウリー学園長は『恥ずかしいと思いますが、トイレの仕方とかわからなかったら私に聞いて下さい。内密しますので』と無駄にいい小声で私の耳に囁いて今度こそ帰っていった。

「……え、怖っ」

背筋がゾワってしながらも、誤魔化すように腕をさすりながらバケツを探しに行った。はよ雨漏り取り設置して風呂に入ろう。

(今日一日でころころと立ち位置が変わったなぁ。明日からグリムと仲良くできるのかは心配だなぁ。)

ぼっーーと衣服を脱ぎながら今日一日をふりかえる。そもそも異世界に来たのに、ちょっと適応しすぎではとメタ的なことを考えつつ、下着を脱いだとき、とんでもないモノが視界に入りこんだ。

「ぎゃーーーーー!?」

ゴーストに遭遇したときの叫び声より、喉太い雄叫びがオンボロ寮・洗面所に轟いた。

「またゴーストが出たんだだゾ!?」

青い炎を常備させたグリムが洗面所の戸を全開にしてつっこんできた。きゃーえっち!とか言ってる場合じゃない。

「…て、おまえ、ケ、ケツ丸出しでなにしてるんだゾ…」
「あの、グリム、その、私てお、女に見える?」
「………はぁ?何言ってるのだ、まぁ確かに顔はなよっちそうに見えるしそう見えなくもない…?」
「そ、そだよね、あはははははは………じゃあなんで!?」

ドン引いたモンスターの声を聞きながら、勇気をだしてあること聞いてみる。物理的に距離をとりはじめるグリム、突然笑い出す私に明らかに怯えている。違うんだ。怖がらせたいんじゃない。

あまりの事態に、今日おこった出来事を全部ひっくりかえすほどに、受け入れがたい問題が発生した。性格もとても女の子らしいとは言いがたいけど、胸もささやかだったけど、これはあんまりじゃありませんか?今の今まで気づいていないのやばすぎ自分。違和感は感じてた、違和感は感じてた。



「ブブブブブブツがついてるんですけどーーー!?」

ようやくクロウリー学園長の言葉を理解したのち、あの人はたしかに優しいのだろうと思った。でも、相談する勇気は今はでません。


異世界転移っぽいものしたら男になっていた件。
タイトルつけるとしたらこれでいいやと思いました。
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