捻れた世界を知っていけ


長い帰り道。見えてきた趣のある廃墟……もとい我がオンボロ寮。この世界の、我が家(寝床)は今日もいつも通りのオンボロ具合。これでも、少しずつ内装も外観も綺麗になっていってるはず。他の人の目にはそう映らないみたいですけど。

「ただいまぁ」
「オレ様が戻ったんだゾ!」
《ヨォ、おかえり》
《疲れた顔してるねぇ〜》
《今日は何があったんじゃ?》

生活を営むうちに、定番化しつつある出迎えてくれたゴーストたち。初期の物騒さはなりを潜め、気さくに学校生活のこととか聞いてくるようになっていた。ゴーストたち曰く、最初のアレもゴーストジョークの一種らしいので、本当に実行する気はなかったそうだが。



何から話そうかと、ピックアップしていく。
思いだすは、あの後の話。

リドル先輩は具体的な作戦を話し、見事にジャックくんを納得させる。言い方は素直をじゃないけれど、先輩のことを一目置いたみたい。協力体制を結びつけることに成功したリドル先輩は、自分たちに寮へ戻るよう促す。てっきり、彼のことだから出席するように言われるかと思った。エースは帰る気満々だったけど。

『当日まで気を引き締めていこう!』『そうだね。気合を入れたところで授業へと出席しようか。少々潰してしまったよ』『えーー!これから作戦会議て感じじゃなかったんスか!?』『それとこれは別だよ。今回ばかりは、事情説明すれば多めに見てもらえるだろうけど、普段の生活を疎かににしては元の子もない。今からでもそれぞれ授業へと出席にするように』……と、やりとりまで想像していたのだが。

ラギー先輩との一悶着からさらにジャックくんとの殴り合いで、時間を確認すると、午後の授業もほぼ終わっている時間帯。あの二人どのくらい殴り合ってたんだろう。

もしかしたら、先輩たちのことだから長引きそうて判断してくれて、それぞれのクラスに連絡でも入れてくれていたのかもしれない。正直、教室に行かなくていいちょっとホッとした。同クラの二人と一匹がいるものの、遅刻して入っていく授業中の雰囲気もサボりも地味に苦手なので。寮への直帰に気がぬける。授業をエスケープする事件は、もうこれっきりにしてほしいな!

腹の音主張するグリムにならい、自分ももれなく食いっぱぐれてるのでお腹は空いていた。

『さーて、後で連絡しとかないとね』
『根回しするて、言ってましたもんね』
『ふふふ、実は、ディアソムニアにはちょっとしたツテがあるんだよ♪』

ケイト先輩が意味深に仄めかしていた言葉が引っかかった──



「それでさぁー」
「デラックスメンチカツサンドに、とんでもねぇ目に遭わせられたんだゾ!!」
《えー、またデラックスメンチカツサンド〜》
《今度はダレに巻き上げられたんだい?》

今日一日のことを話そうとして遮られる。鼻息荒くグリムが話すデラックスメンチカツサンドの続報。まだ根に持ってるのかお前は。

オンボロ寮での日々を積み重ねていくうちに、帰ってきては愚痴も混じった学園生活を話すのが日課になってしまっていた。意外とゴーストたちも、自分たちの在学中の頃を思いだすのか、懐かしそうに聞いてくれ。死者である彼らだがこの学園のOBでもあるので、苛烈なスクールライフを乗り切る知恵を伝授してくれたりする。なにより助かるのは、この世界じゃあたりまえの一般常識だとか、たまに勉強も見てくれるから超助かっている。それに、グリムのマジフト練習付き合ってくれているし。

ゴーストたちとの関係性も緩やかに穏やかに変化している。

《ほぉ……そんなことがあったとは》
《昔から足の引っ張り合いは、NRCの十八番じゃからのぉ〜》
《今も昔も変わらないねぇ、まぁ、さすがに寮ぐるみはなかったけどさぁ》
「なんで、そこで懐かしむの!?ゴーストパイセン!?」
「ほんと、ロクでもねぇんだゾ!この学園!」

さもあたりまえのように受け入れるOBパイセンたち。騒動を起こしまくるグリムが言えたことじゃないけど、この学園本当に昔からロクでもないんだなぁ。

名門校の闇を、また知ってしまう。

《……それとして、マジフトの話を聞いていると昔の血が騒いでしまうね》
《キツイ練習、掲げた目標、他寮への戦略的情報収集、最下位にはなりたくない意地……懐かしい》
《青春だったなぁ》
(引っかかるワード聞こえたな?)
「ふなぁ!オレ様も絶対マジフトに出てやるゾ!」
《しかーし、そろそろ期限が近づいてきておるぞ》
《本当に参加できるかねぇー?》
「ぐぬぬぬ、ウルセーんだゾ!」

入浴も済ませ明日の準備もして談話室で寛ぐ。きゃいきゃいマジフト話で花を咲かすゴーストたち。鼻息荒く改めて意気込むグリム。それを尻目に今日一日得た情報を整理する。ソファーの背もたれに身を沈めた。

昼間のみんな会話を聞いて思った。黒幕を突き止めた以上、もう私にできることはない。そもそも、リドル先輩の作戦はディアソムニア寮の協力なしでは成立しないものとなっている。その為にケイト先輩が動くみたいだけれど。

(私にもできること……)

今は思いつかないので、引き続き筋トレ続行するという結論に至った。他の人に相談するってのもありかな。



《はぁ……楽しそうじゃなぁ、ワシらもマジフトに参加したくなるのぉ》
《前に言ってた提案さぁ、他のゴーストたちにでも声かけて本格的にマジフトでもするか?》
《ん〜?食堂のシェフでも誘う?》
《シェフかぁ、あんまり絡んだことないんだよな》

「シェフもゴーストなのーーー!?」

さりげないゴーストたちの会話で衝撃の事実を知り、考え事は吹き飛んでしまう。新たな学園の新情報を知るのだった。

……やっぱり学園長。あの世で職員募集してる!?
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