捻れた世界を知っていけ


マジフト大会・当日。サバナクロー寮は、ディアソムニア寮寮長マレウス・ドラコニアに対して、卑怯なやり方でなにかを仕掛けようとしている。それには、のっぴきならない事情があるようで。

ドラコニア先輩の人並外れたバケモノパワー?で、優勝常連寮サバナクローは二年連続、無得点で初戦敗退という結果を世界中に晒してしまい。大恥かかされた彼らはそれに恨みを持ち、雪辱果たそうと動いたのが今回の事件の真相だとか。

ジャックくんが教えてくれた情報に、みんなはそれぞれ思ったままに感想を言っている。自分は、それになんと言っていいか考えあぐね無言のままだ。学園長に押し付けられ調査を開始して、とんでもない陰謀に辿り着いてしまった。

有力な選手候補に怪我をさせ、足を引っ張ているのはあくまで副産物に過ぎなくて、真の目的はディアソムニア寮。得た情報を照らし合わせ、ざっと記憶をたどると、これまでの被害者たちにはその寮の寮生がいなかったはず。食堂での講義、ケイト先輩たちが前に言っていた。

『ディアソムニア寮は魔法力が高く、それと近寄りがたい』

ディアソムニア寮。マレウス・ドラコニア───聞いたことのある名前だ。いつぞや意識を失っている間にお世話になった先輩。そして、図書室で再会を果たしたあの独自な雰囲気を纏う美少年、リリア・ヴァンルージュ先輩。成り行きで知った、約500年は生きてるという妖精さん、リリア先輩を思い浮かべる。あれ以来会う機会はなくも、彼は今回の騒動は知っているのだろうか。

『対処法を身につけよ』

あの時は、自分は人外っぽいファンサをもらって脳内フィーバーしていたけれど。ディアソムニア寮てそういう種族が多いのかな。ツノ太郎もディアソムニアの腕章つけてたし。たびたび話題にあがるドラコニア先輩の話も聞くと、とても人間っぽい感じがしない。私の人外センサーがびんびん察知してきてますし。

(ちょっとだけ、縁があったりするんだよなぁ)



絶妙なタイミングで登場したリドル先輩たちは、事の真相をすべて聞いていた。止めるために最良の考えを語り、力を合わせようぜ!なムードになった、のだが。

「そこで拒否する!?」

肝心の情報提供者のジャックくんが協力体制を拒んだ。彼はその計画を一人で潰して、落とし前をつけようとしている。

「融通が気かなすぎるでしょ」
「取り付く隙もないな」
「考え方が熱苦しいヤツて、なんでこういう奴ばっかなんだゾ?」
「ん〜?それ、ダレとひとくくりで言ってんの?」
「バルガス先生!」
「グリム、それ以上喋るな」

ケイト先輩たちが説得してる傍ら、三トリオは声をひそめて会話中。ジャックくんに聞かれたら、微妙なことになりそうな内容。一年が呑気に会話してる中、リドル先輩の顔がどんどん引きっつっていく。ジャックくんが頑なすぎて、説得がうまくいかない。もう踵を返そうとしている。ここで逃したら協力の要請は難しくなり、まず話を聞いてもらえない。

曲がったことは嫌い。正々堂々。

きっとそれは褒められる美点で長所。普段ならそれは評価されるだろう。一人でケジメをつけようとする彼の姿はすごい。でも、今回の事件はそのストレートなやり方が通用しない相手だと、わかりきっている。

──どんな言葉にすれば、彼に届く?

鮮やかな赤色の髪が視界に映る。リドル先輩のとき。踏み込まなければ前には進めなかった。例えその言葉が不適切だとしても。

(なんか……なんか!言わないと!)

「でも、今までの事件も止められてないよね」
「……あ?」

(アカーン!!ハイ、間違えた!!台詞選択間違えた!もっと適切な角の立たない言い方あったよね!?)

動きを止めた彼の眼光が、私の姿をとらえる。数えきれない幾度目の現実逃避から、内なる私が盛大に自分自身にツッコミを入れる。陰キャが頑張った結果。どうして、煽る言い方になるのか。冷や汗ダラダラで、鋭い視線を受け止める。少し遠くに離れているとはいえ、視界に映る大きな体は圧迫を感じられる。

(こ、怖い!!デカい!!)

グリムたちがなんか言ってるものの聞き取る余裕はない。ここが勝負の見せどころ。昔の人もこう残している───三人寄れば文殊の知恵。私たちには、ジャックくんが必要だ。サバナクローは悪いことしてるけど、寮ぐるみで協力体制を組んでいる。そして、多くの怪我人を続出させている。ガラが悪いが、名門校の優秀な生徒たちをだ。ジャックくんの個人的なポテンシャルはすごいのだと思う。けれど、個人と集団。止めるのにも、刻一刻と時間が差し迫っている。

個人には個人なら。集団には集団を。こちらも、それこそ寮の垣根を越えて協力しなければ、どうにもならないことがあるんだ。

「本当に1人で何とかできると思ってる?」
「本当に止めたいと思うなら力を合わせようよ」

こういう時、表情を表に出さないのはお国柄。貫けポーカーフェイス。捲し立てろ!心の中は荒れまくってるけれども!表情にでてないよね!?

「賢い狼は群れで狩りをするよ」

こんなんで、止まってくれるのか疑問だけれど。言うこと言い切った。止まるどころかKOBUSIが飛んできそう。そうなったら後は頼むぜ!みんな!私は保健室から応援してる!

ドキドキしながら、途中から無言になったジャックくんの返答を待つ。

「………話くらいは聞いてやる」

長い沈黙のあと、その言葉を聞いて。
私は、ホッと胸を撫でおろした。

ひとまず、第一関門突破である。



「さて、作戦を話す前に」

リドル先輩は、胸ポケットからスルリとマジカルペンを抜き取ると、軽くフッと振った。とたんに、周りをキラキラエフェクトが降りかかる。the Magicを感じて、ありがたやーと拝んでみる。今はキャーキャー騒ぐ場面ではないので、真剣に取り組んでいますよ。

「これは……?」
「リドルくんが使ったのは、軽い防音魔法系のものだね。一定の距離でこっちに近づかないと聞こえないやつ」
「そこまで警戒するもんなんスか?人、居ないし」
「どこのダレが聞いているかわからないからね、念の為だよ」
「気休めみたいな初期魔法だから気にしなくていいよ〜」

(気になりますが!?防音魔法とかあるの!?)

なんてことのないように仕切りなおす先輩方に、場の空気はすぐに作戦の話へと変わった。中庭でこんな大人数で騒いでいたら、注目が集まってしまうのかもしれない。エースの言う通り、幸い今は人は見かけない。いや、時間的に授業に入ってるだけですけどね!

(……敵対勢力の計画をぶっ潰そうと企てているから、保険はかけときたいもんな)

作戦の話を聞きつつも。散りばめられた魔法の世界に、あたりまえのように彼らはそれを受け入れてる。

(この作戦、私にもデキルことを探そう)
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