捻れた世界を知っていけ


悲報──ラギー容疑者逃亡

リドル先輩とケイト先輩とグリムとで、この事件の最重要容疑者であるラギー・ブッチを追い詰めたものの。先輩たちのマジカルペンが、彼の鮮やかな手口で抜き取り、持ち去られてしまう。見た感じ先輩たちは、そこまで油断した動作をしていなかったと思うのに。ラギー容疑者には格好の隙だったようで、驚異的な身体能力で逃げられてしまった。追跡道中で合流したフラミンゴ当番係のエーデュース巻き込み、先輩たちとははぐれ、中庭までゴールしたのだが。余裕の態度でマジカルペンを返却され、撒かれてしまった。おちょくられた感が否めない。

「とんでもねぇ奴だ!」
「とんでもねぇ奴なんだゾ!あのカツサンド!」
「なんで、そこ省略してんだよ」
「証拠が、証拠があれば………!」
「くっ……母さん……僕にもっと力があれば──!」
「……別のストーリー始まってね?」

ちなみに、始終自分は置いてけぼり気味でした。くそぅ!まだ筋トレと持久力が足りないのか!!初期に比べて、完走しきったのは評価されてもいいと思う。追いかけたり、追われたりするのに、少しずつ着いていけるようになってるので。いや、喜ぶとこじゃないな。結局逃げられてますがな。

鼻で笑っていた彼の姿。まだなにかをしようとしてことを仄めかす言葉。このままでは、イタチごっこになってしまう。

「まだ、なにかするつもりなのかな?」
「ま、しばらくは慎重に動きそーね。は〜、にしても、腹立つですんけど〜?」
「あの先輩が、クロなのは確定だ!絶対、ケジメつけさせてやる!」
「デュース!隣で拳をバシバシすんじゃねー!おっかないんだゾ!」
「……おぉ、またコイツ変なスイッチ入りかけてらぁ」

三トリオの会話を聞きながら、考えはまとまらないので、リドル先輩とケイト先輩のマジカルペンを回収してハンカチに包んだところに。

彼が、現れた。




「うおおおおあ!!」
「おらあああ!!」

拳と拳が混じり合い。
二人は汗が飛び散る。
鳴り響く肌を打つ音。
響く唸り声。
勝者は、どちらだ。

多数対一というのにも関わらず、最終的に残ったのはデュースとジャックの二人。我々の目の前では、熱き男たちの譲れない戦いが繰り広げられ。伝説が再び始まり、終結しようとしている。

「ナニコレぇ……」
「アイツのパンチ、ハートに響いたんだゾ……」
「夕陽に向かって走ろうぜ……」

途中でほぼ戦線離脱し。正しくは弾き飛ばされたエース。目の前の光景に自身を抱きしめ両腕をさすりながら、当初の目的とかけ離れたソレを眺めてぼやく。グリムは寝転び、満足気な顔で観戦スタイルに移行していた。

「空気に飲まれすぎじゃね?ユウまで、紛れてんだよ」
「戦力外通告されなかったら、自分も混じってましたよ……無念」
「オレ、お前のことマジわからなくなるわ」

ガクリと肩を落とし片膝ついた。普通は止めるところなんだけど、男同士の話し合いは、昔から拳で語り合いが決まっている。

みんなボロボロだった。

自分もジャックの拳を避けたまではいい線いっていたのに、よたついて井戸周りの木に突っ込み、しばらく脳震盪起こして突き刺ささり。速攻戦力外、判定された。素人が無茶をしすぎたのである。

「シャレにならないから大人しくしとけよ。もうすぐ、終わりそーだし」

上から冷めた声がふってきた。ジャックとデュースが満足気な表情で、お互いの健闘を讃えあっていた。やっぱり……拳を交わすと生まれてしまうんだなぁ………と。

つい先程のやりとりを遡る。




現れ声をかけてきた男は、昨日色々助けてくれたジャック・ハウルくん。自分たちの動向を見ていたらしい。しかも、盛大な勘違いをしていた。彼の頭の中では、自分たちは超良い奴になっていた。昨日会った時点では、ケイト先輩もいて、彼には体の良い理由を話していたし、そう誤解されてもおかしくない。ダチの敵討ちとしての行動だと思われていたのだが、実際は手柄を立ててマジフト大会の選手枠滑り込み、出場して、テレビに映りたいという下心満載の理由。自分たちが頑張っているのは、自己利益の為に行動しているということ。三トリオはそれだけど、自分はマジフト出場にはまったく興味がありませんと主張しておく。今後の生活と保証を盾に取られているので、自分の為ではあるけども。

悪どい顔して話す三トリオに驚いていた。責任感強そうなジャックくんは、失望するかと思いきや。

「お前ら、思ってたよりひでぇ奴らだな」

なんか、ちょっと嬉しそうな顔で納得していた。どうやら、他人のために動くヤツは信用ならねぇんだそうだ。

アレ〜?その反応おかしいぞ??そうなの?ここでは、片っ端から疑っていかなきゃいけないの?いやいや、いい人もいるはず……思い返せ、これまで会ってきた人達───ダメだ初っ端から、ほわわんと、学園長が浮かんでくる。もれなく『私、優しいので!』音声が再生された。うん、良さそうな行動の裏には、ナニかあるを体現している代表だ。トップが自ら証明してくれてる。よし、理解した。

この様子から自寮の先輩が犯人と知っていた彼に、あれこれ言っていたところ、俺が見極めてやると勝負を持ちかけられ。

あの光景に至る。
そういう流れなのである。
理由はNRCだからとしか言いようがないのである。




様子を見てみると、口だけじゃないと証明され、お眼鏡に叶ったよう。ラギー容疑者にケジメをつけさせる前に、ジャックくんがケジメをつけたという謎の流れ。彼は、初めて自身の心境を力強く、熱く語った。

熱い。熱すぎる。中庭に響いてそうな大音量。不正してまで得たものになんの価値もない。自分の力で勝利してこそに価値がある。要は───

「本気の勝負したかったんだね」
「ああ、そうだ!」
「あ、こいつスゲー面倒くさい奴だ」

悟ったようなエースの声が軽く響き。心なしか、相手のバックに燃え上がる炎が見えちゃってる。んーと、こういう人を例える言葉があったよーな。意識、高い系ていうのかな?あんま好きな言葉じゃないけど。

「わかるぞ!その気持ち!」
「コッチにもいるんだゾ」

感極まったようなデュースに、グリムが半目で腕を組み呆れている。エースとグリムとは、ちょっと相性悪そうだけど、デュースのストレートな性質とは、相性が良さそうだな。最後まで拳でも語り合っていたし、同じ部活だし、仲良くなりそうよな〜〜〜

「………ん?ということは……不正が許せないわけじゃないんかい!」

ジャックくんも、選ばれしNRCの生徒だったようだ。
不正推奨してないだけ、マトモか?




ジャックくんが語る、ラギー被疑者のユニーク魔法の実態。

『相手に自分と同じ動きをさせることができる』ものらしい。

なにそれ、ヤバい。また新たな能力の登場にワクテカしたいところなのだけど、ここは己を律する。真横にいる赤毛のボーイから視線を感じるので。自分だって、ちゃんと成長してますから!!

相手の動きを操り悪事を働いてきたのだが、ここからが問題。曰く、サバナクロー寮のほとんどの寮生がグルだという。組織がらみの犯行だったから、あんなに怪我人が続出してもバレなかったわけだ。なんということでしょう。

「体育会系の見た目で、やることが卑劣すぎない?」
「そう思うだろ!!」
「お、おう」

詰め寄る、ジャックくんの勢いに後ずさる。飛び抜けた高身長だから圧を感じる。双子の先輩然り、ツノ太郎然り、故郷ではあまりお目にかかれない。集結したら巨人軍団が結成されそうな。

「でもさ、マジフトでの結果て将来に響くんだろ?だったら、わからな……」
「グルルル……!」
「うわ恐っ。唸るなよ。冗談じゃん」
「立派な牙だね!」
「あ、ああ?」
「おいコラ。お前も興奮すんな」

途中まで話の聞いたエースが、肯定するようにチラつかせれば、めちゃくちゃ怒りを露わにしている。見えた犬歯。獣人族らしさを表す牙だったので、思わず感嘆した。断じて興奮してない。エースが余計なこと言うので、ジャックくんが困惑してるだろうが。

「俺が特に気にいらねえのは」

憤る彼が次に語るのは、サバナクロー寮、寮長、レオナ・キングスカラー。寮ぐるみの犯行の時点で、あの人が真の黒幕とはわかったものの。昨日のマジフトでの姿から、一同その強さを味わっている。グリムの感想に、彼は語気を強めた。

実力があるのに──
あのプレイは凄かった──
本気ガチでマジフトの試合──

語り続ける姿に圧倒されながら、エースが小声で話かけてくる。

「あのさ、ユウ……コイツ、文句言ってるようで……」
「うん。実はすっごく、憧れていたのでは……?」

寮長に対する思いが強かったからこそ、その行いに許せなかった彼の姿は。その声には、どうしようもない気持ちが滲みでていた。
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