外伝


(くだらないっスよねぇ……)

ハイエナの獣人は思う。試験範囲の分厚い参考書を見ながら息をついた。それを閉じて自身のベッドへと寝転がった。

魔法史で学ぶ、歴史を心底くだらないと思った。

この世界には『魔法』という名称の便利な力がある。魔法の使えない者からしたら、さぞ特別なものに見えるそのチカラ。それにも、制限や代償があって無限に使えるものではない。魔力の豊富な妖精族でさえリスクはあった。対となる魔法が使えない者が劣っているというわけでなく、彼らは彼らで独自のやり方を発展していき『科学』という便利な文明を生み出した。時にそれは、魔法を凌駕することもある。そして、お互いが行きついた先は共存というあり方だった。互いが互いにないモノを補うような関係を築きあげたのだ。現在では、『魔法』と『科学』合わさった分野までも確率されている。

綺麗な部分だけ見れば、とてもいい様に映っても。使える者と使えない者とで、少なからず軋轢があったりする。魔法が使える者は使えない者にそれを誇示し、魔法が使えない者は使える者を敬うフリして迫害する場合もあった。しかし、同族で排除し合うまで至るのは珍しい話だった。それは、あらゆる種族が混在している部分もあるのか。

学ぶ歴史には、同じ種族同士の争いは少なく、異種族同士の争いがズラリと記されていた。同種族で争うくらいなら、異種族に対抗するために逆に結束は強くなったのだという。歴史に記された戦争の記録は、大陸の繋がっている人族と獣人族が多い。次いで、他種族と妖精族。人族と人魚族これで、よく現在の異種族共存へと導いたと思う。

未だに妖精族は、他種族、主に人族を見下しているような態度を見受けるが、昔よりは遥かにマシになったんだろう───目につくのが妖精族が多いだけで、他種族も同じようなものだ。それぞれ、自種族の誇りや、思考、倫理とまったく違う価値観ある。他種族の[[rb:蔑称 > べっしょう]]なんて腐るほど〝知って〟いる。

結局、財力・権力・力があれば、どの種族優位かどうたら言っても、それだけで配慮も優遇もされ一目置かれる。即座に思い浮かべるのは、ありとあらゆる種族に畏怖されている妖精族の王子。途中編入してきた同学年の富豪の息子。聞けば学園入学する際、多額の寄付したとか。彼の所属する寮が大改修してるとか。

(やっぱ世の中、金っスよね〜)

前者は、自身がどうあがいてもなれないような存在だが、そこは目指してはいない。どちらかというと、強者のおこぼれ貰えるくらいがちょうどいい。妖精族の王子とはあまりお近づきになりたくないけど。後者の富豪の息子とまではいかない、余裕で生活していける金と、『故郷に居る祖母』と『支援してくれた人々』に恩を返せるくらいの金を稼げる力は欲しい。それは『絶対』手に入れる。

最底辺から成り上がれる可能性はいくらでもある。それは個人の資質だったり、掴み取った運をいかに無駄にせずいかしていくか重要だ。ラギーにとっての転機は、まさしく、あの有名魔法士育成学校・ナイトレイブンカレッジ、闇の鏡に選ばれたこと。

スラムにも魔法を使える者はいるが、それほど多くない。だから、その中でもスラム出身の『魔法士』は珍しい。そこに至るまでいくつも生死の危険性が高く。魔法士と認定する証を得る機会が極端に少ないから。よって、故郷じゃこの職業は約束された地位の一つにもなっている。入学したからといって、魔法士になれるわけではないにせよ。魔法の扱える者は限られていて、その中でもさらに選ばれたと知らしめる、強力なカードを引き当てたのは大きかった。

『NRC』のカードは広く知れ渡っている。ただ学内の実態は謎に包まれおり、ラギーも入学するまで『良いとこのお坊ちゃんが通う学校』という認識だった。内情を知るとそうでもない部分が、多々あるが。

NRC自体が、入学できる者は少なく、近年で記録されているのは入学者は男子のみ、校内をお披露目されるのは大きな行事や大会開催の指定場所に選ばれたとき、そして、移動方法の鏡がなければ、公共交通機関が複雑な賢者の島に存在していた。その賢者の島の中でさえ、人里離れた場所に建設されている。非常に閉鎖的な学舎である。

世の中、うまい話ばかりではないので。
入学できたから物語みたいに、めでたしめでたしで終わらず、その入学後の人生は続いていく。むしろ入学後の、学園生活は波瀾万丈だった。

勉強面の出来は、生活に必要な知識しか持っていなかった。それと別に、ぼったくられないように関しては金の計算は得意だったが。スラムで暮らすには、それで十分だったし、必要な知識は、大切なことは自慢の祖母がすべて教えてくれた。だから、今日までラギーは生き延びてこれた。そもそもあの場所に、気軽に通える学校はなく。あったとしても学費を払える金はない。明日を生き抜くので精一杯。次に金銭面。実のところ、NRCの学費も捻出するにも相当苦労した。なんとか最低限、必要なものを揃えられたが、ブレザーまで手を回せなかったり、勉強に必要な書籍を集めきれなかったところは痛手だ。

揃いに揃った要素は、ラギーの意思に関係なく。かなり、良くない方面で目立っていた。勉強は悲惨で、新入生で制服をちゃんと着用していない生徒、トドメは、これはどうしようもないが、スラム出身という出自。

プライド高く、家柄や種族に誇りのある輩がわんさかいる──この学校で、早々に目をつけられるのは避けられない試練だった。


ハイエナは知っている。
どの種族だって共通して、見下される存在がいることを。

ハイエナの獣人──ラギー・ブッチのような〝スラム〟出身の存在。最もたる例を。
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