捻れた世界を知っていけ
「嵐みたいな奴らだったなぁ、メシも食わずにどっか行っちまった!」
「そうだな……カリム、あまりユニーク魔法をペラペラ喋る真似はするなと言っただろう」
「ごめん、ごめん。だいじょーぶ!オレ〝絶対〟言わないからな!」
「はぁ……言いかけておいて、よく言う。お前の〝絶対〟は信用ならないんだ」
カラカラと笑う自分の主人に、ジャミルはそう一言だけ相槌を打ち、先ほどの行いを再度咎めた。自身の魔法は人に知られると色々と厄介で、何かと不都合が起きるのであまり知られるわけにいかなかった。
『手間を取らせたね』そう言い、リドルたちは急ぐように食堂から立ち去った。
(カリムや人伝で聞いてはいたが、数ヶ月でああも変化するとは)
カリムはリドルの様子を気にしていなかったが、ジャミルは少しその様子に瞳を瞬かせていた。フロイドに絡まれ怒り狂う姿はいつも通りで。合同授業や寮同士のやりとりでの様子では、さほどそう変化を見受けられなかった。リドルは基本ルールを守る相手や、よほど突拍子もないことをしなければ、穏やかに接することもできる人間だ。
件の出来事で、周りからの信用も落ちたとも聞いたが、元よりこれまでの積み重ねと、それからも主席を貫いているので、そうたいしたことではない。それに、あの〝学園長〟のことだ。外には漏れないように偽装工作は、しっかりとしているのだろう。
ギリッと、無意識に奥歯を噛み締める。
ーーー先のことなんて何もかも考えずに、すべて投げ捨ててしまえれば、どんな解放感を味わえるのか。
(……なんて、俺らしくもない)
式典の日に暴れまくった魔獣も、もう一人の魔法の使えない少年も、囁かれている噂はロクなものはない。少年に関しては少し話す程度ではあまり印象に残らず、殴り込みに行く勢いで上級生の教室へと入室し、リドルを連れ出す一部始終を見てから認識は変わっていた。尋ねてきた印象では、気弱そうななよなよしい男。それは一面にすぎなかったわけで、非常に、どこか〝似ていて〟あまり関わりたくないと思っている。
〝少し前〟までのリドルなら、ああいうタイプは苦手で避けていた。その該当する要素とは、それらと無縁だとわかる『イレギュラー』の相手と、行動を共にする姿を見て、ジャミルはそう思った。
今回でまた縁が積み重なる。この広い学園ではそう深く関わることはないとしても、〝学園長〟とのつながりがあるのなら、いずれ〝利用価値〟はあるか。ひっそり、そう考えながら、カリムの食事の時間がこれ以上伸びないよう促した。
多少、手を故障したがマジフト当日まで、まだ期間がある。選手として参加など『回復』の調整はできる。先ほどの話を考え、主犯はラギー・ブッチだと言ったが、それを動かしているのは、おそらくその上にいる者だろう。この一連の事件を、たった一人で実行しているはずがない。寮ぐるみか、あるいは『他寮』も一枚絡んでいるのか。
(なんにせよ、俺には関係ない。だが、少しばかり巻き込まれたのなら、お返しはしとかない、とな)
[chapter:彼の宝石は濁りはしない]
[[rb:燻> くすぶ]]り続けた感情を、まだ抑え続けている。