捻れた世界を知っていけ


呼び名が決定して、盛り上がりが落ち着いた頃、メインストリートでばったり会ったのはリドル先輩とケイト先輩。語尾に星がつきそうなケイト先輩のあいさつと、その傍ら、出会い頭にリドル先輩が自分のタイを直してくれた。

「キミ、少しタイが曲がっているよ」
「ありがとうございます、リドル先輩はリボン結びですけど、通常のタイ結びもお上手なんですね」
「衣服の装いは基本だからね。ボクは、これがしっくりくるんだ」

タイの結び目がどうしても不格好になってしまうので、これも練習した方が良さそう。つらつらとルールと立場を語る先輩だが、直してくれる手が優しく、出会った当初の時とは大違いだと、妙にふわふわした心地になった。こんな触れ方をしてくれるくらい、打ち解けたのかな、と思うとニンマリして顔が緩む。リドル先輩は不思議そうな顔していた。

「けーくん的に、リドルくん超似合っているよ。カントクセイちゃんも、苦手なら結び方変えてみたら?ま、つけてない子とかもいるけどね!」
「着用してないのは言語道断だけれど、この学園は制服に関して自由度が高めだからね。ボク的には、しっかり着こなすのが良いと思うよ」
「制服関係で、リドルくん色々あったしねぇ」
「ケイト、それはお言いでないよ!」

和やかに制服談義をしていたが、リドル先輩が少し声を荒げた。いきなりだったのでびっくり。先輩は苦虫潰した顔していたので、前に何かあったのだろう。ルールに厳しい人だから、誰かと衝突したのかも。触れてほしくなさそうなのでスルーしておこう。エースとデュースがいないのでグリムが聞くと、ハーツラビュル寮にて役目を真っ当してるとのこと。ピンクの服で餌やりか、ちょっとシュール。

和やかな雰囲気から一転、リドル先輩が重々しく切り替える。犠牲者がまた出た、という。被害者はスカラビア寮の二年生の人で、目撃者はなんと肖像画さん。ケイト先輩の交遊関係はあいかわらずキマってる。先輩経由で、肖像画さんたちとも話す機会が多くなったけれど、監視カメラ役も請負っているとは、ロマンを感じるぜ魔法学校。



朝食の時間帯なので、被害者の方もこの時間帯は居るだろうと、大食堂へと赴くことになった。自分たちも食べに行く途中なので、ちょうどよい。ケイト先輩が食堂内で素早く探し見つけると、グリムがまた思ったままに声をかける。声をかけられた相手は不信感丸出し。無理もない。ダメだ。昨日のお説教まったく効いてない。あまりの言いように目眩。育児疲れ起こしそうです。

気が遠くなっていると、チリッと視線を感じた。新たな被害者であるジャミル・バイパーさんと目があう。まじまじと見つめ返すと既視感。色黒と黒髪、アラビアン風ヤンチャなヤンキーっぽいこの特徴……待てよ、ちょっと前にこの人に会ったことあるぞ。リドル先輩を探しに行ったとき、クラスの場所を尋ねた人だ!

「君は」
「あっ〜!この狸、入学式でオレの尻燃やしたヤツ!」

ジャミルさんは何か言いかけ、それを遮るもう片方の人は、グリムにケツを燃やされた人だった。このタイミングで被害者と再会するとは。前からちょっと気になっていたので、元気そうでよかった。今の失礼な態度も、過去のアレそれも気にせず、明るく自己紹介してくれたこの人は、寮長のカリムさん。純100%人が良さそうな陽キャオーラに、グリムもたじたじだ。この学園では珍しいような気がする。一眼見ればわかるくらいの良い人!

『ちなみに、カリムくんは軽音部の後輩なんだよ』
『しっくりきちゃうオーラですね!』
『どんなオーラ?あ、前に食堂で会ったリリアちゃんも軽音部だよ』
『リリア先輩も!?感性がお若い!』
『めっちゃ食いつくね!?喋り方は独特だけど、彼はオレらと〝年代〟一緒だよ〜?』

(勝手に共通認識だと思ってたけど、リリア先輩の〝年齢〟て、あんまり意識されてないのかな?)

コソッと情報追加してくれるケイト先輩に、カリムさんとグリムの会話を眺めていた自分は思わず反応する。以前……図書館で偶然会い、その正体を垣間見たのでポロッと感想がでてきたのだけど、実はそんなに知れ渡っていないのかもと考える。意図的に隠してるのか隠してないのか、微妙なところではある。軽率に喋らないよう気をつけるべきか。人外交流日記にもメモしておこう。

「……キミたち、目的を忘れていないだろうね?」
「あ〜バレてた?リドルくん、ごめんね!じゃ、本題に切り込もっか」

リドル先輩の謝罪に、ジャミルさんは本題へと切り込んだ。いつまでも、時間を長引かせているわけにはいかない。別の話題で盛り上がってしまったけどな!朝の時間は色々と忙しないので。便利な説明『学園長に頼まれて』を発動すると、ジャミルさんは一瞬訝しげな表情をしつつも、快く喋り始めてくれた。合いの手でカリムさんが話を補ってくれるのだが、ことごとく脱線する。そういや、朝食食べていない。このパターンだと食いっぱぐれそう。

「あの感覚には、少し覚えがある。おそらく、ユニーク魔法の一種だ」

今までの聞き取り調査とは違う、決定的な情報。そこでカリムさんがジャミルさんのユニーク魔法に触れて、ものすごく動揺しながらごまかしていた。ユニーク魔法て必殺技とか切り札みたいなもんだから、あんまり知られたくないのかな。ファンタジーオタクの勘としては、この鋭い指摘の数々からするに、ジャミルさんも似通っている能力を持っているのではと、頭の中で推理したが、今するべきところは、そこじゃない。

新たな視点から見た貴重な情報。先輩方がこれまでの違和感を照らし合わせていくなか、自分でも考えを整理してみる。

〝手元が狂い手を傷つけた〟
〝一瞬意識が遠くなった〟

(ほとんどの相手は、めまいと感じるくらいの一瞬……うーん?なんか、どこかであったよな?本人の意思なく行動する……)

「もう少しまともな目標を持ったらどうだい?」

リドル先輩がグリムに呆れたような感想をもらしている。また、おバカな案を言ったのだろうか。ふいにグリムと目がバッチリあう。まるで、何かを思い出したような。

「ユウ、デラックスメンチカツサンド……」
「……デラックスメンチカツサンドといえば」
「どうしたの?二人とも黙りこんじゃって?」
「キミは食い意地が張りすぎだ」
「ん?二人とも、腹が減ってるなら早く食っちまった方がいいぞ!一緒に食うか?」
「カリム、これ以上ややこしくなるような提案をするな」

そう、それは食堂だった。あの日は、月に一度のおいしいパン屋さん出張の日で、食堂は大賑わいだった。グリムは、テンションブチ上げで、大人気だという限定パンを入手したんだっけ……それで、とある人とそのパンを不本意で交換して、ご飯中ずっとしょげていた。その時は、エースもデュースも自分も不思議がったがーーー

グリムが叫んで、カリムさんが驚く。早口で気づいた事実を話す。なんてことだ。ずっと前から、すでに関わっていたなんて……それに、ちょっと信じたくない。

「犯人は、ラギー・ブッチだ!」

この学園は、どうしてこうも、こうなってしまうんだろう。



スカラビアの二人に別れを告げて、急いで、ラギー・ブッチ容疑者の元へ向かう。ケイト先輩の情報網によると、彼は教室にいて授業の準備をしている。細かい場所特定は、疑問だらけだけど、気にしてはいけない。自分含めた三人と一匹はバタバタと、廊下を走っている。幸い先生たちには会わなかった。リドル先輩が「廊下を走るなんて」と、こぼしていたが、緊急事態なので急ごうと後押しした。知らなかったとはいえ、昨日会いに行ってその後に被害者がでているのだ。

「クソっ!やっぱり、アイツが犯人だったんだゾ!デラックスメンチカツサンド!」
「名前それで定着してるじゃん、グリちゃん」
「……はっ……何の、話」
「リドル先輩、息切れしてません!?」
「……んっ、大丈夫だよ。朝からこんなに、走ることなんてないから、呼吸が乱れただけ」

苦しそうに歪んでいた表情は、いつもの澄まし顔に戻っていた。先輩は意外とこういうところ負けず嫌いだよな。そうこうしているうちに、容疑者の教室へたどり着く。息と服装を整えた自分たちは、その教室へと一歩踏み込んだ。

「さて、みんな。気を引き締めるんだよ」
「たのも〜〜〜!ラギー・ブッチはどこなんだゾ!」
「グリム!静かに捕獲する方向へとできないのかい!?」

(グリムのカチコミ定番になってきたな)
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