捻れた世界を知っていけ
動物たちが、行進している。
まただ、また夢が続いている。
動物が演説をしている。
王に、なりたいと。
そのために殺すのだと。
喝采がおこる。咎める者はそこにいない。
提案と、疑問は届くことはない。
また、どこかで、雫の音が聞こえた。
「ちゃんと眠れなかったな……」
ぼんやりとした頭。ベッドに横になりいつの間に眠れていたらしいが、浅かったらしい。動物続きのワイルドな夢だ。断片的に思い出されるがはっきりする頃には、失われていくだろう。
「オッ、ユウ、起きたか。もう朝食の時間が始まってるんだゾ。早く行こう!」
「んーー、そっか。朝食堂の時間か。起きなきゃね」
まだ寝足りない脳を叩き起こしながら、腕をグッと伸ばした。全寮制ならではの、朝昼晩食堂にお世話になりぱなっしだ。おかげで、食費がバカにならない。夜と違って、寝起きの状態では作る気分じゃない。毎日作ってくれてた、お母さんて偉大だったんだな。
メインストリートまで歩いていくと、おもむろにグリムが口を開いた。
「そういやオマエ、昨日の夜ベッドに居なかったな?」
「起こしちゃってた?」
「トイレで起きただけだゾ」
「実は昨日の夜……」
(喋ってもいいのかな?うーん、ジェイド先輩とリリア先輩と違って、予想だけで本当に正体も名前も知らないし、なんて呼べばいいのかも悩みどころだ。今回ばかりはちょっと喋っちゃおう)
「見かけないヒトにあったの。どこからどう見えても、人間じゃなさそうな立派なツノが生えていてね、それがさ、もう素敵なツノッだったんだよ!しかも、浮世離れした超弩級の美形。物言いは尊大なんだけど、失礼な態度とっても怒らないヒトで寛容深くて、オーラ半端なくて。でもね、趣味が深夜に徘徊するほどの廃墟マニアで、自分たちが住む前から足蹴なくオンボロ寮に通っていたみたい。制服着てたからここの生徒さんかな?で、ツノが本物かどうか聞いてみたら本物らしくて、別れるときはパッて消えたの!私の勘が言ってるよ、あのヒト只者じゃな」
「ちょっ、ちょ、待つんだゾ!?コエーから急に早口で喋りはじめるのやめてほしいんだゾ!?」
「あっ、ごめんね。あの時の興奮を思い出したみたい。はぁあぁ〜〜お、お友達になりたいなぁ。それで、好きな名前で呼べって言われたんだけど?グリム、いい案ない?」
「オマエ、たまにおかしくなるよな。………名前も知らない、頭に角が生えた変なヤツかあ。お?じゃあ……『ツノ太郎』なんてどうだ?」
(狸にしろ、太郎にしろ、我が故郷特有の名称が浸透してるのはナゾだけれど……)
「イイネ!それにするよ、グリム!」
「にゃっは!そうだろうそうだろう、オレ様のネーミングセンスなかなかだろう?」
ツノ太郎……ツノ太郎!
なんか妙な親近感がわくこの感じ。怒る気もしないでもないが大丈夫だろう。今度は失礼のないように、次会う時はドキドキのお友達作戦を決行しちゃうぞ。
「そのうちひょっこり会うかもな、そしたらオレ様にも紹介してくれよ」
「うん。また会えるかはわからないけど、タイミングがあったらね」
すっかり見た夢は、頭に隅に追いやっていた。
ーーーこうして、かの時期妖精の王に、そのあだ名が贈られることとなるのは止める者はおらず。あの時の出会いが、互いと周囲にあらゆる影響を与えていくとは、まだこの時誰も気づいてはいない。