捻れた世界を知っていけ
「はァ?………あ?…………あーーーちっ」
「……え?何?レオナくん、その心当たりあるような反応………」
そこでレオナさんが誤魔化してくればいいものの、意味深に舌打ちするもんだから、ケイト先輩が引き攣らせた表情で問いかける。ちらっとこちら見られ、思いっきり顔を逸らした。乙女の心を持った自分からしたら、ある意味襲われたのも当然なんで。頼りである現場に居合わせたラギーさんの方を見ると、腹を抱えて倒れ込んでいた。ふるふるとバイブレーションしてやがる。
「ゼー……ハー、しかも、結構服装乱れてなかった、け?」
「………そういえば、肉食動物に襲われたてグリムが言ってたな」
「えぇ〜〜マジマジ、ちょっといきなりスキャンダルなんだけど!?」
さらに火に油を注ぐことに定評のあるエースが発言し、デュースが思い出すように追撃する。ケイト先輩がちょっと楽しそうなの遺憾です。
「負けたからって言いがかりつけてんだろ!!
「レオナさん!マジすか!?あんなのが好みなんですか!?」
「バカヤロウ!レオナさんの好みは、ダイナマイトボディの強くて美人なメスなんだよ!?アレ、どう見てもオスじゃねーか!!」
「は!?そ、そうだな!貧弱で弱そうだがオスだな!」
ようやくまともな反応してくれたのが、さっきまでフルボッコにしてきたケモミミ寮生たち。なんとサラッと重要な情報を教えてくれた。レオナさんはダイナマイトボディの女性が好みか。ノーマルなのか。よかった。ノーマルだったんだ。よかった!疑惑が一つ減った!これでケツも怯えなくていい!めちゃ貶されているが彼らから見たら、私はちゃんと男に見えるらしいのでそれも安心できる。
「ブハハハハハハハハッ、もう無理っス!こんな場面でバレるとか、笑うしかないっス!ブヒャヒャヒャ」
「ラギー、テメェ………」
「ラギーさん!?レオナさん!?」
「ちっ、それについて事情があるんだよ……」
「ブフッ、オスを襲う事情の誤魔化し方としては無理があるっスよ……それについては、オレからフォローしておくと未遂で防いだんで、体を弄られた程度で済んでるっスよ」
「やっぱ、襲ってねーじゃねぇか!!」
「同性なら問題ねーだろ!」
「いやいや、それでも初対面だったんだよな?誤魔化すのに無理ありすぎね?」
ラギーさあああん!場を収めるどころか、さらに油投入してくれちゃって、なにしてくれとんねん!?同性なら問題じゃないんだろうけど、モロ現場を見ていたラギーさんとグリムでもヤバイと思われていたから、なかなか誤解するくらい際どかったよ。でも、レオナさんのいう『事情』というのは、私の中身が『女』であると気づきかけたていうのもあるかもしれない。その違和感を説明するには難しいと考えている。だから言葉を濁している。できればそのまま気づきませんように。あれ以上触られてたら、バレて面倒くさいことになってたんだなぁ。
その場は収集がつかなくなり、カオスになっていた。どういうことだと、デュースに私は揺さぶられ、どうすればいいのか悩んでいた。勇気出して一歩を踏み出したのに、グリムの盛大な口滑りで、おさまるどころか大炎上を招いている。
「………なにしてんスか、あんたら」
その空気をぶち壊してくれたのが、立ち去ったジャックくんだった。
ジャックくんの登場により、カオスな空間は正され本筋へと戻る。レオナさんはここぞとばかりに強引に騒動は有耶無耶にする。
先程のマジフトを見ていたらしいジャックくんは、他寮である自分たちを庇ってくれるような発言してくれた。彼もサバナクロー生で、1年生なのに先輩に楯突いたりして大丈夫なんだろうか……。ここの上級生、特に荒っぽいし先輩の教育指導とか言ってボコりそうなのに。現に面白くなそう反応を彼らはしている。はらはらドキドキと見守っていたが、レオナさんは相手にするのがめんどくさくなったのか。
「まあいい、もう飽きた。行くぞ、ラギー」
「ウィーッス」
寮生たちを引き連れて、嵐のように去っていく。ジャックくんは少し息を吐くと、こちらに目を向けた。それに釣られて、自分たちも一息ついた。口々にお礼を言う面子に、彼は腕を組み渋い表情のままだ。ふん、と鼻を鳴らす。
「助けてくれて、ありがとうございます」
「別に。お前らを助けたわけじゃねぇ。俺は筋が通らねぇことは、許せねぇだけだ」
「曲がっていることが嫌いなの?……かっこいいね」
「………あ?」
つまり、彼の信条に沿って自分たちは助けられたのか。見下ろされるがぱっちり目が合った。なにか言いたげな瞳だ。ぶっきらぼうで人を遠ざけようとするのに、行動は芯が通っている。冷たそうに見えるこの獣人さんも、一面だけで判断するのはよそう。少なくとも彼の行動で危機は乗り越えられた。
「本当にありがとうね」
「………………お前だって」
「あーー、こいつはこいうやつだからスルーしといてよ」
「んじゃ、オレたちは帰るけど、色々と気をつけるんだよー。居心地悪くさせちゃてたら、ゴメンね」
「お前らが気にすることじゃねぇ。さっさと帰れ」
言いかけられた言葉は仕舞われ、追い払うように言葉は吐き捨てられる。そこには、もう感じていた冷たさはなかった。
サバナクロー寮から脱出は成功。自分たちは鏡舎で別れることにした。ハーツラビュル寮はそこの鏡を通ればすぐに帰還ができるけれど、オンボロ寮は移動用の鏡すら通じてないので遠い道のりである。こういう疲れている時は、道のりが果てしなく遠いのである。
「ところで、みんなは大丈夫?ボロボロだし……」
「かすり傷程度だ。風呂入る時、染みるくらいだな」
「制服がめちゃ泥だらけ、洗濯魔法使うしかないか」
「オレ様、魔力使いすぎて腹減ったんだゾ」
「えぇ……タフすぎない?」
私の勇気、茶番じゃないか。はっ………それだから、エースが止めに入っていたのか。は、恥ずかしい!穴があったら入りたい。
「どしたの〜カントクセイちゃん、顔真っ赤にして」
ケイト先輩が和やかに笑う。
「魔法士目指してるオレたちは、これくらいの魔法使う程度じゃ、どうってことないってこと。それでもね、獣人族、人魚族、妖精族に比べると、人族は魔力持ちが少ないんだよね。その分、種族の人口は一番多いんだよ」
「じゃあ、まさに人族の中で闇の鏡に選ばれた先輩たちは選ばれし者……?」
「やめろーーー、お前に言われるとモゾモゾするわ」
「エースだって、最初は威張ってたじゃん」
「あれ、その、なんていうか……」
「エースはいつも威張ってるんだゾ」
「うっせ!お前が言うな!」
「はい、はい。エースちゃんたち帰るよ〜。カントクセイちゃんとグリちゃんも帰り道気をつけてね」
「はい、さようなら」
ハーツラビュル寮へと通じる鏡の中へ先輩たちは消えていく。本当に今日一日、色々あったな。心なしか筋肉痛になった気もする。このまま寮に帰ってご飯食べて眠りたいけれど。
「グリムくん、お話があります」
「ふなっ!?」
この魔獣の相棒と、お話ししなきゃいけません。