捻れた世界を知っていけ


仕切り直すように、ケイト先輩が口を開いた。

「やーゴメン。ちょっとオレたちの話聞いてもらっていーかなー?」
「いきなりなんなんだ、てめーら。この俺を守る、だと?」

初動の接触が失敗したので、ジャックくんからの不信感MAXである。彼もあたりまえのようにイケメンなので凄みが増している。イケメン巡りでさすがに慣れてきたぞ。

それを気にすることなく、マジフトの選手候補が怪我をさせられる事件を話し、その犯人を探していること簡潔に話す。話の繋がらないジャックくんは、なんの関係があると呻くように言い、ケイト先輩は本題を切り出した。

略して『次のターゲット候補をマークして犯人を待ち伏せするぞ作戦!!』そのまんまです。

聞き終えたジャックくんは黙る。何か神妙に考えているがそれは一瞬で、その提案は断られた。やっぱりね!いきなり、そうだよね!ロクに話したこともない他寮の面子に、そんなこと言われても了承できないよね。もっとこっちもやりようがあったはずだけれど、やらかしたもんはしかたない。見るからにして強そうな彼に言われたら言う言葉もないが、ダメ押しで言ってみる。だって、せっかくここまで来た。

「1人でいると危ないかもしれないよ」

あと失礼な態度とったのに、なんだかんだ話を聞いてくれるし。拳が飛んでこないし、冷静な人とみた。彼はまた押し黙ると、絞り出すように再度断られる。しつこいという雰囲気だ。これ以上は激昂させてしまうかもしれない、自分はやっぱりダメかと肩を落とす。

「俺が狙われることは、多分……ない。じゃあな」

言い淀んだ話し方。少し疑問に思った。自身を持っていうのには歯切れが悪い。もしかして、何か知ってる?いや、考えすぎか。立ち去っていく姿にグリムが文句を言っていたが、エースが呆れたようにグリムの声かけに問題があるという。納得いかない様子で、人間との立ち振る舞い方にめんどくさいと唸っていた。

「うーん、グリム。人の中で暮らして行くなら、やっぱり人のルールは知っていくべきだよ。ナイトレイブンカレッジは4年制だっていうし、大魔法士目指してるならなおさら。このままの行いが積もっていくとまた退学コースに行っちゃうよ?自分たちはイレギュラーの上に、一度は見逃してもらってるんだし。エースやデュースみたいに、ちゃんと闇の鏡に選ばれてるわけじゃないんだから」
「ふ、ふな!?そ、それは、困るんだゾ!!」
「フォローいれてくれてんの?ナチュラルに黒歴史持ち出すな!?」
「ユウ、そこにはあまり触れないでくれ!」
「あはは、エースちゃん、デュースちゃん焦りすぎ。でも、カントクセイちゃんの言うことも一理あるかもね。リドルくんほどじゃないけど、グリちゃんもちょっとずつ人間のルール学んでいこうね」
「ケイト先輩の言う通り。それに、自分もこの世界の常識がまだまだわからないことだらけだから、一緒に学んでいこうね。グリム」
「…………退学は困るから、ちょっとは妥協してやるんだゾ」
「お前、本当素直じゃねーな……」

たびたび何度も言っていることではあるが、相手がわかるまで根気よく何度も言い聞かせることは大事。おばあちゃんの生きていた頃、お手伝いをしていたときに根気よく教えてくれたな。自分は物覚えがあまりよくなかったけれど、わかるまで教えてくれたおばあちゃんには感謝している。自分の小さい頃の姿がグリムと重なる。魔獣なので考え方も価値観も違うのかもだけど、一か月ちょっと問題起こしながらも生活できてるんだし、時間はかかれどグリムだってきっと馴染めるはずだ。

「さーて、一年生ちゃんたち帰るよ。長居するのもあまりよくないからね⭐︎」

和やかな雰囲気のまま、ケイト先輩が帰宅促す。引率の教師のようにぞろぞろと自寮に帰還しようとした時、事件は起こってしまった。



野性のサバナクロー生が3体現れた!!!

某ゲームのBGMが脳内で流れながら、しまったと現実逃避。油断していた。ジャックくんはぶっきらぼうだとグリムが言っていたが、殴りかかってこなかった。つまり平和だったのだ。遅すぎる警鐘音が鳴り響いている。だって、自分の知ってるサバナクロー生は血の気が盛ん。

「なぁ、ちょっと遊んでけよ」

これまた体格の良いデカい三人組。人数はこちらが多いにも関わらず、テンポよく喋り逃がさないように阻む姿。どうやら縄張りに侵入したことが気に食わないらしい。それに加え明らかにハーツラビュル寮を馬鹿にした態度。リドル先輩のことをお坊ちゃま呼びに、そのとりまきとの言葉。この絡み方、心当たりがありすぎる。なんかそれらしい理由をつけて、ケンカという名のハートフルボッコに持っていくつもりだ!

「あ、もう帰るんで!お邪魔しました〜」

すかさずエースが退散する雰囲気に持っていこうとするが、逃すつもりはまったくないらしい。自分たちがオモチャという役割で、狩りごっこを勝手にし始めようとしていた。

わ〜〜獣人っぽさのある荒々しい表現、ワイルド……!喜べないーーー!種族別というか、人族を見下してる感じは、うん、まぁ、ふぁんたじーにはよくあること。ふふふ、自分たちは人間ですよとニヤけて言い返したい!種族差でマウント取られるのは許容範囲だけど、無抵抗にボコられる趣味はあいにく持ち合わせていない。ピンチ!圧倒的ピーンチ!

「やめとけ、お前ら」
「レオナ寮長!」

ーーーそんな状況に、イケボが響き渡る。





彫刻のように引き締まった褐色の肌と体格。
それに映えたサマーグリーンの瞳。
傷のある左目。
ウェーブのかかったチョコレートブラウンの髪。
特徴のある編み込みされた二房。
あたりまえのようにあるケモミミ。
チャームポイントなお尻尾。
そして、数多いるイケメンの中でも、光り輝く顔面!!

植物園でお尻尾踏んでしまい、体を弄られるという洗礼を受けさせられた相手。

植物園のレオナさん登場です!!



あと学園長の要らん情報でとある疑惑が浮上中でして、できればあまりお近づきになりたくない方でしてーーー恐れていた事態が起こってしまった。まず言いたいのは、あんた寮長だったんか!!

一応止めに入ったであろうレオナさんに、やっちまおうぜと周りの寮生たちがまだ食い下がろうとしている。その真横にフサフサのケモミミの持ち主も現れる。彼は、こちらを見ていた。

「あれ、君たち」
「ラ、ラギーさん!」
「オマエはっ!デラックスメンチカツサンド!」
「ちょっとちょっと。美味そうな名前にしないでほしいっス。ラギー・ブッチていうか名前があるんスから」

食べ物恨みは忘れないグリムがすかさず叫び、フルネームが発覚したラギーさん。グリムの意識が恨みで支配されているので、レオナさんとの騒動はどっかに追いやっているらしい。これは口を塞がなくても大丈夫そうだ。

「あァ。植物園で俺の尻尾を踏んづけた草食動物じゃねぇか」
「あ、あなたは植物園の管理人(仮)さん!」
「ブハッ!」
「なぁにぃ〜!?」
「許せねぇな!」

そのやりとりで、レオナさんに見つかってしまった。慌てて、勘違いしているように誤魔化す。どうやらレオナさんはあの植物園の出来事は気にしてないようだ。それはそれでなんか複雑。一体あれはなんだったんだ。それに勢いよく噴いたラギーさんに、自分たちを狩りしたい寮生たちが便乗して言い募っていた。気怠げに周りを嗜めるレオナさんの姿を見れば、たしかに寮長だと思う。迫力はあるしな。

「ここは〝穏便〟にマジカルシフトで可愛がってやろうぜ」

不敵に笑いながらこちら見る姿は、決して見逃してくれず。獣人たちは好き勝手に言い、こちらも黙っていられない反骨精神ボーイズたちが、ウォーミングアップし始めた。今回の調査の目的の中に、マジフト参加も含まれている。ここぞとばかりにエースがアピールをして、苦笑したケイト先輩がしょうがないなと準備を始めた。

「……まぁ、レオナくんのことだし。穏便にはいないだろうねぇ」

小声で呟かれた言葉を耳は拾い上げる。気になって見たケイト先輩の表情。すべて感情を落としたような無表情。普段からかけ離れたその様子にびっくりする。たまたま見てしまった。マジフトに和気藹々のみんなはそれに気づかず、ケイト先輩は自分に気づかず、急いで顔をそらした。心臓はバクバク。これは彼が見られたくないものだろうと、心の中で自身に囁いた。

「カントクセイちゃんは安全なところで見てて。相手チームの動きをよく見て、オレたちに教えてね。リドルくんを止めたときの伝達魔法を掛けておくから、これで試合中のやりとりも聞こえるし、大丈夫なはずだよ♪」
「お!?自分も参加していいんですか……?役に立たないかと」
「三人と一匹で人手が足りない状態だし、手を貸して欲しくてね。それに、カントクセイちゃんの指示にはオレも信頼してるよ」
「は、はい!自分なりに頑張ってみます!」

ケイト先輩は優しい。相手を気遣い場を明るくさせる。だからこそ、私は、あなたがわからなくなる。

(今はただ、目の前のことに集中しよう)



やーやー言って、は指揮を高めている。相手の言葉まで聞き取ってる余裕はないから、みんなのやりとりで状況判断するしかなさそうだ。

『「カントクセイちゃん!通信オッケー?」』
『「オッケーです!あの本当に、外野にいる自分が参加してもいいんですか?」』
「「魔法が使えないて相手もわかってるだろうし、ある程度は見逃してくれるじゃないかな?」』
『「これは、あの時の伝達魔法か!」』
『「ユウの声が聞こえるんだゾ!」』
『「どーせ、あいつら。オレら全員舐め腐ってるんだし不正にも思わないんじゃね?」』
『「それもそうか………みんな、気を引き締めて!来るよ!」』

テレパシーは好調、これで指示が出せる。マジカルペンを持ち、それぞれ位置につく。右側にエース。エースの後ろの位置にグリム。左側にデュース。真ん中で箒に乗り飛行するケイト先輩。箒に乗ってるのに、マジカルペン持って片手操縦なんて凄いな!?

試合は開始された。

先陣を切った箒に乗る相手の寮生は、マジカルペンで右、左、上と魔法攻撃を仕掛ける。それがどちらかに飛んだのか、素早く見極め伝える。伝えられたみんなは魔法で障壁を築くとそのまま進む。こちら側から攻撃を仕掛け、相殺させて弾き飛ばす。次々と繰り出す魔法は、技術と運動神経がないと難しそうだ。先陣が退くと今度は二人乗?というか、片足を箒に引っ掛けたラギーさんが登場した。なんという体感バランス。箒を操縦している人は魔法攻撃せず、ラギーさんが無造作に全方位に弾のような攻撃を放つ。

(あれってアリなのーーー!?)

『「うわっ!あんなのアリ!?」』
『「さすがだねっ!サバナクロー生はマジフト部に所属している生徒が多いから、他寮との技術が段違いなんだよねっ!」』
『「それに加えて身体能力の高い獣人か!」』
『「無謀と言われるのも無理はないってことかよ!」』
『「み、右と上に攻撃きますっ!」』
『「オッケー!みんな集中してっ!」』

こちら側からの攻撃は落ち、防御に集中。合間を見て、攻撃を繰り出す。即席のメンバーとはいえ、好戦ではないかと思う。中盤に差し掛かり、タイムが出された。

『「よっしゃー!このままガンガン攻めていくんだゾ!」』
『「あいつらさっきからニヤニヤしてる…なーんかヤな予感…」』
『「さすがエースちゃん勘が鋭い。次になにか仕掛けてくるね。引き続き油断せずに行くよ!」』

後半は明らかに、空気はガラリと変わる。

火の魔法攻撃が、走るエースとデュースの二人を弾き飛ばす。残ったグリムは必死にディスクを浮かせ、箒に乗ったケイト先輩は相手の『攻撃』を防いでいた。それも後一歩のところで弾き飛ばされた。

寮長の彼は造作もないように奪ったディスクを、こちら側のリングにシュートと放つ。圧倒的な実力差。ボロボロになったみんなが辛うじて、立ち上がっている。もう見ていられなくて、安全圏からみんなの元へと駆け寄る。息切れして苦しそうだ。

「スーパーロングシュートじゃん……1点も入れらんねー」
「レオナくん……昔から天才司令塔て言われてただけあるね……」

せせらと笑う獣人たちは、コレをスポーツだと言い張っている。もうボロボロなのにゲームを辞める気はない。そんな訳あるか、素人の自分でも見ればわかる。彼らのやり方は円盤を奪う方法ではなかった。執拗に選手を潰そうとする動きで妨害し、選手自体にダメージを負わせている。二度目に見るマジカルシフトは、オンボロ寮でやっていたものとは格段に違った。でも、コレはスポーツじゃない。こんなの。

「もうやめてください!こんなの、暴力と同じだ!!」

獲物を追い詰めるように笑う獣人たちの前に立ちはだかれ。

「…………あ、おい!アホ!前に出るんじゃねーよ!!」

エースが息を切らせながら自分の腕を掴む。外側で見ているだけの自分は、何の力も持っていない。しゃりしゃりと出張る権利なんてない。そして、魔法のある彼らでもこんなに傷ついているのだ。何も防ぐ力の無い自分は、こんな程度ではすまないだろう。それでも、ボロボロで必死に戦った彼らを見ているだけは嫌だったんだ。

私は深呼吸をして、目の前のいる獣人たちーーー植物園の彼に向き合った。



「ユ、ユウ、そいつに近づちゃダメだ!!まためちゃくちゃに襲われるんだゾ!?」

《えっ!?》

レオナさんと私以外、その場にいる面子が声を揃えた。息切れし伏したグリムが、まさかこの場面で発言するなんて。今度は私を庇うように立ちはだかってくれたが。

「ググググリムーーー!」

なんてタイミングでバラすんだ!!
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